「市民セクター全国会議2002」報告
2002年9月7日(土)、8日(日)の2日間にわたって、市民セクター全国会議が東京都内で開催された。この会議は、日本NPOセンターが中心となって今年から開催、中・長期的な視点から日本社会におけるNPOの役割を問い直そうというもの。今回は「NPOの社会的ポジションの確立」というテーマが設定され、このテーマに沿った5つのセミナーごとに全国から集まったNPO関係者が活発な議論をかわした。
5つのセミナーのなかのひとつ「市民セクターを育てる制度の確立」の中の「認定NPO法人の認定基準をどう緩和するのか?」をシーズの事務局長・松原明と、日本国際ボランティアセンターで会計をしていた石丸敏子氏が担当。松原は、石丸氏の実際に認定申請をしようとした苦労をうかがったうえでの報告となった。
このセミナーは5人の報告者で構成。1日目の午後はジャーナリストの小川明雄氏が「アメリカと日本の立法過程の比較」を、2日目の午前に石丸氏と松原が、午後には「公益法人制度をどのように改革するのか?」というテーマで、松蔭女子大学教授の雨宮孝子氏と内閣官房行政改革推進事務局の長屋聡氏がそれぞれ報告した。セミナーの概要は以下のとおり。
9月7日(土)午後「アメリカと日本の立法過程の比較」
小川氏は、日本の法律のほとんどが官僚によってつくられた閣法である一方、米国では議員立法が中心であることを指摘した。法律のなかには総括的なものしかいれず、細則については政省令や通達に譲り、官僚の裁量を大きくしようとする閣法に比べ、議員立法では細則まで法律に書ききることができ、官僚に裁量という権力を与えない利点を強調。日本でももっと議員立法が増えるべきであるし、増やすためには、税に関する意識の低い市民の意識改革が必要であると訴えた。
9月8日(日)午前「認定NPO法人の認定基準をどう緩和するのか?」
日本国際ボランティアセンター(以下「JVC」)に勤務していた石丸氏は、会計担当者としてJVCが認定NPO法人の申請へと動き出した当初から関与、非常に苦労された話を下記のように具体的な事例を交えて語った。
「JVCが申請を検討しはじめたきっかけは、認定NPO法人になることにより新しい寄附者が発掘できるのではないかと考えたからであった。また、相続税が免除になるため、個人からの遺贈を受けやすくなることも大きな魅力だ。
認定NPO法人になるには、過去2事業年度のそれぞれの年について厳しい認定要件をクリアしておかねばならない。JVCには膨大な寄附者のリストが存在するが、この寄附者すべてをパブリックサポートテストに算入してよいわけではなく、3000円未満の少額寄附者を区分けしたり、匿名の寄附を除外したりしなくてはならない。加えて親族要件や基準限度額などがあるため、パソコンでの管理が欠かせない。しかし、この整理に予想以上に時間がかかり、通常の勤務以上に毎日2~3時間程度の残業をしなければならなかった。
パソコンでの管理には意外な落とし穴がある。JVCでは寄附者の管理ソフトとしてアクセス95を使用しているが、今後95のままで大丈夫なのか不安を抱えている。バージョンアップの関係で移行作業が必要となるとそれだけで事務量が並大抵なものではなくなってしまう。それに、高度なパソコンのスキルをもっている人をNPOのような組織で恒常的に雇っていられるかどうかも常に不安要因である。
申請の準備は着々と進んでいたが、ここへきて申請に対して慎重な意見が台頭してきた。それは、20万円以上の寄附者の名簿が公開されることについてであった。もし、認定を受けることができたとしても、寄附をしてくださる方に、「あなたの氏名、住所が公開されるかもしれません」などという告知をしなければならないのであろうか。そうすると、寄附をしてくださる方の気持ち自体をそいでしまうのではないか。また、公開されたら名簿業者の餌食になるのでは、という意見も根強い。名前の公表がいやなら匿名の寄附として受けることはできるが、匿名の寄附ならパブリックサポートテストに算入できない。さらに、20万円以下の寄附であっても、名簿自体は国税当局に提出されるので、そのこと自体、不安を抱く人が多いのも事実。申請しようとするといろいろな問題がでて、申請を見合さざるを得ない状況が続いている。
今後、名簿の件などについて理事会で了承がとれれば申請に動くかもしれない。支援税制改正の動きに注目していきたい。」
石丸氏の話を受けて、松原は、現在の認定NPO法人制度をよりNPOの実態にあわせたものとするには、どのように改正するべきなのか、また、この制度をどう設計するかが、今後どのようなNPOを支援していきたいのか示す重要なファクターとなることに力点を置いて下記のように話した。
