行政 : 内閣府委員会、NPO法「見直しが必要」
内閣府は、7月21日に開催された「国民生活審議会NPO法人制度検討委員会」に、NPO法改正に関する中間報告(案)を提出した。NPO法人の運営基盤の強化の必要性や、法人の認証・監督業務に課題があることから、「制度の見直しが求められている」としている。
国民生活審議会は、内閣府のもとに置かれ、「重要事項を調査審議」して「内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べること」を目的としている。
昨年10月7日、第20次(平成17年9月9日~平成19年9月8日)国民生活審議会の第1回目会合としての総会が開催され、NPO法の見直しを検討する「国民生活審議会総合企画部会NPO法人制度検討委員会」が設置された。
この委員会では、昨今のNPO法人制度を濫用した営利目的と見られる活動や詐欺などの違法行為などを背景に、公益法人制度改革における新たな非営利法人制度の枠組みもにらみながら、NPO法人に関する制度の見直しの検討を進めてきた。
7月21日には、第8回目の委員会が開催され、「特定非営利活動法人制度の見直しに向けて」と題する「中間報告(案)」がこれまでの議論のとりまとめとして、内閣府から委員会に提示された。
「中間報告(案)」では、見直しが必要になった背景について、以下の点を指摘されている。
- 一部の理事による不適切な業務執行に対し、社員総会や監事による抑止が効果的になされていない。
- 市民に公開している事業報告書や財務諸表の内容が不十分・不正確である。
- 個人情報保護の意識が高まる中、役員や社員の住所等の公開については一定の配慮を求める声が多い。
- 認証の基準や申請手続きについて、地方公共団体等から緩和や簡素化の提案が出されている。
- 所轄庁間における判断基準の差異や、裁量による行き過ぎた指導などが見られるとの指摘がある。
- 営利目的と見られる活動や詐欺などの違法行為を行う法人が一部に見られるなど、法人制度自体の信頼を損なう事例も現れている。
- 公益法人制度改革に伴い、大きく変わることとなった非営利法人の制度体系の中で、特定非営利活動法人制度のあり方が課題となっている。
このような背景から、報告(案)では、「本制度の見直しが求められている」と結論づけている。
「中間報告(案)」では、以下の点を踏まえた制度の検討を行うことが提案されている。
- 法の目的や制度趣旨を再確認し、市民の自由な社会貢献活動をさらに促進するという観点から進めることが重要。
- 活動に参加する市民の意見が法人の業務運営に一層反映されるよう組織管理のあり方を見直す必要。
- 自由な市民活動を行う団体にとってより利用しやすい制度となるよう、認証の基準や申請手続きの見直しや所轄庁の法運用のあり方等について検討をすることが重要。
その上で、制度の見直しについての「基本的視点」を次のように指摘している。
「この見直しにおいて、特定非営利活動法人に対する行政の関与を抑制し、できる限り柔軟な業務運営を確保しつつ、社員総会や監事の権能等を等して法人の自律性を高めるとともに、情報公開をより一層促進することで、社会において健全な市民活動が促進される基盤を形成することが必要である。」
具体的には、以下のような施策の検討が提案されている。
- 社員(正会員)の、社員総会において法人の活動に関する提案や意見を述べる機会の確保方策等。
- 理事や監事の適切な選任や解任の方法についての規定の整備。
- 代表理事とそれ以外の理事との区別について、登記することで第三者に対し明確にできるようにする。
- 監事を登記事項に加える。
- 特定非営利活動法人とその役員又は役員が関連する企業、団体等との取引がある場合に、社員総会への報告や情報開示を行う。
- 所轄庁が行う情報公開のインターネットの活用。
- 法人の事務所における定款・社員名簿等の備え置きや、役員変更時の役員名簿の更新、設立当初の事業年度が終了するまでの間における閲覧等の整備。
- 上記の閲覧者による閲覧書類の謄写の請求については、認める。
- 所轄庁における情報公開については、役員及び社員の住所に関する公開について配慮が必要。
- 会計基準の策定が適当。
- 計算書類については、財産目録や収支計算書など、現行の計算書類の見直し。
