行政 : NPO税制、認定要件の一部緩和決定
与党税制協議会は、15日、来年度の税制改正の内容を定める「平成17年度税制改正大綱」を決定し、発表した。認定NPO法人制度の認定要件に関しては、共益的な活動に係る制限要件や、役員・社員の親族に係る制限の要件、要件算定の単年度による計算などが緩和されることが決まった。ただ、改正の最大の焦点とされてた日本版パブリック・サポート・テストは手つかずとなり、「実効性が期待できない」という声が出ている。
今回の税制改正大綱で、認定NPO法人制度の改正として、決まったことは以下の通り。
■認定要件の緩和
【単年度主義の撤廃】
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現行のパブリック・サポート・テストは、「単年度で、総収入金額等に占める受入寄附金額等の割合が、単年度で5分の1以上あり、かつその状態が、2事業年度連続して満たされていなければならない」とされているが、改正後は、「2事業年度の平均が5分の1以上あり、かつそれぞれ単年度では10分の1以上あること」とする。単年度で計算していたのを、2事業年度の合計で計算することにより、経営状況の変化に一定対応できるようにする措置。
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現行の共益的な活動に係る制限要件において、「単年度で、会員等(継続・反復してサービス等を受ける者を含む)に対する活動が、法人全体の活動の50%以上になってはならず、かつその状態が、2事業年度連続して満たされていなければならない」とされているが、改正後は、単年度で満たしていなくても「申請前の直前2事業年度の平均で満たしていればよい」と緩和する。
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現行の事業活動の適正性の要件において、「単年度で、事業費総額に占める特定非営利活動の割合が80%以上なければならず、かつその状態が、認定申請の直前2事業年度において、毎事業年度連続して満たされていなければならない」「単年度で、その年度中に受け入れた寄付金のうち70%以上を特定非営利活動に充当しなければならず、かつその状態が、認定申請の直前2事業年度において、毎事業年度連続して満たされていなければならない」とされているが、改正後は、どちらの要件についても、単年度で満たしていなくても「申請前の直前2事業年度の平均で満たしていればよい」と緩和する。ある事業年度に多額の寄付を受け入れた場合に、翌年度に繰り越して使えるようにするための措置。
【共益的な活動に係る制限要件の緩和】
- 現行の認定要件において、「会員等(継続・反復してサービス等を受ける者を含む)に対する活動が、法人全体の活動の50%以上になってはいけない」とする『共益的な活動に係る制限要件』があるが、改正後は、この「会員等の範囲から単なる顧客を除外」し、「ネットワーク型NPO法人の共益的活動から、特定公益増進法人又は認定NPO法人が参加する事業に対する助成を除外する」こととする。
【運営組織の適正性の要件の緩和】
- 現行の運営組織の適正性の要件において、「役員のうち親族等(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)で構成する最も大きなグループの人数が、役員総数に占める割合が3分の1以下であること」「社員のうち親族等(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)で構成する最も大きなグループの人数が、役員総数に占める割合が3分の1以下であること」とされているが、改正後は、この親族等の範囲を、「3親等以内の血族と3親等以内の姻族」とする。
【申請書類の簡素化】
- 認定NPO法人の申請書の添付書類及び各事業年度の報告書類を簡素化する。(どのように簡素化するのか詳細は未定)
■寄付金控除枠の拡大
- 特定寄付金(※)を支出した場合の個人所得税の寄付金控除限度額について、現行では、「所得の25%相当額-1万円」とされているが、改正後は、「所得の30%相当額-1万円」とする。
※特定寄付金とは、以下の寄付金である。- 国又は地方公共団体に対する寄付金
- 指定寄付金
- 特定公益増進法人に対する寄付金
- 認定NPO法人に対する寄付金
- 政治活動に関する寄付金(特定の政治献金)
■検討事項
- 認定NPO法人の認定要件など寄付金税制については、公益法人制度改革に併せて引き続き検討する。(来年の検討課題とする)
認定要件の中で最大の問題とされてきたパブリック・サポート・テストの計算式の改正については、来年の検討課題ということで先送りとなった。
