行政 : 2003年を振り返って
公益法人制度改革で、NPO法人制度がなくなるかもしれないという騒動で始まった2003年。改正NPO法の施行、改正認定NPO法人制度の施行、NPO法人の1万件突破、NPO法人による犯罪の増加など、さまざまなNPOを取り巻く出来事があった。2003年を振り返り、2004年を展望する。(松原明)
■NPO法人は飛躍的な増加
2003年、NPO法に関するトピックの一つは、NPO法人の数(認証数累計)が1万法人を突破したことだろう。
2003年11月末には、その数は、1万4199法人に達している。
この「1万」という数字と、「1万4千」という数字は、それぞれNPO法にとって特別な意味を持つ。
NPO法の立法が国会や政府で議論されていた1996年。経済企画庁(現内閣府)は、調査で、NPO法ができた場合、それにより法人化される団体は、約1万団体という予測をはじき出した。
この1万という数字は、国会議員の間で話題になり、NPO法立法を大きく後押しするものとなった。
しかし、1998年12月にNPO法が施行された直後は、申請数が伸びず、施行後半年たった時点で、申請数はやっと700を超えた程度だった。
当時、一部のマスコミ関係者からは、「NPO法は予測ほどニーズがなかったのではないか」という趣旨の質問をしばしば受けたものだ。
しかし、その1万という数字も今年突破した。
また、現在、全国の社団法人、財団法人の数は、それぞれ約1万3千法人超である。
NPO法人の1万4千という数字は、その社団法人や財団法人の数字と並んだわけで、NPO法人という制度が、一定程度社会的な位置付けを占めるような数になってきたことをそれなりに示したものといえるだろう。
年度別のNPO法人の月当たり増加数の平均は、2001年度は、月当たり187法人増加していたのが、2002年度には、月当たり384法人と倍増した。そして、2003年度に入ってからは、毎月450~500法人ずつ程度増加しており、増加のペースは衰えていない。
NPOに対する社会的関心も高まってきている。
新聞などでも、NPOに関する記事を見ない日はないと言えるくらいになってきている。
NPOやNGOに関する書籍も多数出版されるようになってきた。
大学などでも、NPOの講座がめずらしいものではなくなってきている。
そして、NPOとの協働を実施していたり、検討しているとする自治体の数は、都道府県では94%、市区町村では、約60%にも達するようになった。
これらのことから、NPO法施行後まる5年を過ぎた時点では、NPO法という法律は、日本社会に成功裏に受け入れられた法律であると言って間違いないだろう。
NPO法は、当初、市民活動やボランティア活動をしている団体が簡易に法人化できることを目的としていた。法人に申請して認証を受ける率は99.6%(昨年度)を超えており、その目的も達成できていると評価できる。
■解決されていない課題
NPO法は一定程度の成功をおさめてきたが、解決されていない課題も大きい。
とりわけ、NPO法人の活動を支えるための財政的基盤に関しては、まだまだ制度が不十分な現状となっている。
経済産業研究所の調査によると、NPO法人の収支規模は、2003年の調査では年平均1530万円となっている。2001年の調査では、年平均の収支規模は1858万円だったので、約18%の減少となる計算だ。
これは、新しく設立されてNPO法人化した団体の規模が小さいために、年々平均収支規模が下がるという状況を生んでいることによる。
NPO法人の約3分の2が、年収支規模が1千万円未満となっており、規模の小さな団体が過半を占めている。
同じ経済産業研究所の調査によると、NPO法人の常勤スタッフの給与は、平均で年間118万円となっており、無給の常勤スタッフが常勤スタッフの4割を占めている。
2001年の調査時には、平均年間134万円だったのがさがっており、無給の割合も増えている。これも新しい法人の事務局スタッフの数が少ないことを反映している。
1996年当時の想定では、市民活動団体は、任意団体(法人格を持たない団体)としてスタートし、一定の活動を実施していくうちに法人化していくというストーリーが考えられていた。
しかし、NPO法が施行されてから実際に起こったことは、NPO法人化を前提に団体を立ち上げるということの方がむしろ多くなってきたということである。
現に、現在、NPO法人化した団体の3分の2以上は、NPO法が施行された後の1999年以降に設立された団体である。
確かに、NPO法が起こした大きな社会変化のうちで画期的なものの一つは、このNPOという活動に参加する新しい人の急速な増加を生みだしたという点にある。
