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2005年05月19日 10:00

行政 : 【追加】「NPO」商標取消の理由

 特許庁が、(株)角川ホールディングスの商標登録を取り消した件で、決定書の全文が公表された。NPOという語は、「識別性が欠けること」や「この語の独占使用を認めることは公益上適当とはいえない」となっている。

 

 (株)角川ホールディングスが、「NPO」を、新聞・雑誌の分野で商標として登録した件で、大阪NPOセンター、大阪ボランティア協会、関西国際交流団体協議会、市民活動情報センター、日本NPOセンター、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会の6団体は、特許庁に異議申し立てを行っていた件で、5月17日に取消決定が通知された。

 この取消決定を受けて、異議申し立ての代理人を務めた弁護士の三木秀夫氏(大阪NPOセンター理事)は、5月17日、この結果に関する報告文と決定書の全文を公表した。

 以下、報告文と決定書の全文を掲載する。


【緊急報告】特許庁が「NPO」「ボランティア」の商標登録を取消

2005年5月17日 情報発信者 弁護士三木秀夫

(NPO関係異議申立人)

特定非営利活動法人日本NPOセンター

特定非営利活動法人大阪NPOセンター

社会福祉法人大阪ボランティア協会

特定非営利活動法人関西国際交流団体協議会

特定非営利活動法人市民活動情報センター

シーズ=市民活動を支える制度をつくる会

(ボランティア関係異議申立人)

社会福祉法人大阪ボランティア協会

特定非営利活動法人静岡県ボランティア協会

特定非営利活動法人とちぎボランティアネットワーク

特定非営利活動法人日本NPOセンター

特定非営利活動法人日本ボランティアコーディネーター協会

財団法人富士福祉事業団

(上記代理人)

三木秀夫(弁護士)

平野和宏(弁護士・弁理士)

山本俊則(弁理士)

那須智美(弁護士)

 「NPO」「ボランティア」の商標登録に対する異議申立に関して、本日、特許庁からの決定書が送達されました。その決定は、(株)角川ホールディングスが有している「NPO」「ボランティア」の商標登録を取消すものでありました。

 取消理由は詳細を極めるものでありますが、理由の中に「この語について特定人に独占使用を認めることは公益上適当とはいえず」と、言葉の公益性に言及した部分もあり、画期的な決定と考えます。

 本件では、広く皆様からのご支援を頂いておりましたが、まずは所期の目的を達成したものであり、皆様に取り急ぎご報告を差し上げます。

 なお、この特許庁の取消決定に対しては、商標権者である(株)角川ホールディングスは、決定謄本の送達があった日から30日以内に、特許庁長官を被告として、決定の取り消しを求める訴訟を提起することができます。

 今後は、同社がどのように対応するかを注目したいと思います。

<これまでの経過概要>

2003年6月3日
本件問題についての情報発信
2003年6月5日
マスコミ等の報道
2003年6月6日
角川ホールディングスが各紙に社告掲載
2003年7月25日
商標登録異議申立書の提出(特許庁へ)
2003年8月25日
証拠を添付、補正書並びに口頭審理を求める上申書提出
2004年6月17日
特許庁が取消理由通知(角川側に意見書提出の機会付与)
2004年8月9日
角川ホールディングスが特許庁に意見書を提出
2004年11月17日
角川側の意見書に対する回答書を特許庁に提出
2005年5月10日(5月17日送達)
特許庁が「NPO」商標取消決定
2005年5月11日(5月17日送達)
特許庁が「ボランティア」商標取消決定

<NPO商標に対する決定の結論要旨>

結論:登録第4665822号商標の登録を取り消す。

 本件商標は、標準文字よりなるものであり、その外観上の印象力及びこの語の有する意味からみて、創作性に欠け、指定商品の主たる内容を表示記述するものであって、取引者・需要者によって「雑誌,新聞」の自他商品識別標識と認識される程度が極めて低く、この語を含む題号の、NPO法人等の発行に係る定期刊行物等が多数存在する実情が認められ、また、この語について特定人に独占使用を認めることは公益上適当とはいえず、かつ、本件商標が使用された結果、自他商品識別力を獲得していた等の特段の事情もないことよりすれば、これをその指定商品である「雑誌,新聞」に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標である、というべきである。

