行政 : クジラとウミガメの里親制度
NPO法人日本ウミガメ協議会が運営する小笠原海洋センターで、ユニークな里親制度が実施されている。同センターで調査しているアオウミガメと、ザトウクジラの里親を募集するというもの。野生生物なので出現率は個体により異なるが、調査により確認できると里親に報告するなど、きめ細かい対応を心がけているという。
小笠原海洋センターは、(財)東京都海洋環境保全協会が1982年に開設して以来、様々な海洋生物の調査研究や、その保護活動に取り組んできた。
その後、2001年4月に建物などの財産が小笠原村に譲渡され、施設の管理運営をNPO法人日本ウミガメ協議会が行っている。
海洋センターのある父島は、日本最大のアオウミガメの産卵地として知られる。しかし、戦前の乱獲により個体数は減少し、同センターでは、近年のアオウミガメの産卵数の動向をはかる調査や保護、一定数の卵の人工孵化、飼育を経ての放流などを行っている。
また、1989年から、ザトウクジラの調査活動も行っている。ザトウクジラは、冬から春にかけて小笠原近海に出現する。陸上からの定点観測や、洋上調査などにより、年齢や成長、社会構成、出産間隔、生息数、回遊などを調査。各国の研究者などと情報交換を行っている。
同センターでは、昨年の冬から、アオウミガメとザトウクジラの里親制度を開始した。
年会費はそれぞれ、一般3000円、学生2000円(初年度はこれに加えて登録料2000円が別途必要)。登録すると、センターで公開しているプロフィールから自分の好きなカメやクジラを選び、里親になることができる。
里親になると、里親証明書が発行され、同センターオリジナルトートバッグ、ボールペン、ポストカードがもらえるほか、 年2回のニュースレターや、有効期間に使用可能な入館フリーパスなどが特典としてもらえる。
アオウミガメは、毎年夏から飼育している1才前後の子ガメ、もしくは同センター内の生簀で、産卵採集のためひと夏を過ごした大人のメスガメ10頭の中から選ぶことができる。
ザトウクジラは、同センターで確認頻度の高い39頭の中から選ぶことができる。
ウミガメの写真はホームページから見ることはできないが、クジラについては、ホームページから選択が可能。クジラの識別は通常尾ビレで行うので、ホームページでも尾ビレの写真が並んでいるのがユニーク。よく見ると一頭一頭の尾ビレの形や模様がちがっているうえに、それぞれの確認年や性別、繁殖行動のひとつと考えられている歌を歌うオスであることなどがプロフィールに盛り込まれていて、楽しみながら「子ども」を選ぶことができる。
同センターでは、「財政難のなか、少しでも調査活動のための収入源となればと始めた事業だが、一頭一頭との結びつきをより強く感じてもらうことで、野生生物に対する興味や保護活動への関心を高めてもらえれば」と語る。
どちらかというと、観察会や放流などで実際に手に触れる機会のあるアオウミガメの方が人気というが、たまたまホエール・ウォッチング時に目撃することができたザトウクジラの里親に登録して帰る人も多いという。
小笠原では、東京都漁業調整規則のもと、年間に頭数を決めて食用にアオウミガメ漁をしており、里親になったウミガメが漁で捕獲される可能性もあれば、放流したその先の目撃情報が頻繁に得られるというものでもない。また、日本沿岸で混獲される可能性も十分にある。
ザトウクジラも比較的確認頻度の高いものを選んでいるが、野生生物であるため、次回の目撃情報を必ず得られるという確証はない。
同センターでは、「このような事情をよくご理解いただいたうえで、里親になっていただきたい。また、だからこそ、次に会えたときの喜びは大きいもの。センターとしても、調査をしていくなかで、確認できた情報は里親の方々に個別に情報提供していきたい」と語っている。
同センターの里親制度については、以下のURLを参照のこと。
http://bonin-ocean.net/