行政 : シーズ、被災地支援特別法を提案
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会は、9日午後1時から都内で記者会見を開き、災害時において救援・復興などの人道活動を展開するNPO/NGOの募金活動を促進するための「特別措置法の提案」を発表した。災害時等におけるNPO/NGOの活動に対して寄附をした個人や企業などが、税の優遇を受けられるようにする内容で、国税庁長官の「認定」を受けていないNPO法人等の活動への寄附であっても、この対象とするもの。
シーズは、2月9日午後1時より東京都新宿区内で緊急記者会見を開き、3年間の時限付き「NPO(NGO)による被災地支援活動に関する特別措置法(案)」の立法を提案した。
提案の背景には、2004年に発生した国内外での救援・復興などの活動において、NPO(NGO)は多様で現地のニーズに沿った活動を展開しているにもかかわらず、十分な寄附が集まっていないという現状がある。
記者会見では、国際協力NGOセンター(JANIC)の中川圭吾氏が、スマトラ沖地震・インド洋大津波の救援・復興などの活動に対する寄附の2月4日時点の数字を明らかにした(JANIC調べ)。
それによると、日本赤十字社への寄附が約42億円、日本ユニセフ協会への寄附が約14億円であるのに比べて、NPO(NGO)への寄附は、29団体の寄附を合計しても約5億円強でしかない。NPO(NGO)の1団体あたりの平均寄附額は約1800万円で、日本赤十字社の250分の1(0.4%)である。
NPO(NGO)への寄附が集まりにくい理由のひとつには、TVやニュースなどで紹介される寄附先が日本赤十字や日本ユニセフ協会に集中していることなどがあげられるが、その他に、「認定NPO法人制度」の抜本的改正が進まず、そのために2万近いNPO法人のうち、寄附者が寄附金を所得から控除できる寄附対象団体「認定NPO法人」が29法人にとどまっていることも要因となっている。
こうした理由から、シーズでは、認定NPO法人制度が抜本的に改正されるまでに一時的・暫定的措置として、同特別措置法を提案したもの。
この措置法は、国内外での大規模災害等(紛争含む)に対して、NPO法人等(社団法人、財団法人含む)が活動(事業)を行う場合、その事業を一定の審査会に登録し「特別登録事業」の指定を受ければ、その事業への寄附者が納める国税・地方税が軽減されるという内容。
また、この審査を行う「特別登録事業審査会」は、政府または自治体のもとにおかれるが、民間のNPO活動に詳しい専門家などから構成され、審査基準はできうる限り緩やかで簡素なものとし、緊急性に鑑みて、迅速に登録指定をしなければならない、と提案している。
かつ、この措置法の提案は、昨年起きたスマトラ沖大地震・インド洋大津波、新潟県中越地震、台風23号の救援活動に遡って適用するよう求めている。
記者会見では、ピースウィンズ・ジャパンの広報・マーケティング部/フェアトレード部チーフの松信章子氏が、「歴史やブランドへの信頼感などの理由から、ビッグネーム(著名な団体)にお金が集中してしまっている。もちろん、私たちの自助努力が肝腎なのは言うまでもないが、フェアな土壌が整備されていない不公平感もある。そもそも寄附税制の対象となる『認定』を受けられない理由は、正会員が多いからという、まったく納得がいかない理由。その意味からも、この特別措置法を実現させたい」と熱く訴えた。
また、ブリッジ エーシア ジャパン理事長の根本悦子氏は、「以前よりスリランカで支援活動をしていたため、現地での実績や信頼関係を築いており、学校の再建や、心のケアをやってほしいという依頼がきている。しかし、現地からは、3万、5万という備品を買うのにも、東京の本部にお伺いをしなければならない状態。私たち自身の努力が必要なのは分かっているが、NGOにもチャンスが与えられるよう、活動に注目するとともに、税制優遇措置の拡充をぜひともお願いしたい」と述べた。
この特別措置法案には、緊急な呼びかけにも関わらず、2月9日現在で下記の20団体(いずれもインド洋大津波や新潟中越地震等の被災者支援活動を実施)が賛同を表明している。
シーズでは、さらに広く賛同を募るとともに、各政党や政府に働きかけを行い、立法へとつなげていきたいとしている。
【2月9日現在での賛同20団体】
- アジア太平洋資料センター(PARC)
- ADRA Japan
- 大阪ボランティア協会
- オックスファム・ジャパン
- シェア=国際保健協力市民の会
- ジェン(JEN)
- ジャパン・プラットフォームNGOユニット
- シャプラニール=市民による海外協力の会
- 震災がつなぐ全国ネットワーク
- ソムニード
- 東京ボランティア・市民活動センター
- とちぎボランティアネットワーク
- 難民を助ける会
- 日本国際ボランティアセンター
- 日本災害救援ボランティアネットワーク
- 反差別国際運動
- BHNテレコム支援協議会
- ピース ウィンズ・ジャパン