また、個人情報保護の観点から要望が出されていた「20万円以上の寄付者名簿の公開」要件の廃止についても、実現しなかった。
あるNPO関係者は、この改正内容を見て、「パブリック・サポート・テストの算式が変わらないのであれば、何の効果もない。結局、NPOの実態が全く分っていないということだ」と不満をあらわにした。
また、シーズの松原明事務局長は、
「はっきり言って、不十分な内容で残念だ。この改正内容でどれだけ認定法人が増えるか疑問。
共益的な活動に係る制限が緩和されたことは大きいが、最大の問題となっているパブリックサポートテストの算定式には今回手がつけられなかった。申請を希望している法人の約9割は、このパブリックサポートテストの要件が満たせなく、申請ができない。共益的な活動の制限の緩和もパブリックサポートテストの計算式の変更が伴ってはじめて、実際の効果が見込める。ここを改正しない限り実効性のある改正とはならないだろう。
親族要件の緩和も6親等を3親等にしたからといってそれほど事務的な手間は減らない可能性がある。単年度主義の計算が、2事業年度の合計に変わったことは前進で評価はするが、まだ不十分。米国のように4事業年度の平均くらいにしなければ、NPOの現実の経営状況の変化に対応できないだろう。
そういう意味では、申請書類や報告書類の簡素化が、今回の改正で一番効果が見込めそうなところかもしれない。
ただ、実際には、国税局が、法令等で定められていない書類を参考資料として多数要求してくるために、申請書類や報告書類が膨大になっているという状況がある。多くのNPO法人もそれを知っているので申請しない。そのマインドを変えられるようにアピールできる形でどう措置するのか、どこまで提出書類を具体的に制限できるのか、注目していきたい。」
と語っている。
平成17年度税制改正大綱におけるNPO法人に関連する部分は以下の通り。
平成17年度税制改正大綱
平成16年12月15日
第一 新しい時代への税制改革の道筋
以下、平成17年度税制改正の主要項目について基本的考え方を述べる。
6.NPO税制
少子・高齢化、社会の多様化が進展する中、NPO法人や公益法人等による民間非営利活動の役割がますます高まってきている。こうした状況の下、民間による自発的な公益活動を更に促進するとの観点から、寄附金税制について、認定NPO法人の認定要件の思い切った緩和や寄附金控除の控除対象限度額の拡充を図る。
第二 平成17年度税制改正の具体的内容
六 NPO税制等
(国 税)
1 認定NPO法人制度の認定要件等を次のように見直す。
(1) いわゆるパブリック・サポート・テスト(総収入金額のうちに寄附金総額の占める割合が5分の1以上であること)について、直前2事業年度の平均により算定する。ただし、各事業年度の割合が10分の1以上である場合に限る。
(2) 共益的な活動の制限に係る要件(事業活動のうちに共益的な活動の占める割合が50%未満であること)について、次のとおり見直す。
- 会員等の範囲から、単なる顧客を除外する。
- いわゆるネットワーク型NPO法人(NPO法人等の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動を行うことを主たる目的とするNPO法人)の会員等に対する助成事業のうち、特定公益増進法人又は認定NPO法人が参加する事業を共益的活動の範囲から除外する。
- その割合を直前2事業年度の平均により算定する。
(3) 運営組織、経理及び事業活動に関する要件について、次のとおり見直す。
- 役員及び社員の親族に係る要件について、親族の範囲を配偶者及び三親等以内の親族に限定する。
- 事業費総額のうちに特定非営利活動事業費の占める割合要件(80%以上)について、直前2事業年度の平均により算定する。
- 受入寄附金総額の70%以上を特定非営利活動に充当する要件について、直前2事業年度の平均により算定する。
(4) 認定NPO法人の申請書の添付書類及び各事業年度の報告書類について、一定の簡素化を図る。
2 寄付金控除の控除対象限度額を総所得金額等の30%(現行25%)に引き上げる。
第三 検討事項
7 公益法人制度については、現在、政府において、平成18年の通常国会において法制上の措置等を講ずることを目指し、その抜本的な見直しの検討を進めており、新たな制度の骨格が明らかになった段階で、それに対応した税制上の措置について検討する。
8 NPO法人や公益法人等による民間非営利活動の役割が今後ますます重要となることに鑑み、これら法人の実態を見極めつつ、活動の透明性の確保にも留意し、認定NPO法人の認定要件など寄附金税制について、上記7の公益法人制度改革にあわせて、抜本的検討を行う。