- 各所轄庁は、法の運用の透明性を高め、恣意的判断を抑制する趣旨から、法運用の方針を自主的に策定し公開することが適当。
- 所轄庁間で法運用の大きな差異が生じた場合は、所轄庁間で自発的に意見交換を行い、調整を図ることが適当。
- 社員が10人以上必要という認証基準を5人程度に緩和することも検討。
- 残余財産の帰属先を国立大学や独立行政法人に拡大する。
- 定款変更について、認証をやめ届け出だけで変更できるようにする。
- 申請書類を申請期間中に修正できるようにする。
- 現行の2ヶ月の縦覧期間の短縮は適切ではない。
- 解散の場合の、清算に係る公告を官報により3回以上行うこととされている規定の改善。
- 電子公告に関する規定の整備。
- 改善命令や認証の取り消し等、実施した監督措置について、所轄庁は広く公表することが適当。
- 正当な理由なく一定期間以上事業を休止している場合などについては、相応の監督措置を検討。
- 認証後に登記しない団体に対しての、過料や認証の効力を失わせる規定を整備。
- 虚偽の内容に対する申請に対する罰則規定の規定の整備。
- 違法行為等が明かになった場合は、情報をできる限り開示することが重要。
また、認証の基準の見直しとして、下記のような提案が寄せられたことも盛り込まれている。
- 役員報酬に係る制限に関し、報酬を受ける役員数ではなく、報酬額に関する基準に変更
- その他事業からの収益の使途に係る制限の緩和
- 縦覧期間の短縮化(例えば2ヶ月→1ヶ月)
さらに、「見直しの基本的視点」では、「特定非営利活動促進法」という名称についても、「特定非営利活動法人制度の独自性を踏まえ、例えば、特定非営利活動法人の活動が市民参加を基本とした社会貢献活動であることをできるだけ分かりやすく表す名称のあり方なども含め検討することも考えられる。」と、している。
委員会の議論では、委員から、新しい法律名称について、市民参加を基本としたNPO法人の性格をより明確にするために、「市民活動」などの語を入れてはどうかといった意見が出たとのこと。具体的な「市民活動促進法」という名称案も話題にのぼったという。
この「中間報告(案)」について、シーズの松原事務局長は、以下のように述べている。
「NPO法は立法していく時に、不完全でもいいからともかく法律をつくって、使いながら、どんどん良くしていったらいい、ということで作られた法律だ。その点で、法律を積極的に改善していくということには賛成だ。ただ、立法も、市民側と国会議員が議論してつくっていったという市民&議員立法という形式で行われた。政府が法律改正をリードしていくのは望ましい姿とは言えない。政府は、法律改正のための基本的情報の整理・公開が役割だと自制すべきである。
最近、所轄庁によっては、法律に基づかない行き過ぎた指導を行ったり、監督基準を作成する例が出てきている。法改正の議論の中で、NPO法の立法趣旨を再度確認することが重要である。その点で、今回、中間報告(案)で、『制度の見直しは、法の目的や制定趣旨を再確認し、市民の自由な社会貢献活動をさらに促進するという観点から進めることが重要』と確認されていることは歓迎する。行政関与を排除し、自主的で自由な活動を展開する上で使いやすくしていく、という視点がもっとも大切である。
検討されている改正の具体的事項については、この趣旨から評価できるものと逆方向ではないかと思えるものがあるが、これを契機に市民側で議論が高まることが重要だ。
法律の名称は、もともと『市民活動促進法』として国会に提出されたが、当時の政治状況で『特定非営利活動促進法』と名称変更されて成立した経緯がある。制度趣旨は、市民活動を促進する法律であるし、今では、当時とは違い『市民活動』という言葉に対する理解もずいぶん違ってきている。ぜひ『市民活動促進法』に戻ることを期待したい。ただ、『NPO法』や『NPO法人』という名称も広く認知されているのだから、この略称はそのまま使っていけばいいのではないか。NPO法=市民活動促進法となればいいと思う。」
「国民生活審議会総合企画部会NPO法人制度検討委員会」では、8月中に「中間報告」を策定する予定。
これまでの同検討委員会における議事の要旨、議事録、配布資料などは、内閣府サイト内、下記を参照のこと。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kikaku/20th/npo/