- ブリッジ エーシア ジャパン
- プロジェクトHOPEジャパン
この特別措置法(案)の詳細は以下のとおり。ただし、シーズでは、今後もNPO(NGO)からの意見などを反映させ、より良いものとしていきたいとしている。
【提案】
NPO(NGO)による被災地支援活動に関する特別措置法(案)
2005年2月9日
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会
【背景と目的】
2004年中に起きた国内での地震、台風、水害などによる被害への支援活動、また海外でのスマトラ沖大地震・インド洋大津波による被災地での救援・復興等の人道活動など、日本のNPO(NGO)は、多様で現地のニーズに沿った活動を展開しており、その重要性は広く認められるところである。しかしながら、こうした支援活動を支える寄附が、NPO(NGO)に対して、十分集まっているとは言いがたいのが現状である。
この背景には様々な要因があると推測されるが、その要因の一つには、寄附を促進する制度が日本では不十分なことが挙げられる。
たとえば、米国では、災害時に救援・復興・人道支援を行うNPO(NGO)のほとんどは普段から税制優遇措置の対象となっている。さらに、米国政府は、スマトラ沖大地震・インド洋大津波に関しては、1月7日、早々に特別立法を施行し、津波被害の救援・復興等の人道活動を行うNPO(NGO)に寄附する場合には、いっそう寄附者に有利な形で税控除できるようにするなどの措置を講じている。
翻って日本では、2万近いNPO法人のうち、寄附金控除の対象となる「認定」を受けている法人はたった29法人でしかなく、被災地で活動しているNPO法人等の多くは、こうした税制支援措置を受けることが出来ない。このため、緊急事態にあっても、NPO(NGO)への民間寄附は、十分な制度的バックアップを受けられない状況にある。
こうした現状と、国内外でのNPO(NGO)活動の重要性が広く認知されてきていることに鑑みて、大規模災害などの緊急事態においては、一時的・暫定的に、その活動を支援するための寄附を集めやすくするような特別立法が必要であり、これを提案する。
なお、この法律は3年間の時限立法とする。
3年間に限定する理由は、本来は、認定NPO法人の認定要件が抜本的に改正され、認定法人が増えることこそ重要であるという認識と、今年の税制改正の検討項目として、認定要件の緩和が課題に挙がっていることを踏まえたものである。
こうした特別措置法が不要となるよう、早急に認定NPO法人の要件に関する抜本的緩和を行い、認定NPO法人の数を増やすべきである。そのための期間(改正とその後の認定法人の増加に必要な期間)を最大3年としたものである。
【特別措置法の骨子(案)】
提案する特別措置法の骨子(案)は以下のようなものである。
※なお、この案は、今後、災害時に被災地支援を行っているNPO(NGO)等の意見を踏まえて、修正していく。
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国内外で、大規模な災害等(紛争を含む)が発生した場合、NPO法人等(社団法人、財団法人等も含む)が、その救援・復興等の人道活動を行う場合、その「事業」を一定の審査会に登録申請することで、「特別登録事業」の指定が受けられるようにする。
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緊急性に鑑みて、登録の審査基準はできうる限り緩やかで簡素なものとし、申請団体の救援・復興等の人道活動の妨げにならない要件とする。また、被災地のニーズの変化に応じて、特別登録事業の事業計画の変更は簡易な手続きで行えるものとする。
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一定の期間(1年程度として別に定める)に限り、「特別登録事業」に寄附をした者は、その寄附金額を、一定の割合まで所得控除(法人にあっては損金算入)できるものとする。
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特別登録事業への寄附は、個人の寄附金の場合は、寄附金が3000円を超えた場合、その全額を所得から控除できるようにする。また、個人住民税にもこの控除は適用されるものとする。法人からの寄附は、一般寄附枠、特定公益増進法人等への寄附枠とは別に、特別の損金算入限度枠を設ける。
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大規模な災害等が、この特別措置法の適用となると政府の機関が決定した場合、政府もしくは自治体のもとに、NPO法人等が行う救援・復興等の人道活動を「特別登録事業」とするか否かを審査する、民間の、NPO活動に詳しい有識者・専門家からなる「特別登録事業審査会」を迅速に設ける。また、行政の恣意的裁量で選考が行われないようにするために、審査員を選考する基準を公開することとする。