 そして、本件の取消理由の通知に対する商標権者の意見・主張は、いずれも妥当なものとはいえず、取消理由通知を覆すに足りないものである。

 したがって、取消理由の通知で示した理由のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第6号に違反してなされたものであるから、商標法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。

 なお、登録異議申立人らは、平成15年8月25日付の上申書で口頭審理を行うよう申立てているが、本件は、これを開催せずとも審理を進めることができると判断されるので、その申立ては採用しないこととした。

<ボランティア商標に対する決定の結論要旨>

結論:登録第4665823号商標の商標登録を取り消す。

 本件商標は、標準文字よりなるものであり、その外観上の印象力及びこの語の有する意味からみて、創作性に欠け、指定商品の主たる内容を表示記述するものであって、取引者・需要者によって「雑誌,新聞」の自他商品識別標識と認識される程度が極めて低く、この語を含む題号の、ボランティア団体等の発行に係る定期刊行物等が多数存在する実情が認められ、また、この語について特定人に独占使用を認めることは公益上適当とはいえず、かつ、本件商標が使用された結果、自他商品識別力を獲得していた等の特段の事情もないことよりすれば、これをその指定商品である「雑誌,新聞」に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標である、というべきである。

 そして、本件の取消理由の通知に対する商標権者の意見・主張は、いずれも妥当なものとはいえず、取消理由通知を覆すに足りないものである。

 したがって、取消理由の通知で示した理由のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第6号に違反してなされたものであるから、商標法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。

 なお、異議申立人は、平成15年8月25日付の上申書で口頭審理を行うように申立てているが、本件は、これを開催せずとも審理を進めることができると判断されるので、その申立ては採用しないこととした。

<決定書の全文について>

 近日中に三木秀夫法律事務所のホームページ等に掲載予定。

問合せ先 三木秀夫法律事務所 06-6361-7557

大阪NPOセンター 06-6460-0268


【決定書全文】

異議の決定

異議2003-90457

(当事者の表示部分省略)

 登録第4665822号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。

結論

 登録第4665822号商標の登録を取り消す。

理由

第1 本件商標

 本件登録第4665822号商標(以下「本件商標」という。)は、平成14年1月18日に登録出願され、「NPO」の欧文字(標準文字による)からなり、第16類「雑誌,新聞」を指定商品として、同15年4月25日に設定登録(登録査定、同年2月25日)されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由(要旨)

1 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号

 ローマ文字の3文字「NPO」のみを標準文字で横書きしてなる本件商標は、指定商品「雑誌、新聞」に使用しても商品の品質を表示するにすぎず、自他商品識別標識としての機能を果たし得ず、商標法第3条第1項第3号に該当する。また、本件商標は、該商品以外に使用するときは品質の誤認を生じさせるおそれがあり、商標法第4条第1項第16号に該当する。

2 商標法第3条第1項第6号

 本件商標「NPO」に関しては社会的な関心が高く公共の財産として定着しているので、本件商標は、現元号「平成」と同様に、第3条第1項第6号に該当する。

3 商標法第3条第1項第4号

 本件商標は、「株式会社」、「K.K.」、「Co.」と同様に「ありふれた名称」である「NPO」を、標準文字により普通に用いられる方法で表示するものであるから、商標法第3条第1項第4号に該当する。

4 商標法第4条第1項第6号

 NPOは特定非営利活動法人の著名な略称であるので、本件商標は商標法第4条第1項第6号に該当する。

5 商標法第4条第1項第7号

 本件商標の登録を認めると、商標権によって自由な社会貢献活動が制約されかねないという不条理な結果を招く上、社会貢献活動に便乗して利益を得る瓢窃的な行為を国家の法制のもとに保護することにもなり、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するので、判例に照らしてみても、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。

6 商標法第4条第1項第15号

 全国各地の特定非営利活動法人等の非営利組織は題号に「NPO」の文字を含む雑誌、新聞等を発行しているので、「NPO」のみを標準文字で横書きしてなる本件商標を雑誌、新聞に使用すると、非営利組織が発行又は販売している雑誌、新聞、あるいは非営利組織と経済的又は組織的に何等かの関係がある者が発行又は販売している雑誌、新聞と誤認し、需要者が出所について混同するおそれがあるので、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。

