行政 : 改正信託法成立、目的信託が可能に
12月8日、信託法改正案が参院本会議で可決、成立した。改正信託法には、あらたに「目的信託」制度が盛り込まれ、NPOにとっては、「自然災害被災者の救済ボランティア支援」などで設定された「目的信託」によって、信託の受益者となる道が広がる。
信託制度とは、企業や個人などの「委託者」が自己の財産を「信託財産」として、信託銀行などの「受託者」に引渡し、受託者が一定の目的に従って、投資家や個人などの「受益者」のために財産の管理・運用・処分をする仕組み。
「信託」では、財産の所有権が受託者に移るため、機動的な財産処分ができる。信託の定義やルールは「信託法」で、信託事業者規制は「信託業法」で規定されている。
「信託法」が制定されたのは大正11年、制定以来、一度も実質的な改正がなされていなかったため、社会・経済活動の多様化や高度化に即した抜本的改正の必要性が生じていた。
12月8日、信託法改正案が参院本会議で可決、成立し、84年ぶりの全面改正が実現した。
改正信託法には、「事業信託」、「自分信託(信託宣言)」、「目的信託」の新しい3つの信託制度が盛り込まれた。
「事業信託」では、信託の対象を負債まで広げることで、事業を丸ごと信託できるようになった。これによって、新製品の開発などリスクのある事業部門を信託して、受益権を投資家に売ることで資金調達ができるようになる。
「自己信託(信託宣言)」では、自分が自分に信託することで信託銀行に委託していた業務を自前でできるため信託費用の削減になる。これにより、企業は自社に信託した受益権を投資家に販売して資金調達ができる。また、企業再生の過程で事業部門を一時的に自社に信託し、再生後に契約を解消して本体事業として復活する手法も可能になり、必要な許認可を失わずにすむことや雇用関係を継続させることができるというメリットも生まれる。
NPOにとって、もっとも期待がかかるのが「目的信託」の創設。
改正前の信託法では、信託の利益を受ける者を指定しない信託は、自然保護など「公益」を目的とする「公益信託」のみが有効とされ、「慈善・学術・技芸・祭祀(さいし)・宗教などの公益を目的」とし、主務官庁が存立を許可するものに限られていた。
しかし、今般、「目的信託」が創設され、「公益信託」でなくても、財産の大まかな活用方法を決めて信託して誰に渡すかは信託会社などの「受託者」に任せることができるようになった。
例えば、アート好きの人が、「自分の財産を地域の画家の育成に充てたい」という目的をもって信託会社に委託をし、信託会社はその財産を具体的に誰とは定めずに、未来の画家の育成のために使うといった信託が可能になる。
NPOにとっても、「自然災害被災者の救済ボランティア支援」などで設定された「目的信託」によって、信託の受益者となる道が広がる。
改正法は公布から1年6カ月以内に施行されるが、自己信託については、企業が、利益の出ている事業部門を自己信託して赤字決算に見せかけ、課税逃れを図るのではないかといった懸念も指摘されるため、自己信託は施行後1年間、凍結。その間に会計上の措置を講じ、ルールを周知徹底するよう付帯決議で求められている。
なお、衆議院の附帯決議では、NPOや公益法人制度改革との関連で、以下の附帯決議が付されている。
二 来るべき超高齢化社会をより暮らしやすい社会とするため、高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託について、その担い手として弁護士、NPO等の参入の取扱い等を含め、幅広い観点から検討を行うこと。
五 公益信託制度については、公益法人と社会的に同様の機能を営むものであることにかんがみ、先行して行われた公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ、公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から、遅滞なく、所要の見直しを行うこと。
また、参議院での公益法人制度改革に関連する附帯決議は、下記。
五 公益信託制度については、公益法人と社会的に同様の機能を営むものであることにかんがみ、先行して行われた公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ、公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から、遅滞なく、所要の見直しを行うこと。