行政 : 日英市民社会セミナー、開催される
10月19日と21日、「日英市民社会組織セミナー」(財団法人公益法人協会主催)が東京都内で開催された。英国では、日本と時を同じくしてチャリティ制度改革が進行中で、04年から05年に開かれる議会での法制定が見込まれている。セミナーでは、英国の民間公益組織を代表する「The National Council for Voluntary Organisations (NCVO)」の理事長より、英国のチャリティ改革、税制度、コンパクトなどについて現状と課題を聞き、市民社会組織の制度的枠組や他セクターとの協働がどうあるべきかなどについて議論が交わされた。
このセミナーは、日本の公益法人制度改革が大詰めにさしかかるこの時期にあわせて、英国のボランタリー団体全国協議会(以下、「NCVO」)の理事長スチュアート・イサリントン氏を招いて開催されたもので、主催は(財)公益法人協会。
NCVOは、英国のボランタリー・セクターを代表する機関。約3600のNPOを会員にもち、会員向けの相談やマネジメント向上のための支援事業を展開するほか、セクター内外における情報の収集や交換、各種政策提言や政策立案を行っており、英国中央政府や地方行政組織、立法府に対しても多大な影響力をもっている。年間収入は約10億円。
19日は、「市民社会組織の制度はいかにあるべきか」をテーマに、(財)公益法人協会理事長の太田達男氏が歓迎挨拶と日本の公益法人制度改革の問題点を報告した後、イサリントン氏が、基調講演「英国ボランタリー・コミュニティセクター(VCS)の現状とチャリティ改革の意義」を行った。
基調講演では、1601年の公益ユース条例に端を発した英国のチャリティ制度や1853年に設置されたチャリティ委員会の権限などが、このたび大きく改革されようとしている英国の現況について報告された。
改革の大きな特徴は、より現状にあったかたちへの公益性の定義の見直しやチャリティ委員会の機構改革、チャリティの収益事業に対する現行規制の撤廃など。
一方で、チャリティ団体の透明性を高め説明責任を強化することや、チャリティ委員会をより規制当局としての性格に特化しようという方向性も包含しており、これらに対してイサリントン氏は「チャンスでもあり、リスクでもある。法制定が終わりではなく、これからがはじまり」と述べ、制定以降の法の運用を注視していくとともに、規制強化を呼び込まないように民間セクターでも努力が必要なことを指摘した。
午後は、熊代昭彦衆議院議員による特別講演「新公益法人制度への期待」に続き、パネルディスカッションとして「日英チャリティ改革の現場から」と、「公益性認定と第三者委員会・チャリティ・コミッションの役割」が開催された。
2日目の21日のテーマは「市民社会組織に期待される事業と他セクターとの関係」。
冒頭挨拶として、笹川平和財団理事長の入山映氏による市民社会組織の正当性の確保に関する提言に続いて、シーズ事務局長の松原による「日本における市民社会組織の事業活動」、イサリントン氏による「英国におけるVCSの事業活動」と題する講演が開催された。イサリントン氏の講演では、主に英国のコンパクトの解説と課題などが話題となった。
午後は、財団法人日本国際交流センター理事長の山本正氏による特別講演「国際社会から見た日本の市民社会組織」が開催され、その後、コンパクトを中心とした市民セクターと行政セクターとの協働に関するパネルディスカッションと、あるべき税制支援に関して議論するパネルディスカッションが実施された。
山本正氏は、日本では、NPO/NGOの活動が注目され、政府からの資金が大量に流入している反面、資金調達力がまだまだ弱い市民セクターで、政府の下請化するNPO/NGOと、それ以外の2極分化が進んでいくのではないかという懸念を表明した。また、健全な資金の流れをつくるためには、企業も大きな働きができるのではないかと営利セクターに対する期待も語った。
税制に関する議論では、英国では財務大臣自らが先頭にたって、支援税制拡充のためのキャンペーンを行ったことが紹介され、それに比べて、日本の制度改革は規制強化、課税強化の面のみが強調されがちなことなどが指摘された。また、英国でも、営利セクターに比べて優遇されている市民セクターの税制度について、不満の声がでてきており、市民セクターが営利セクターとどのような面でちがいがあるのか、自らが示していく必要性が確認された。
税制に関するパネルディスカションには、政府税制調査会の委員である出口正之氏が参加しており、今後の公益法人制度改革の議論について、「市民社会組織に期待し、それを支援しようという世界的な潮流があるなかで、それに逆行するような改革が日本で行われれば、日本は諸外国に対して、恥をかく結果になるだろう」と述べ、会場の共感を呼んでいた。