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特別登録事業の概要、事業報告、収支報告などは、事業実施団体が、「特別登録事業審査会」に報告を行い、審査会は、それらをホームページ等で公開することとする。
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この特別措置法は、昨年起きたスマトラ沖地震・インド洋大津波、新潟県中越地震、台風23号災害等の災害救援事業にさかのぼって適用するものとする。
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特別措置法は3年間の時限立法とする。
【特別措置法立法(案)のポイント】
要望する法案のポイントは以下の通りである。
※なお、この案は、今後、災害時に被災地支援を行っているNPO(NGO)等の意見を踏まえて、修正していく。
<特別登録事業の申請・登録指定の基準・登録指定>
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特別措置法の「特別登録事業」は、特別措置法の適用対象となる大規模災害の救援等の活動を行うNPO法人等の「事業」であって、かつ、NPO法人等が現地で自らもしくはパートナーを組んで行う事業とする。現地で活動する他団体を支援する目的だけの事業(募金事業)は、対象としない。
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特別登録事業は、特別登録の指定から一定期間(2年程度)を目途に、受けた寄附金を原則使い切る事業とする。ただし、一定の割合(寄附金額の20%程度)を上限に、団体の管理費に使用することを妨げない。
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救援・復興等の人道活動を行うNPO法人は、特別登録事業審査会に対して、法人概要および事業予定の概要などの書類を提出することで、事業に対しての指定を受けることができるようにする。
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緊急性に鑑みて、登録の審査基準はできうる限り緩やかで簡易なものとし、申請団体の救援・復興等の人道活動の妨げにならない要件とする。
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特別登録事業審査会は、登録事業申請を受けた後は、できるだけ迅速に(2週間以内など)、登録の指定あるいは不指定の決定を行うこととする。
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登録の指定を受けた事業は、特別登録事業審査会によりホームページ等を通じて、団体名・事業名称・概要等が公開されるものとする。
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大規模災害では、被災地のニーズが刻々と変化していき、それに応じてNPO等が柔軟で迅速な対応がとれるよう、事業計画の変更は簡易な手続きでできるものとする。
<控除可能な寄附>
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控除可能な寄附金は、明確に特別登録事業に対して、「特別登録事業・有効寄附期間」内に行われた寄附であることが証明できる寄附金に限るものとする。
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個人からの寄附は、3000円以上の寄附金について、所得の30%までを限度に、その全額を控除できるものとする。(現在、特定公益増進法人や認定NPO法人等への寄附については、1万円以下の寄附金は所得控除できず、また、控除できる金額も1万円を超えた部分のみとなっている)
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個人住民税の計算においても、この特別登録事業に行われた寄附は、3000円以上の場合は、所得の30%までを限度に全額控除できるものとする。
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法人からの寄附については、一般寄附枠、特定公益増進法人等への寄附枠とは別に、この特別登録事業のために、特別の損金算入枠を別に設ける。(従来からの寄附を減らさないための措置)
<控除の方法>
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特別登録事業へ寄附をした個人は、確定申告、または年末調整において所得控除手続きができることとする。この時、当該事業を行うNPO法人等から送付された領収証と、「特別登録事業寄附証明書」を添付する。
