行政 : 医療法人の非営利性に関するアンケート
(社)日本医療法人協会は、2月1日に開催された厚生労働省の「医業経営の非営利性等に関する検討会」において、「医療法人の非営利性に関する調査」結果を報告した。医療関係者に非営利のイメージなどを聞いたもの。厚労省で進められている、医療法人制度改革の基礎資料となる。
このアンケート調査は、社団法人日本医療法人協会が実施したもの。医療法人制度改革の一環として設置されている、「医業経営の非営利性等に関する検討会」(座長・田中滋慶応義塾大学大学院経営管理研究科教授)の第5回会合(平成17年2月1日)で、調査結果が報告された。
この検討会では、出資額限度法人の検討を終え、昨年12月の第4回会合から本格的に「医業経営の非営利性の徹底方策」について議論をはじめていた。
調査では、理事の構成や「持分」についてどう考えるか、公益性の高い事業とはどのような事業と考えるかなど、改革の方向に沿った質問項目が設定されている。
調査対象は日本医療法人協会会員の1410法人で、182法人より有効回答を得た(回答率12.9%)。このうち持分のある社団法人は5割強の105法人。
調査からは、「持分のある社団法人」の理事構成(同族割合90%超が約30%)や出資者構成が、親族など同族で占められている割合(同族出資割合90%超が約60%)が極めて高い実態が明らかになった一方で、このような「持分のある社団法人」でも、約半数が、公益性の高い法人形態への移行を望んでいることもわかった。
特定医療法人や特別医療法人への移行が困難な理由やそれを阻む規制については、「持分放棄が困難である」ことや、「年収の上限規制」、「現在の出資役員の経営権を確保したい」といった理由が上位を占めた。このような問題を解消するための施策については、医療法人創設・承継等の課税軽減を求める声が多かった。
また、「非営利の具体的なイメージ」について聞いたところ、「社員の退社時に出資払込額を限度として払戻しすること」(68.7%)、「社団医療法人の解散時に出資払込額を限度として残余財産の分配が行われること」(67.6%)、「提供する医療の内容に基づいて医療従事者に高額な報酬を支払うこと」(58.8%)、「効率的な医業経営で高収益をあげていること」(58.8%)などが、営利を目的としているとは考えられないとして支持された。
非営利性に関する意見としては、「剰余金を分配しないこと」(18件)、「剰余金を医療に再投資し、質の高い医療を行うこと」(16件)、「地域住民に安定的な医療を提供し、永続性を図ること」(16件)があった。
また、非営利性を担保する方法については、「相続税、法人税等の税負担軽減」(14件)、「現行制度(配当禁止)の維持」(11件)、「経営内容等の情報公開」(9件)などがあった。
一方で、「公益性の高い事業」のイメージを聞いたところ、「救命救急医療を実施していること」(84.1%)、「へき地など採算の合わない地区において医療を実施していること」(83.5%)、「24時間365日診療を実施していること」(76.4%)、「医療や健康に関わる研究事業に取り組んでいること」(66.5%)が続いた。「経営に関する情報を公開していること」は、設定された8つの設問項目のうち7番目の支持率(47.8%)であった。
公益性に関する意見としては、「公益性とは、患者・地域のために良質な医療を提供することである」(22件)、「公益性の高い法人には課税の軽減等、公的な便宜を図るべき」(8件)などがあった。
この調査からは、持分のある社団形態の法人にとって、理事の親族割合の規制の導入や出資持分の放棄に関しては、まだ多くの法人で困難なことが明らかになったほか、情報開示など透明性の確保に関する意識が未成熟なことが示唆された。
現在、厚生労働省では、現行の「特定」、「特別」医療法人制度を廃止して、より公益性の高い「認定医療法人」制度の創設に向けて準備を進めている。
「認定」要件としては、残余財産の帰属先を限定することや、役員報酬支給基準の開示、地域住民を経営に参加させる住民参加型の評議員制度の導入、理事の同一親族割合の制限、都道府県が作成する医療計画に即した医療の提供、経営情報の公開、資金支援を受けた者の名称等の開示、外部監査の導入などが検討されている。
これにより、非営利性の徹底を図り公益性を向上させ、効率性・透明性も確保したうえで、安定した医療を提供しようというのが改革の方向性としてある。
このような要件をクリアした場合は、現行の軽減税率22%以下をめざした税の軽減措置や、債権発行による資金調達を可能とするなど、さまざまなメリットを与えて認定医療法人への移行を促進する考え。この法人へ寄付した人に対する寄付税制の創設も検討される予定だ。
「医業経営の非営利性等に関する検討会」は、今後月に1回程度のペースで会合を開催し、8月上旬には報告書をとりまとめる予定。これを受けて厚労省では、2006年の通常国会での法案提出をめざす。
この検討会の会合資料や調査結果の詳細は、以下のURLで公開されている。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/kentoukai/mokuji.html
【解説】
株式会社の病院経営への参入が検討されるなど、医療を取り巻く環境が大きく変化するなか、厚生労働省では、現在、医療制度全体の改革に取り組んでいる。
医療法人制度改革は、具体的には、制度の問題点の根本を、社団医療法人における「持分」に起因するとしたうえで、その持分を限定的に回収できる「出資額限度法人」の制度化や、「持分」のない法人類型への移行を促進し、「非営利性」を高める方策を検討しようというもの。
医療法人制度は複雑で、一般にはよく知られていないが、法人形態は大きく分けて「財団法人」と、「持分のある社団法人」と「持分のない社団法人」がある。
それらのうち、公的な運営を確保するため一定の税の軽減措置(軽減税率22%)を講ぜられている、国税庁長官の承認を受けた「特定医療法人」と、経営安定化の観点から収益業務を一定の範囲で行うことが認められている、都道府県知事または厚生労働大臣の認可を受けた「特別医療法人」がある。
全国には、平成16年3月末時点で、38754の医療法人がある。今回問題になっている「持分」のある法人は、37977と実に98%を占める。特別医療法人や特定医療法人は「持分のない社団法人」と「財団法人」のみがなることができるが、その数は、「特定」が362法人、「特別」が35法人と、制度の普及がすすまないことが問題となっていた。
平成15年3月に厚生労働省が示した改革の内容は、質の高い医療の提供体制を整えるために、これらの医療法人制度の改革を行うほか、会計基準の作成や資金調達手段の多様化を図ることなど。
同省では、これらについて行動計画をたて、順次改革を進めてきている。