行政 : PPP研究会で「新しい公益」を公表
経済産業省・独立行政法人経済産業研究所の「日本版PPP研究会」は、5月22日、公共サービスの民間開放推進の中間とりまとめを発表した。公共サービスの民間開放にあたって、「新しい公益」の担い手としてNPOを位置付けている。
5月22日、日本版PPP研究会〔座長:八田達夫東京大学空間情報科学センター教授〕は、「日本版PPPの実現に向けて~市場メカニズムを活用した経済再生を目指して」とした中間とりまとめを発表した。
ここでいうPPPとは、Public Private Partnershipの略語で、「公共サービス分野での官民パートナーシップによる公共サービスの民間開放」を意味している。
経済産業省・独立行政法人経済産業研究所は、昨年10月に「日本版PPP(公共サービスの民間開放)研究会」を立ち上げて、日本におけるPPPの進め方を検討してきたもの。
今回発表された「日本版PPP」の目的は、小泉内閣が主導する「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」といったの原則の下、それぞれの公共サービスに応じ、民間委託やPFI等の手法を活用しながら、公共サービスの担い手に民間企業やNPO法人、個人等を活用することしている。
「国民にとっての公共サービスの満足度を向上させ、公共サービスの民間開放を円滑に実施するための条件を整備することが、日本版PPPの目的」であるとされている。
報告書では、「公共サービスの民間開放の検討に当たっての基本原則」として、次の5つの基本原則を掲げている。
- 競争環境の構築と透明性の確保
- 顧客主義の確立
- 最適な手法を選択できうる環境の整備
- 新たな官民の役割の構築
- 「新しい公益」の多元的な提供の考え方の構築
このなかの『 5.「新しい公益」の多元的な提供の考え方の構築』では、以下のようにNPOが新たな役割を担うと強調されている。
価値観が多様化する中で、何が公益であるかを判断し、公益の具体的内容を確定することが難しくなっている。したがって行政が一元的に公益を判断し、実施するものでなくなり、行政、企業、NPO(非営利法人)や個人が対等な立場にたって、それぞれの多様な価値観をベースとして、多元的に公益を企画・立案・実施する時代に入っていると考えられる。このような公益実現の手法を「新しい公益」の多元的な提供として捉えたい。
公共サービスの民間開放にあたっては、公平性、中立性、専門性を理由とした行政による一元的な政策立案・実施の姿勢を改め、行政、企業、NPOや個人が対等な立場で携わる「新しい公益」の多元的な提供の考え方を前提にする必要がある。
特に、公共サービスの民間開放だけでなく、地方分権の進展や行政プロセスに対する評価・モニターの動き等を背景に、納税者や受益者といった顧客としての立場に立って、民間企業、さらには、NPOや個人が新たな役割を担うことが期待されている。
他方で、従来行政が担ってきた公益を民間企業やNPOが提供する場合には、行政、受益者、寄付者等民間企業やNPOにとってのステークホルダー(利害関係人)に対して、継続的・安定的に事業を実施する責任、組織の意志決定に関するガバナンス、公正かつ透明な会計処理等が求められる。これらに関する情報公開と事業の成果に関する評価を徹底することが、「新たな公益」の担い手である民間企業やNPOに対する国民の信頼度を高める上で重要である。
この中間とりまとめの検討対象としては、
- 「主体の変更」として、行政中心に提供されてきた公共サービスを規制緩和することにより、民間主体による提供に変えていくこと。その場合は、完全な自由競争市場に委ねるか、公共の間接的関与(補助金、規制等)で行うこと。
- 「効率化」として、公共サービスを民間開放の拡大を通じて、より効率化していくこと。その場合、民間への包括的または個別業務の委託や直轄での実施の効率化を図ること。
としている。
そして、公共セクター直轄だった事業を、民間委託(アウトソーシングや公設民営)、PFI、民営化、独立行政法人化していくこととしている。
さらに、「公共サービスの民間開放の実現に向けての課題」として、以下の4項目13課題をあげている。
- 公物管理等の制度的課題
- 公共サービスの民間開放のルールの確立
- 財産区分の見直し(行政財産にかかる制限の見直し)
- 公の施設の管理委託に関わる制限の見直し
- 予算・会計制度に関する課題
- 契約期間の柔軟化に関する課題
- 財産管理システムに関する課題
- 補助金制度等に関する課題
- 事業者選定手法に関する課題
- サービス供給の担い手となる民間企業に関する課題
- 雇用等のその他の実施面での課題
- 雇用問題への対応
- インセンティブ手法の導入
- 公共部門におけるサービス・技術などの評価能力の向上
- 公共サービスの民間開放を促進する「規制改革特区」の設置
- 行政サービス・アウトソーシング計画の策定・実施
このうち、「予算・会計制度等に関する課題」の「補助金制度等に関する課題」として、憲法第89条を巡る解釈の問題から、民間が事業主体となった場合に、施設整備費等への補助が行なわれない事業(介護・教育サービス事業等)について、抜本的に見直す必要があるとしている。
そして、以下の2点の見直し方法が言及されている。
- 福祉等の国民への基礎的サービスは、慈善、博愛等ではないと解釈することにより、憲法第89条に該当しないものとし、補助金の支出を可能にするといった考え方につき検討する。
- 憲法第89条の解釈に関わらず、補助制度をバウチャー制度に転換することにより、提供主体の別による支援措置の差を解消する(提供主体への支援から、利用者への支援に転換させる)。
また、「サービス供給の担い手となる民間企業に関する課題」では、「公共サービス提供の重要な担い手となるNPOの活動環境も十分に整備されていない」として、以下の3点の「NPO法人に対する支援策」が提案されている。
- NPO法人に対する寄附税制の拡充(指定寄附対象法人の拡大等)
- 認定NPO法人の要件の見直し
- 認定NPO法人に対する法人税の軽減(収益事業に係る税率の軽減、みなし寄付金の適用、利子所得の非課税等)
経済産業省のホームページには、「日本版PPPの実現に向けての中間とりまとめ」の詳細がある。