しかし、一方で、これらの人たちを十分受け入れていけるだけの組織的な基盤を強化していけるだけの仕組みができているとは言い難いのが現状である。
NPO法人の財政基盤を税制によって支援するために2001年に「認定NPO法人制度」がスタートした。しかし、認定法人の数が伸びない現状が続いている。
今年4月に認定要件の緩和が実施されても、その傾向は変わっていない。
2003年12月29日現在で認定法人は19法人しかない。
1万4千あるNPO法人のうち、わずか0.1%という有様だ。
■新しい課題の出現
一方、今年はさまざまな新しい課題が注目を引くようになってきた。
そのもっとも大きなものが、NPO法の悪用・濫用といえる事態だろう。
暴力団関係者がNPO法人の肩書きを使って、建設事務所に脅迫をかけるなどの犯罪行為は昨年から話題になっていたが、今年はいっそうさまざまな事件が新聞・テレビ等をにぎわした。
逮捕者を出したものだけでも、例をあげれば、NPO法人が運営するグループホームでの高齢者虐待事件、暴力団関係者が理事を務めるNPO法人の恐喝行為での会員勧誘、NPO法人による浄化槽汚泥の不法投棄など、事件は増える一方だ。
ハンドパワーの研修で資金稼ぎをするNPO法人や、NPOを名乗って仕事を紹介するといって手数料を詐取する団体、多重債務者のケアをうたいながら相談料を騙し取るNPO法人など、さまざまな濫用・悪用のケースが頻出した。
こうした状況に、今年3月19日、東京都消費生活総合センターはNPO法人に関する緊急消費者被害情報を発表。「NPO法人またはそれを名乗る団体による消費者被害が増加」と警告を発するまでになった。
NPO法人の信用をどうやって担保すべきなのか、ということが大きなテーマとして現れてきた一年だった。
内閣府は、このような状況に対して、法改正と法律の運用基準の改正で対応を強めている。
今年5月の改正では、NPO法人に関する暴力団関係者の規制強化が盛り込まれたし、罰則の強化もはかられた。運用基準は、「市民への説明」を求めるという方向で強化がなされている。
しかし、行政の監督に頼るのではなく、民間の自治を強化することで市民社会を活性化していこうというのがNPO法の趣旨である。そこに、今後の日本の市民社会の発展がかかっているといっても過言ではない。しかし、市民サイドでは、行政の監督に代わるどのような方法で、NPOの社会的信用を確保していくのかということに関しては、まだほとんど議論も実践も進んでいない。
その意味で、来年は、NPO法人の信用をめぐるよりつっこんだ議論がなされていかなければならない。
別の新しい課題として、他の法人や行政との関係をどう考えていくかという点も出てきている。
とりわけ、福祉の分野では、社会福祉法人とNPO法人との間での格差が問題になってきている。
介護保険制度や支援費制度などで、NPO法人は法人税が課税となり、社会福祉法人は非課税となった。補助金や公的支援などでも社会福祉法人には手厚く、NPO法人には薄い現実がある。
このような現状から、NPO法人から社会福祉法人になったり、NPO法人と社会福祉法人とをともに持つ法人が徐々に増えてきている。
一方で、企業サイドからは、NPO法人が企業と同じ活動をしていながらボランティアなどの力で低コストでサービスを提供することに対して、一種のダンピングではないかという意見も出始めている。
また、地域の福祉をになってきた社会福祉法人や社会福祉協議会などとNPOとの関係をどう築いていくか、自治会や町内会などとの関係をどう構築していくか、ということが各地域で議論になりはじめている。
この夏、雑誌・新聞の分野で、角川ホールディングスが「NPO」の商標権をとり、NPO関係者から大きな反発を生んだということもあった。
行政とNPOとの関係にもさまざまな問題が出てきている。
パートナーシップの名のもとに、NPO法人が行政のニーズに基づいたサービス提供に走ったり、行政がNPO法人を作ったりする状況が全国で生まれてきている。NPO法人とは行政から仕事を受ける枠組みという大きな勘違いも一部では広がってきているようだ。
これらの問題は、NPO法人の数が増加し、さまざまな分野に進出していくことによって生まれてきている。NPOの制度や仕組みも、単にNPOや市民活動だけのことを考えるのではなく、社会のさまざまな主体の中でのあり方について考える時期が来たといえるだろう。
このような課題は、今後、増えることはあっても減ることはない。
■公益法人改革
今年、NPO関係者の関心を集めた最大のテーマは「公益法人制度改革」だった。