7 むすび

 本件商標は、上記の各条文に該当するものであるから、本件商標の登録は、商標法第43条の3第2項の規定により取り消されるべきである。

第3 商標登録の取消理由の通知

 当審は、平成16年6月17日付けで、商標権者に対して、本件商標の登録を取り消すべき旨の通知をした。その理由の要旨は次のとおりである。

1 「NPO」の語について

 本件登録異議申立人らが提出した甲各号証によれば、本件商標を構成する「NPO」の語に関して、以下の事実が認められる。

(1)本件商標を構成する「NPO」の欧文字は、「Nonprofit Organization」の略語であって、行政・企業とは別に社会的活動をする非営利の民間組織を意味する語であること(甲第6号証及び同第10号証)。

(2)平成10年法律第7号により公布された「特定非営利活動促進法」が「NPO法」と、同法の規定に基づき認証された法人が「NPO法人」とそれぞれ、略称されていること(甲第7号証、第8号証。以下、本件においても「特定非営利活動促進法」を「NPO法」と、同法に基づき認証された法人を「NPO法人」という。)。

(3)近年、公益(国家または社会公共の利益のこと。以下、本件において同旨で使用する。)的な市民活動の進展に伴って、その活動を支える法的基盤整備の必要性が唱えられるようになり、民間をはじめ、政府・政党レベルでの対応・提言もなされ、これらの動きが、平成7年1月の阪神淡路大震災を契機に急激に高まり、国会においても検討がなされ、NPO法案提出へと進んでいったこと(甲第10号証及び同第11号証)。さらに、これらの動きと並行して、公益的市民活動を目的とする団体についての研究・検討等も進められていたこと(甲第12号証ないし同第16号証)。

(4)平成10年3月のNPO法の成立、同年12月1日の同法の施行に伴って、国会議員によるNPO法人の活動を推進する組織が設立され(甲第21号証ないし同第23号証)、内閣府内にはNPO室が設置される(甲第25号証)とともに、NPO法に関する国や地方公共団体による施策も推進されていったこと(甲第26号証(枝番を含む。)、同第28号証及び同第29号証)。

(5)本件商標の登録査定日は、平成15年2月25日であるところ、甲第46号証の102の「日本経済新聞 2003年(平成15年)2月16日付」によれば、NPO法に基づく認証法人数が同月末に1万件を超える見通しである旨の報道がされ、また、甲第24号証によれば、同年7月末の時点では、累計12359のNPO法人の認証がなされていること。

(6)NPOに関する学術研究組織も設立され、研究・活動交流も行われていたこと(甲第30号証、同第37号証ないし同第41号証)。

(7)この間、NPOに関する数多くの書籍の出版や新聞報道がなされ、近年これが顕著になっていること(甲第31号証ないし同第33号証、甲第46号証(枝番を含む。))。

(8)NPO法人はNPO法により、少なくとも年1回は事業報告書の提出及び公開が義務づけられており(NPO法29条)、また、NPO法人を含む多くのNPO団体(以下、これらの団体を「NPO法人等」という。)が「NPO」の文字を含んだ題号の機関誌等を発行しており、それは、例えば、「人と組織と地球のための国際研究所」が発行する「NPOマネジメント」(甲第5号証の2)、「北海道NPOサポートセンター」が発行する「北海道NPO情報」(甲第5号証の6)、「かながわNPO研究会『あむ』」が発行する「かながわNPO通信」(甲第5号証の11)、「大阪NPOセンター」が発行する「大阪NPO通信むすび」(甲第5号証の14)、「日本NPOセンター」が発行する「NPOのひろば」(甲第5号証の15)「NPO議員連盟事務局」が発行する「NPO議員連盟ニュースレター」(甲第5号証の26)において認められるところである(このほか、甲第5号証(枝番を含む。)参照)。

2 本件商標の自他商品識別力

 以上によれば、「NPO」の語は、これに関することを内容とする「雑誌,新聞」等の定期刊行物や書籍の題号の一部として、既にNPO法人等や、各出版社間で広く使用されている事情にあるから、該語は、自他商品の識別機能を有しない商標であるというべきであって、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものといわざるを得ない。

 よって、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第6号に違反するものである。

第4 商標権者の意見(要旨)

1 本件商標の登録妥当性について

(1)商標権の効力範囲について

 本件商標は、「NPO」そのものであって、指定商品は有料で商取引の対象とする「雑誌,新聞」である。

 したがって、本件商標の商標権は、本件商標「NPO」と同一又は類似する商標を、指定商品「雑誌,新聞」又はこれと類似する商品について使用した場合にのみ、その効力が及ぶことになる。