<特別登録事業を行うNPO法人等の責務>
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特別登録事業を行うNPO法人等は、特別登録事業に対する寄附を募集する時には、その旨を明確にして寄附するよう働きかけなければならない。ただし、登録の準備段階、あるいは審査を待っている段階にあっては、「特別登録準備中」などの表記であってもかまわないものとする。また、政府機関が、未だ当該災害等を特別登録事業の対象として決定していない間に行われた寄附に対しては、この限りではない。
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特別登録事業を行うNPO法人は、3000円以上の寄附者に対しては、領収証とともに「特別登録事業寄附証明書」を送付する。このとき、NPO法人等が行う救援等の事業が、特別登録事業として登録指定を受ける前に寄附を受けた場合で、その寄附が「特別登録事業・有効寄附期間」内に拠出されており、すでに領収書を送付し終わっている場合は、NPO法人は、特別登録寄附証明書を送付することとする。
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特別登録事業は、「特別登録事業・有効寄附期間」が終了した後、1年以内に終了するものとする。ただし、同一の内容で、期間終了後も事業を引き継ぐことは差し支えない。
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「特別登録事業・有効寄附期間」内に集めた、所得控除あるいは損金算入の対象となる寄附金は、特別登録事業終了までに、その事業のために使わなければならない。
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特別登録事業が終了した後には、当該事業を実施したNPO法人等は、3000円以上の寄附者に対して、その事業報告と収支報告を行うこととする。
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特別登録事業が1年を超えて行われる場合には、団体は、集まった寄附金の金額等について、特別登録事業審査会に対して中間報告を行うものとする。
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事業報告書、収支報告書(中間報告を含む)は、事業を実施するNPO法人等のホームページで公開するものとする。
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事業報告と収支報告(中間報告を含む)は、特別登録事業審査会にも提出するものとする。同審査会はホームページ等を通じてその情報を公開する。
<適用>
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この特別措置法は、昨年発生したスマトラ沖地震・インド洋大津波、また昨年、激甚災害指定を受けている新潟県中越地震、台風23号災害の災害救援事業にさかのぼって適用されるものとする。
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昨年中に行われた寄附で所得控除等の措置を受けていない寄附については、特別登録事業と指定された事業に対しての寄附であることが明確な場合、NPO法人等から「特別登録事業寄附証明書」を受けることで、来年の確定申告の確定申告において所得控除ができることとする。
<罰則>
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寄附金の不正使用などに対しては、必要な罰則規定を設ける。
<時限立法>
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この特別措置法は、認定NPO法人制度の認定要件が緩和され、認定NPO法人の数が増加することが本来の姿であることに鑑み、3年間の時限立法とする。
【用語の定義】
- 特別登録事業:
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NPO法人等の行う救援・復興等の人道活動の事業のうち、この特別措置法の対象になる事業として登録されたもの
- 特別登録事業受付期間:
-
NPO法人等が、この特別措置法の対象となる「登録事業」としての登録を行うことができる期間
- 特別登録事業・有効寄附期間:
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控除あるいは損金算入できる、登録事業への寄附金の受付期間
- 特別登録事業審査会:
-
NPO法人等からの登録事業の申請受付、登録手続き、監督、情報公開を行う機関