昨年から政府が進めてきていた公益法人制度改革は、今年1月末ごろから、その方向性が徐々に明らかになってきた。
そして、2月中旬になって明かになった原案は、以下のようなものだった。
- 公益法人制度を廃止し、公益法人、中間法人、NPO法人を一本化して「非営利法人」という制度にする。
- 非営利法人は法人税を原則課税とする。
- 非営利法人のうち、法令で定めた公益性の要件を満たすものだけを「公益性のある非営利法人」として、税制等の支援の対象とする。
この案に、NPO側は猛反発した。2月から3月にかけて、全国各地で反対のための集会がいっせいに開催された。
この反発を受けて、与党が政府に「NPO法人を今回の議論からはずす」よう申し入れを行う。それにより、政府の議論も迷走し、結局、3月に出る予定だった「大綱」は出ず、6月になって「基本方針」という形で決定された。
この「基本方針」の概要は、以下のようなものだ。
- 公益法人制度を廃止し、簡易に設立できるが優遇措置のない「非営利法人」とする。
- 非営利法人のうち、公益性のあるものに対して、制度的支援を行う。
- 非営利法人の課税については今後検討する。
- 中間法人、NPO法人の扱いについては、非営利法人制度の検討の中で整理する。
- 平成16年末までに制度の枠組みを検討し、平成17年度末までに立法を目指す。
この公益法人制度改革では、NPO法人や公益法人が原則課税になるということばかりに注目が集まった。
しかし、この改革の議論のポイントは単なる課税問題だけではないことをしっかり認識しておく必要がある。
改革のポイントは、第一に、いままで、「非営利&公益」法人としてあった法人の仕組みを、「非営利」部分と「公益」部分に分離するというものだ。そして、同時に、法人税の非課税(免税)の根拠を「非営利」に置くのか、「公益」に置くのかを決めようというものである。(政府は、「公益」におく方針のようだ)
第二に、その場合、「公益」とは何なのかを、誰がどう決めるべきかという議論でもある。
このような議論は、公益法人制度だけでなく、NPO法人制度にも大きな影響を及ぼす。
NPO法人とは、「特定非営利活動法人」であり、制度的には、法人は「非営利」部分と「特定非営利活動」部分とから成り立っている。
このうち「特定非営利活動」部分とは、17分野に合致することと、不特定多数の利益の増進に寄与することという2つの要素から構成されている。しかし、17分野というのは、基本的にどのような活動でも合致できるようにつくられているし、「不特定多数の利益」という場合、それは「公益」の言い換えでしかない。
では、特別法としてのNPO法の「特別性」はどこにあるのか。
NPO法の立法過程において、その点こそ、議論が紛糾し、結果、いったん先送りされた部分に他ならない。つまり、NPO法の特別法たる所以=「市民が生みだしていく公益性」とはどのようなものなのかという議論なのである。
公益法人制度改革の議論は、その「市民が生みだしていく公益性」というもののあり方を、再検討せざるを得ない時期が来たことを告げている。
一方で、政府が進める公益法人制度改革の議論は、今年10月以降、政府税制調査会も、内閣官房におかれた有識者会議も、新しいメンバーで議論を検討することになった。そのメンバーには、先の政府税調や有識者懇談会で、政府の方針に異議を唱えた堀田力氏などをはずすというやり方がとられている。
市民側からきちんと議論を整理し、政府による管理強化でない提案を出していく必要が高まっているのである。
NPO法がこの5年で生みだしてきたさまざまな成果や課題は、その際、きっと大きな貢献となるに違いない。その意味で、来年は、NPO法にとって大きな勝負の年となると思えるのである。
■NPO法人制度は新しいステージへ
今年1年を振り返ると、たくさんのことが積み残された一年だったというのが正直な感想である。
認定NPO法人制度、公益法人制度改革、NPO法人の信頼性確立の方法、NPOの基盤強化、他の法人制度などとの活動条件の整合性をどうはかるかなど。NPO法ができて5年経ち、数の上では、一定の成果を生みだし、社会のさまざまな領域でなくてはならないものとなりつつある一方で、新しい課題が次々と生まれてきている。
もちろんこれらの課題は、1年や2年で解決できる話ではない。
しかし、これらの課題にセクターとしてNPOがきちんと答えていくことが求められてきているのは間違いない。
それは、一言でいうと、「NPO(市民活動)とは何なのか」という問いに他ならない。
「NPOは、この社会において、どのような役割をもっていて、なぜそれは重要なのか?」