「シーズでは、6月末にNPO支援税制改正のためのアンケート調査を開始、8月に回収したものを分析中である。そのなかでもやはり、寄附金の総収入に占める割合を3割以上必要としているパブリックサポートテストの改正を求める声が多い。申請書類が多く煩雑であることを問題とする意見も多かった。このような実態に対し、政府も重い腰をあげ改正作業にとりかかっていると聞いている。認定要件のどこをどう変えたら、認定を受けられるNPOが増えるのかという視点で動いているのが彼らだ。しかし、争点は同じであるとしても、「公益」を市民側からどのようにつくっていくのか、という視点で議論する必要がある。
そもそも、認定NPO法人制度を米国の制度を参考に導入されたときに、まったく理念なく導入されたことが失敗だったといえる。米国は、「公益的な資金によって支えられている団体は公益団体である」という理念で制度設計されているのに対し、日本は「どう管理するのか」という視点でつくられた。
例えば、日本の場合、本来事業による収入は総収入に算入しなくてはならないが、アメリカは算入しなくともよい。日本式では事業型のNPOは認定を受けることができない。3000円未満の少額の寄附がカウントできないのも、「管理できないから」という視点による。匿名の寄附金も「誰からきたか分からないお金はダメ」という。それなら、NPOがよくやる街頭募金はすべてカウントできない事態となる。政府からの補助金については、分母にも分子にも算入しないことになっている。補助金はたくさんもらってもOKということだ。一方、広く薄く寄附金を集めていることが必要という目的から導入されている基準限度額(一者からの寄附金については受入寄附金総額の2%しか分子に算入できないというもの)があるために、先駆的な活動を支援しようという助成財団からの助成金もこの制限以上は算入できない。
さらに、統計的に1~2人のスタッフでやりくりしているNPOにとって、煩雑で複雑な事務書類をつくることは大きな負担となる。英国では、法人格の有無にかかわらず、同様の優遇措置を付与しているが、それは、事務量を増やすことよりも、活動に力をいれてほしいという理念がこめられているからだ。米国も、団体の規模によって、申請書類の量に差をつけている。日本の場合は、優遇措置を与えるから事務が多少煩雑になっても仕方ないだろうという姿勢なのだ。
認定NPO法人制度をどうつくるかは、我々の構想力にかかっている。NPOの活動を活発化させるために政府とちがう公益をどうつくるか。政府と協力していく場面もあるだろうが、何かあったときには袂を分かつことのできる、自主財源を民間でどう確保するのか、という問題なのだ。
そのためにも、認定NPO法人制度は、こういう団体が認定を受けられなければおかしいという視点から設計していくべきだ。日本の福祉の発展の歴史を見れば、地域要件は撤廃すべきであるし、助成財団は、先駆的な活動を見いだし、社会を豊かにするための活動をしているのであるから、助成金は全額算入できるようにしてなんら問題ない。3000円未満の寄附を除外する理由もない。問題は多元性を確保すること。多くの人の意思を反映できる仕組みづくりが求められているのだ。
さらに、申請書類についても、ただ単に脱税防止など管理の視点から課されている過大な義務から、支援してくれる人に対してどうアカウンタビリティを発揮するのかという方向で再検討する必要がある。
市民が公益活動をどうつくっていくのか、今回の税制改正が試金石となるだろう。」
9月8日(日)午後「公益法人制度をどのように改革するのか?~その構想と実現の課題~」
2日目の午後は、内閣官房行政改革推進本部事務局が8月2日に発表し、パブリックコメントを求めている「公益法人制度の抜本的改革に向けて(論点整理)」について担当部署の長屋氏が説明。その後、この論点整理に対し、松蔭女子大学の雨宮氏が意見を述べるかたちで進められた。
雨宮氏は、「非営利法人制度の改革が動き出したことは、遅きに失する感じがするが当然である」と評価したうえで、この改革は単なる行政改革や天下りの防止の視点から行うのではなく、民間公益活動を促進させるという視点から進められるべきであると厳しく注文をつけた。そのためにも、慎重に国民の意見を聞き、議論を深め、拙速な結論は避けるべきであると話した。会場からも、識者の意見を並べただけのものにパブリックコメントを集めても、それを今後どう活かすかについては不透明であるなど、厳しい意見が相次いだ。そもそも100年続いた公益法人制度の改革を行政改革の一環として取り組む政府の場当たり的な態度自体に無理があり、市民からの提案を待つべきであるという意見もあった。
雨宮氏は自身が書いたパブリックコメント内で、法人設立を簡易にすることや、法人が問題をおこした場合の責任のとり方を明らかにすること、民間公益活動に活力を与える税制優遇制度の導入などを提案、担当官は終始神妙な面持ちで議論を聞いており、「いただいたパブリックコメントに関しては要約のうえで公表する」と話した。
文責:安部嘉江
2002.10.18