 NPO法人等が発行する機関誌の多くは、商標法上の商品ではないため、それらには当然にして商標権の効力は及ばない。

 また、書籍の題号は、原則として商標として認識されず、「NPO」の語を題号とする書籍、または「NPO」の語を題号の一部に含む書籍にも、原則として本件商標の商標権の効力が及ばないから、本件商標が存在しているからといって、書籍の題号に「NPO」の語が使用できなくなるわけではない。

(2)雑誌のタイトル商標の特殊性について

 特許庁「商標審査基準」は、「新聞,雑誌」の題号は、その題号が内容表示であっても、内容に関連する普通名称であっても、原則として自他商品識別力があるものと規定している。この審査基準は、指定商品「新聞,雑誌」について次のような事情があることを考慮して定められたものと考える。

(a)「新聞,雑誌」は、掲載内容が需要者にわかりやすいようにテーマ名自体又は主たるテーマを含んだタイトルを雑誌名として選択することが、一般的に行われているという特殊な実情がある。

(b)また雑誌のような定期刊行物は、毎号その記事内容が異なるため、雑誌のタイトルが直ちに内容表示になるとは言えない。

 そして、乙第2号証の1の登録例、同号証の2(枝番を含む。)の審決例からも明らかなように、内容を表示する一般的な名詞が多数商標登録されているところである。

(3)本件商標を登録出願した理由

 商標権者は、NPO法人の認証件数は、1万5千を超え、その活動の実情に鑑み、その活動や情報を需要者に提供し、その活動に興味と関心とを持ってもらうために、「NPO」というタイトルの雑誌の発行を企画し、その活動の一環として、予め本件商標の出願を行ったものであり、商標権者が本件商標を出願して登録を受けた行為は、非難を受けるような不当な行為ではない。

2 本件商標の登録が維持されるべき理由

(1)本件商標の構成及び商標法第3条第1項第6号について

(ア)商標審査基準には、「新聞、雑誌等の定期刊行物の題号は、原則として、自他商品の識別力があるものとする。」と明確に記載されている。したがって、雑誌等のタイトル商標は原則として自他商品の識別力を有しているものである。

(イ)一つの語「NPO」が、全体商標(「××NPO」や「NPO△△」)の中に一部分含まれて多数使用されていることをもって、ただちに、その一つの語「NPO」が識別力を有しないという結論を導き出すことは、到底容認できない。

(ウ)需要者の雑誌・新聞等の定期刊行物のタイトルに対する注意力等の取引実情を考慮すれば、雑誌等のタイトル商標はそのわずかな違いによって明確に他の雑誌等と区別することが可能である。

(エ)取消理由通知が引用した数々の雑誌・機関誌等の多くは、商標法上の商品に該当するものではない。「NPO」の語を含む機関誌が多数存在していることは、本件商標が商標法第3条第1項第6号に該当することの決定的な証拠にはならない。

 甲第5号証の刊行物は、当該NPO法人等自体の活動内容の紹介、情報の提供、NPO活動の啓蒙・啓発、参加者の募集等を行うための機関誌、広報誌であって、市場において独立して商取引の対象として流通に供されるものであるとは考えられず、商標法上の「商品(雑誌)」には該当せず、各NPO法人等の活動という「役務」の「広告」に該当するものであると考えられる。

 この主張は、過去の判例において支持されており(東京地方裁判所昭和36年3月2日判決昭和32年(ワ)第5278号(乙第4号証))、過去の審決においても支持されている(乙第5号証(枝番を含む。))。

 甲第5号証(枝番を含む。)に示される刊行物の中には値段や購読料が示されているものが存在するが、定価が付されているものであっても実際には商品として販売されていない雑誌・機関誌等の刊行物は、商標法上の「商品(雑誌)」ではなく、上述のように各NPO法人等の活動の「報告」や「広告」に該当するものであると考えられる。

(2)既登録商標について

 乙第7号証の1ないし同号証の10(校番を含む。)に示すような登録例が多数ある。

 本件商標のみが商標法第3条第1項第6号に該当し、識別力を有しないものであるとの判断がなされることは著しく不合理であり、判例・審決例・特許庁の判断基準と著しく相反する。