1998年、NPO法ができたときには、いったん自明になったと思えた問いが再び、数の増加とともない、概念が拡散し、再び不分明な霞の中に隠れていってしまおうとしている。
企業、社会福祉法人、公益法人、他の非営利法人との違いはあるのか、ないのか。あるとすればどこなのか。それは社会にとってなぜ重要か。
それは、他の法人と比較した場合、どのような制度的基盤や支援策を与えられるべきなのか。その正当性を根拠づけるものは何か。
問われているのは、NPOの活動の質であり、成果であると同時に、私たちの日本社会(日本だけではないと思うが)の将来に関するビジョンについてなのである。
1994年から1998年にいたるNPO法案の議論において、法案の条文一条一条の検討の中に、その議論に参加した人たちは、市民活動のあり方と将来のビジョンについて議論を闘わせた。
このような時期が再び巡ってきているのである。
来年からは、公益法人制度改革とNPO法人の新しい課題にどう取り組むかが大きなテーマとなる。
また、おそらく、マネジメントのあり方や、行政とNPOとのパートナーシップなどの課題についてもきちんと議論する時期にきているのだろう。認定NPO法人制度では、行政とのパートナーシップを組むことは、認定要件において、ネガティブではないが、ポジティブではないと評価されている。
主にメンバーに対して反復してサービスを提供する法人も、「共益団体」として認定要件をパスできない。
公益とは何なのか、NPOの生み出すサービスはいかにあるべきか、行政などの他の主体との関係はどうあるべきか、が具体的な制度的要件の中で評価されるようになってきているのである。
NPO法人制度だけをとっても、来年以降は、さらにNPO法人もしくはそれを騙る団体による犯罪や犯罪まがいのことが増加していくことが予想される。
NPO法人の信用担保をどのようにしていくのか。その具体的内容において、NPO法人とは何なのかが大きな議論となっていくだろう。
さて、NPO法は、今年12月1日で施行5周年を迎えた。
「シーズ=市民活動を支える制度をつくる会」をつくるための準備会が結成された1993年から1998年までの5年間は、「無から有を生む」、つまり制度をつくる5年だった。
1998年から2003年までの5年間は、NPO法を利用し、NPO法人というあり方を社会にきちんと認知させるための5年だったように思う。
2003年からの5年間(それ以上かもしれないし、それ未満かもしれないが)が、どのような5年間になるのはかまだ分からない。しかし、NPO法をめぐる議論は、まったく新しいステージに入っているし、それに積極的に切り込んでいく時期に来たということが実感された1年だったように思う。
ただ、一貫して問われていることは、おそらく1993年以来変わらない。
それは、これからの日本社会において、市民が主導していく新しい豊かさや多様さをどう作り上げていけるかということ。そしてそれを支える社会とはどのようなものかということに対する問いかけである。
2004年は、もう一度その基本的問いかけに立ち返りつつ、さらなる制度の発展への礎となる一年に、読者の皆さんといっしょにしていければと念願している。
◆NPO関連の2003年の主な出来事
- 1月下旬
- 政府の公益法人制度改革の素案が明らかに。
- 2月14日
- 政府税制調査会委員の堀田力氏、公益法人制度改革の政府案に反対の声明発表。
- 2月中旬~
- 全国でNPOによる公益法人制度改革への反対集会開催
- 2月末
- NPO法人の認証数が1万を超えたことが明らかに
- 3月11日
- 自民党が政府に「公益法人改革からNPOを除外」するよう申し入れ
- 3月19日
- 東京都消費生活総合センターがNPO法人に関する緊急消費者被害情報を発表。
- 4月1日
- 改正認定NPO法人制度施行
障害者への福祉サービスにおいて支援費制度スタート - 5月1日
- 改正NPO法施行
内閣府におけるNPO法運用の新基準始まる - 6月27日
- 政府「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」決定
- 7月24日
- 大阪NPOセンター他6団体が、角川ホールディングスによる「NPO商標取得問題」で特許庁に異議申し立て。
- 10月14日
- 内閣府、認証事務手続きで監督強化の新基準実施
- 12月1日
- NPO法施行5周年
- 12月18日
- 内閣府、NPO法の運用規定をさらに強化すると発表
- 12月25日
- 内閣府、不法行為等のあった6NPO法人に対して認証取消の手続きをとると発表
※ニュースは、1月7日より再開の予定です。