行政 : 国民生活白書、高齢者はNPOの担い手
猪口邦子少子化・男女共同参画担当相は、6月20日の閣議に、「多様な可能性に挑める社会に」と題する2006年版国民生活白書を提出した。白書では、高齢者のキャリアはNPOなどでは高く評価されており、高齢者の社会貢献への意欲が高いことと合わせて、今後、NPOの担い手となっていくことへの期待が示された。
2006年版の国民生活白書では、
- 適職を探そうと試行錯誤する若年者
- 育児期間も継続就業したり、離職しても育児後に再就職を果たそうとする女性
- 人生を再設計しようとする高齢者
に焦点を当てている。
それぞれが多様な可能性に挑む際にどのような壁が存在するかを分析し、人々の希望する職業や働き方の実現にむけて、社会全体でその壁を打ち破ることを求めている内容となっている。
第1章の「若年者の適職探し」では、適職探しへの再挑戦を希望する若年者は、1987年に比べ3割強増加し、若年者全体の2割以上に達していることが明らかにされている。
その背景としては、
- パート・アルバイトとして採用される新卒者が増加して、正社員への転職希望が増えたこと
- 景気悪化時に不本意な就職をした人が多かったこと
- 残業時間の増加による労働環境の悪化
などがあげられている。
しかしながら、7割を超える企業が、若年既卒者を新卒と同じ枠では採用しないため、卒業後数年経過した後に正社員を希望する若年者の就職・再就職は困難な状況となっている。
白書では、これが若年者の適職探しを阻害する「壁」になっていると指摘している。
また、適職が見つからない若者が辿る、いわゆる「フリーター」経歴について、3割の企業が採用を決める際にマイナス評価を下しており、いったん「フリーター」になると正社員として雇用されることが困難になる現状が示された。
その一方で、卒業後に正社員としての経験がなく、パート・アルバイトを続けてきた「フリーター」であっても、企業がプラスに評価する場合もある。
具体的には、資格習得の勉強をしてきた者には、9割近くの企業がプラスの評価を下している。
また、同じ内容の仕事を継続してきたことで、その仕事について一定の能力を身につけていた場合も、5割強の企業が「評価する」としている。
さらに、NPO・NGOなどでのボランティア活動も2.5割の企業がプラスに評価し、この割合は海外留学経験と同等となっている。
第2章「女性のライフサイクルと就業」では、子育て世代の女性で、出産・育児後の再就職や継続就業を理想とする人の割合が、専業主婦を理想とする人の3.5倍となっているものの、その理想を実現するのは半数強にとどまっている現状が明らかにされている。
白書では、
- 育児休業制度の取得の難しさ
- 保育所の不足
- 子どもがいても残業を減らせないといったこと
などが、育児後の再就職や継続就業を諦める背景だと分析し、少子化の抑制のためにも、その改善が必要だとしている。
第3章「高齢者の人生の再設計」では、「適当な仕事がありそうにない」との理由で求職活動をしていない就業希望者を含めた「潜在的な失業率」を見ると、60代前半の男性は10%に及び、全年齢の「潜在的な失業率」5%を大きく上回っていると指摘している。
企業が60歳以上の雇用に消極的である背景としては、
- 高齢者に適した仕事がないこと
- 若年・中年の雇用が優先される
- 体力面での不利を補うような働き方が工夫されていないこと
などをあげている。
また、白書では、高齢者の人生の再設計について、高齢者が充実した生活を送る上で、蓄積してきた知識や経験をNPOなどでの社会貢献活動に活かすことに注目。
「高齢者の生活と社会貢献活動」と題する1節を割いて取り上げている。
まず、高齢者自身の社会貢献活動への意欲が年々高まってきていると指摘。
60代で「社会のために役立ちたいと思っている」と答えた者の割合は、1983年には46.6%であったが、97年には70%を超え、その後多少低下したものの、2006年には64.4%となっている。
また70歳以上でも83年の31.9%から2006年には52.1%に高まっている。
他方、NPOは、高齢者に専門知識や対外交渉能力などの面で大きな期待をかけている。
実際、NPOの事務局スタッフを主に担っている年齢層については、60代以上が47.8%で最も高く、50代が47.0%、40代が25.7%と続く。
また、50代以上の職員を採用したNPOにその理由を聞いてみると、正規の職員、パート・アルバイトのいずれで採用した場合についても、「経験・知識が豊富である」を挙げる割合が最も多く、次いで「熱意・意欲が高い」、「年齢に関係なく採用した」などと続いている。
しかしながら、高齢者自身に活動意欲があり、NPO側からも活躍が期待されているにもかかわらず、実際の行動に移している者はそれほど多くはない。
60歳以上の高齢者に社会貢献活動への参加の有無を尋ねたところ、「参加している」と回答した人の割合は26.4%にとどまっている。
白書は、社会貢献活動に高齢者の参加を促すには、一緒に参加する仲間の存在、活動内容に係る情報提供が必要だと分析。
その根拠として、60代の4割が地域に関わるNPO活動を「関心はあるがよくわからない」と思っていること、60歳以上の男女に、地域のための奉仕的な活動を行うに当たって、実際に活動するための条件を尋ねたところ、「一緒に活動する仲間がいること」が4割と最も多かったことなどをあげている。
白書では、その「むすび」で、日本経済がバブル経済崩壊後の長期的な低迷を脱し、雇用環境も全般的に好転している今こそが、「国民、企業、政府がそれぞれの立場で、多様な可能性に挑める社会の実現を図るチャンスであり、これを社会全体にとっての「挑戦」と捉えて取組を進めていくべきであろう。」と、まとめている。
2006年版の国民生活白書「多様な可能性に挑める社会に向けて」は、内閣府のサイト内、下記に掲載されている。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/