3 まとめ

 以上に述べたように、本件商標は指定商品「雑誌,新聞」に対して自他商品の識別力を有するものであり、商標法第3条第1項第6号に該当するものではない。また、商標権者が本件商標を取得することにより、NPO法人等に何らの不利益が生ずるものではないし、NPOの発展に何ら障害となるものではないと思料する。また、当然にして申立人(ら)の主張するような事由に該当するものではない。

第5 当審の判断

 当審は、本件商標は商標法第3条第1項第6号に該当するものであり、その登録は取り消されるべきであると判断する。

 以下、その理由について述べる。

1 「雑誌,新聞」を指定商品とする商標の自他商品の識別力について

(1)「雑誌,新聞」を指定商品とする商標の一般的登録要件

 商標の一般的登録要件を規定する商標法第3条第1項各号についてみるに、同項第1号から第5号までの規定は、自他商品識別機能を果たし得ない商標や、特定人に独占使用を認めるのを公益上適当としない商標を例示的に列挙しているものであって、同項第6号は、これ以外の、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を総括的に規定しているものと解される。

 そうであれば、当該商標の一般的登録要件について総合的に検討した結果、「雑誌,新聞」を指定商品として登録出願された商標が、商標法第3条第1項第3号の適用を受けることがあるのはもとより、同号の適用がないとされる場合に、同号を除く同項各号の適用を受けることも当然あり得るというべきであって、同項の解釈適用については、「雑誌,新聞」を指定商品とする商標であっても、他の商品・役務を指定する商標と何ら変わりはない。

 したがって、「雑誌,新聞」を指定商品とする商標が、一般的登録要件を有するか否かを判断するに当たっても、当該商標の構成や創作性の程度、当該商標を構成する語(図形等)に対する取引者や需要者(購読者たる一般の国民)の認識の程度、その語(図形等)が指定商品との関係で一般的に使用されている実情やその使用可能性の程度、独占適応性の有無及び当該商標が指定商品の題号に使用される場合の取引の実情等、商標法第3条第1項各号の規定の趣旨を総合的に考察することが必要であるというべきである。

(2)「雑誌,新聞」の題号に関する商標審査基準について

 商標権者は、特許庁の商標審査基準には、「新聞、雑誌等の定期刊行物の題号は、原則として、自他商品の識別力があるものとする。」と規定されており、雑誌等の題号商標は原則として自他商品の識別力を有しているものである旨主張している。

 そこで、以下、「雑誌,新聞」の題号に関する特許庁の商標審査基準について検討する。

 商標法第3条第1項第3号の商標審査基準7(2)には、商標権者の主張する上記審査基準が定められている(乙第1号証)。この基準は、同号に定める構成要件の該当性を判断するに当たり、審査の統一的運用を確保するための指針の一であって、「新聞、雑誌などの定期刊行物の題号」の審査上の取り扱いについて定めたものであるが、この基準中には「原則として」との文言が含まれており、「雑誌,新聞」を指定商品とする商標について、常に、審査上、自他商品識別の標識力があるものとする取り扱いをすべきことを定めたものと解することはできない。

 なぜならば、「商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんびともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。」(最高裁第三小法廷 昭和54年4月10日判決 昭和53年(行ツ)第129号 判例時報927号233頁)からであり、現行商標法第3条第1項第3号の解釈適用に関するこの法理は、指定商品が、本件のような「雑誌,新聞」である場合にも該当するというべきである。

 商標権者が引用する、商標法第3条第1項第3号に関する「新聞、雑誌等の定期刊行物の題号は、原則として、自他商品の識別力があるものとする。」との商標審査基準は、当該商標が、定期刊行物の題号に使用されるという取引の実情を斟酌して、登録の是非を判断することが必要であるとの視点から、その審査上の指針を、上記の表現をもって審査基準に加えているのであり、この基準は、同号の他の基準に関わりなく独立して運用されるものではなく、この中にある「原則として」との文言は、同号の審査基準全体を総合的に検討して、その適用の可否を判断すべきであるという意味を含んでいるものである。

