行政 : 政府税調、「基本的考え方」発表
政府税制調査会(石弘光会長)の基礎問題小委員会・非営利法人課税ワーキング・グループは、17日、「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」をとりまとめ、発表した。新しい非営利法人制度において、公益性のある非営利法人を寄附優遇法人とする考えだ。
17日、政府税制調査会の基礎問題小委員会と非営利法人課税ワーキング・グループがまとめた「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」は、政府が進めている公益法人制度改革にともない新しく創設される「非営利法人制度」に関する税制についての基本的方向性をまとめたもの。
政府は、昨年12月、現行の公益法人(社団法人、財団法人)制度と中間法人制度を廃止して、新しく「非営利法人」制度を創設することを閣議決定した。
新しい非営利法人は、登記により簡易に設立でき、そのうち国や都道府県に設けられた委員会の判断に基づき公益性があるとされたものを、「公益性を有する非営利法人」として認定し、優遇措置を与えるとしていたもの。
政府税制調査会では、今年4月から基礎問題小委員会と非営利法人課税ワーキング・グループの合同会議を設置し、この新しい非営利法人制度に関する税制上の扱いについて検討を進めてきた。
今回発表された「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」は、その基本的な方向性について、まとめたものという位置づけとなっている。
基本的な方向性としては、公益性のある非営利法人を基本的に寄附優遇法人とするなど、寄附税制は拡充することとしている。また、もっぱら共益活動を行う非営利法人の会費は非課税とするなどと、共益団体に対する配慮も行っている。
さらに、認定NPO法人制度の認定要件も実態に合わせたものとして見直すとしている。
ただし、公益性のある非営利法人等(NPO法人を含む)の収益事業課税の範囲を拡大することや、人格なき社団等の課税も検討するなど、増税となる一面ものぞかせている。
シーズでは、6月21日(火)午後7時から、中野サンプラザにおいて、政府税制調査会特別委員の出口正之氏を招いて、この「基本的考え方」を解説するイベントを開催する。
イベントの詳細は、以下を参照のこと。
https://www.npoweb.jp/event_info.php3?article_id=2168
「基本的考え方」のポイントは以下の通り。
【はじめに】
価値観の多様化や社会のニーズの多元化が進む中、公益法人や、NPO法人などによる民間非営利活動の重要性が高まってきている。今回の公益法人制度改革の動きに対応して、新たな非営利法人に関する課税のあり方や、民間非営利活動を資金面から支える寄附金税制についても、抜本的に検討することが必要となった。「あるべき税制」の一環として「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を総合的に再設計し、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指す。
【基本的考え方】
一、法人税は、事業の目的や利益分配の有無にかかわらず、収益及び費用の私法上の実質的な帰属主体である事業体がその納税義務者とされるものであり、営利法人も非営利法人も同様。
【課税上の取り扱い】
一、「公益性を有する非営利法人」は、その事業活動の公益性に鑑み、基本的にすべての収益を非課税とすることが適当。ただし、営利法人と競合関係にある収益事業のみに課税する(収益事業課税)。
一、非営利法人のうち「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」は、会員からの会費は非課税とすることが適当。この法人は、会員からの会費を原資として、それが会員向けの共益的活動に専ら費消され、会員がその潜在的受益者になることが想定される法人である。
一、「公益性を有する非営利法人」でも「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」でもない非営利法人は、営利法人と同等の課税をする。
一、民間の有識者で構成する「第三者機関」が公益性を取り消した場合、取り消しの理由が発生した時点にさかのぼって優遇措置を取り消す。優遇措置で蓄積した財産に一定の課税をする。「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」についても同様の措置を検討。
【特別法に基づく非営利法人等】
一、「特別法に基づく公益法人等」(学校法人、社会福祉法人、宗教法人、NPO法人等)の課税については、当面、現行の扱いとする。ただし、公益法人等に共通する課税の見直しとは整合性を図る。
一、地縁団体や管理組合法人のような「共益的活動を行うことを目的として特別法に基づき設立される法人」は、「専ら会員のための共益的事業活動を行う非営利法人」の課税上の取扱いと整合性を確保する。
一、「人格のない社団等」については、営利法人や非営利法人との課税のバランス等の観点から、そのあり方の見直しを行う必要がある。
【地方法人課税】
一、非営利法人に対する地方法人課税については、法人住民税法人税割及び法人事業税所得割は、法人税と同様の扱いとすべき。
一、法人住民税均等割については、「公益性を有する非営利法人」が収益事業を行わない場合は最低税率により、また法人が収益事業を行う場合は法人の規模に応じて課税することとする。
一、法人住民税均等割については、「公益性を有する非営利法人」以外の非営利法人については、営利法人との均衡等を考慮し課税する。
【公益法人等(NPO法人、学校法人等を含む)の課税】
一、公益法人等の課税とされるべき収益事業(33種)の範囲を拡大する。現行の収益事業の範疇であっても一部非課税とされている特定の事業内容についてその妥当性を再検討する。
一、収益事業から生じる利益に対しては、現行制度では、軽減税率(22%)が適用されるが、できる限り営利法人の基本税率(30%)との格差を縮小し、営利法人と同等の税率とすることを目指す。
一、みなし寄附金制度のあり方について、今後更に検討を進める。
一、金融資産収益に対する適切な課税のあり方について、今後検討を進めていく。
【寄付金税制】
一、「公益性を有する非営利法人」をもって寄附金優遇の対象法人とするとともに、法人が行う公益的事業を寄附金優遇の対象事業とすることが合理的である。
一、寄附金に関する事項について国民のチェック機能を強めるための情報公開の仕組みや、寄附金の使途の適正性の確保や寄附金税制の不正利用防止のための仕組み等を検討する必要がある。
一、「第三者機関」が「公益性を有する非営利法人」に対して公益性判断を取り消した場合、寄附金優遇法人としての資格を取り消すとともに、その後一定期間内は再認定されないこととするといった事後チェックの仕組みの導入も検討すべき。
一、認定NPO法人の認定基準のあり方について、「パブリック・サポート・テスト(PST)」は、最近のNPO法人の活動実態にそぐわなくなっているのではないかとも考えられ、NPO法人の実態に即したものとなるよう更に検討を進める必要がある。
一、寄附金税制が適用される期間については、現行(2年間)よりも長めに設定する方向で検討することが適当である。
一、所得税について寄付金控除の限度額(総所得の30%)の拡充を検討。1万円の適用下限額の在り方も、寄附金税制の充実の必要性の観点を踏まえ、あらためて検討する。
一、公益目的の寄附金に係る損金算入枠については、拡充する方向で見直すべき。他方、一般寄附金については、損金算入枠を縮小する方向で検討を進める必要がある。
一、相続財産からの寄附については、「第三者機関」による公益性の判断をもって非課税とできるよう、制度を見直すべき。
一、指定寄附金制度は、存続することが適当。ただし、指定基準や対象事業の範囲の明確化を含め、見直しを行う必要がある。
一、個人から法人への資産の寄附についても、現物による寄附を円滑にするための見直しを検討すべき。
一、地域に密着した非営利法人等については、地方税においても寄附金控除が可能となるよう見直していくべき。また、現行10万円の適用下限額についても、大幅に引き下げることが望ましい。
一、地方税である個人住民税の性格にあった寄附金控除の仕組みは、基本的に条例などにより地方公共団体によって独自に構築されるべき。控除を行う地方公共団体と寄附金による地域の受益との対応関係や、地方公共団体の自主性、市町村・納税者の事務負担などにも留意する必要がある。