 また、商標権者は、この商標審査基準が定められた理由を、

(ア)「新聞,雑誌」は、掲載している内容が需要者にわかりやすいようなタイトルを雑誌名として選択することが、一般的に行われている。

(イ)雑誌のような定期刊行物は、毎号その記事内容が異なるため、雑誌のタイトルが直ちに内容表示になるとは言えないという特殊な事情があるからとしている。

 確かに、このような事情も勘案されて、商標審査基準が定められていることは否定されるものではないが、上記の二点の理由をもって、「雑誌,新聞」に使用する商標の登録が認められるならば、「雑誌,新聞」に使用される商標は、自他商品識別力の有無とはかかわりなく「早い者勝ち」的に登録されることとならざるを得なくなる。商標権の効力、差止請求権、侵害の推定などを規定した商標登録制度の趣旨に照らせば、現行商標法が、「雑誌,新聞」に使用される商標の自他商品識別力について、これを無条件に認めていると解することができないのは明らかである。

 なお、商標審査基準における「原則として」との語の解釈については、商標の類否判断の事例ではあるが、「特許庁審査基準が、原告の主張するように、同数音からなり、相違する1音が母音を共通にするときは、称呼上類似すべきものとすべきことを定めているとしても、それはあくまでも『原則として』のことであって、必らず類似するものとすべきことを定めているものとすることはできないから、原告が前記審査基準をその主張の根拠とすることは意味がない。」と判示している裁判例もある(東京高裁 昭和58年3月31日判決  昭和57年(行ケ)第217号 「特許と企業」1983年5月(173)号65頁)。

 そして、これまでの審査・審判例における事例も、商標法第3条第1項第3号の商標審査基準にしたがって、これらを総合的に検討し個別具体的に認定・判断された結果、登録されているのである。

 したがって、商標権者が引用する商標審査基準及びこれが定められた理由についての商標権者の上記解釈、並びに他の登録例の存在をもって、本件商標の登録は維持されるべきであるとの商標権者の主張は、採用することができない。

2 本件商標の自他商品識別力について

(1)本件商標の構成と創作性の程度

 本件商標は、「NPO」の文字を標準文字(平成9年2月24日付で特許庁長官が指定したもの。特許庁公報公示号(9(1997)-17(7071)号)89頁 平成9年3月25日発行)により表してなり、その指定商品は「雑誌,新聞」である。

 しかして、標準文字よりなる本件商標の外観上の特徴は、決して顕著とはいえず、その視覚上の印象力は強いとはいえないものである。

 しかも、「NPO」の語は、商標権者の創作に係る語ではなく、取消理由通知に記載した意味合いを有する語として国民各層において広く知られ、使用されていることは、登録異議申立人らが提出した甲各号証によるまでもなく明らかといえるものである。

(2)「NPO」の語が取引者・需要者により自他商品の識別標識として認識される程度について

 前記のような実情を有する、本件商標「NPO」に接する取引者・需要者、とりわけ購読者たる一般の国民は、行政・企業とは別に社会的活動をする非営利の民間組織である「NPO」を一義的に想起し、当該「雑誌,新聞」の主たる内容を表したものとの認識を抱くとみるのが相当であって、これを、他者の「雑誌,新聞」と識別するための標識として認識する程度は極めて低いものといわなければならない。

 その際、本件商標が、商標審査基準のいう「原則として、自他商品の識別力がある」ものとしても、それは、あくまでも「原則」なのであるから、取消理由通知に記載した実情がある本件の場合、当該商標が自他商品の識別力を発揮しうる商標であるか否かについて、さらに進んで認定・判断をする必要があるというべきであって、ここで止まって、本件商標の識別力を認めることは、商標の一般的登録要件に関する規定である商標法第3条第1項の趣旨に悖るものといわなければならない。

(3)「NPO」の語が定期刊行物の題号の一部に使用されている実情

 「NPO」の語は、取消理由通知に示したように、これに関することを内容とする「雑誌,新聞」等の定期刊行物や書籍の題号の一部として、既にNPO法人等や、各出版社間で広く使用されている事情にあり、このほかにも、例えば、紀伊国屋書店の書籍検索サイト(http://bookweb.kinokuniya.co.ip/)によれば、「NPO木の建築第11号(2005年4月)」、「NPOジャーナルvol.9(2005年4月)」、「言論NPO10(2004年7月)」などの雑誌類が取り扱われていることが認められ、また、国立国会図書館の書籍検索サイト(http://opac.ndl.go.jp/Process)によれば、「The NP0 network news(2002年9月号)」、「NPO木の建築(1号 2001年)」、「NPOジャーナル(2003年5月)」、「言論NPO(2002年2号 外)」、「わかやまNPO情報(v.10 2004年)」、「NPOマネジメント(1号 June1999年)」(甲第5号証の2のものと同一の発行者にかかるもの)、「NPOのひろば(No.31 2002年冬)」(甲第5号証の15のものと同一の発行者にかかるもの)、「NPO情報(2001年1月号)」(甲第5号証の24のものと同一の発行者にかかるもの)などの雑誌類が蔵書されていることが認められるところである。

 してみれば、他の文字を付加するなどの構成ではない、「NPO」の文字のみからなる本件商標を、その指定商品に使用しても、商標のもつべき本質的機能である自他商品を区別し、それが一定の出所から流出したものであることを一般的に認識させる機能が極めて弱いものとみるのが相当である。

 この当審の認定・判断は、「本件商標は,簡単でありふれた文字である『ベアー』のみから成る標章であり,これを『被服,履物』について商標として使用しようとしても,少なくとも平成11年6月(登録査定時のこと。:本件合議体が注記。)における上記のような商標登録及び取引の実情を考慮すれば,被告による使用の結果,自他商品識別力を獲得した等の特段の事情のない限り,自他商品識別機能を有しない商標である,というべきである。」として、当該商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとした裁判例(東京高裁 平成15年11月27日判決 平成15年(行ケ)第42号 最高裁ホームページ)に照らしても相当というべきである。

 商標権者は、「『NPO』の語が、全体商標(「××NPO」や「NPO△△」)の中に一部分含まれて多数使用されていることをもって、ただちに、その一つの語『NPO』が識別力を有しないという結論を導き出すことは、到底容認できない。」と主張するが、「NPO」の語が定期刊行物や書籍の題号の一部として広く使用されていることは上記のとおりであり、かつ、このことは、本件商標の識別力の有無を判断する考察要素の一なのであって、題号に「NPO」の語を含む定期刊行物が多数使用されていることのみをもって本件商標の識別力が判断されるのではないから、上記の商標権者の主張は取消理由通知の内容を一面的にみるもので、これを正解していないものである。

(4)「NPO」の語の独占適応性

 「NPO」の語を巡る社会的実情については、取消理由通知で示したとおりであり、この語は、商品である「雑誌,新聞」の主な内容を表示記述する標章であって、NPO法人等であれば、その活動上必要な表示として使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないというのが相当である。

(5)本件商標が使用される指定商品に係る取引の実情

 上記の「(1)」ないし「(4)」によれば、「新聞、雑誌等の定期刊行物の題号は、原則として、自他商品の識別力があるものとする。」との商標審査基準を考慮しても、本件商標は、自他商品の識別機能が極めて弱いものと判断するのが相当である。

 しかるところ、商品「雑誌、新聞」の題号に使用される商標については、自他商品の識別力が弱いものであっても、使用された結果、識別力が発揮される事例が多いことはあ取引の経験則に照らし明らかである。

 しかして、本件においては、「NPO」の語が、指定商品である「雑誌,新聞」に使用された結果、自他商品識別力を獲得しているなどの特段の事情は認められず、商標権者も、本件商標が登録査定時において、使用された結果、自他商品の識別力を獲得していたとの主張、立証はしていない。

(6)本件商標の商標権の効力と識別性との関係について

 商標権者は、「NPO法人等が発行する機関誌(の多くは、商標法上の商品ではないため、それら)には当然にして商標権の効力は及ばない。」、「書籍の題号は、原則として商標として認識されず、『NPO』の語を題号とする書籍、または『NPO』の語を題号の一部に含む書籍にも、原則として本件商標の商標権の効力が及ばない。」旨主張している。

 商標権者の上記主張の是非を置くとしても(印刷物であるガイドブックの題号としての使用であっても商標の使用ではないということはできないとした裁判例がある。東京高裁 平成12年4月27日判決 平成11年(行ケ)第183号 最高裁ホームページ)、商標権の効力の範囲の問題と、当該商標が自他商品の識別力を有するか否かの問題とは、次元が異なるものであって、商標権の効力が及ばないことをもって当該商標が識別力を備えているとの理由とはなり得ず、この点についての商標権者の主張は失当というべきである。

(7)甲第5号証の機関誌、広報誌等は商品性を有しないとの商標権者の主張について

 商標権者は、甲第5号証(枝番を含む。)に示すような、機関誌、広報誌等は、市場において独立して商取引の対象として流通に供されているものであるとは考えられず、定価が付されているものであっても実際には商品として販売されていない雑誌・機関誌等の刊行物は、商標法上の「商品(雑誌)」には該当しない旨主張している。

 しかるところ、商標法は「商品」についての定義規定をおいていないから、甲第5号証(枝番を含む。)に示された機関誌等の定期刊行物が商標法上の商品ではないと解すべき法的根拠はない。他方、商標権者は、上記主張をするものの、これらの定期刊行物が商標法上の商品には該当しないとの証拠を示してはいない。

 そして、甲第5号証(枝番を含む。)の機関誌には、「年間購読料5,000円」(甲第5号証の2、「書店ではお求めになれません。」と記載されているが、購入申込先が表示されている。)、「頒価200円」(甲第5号証の4)、「定価1500円」(甲第5号証の11)、「定価300円」(甲第5号証の14)のように価格が表示されているものがあり、この事実によれば、これらの各書証に係る定期刊行物が商標法上の「商品」でないとは一概にいいきれないものである。

 してみれば、甲第5号証(枝番を含む。)の機関誌が商標法上の商品に該当するか否かは、これらが商品として取引流通過程におかれるか否かにより、個別具体的に判断されるものというべきである。

 この点について、「商標法上の商品とは,商標制度の目的に照らすと,流通性があり市場で取引の対象となり得るもののことであると解するのが相当である。これを『印刷物』についていえば,一般の書店において販売されるものでなくとも,インターネット等の通信販売,その他何らかの販売経路を通じて,不特定多数の需要者に対し,譲渡する対象となり得るものであれば,これを商標法上の商品ということができると解すべきである。」とした裁判例(東京高裁 平成15年5月20日判決平成15年(行ケ)第14号 最高裁ホームページ)も存するところである。

 本件における上記の甲各号証の場合、価格を明示し、発行者(団体)等を明らかにして刊行されている以上、不特定多数の購入希望者が当該刊行物を購入することができるというべきであって、これを商標法上の商品ではないとすべき理由はない。

 なお、乙第4号証の裁判例は、被告が会員及び一般人に配付した月刊パンフレットが被告の営業の宣伝の目的で無料で配布されていることなどを理由として当該パンフレットの商品性を否定した事例であり、本件には妥当しない。

 そして、仮に、甲第5号証(枝番を含む。)の定期刊行物の中に、商標法上の商品とはいえないものが含まれていたとしても、当該刊行物の題号の一部に「NPO」の語が使用されていることは明らかな事実であって、商標の識別力の有無が争われている本件においては、この事実が、取引者・需要者による本件商標の自他商品識別力についての認識の程度を低めこそすれ、その程度を高めることとなるとはいえず、甲第5号証(枝番を含む。)の定期刊行物中に商標法上の商品とはいえないものが仮に存在したとしても、本件取消理由を否定することにはならないというべきである。

3 結論

 以上のとおり、本件商標は、標準文字よりなるものであり、その外観上の印象力及びこの語の有する意味からみて、創作性に欠け、指定商品の主たる内容を表示記述するものであって、取引者・需要者によって「雑誌,新聞」の自他商品識別標識と認識される程度が極めて低く、この語を含む題号の、NPO法人等の発行に係る定期刊行物等が多数存在する実情が認められ、また、この語について特定人に独占使用を認めることは公益上適当とはいえず、かつ、本件商標が使用された結果、自他商品識別力を獲得していた等の特段の事情もないことよりすれば、これをその指定商品である「雑誌,新聞」に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標である、というべきである。

 そして、本件の取消理由の通知に対する商標権者の意見・主張は、いずれも妥当なものとはいえず、取消理由通知を覆すに足りないものである。

 したがって、取消理由の通知で示した理由のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第6号に違反してなされたものであるから、商標法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。

 なお、登録異議申立人らは、平成15年8月25日付の上申書で口頭審理を行うよう申立てているが、本件は、これを開催せずとも審理を進めることができると判断されるので、その申立ては採用しないこととした。

 よって、結論のとおり決定する。

平成17年5月10日

審判長特許庁審判官 佐藤正雄

特許庁審判官 宮川久成

特許庁審判官 山本良廣

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)

 この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

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