「NPOの時代に助成財団が果たす役割は何か?」シンポジウム報告
NPO支援財団税制研究会の主催する表記のシンポジウムが、2002年3月5日午後1時30分から5時まで、東京都千代田区の主婦会館にて開催された。(シーズは後援団体)。
会場には、財団、NPO、企業などから約160名の参加者が集い、150人定員の開場は立ち見状態となった。財団の果たす役割についての関心の高さを伺わせた。
主催のNPO支援財団税制研究会とは、NPO活動を支援する財団の財政強化のために、どのような施策(主に税制)が必要か、また、財団のプログラムは今後どうあるべきか、財団と企業の関係はどうあるべきかなどを検討するために、財団関係者とNPOの有志で立ち上げた研究会。
このシンポジウムは、助成財団の現状、果たすべき社会的役割、またどのような新しい試みが始まっているかについて、助成財団、企業、学者、NPOの立場から検討し、今後の助成財団の目指すべき方向性や制度のあり方を検討することを目的に開催されたもの。
プログラムは、第一部が基調講演、第二部がシンポジウムという構成で進められた。
総合司会は、(社)経済団体連合会の長沢恵美子氏。
シンポジウムの概要は以下の通り。
まず、開会に先立ち、石崎登氏(三菱財団常務理事)が「NPOの果たす役割への期待は今後一層高まると思われるが、さまざまな課題も抱えており、その最大のものは活動資金である。助成財団税制研究会には、財団、企業、学識経験者、NPOから関係者が集い、約1年にわたって、NPO支援におけるさまざまな問題を研究してきた。今日は、参加者の皆さんと相互理解を深められれば嬉しい」と開会の挨拶をした。
■第一部 問題提起「助成財団を取り巻く環境と新しい課題」
第一部では、山岡義典氏(日本NPOセンター常務理事)が、以下のような講演(要旨)を行った。
「日本の助成財団は冬の時代を迎えている。金利の低下、不況による新財団の設立減少、NPOの台頭とそこでの資金需要の増加、主務官庁の監督と『寄附行為』による縛り、企業本体による直接のNPO支援拡大などである。こうした社会背景により、従来からの社会的認識の低さに加えて財団の重要性への疑問が呈されるようになってきている。
一方でNPOは、助成財団を単にお金をくれる組織、としか捉えていない。財団の助成金は、NPOにとっては、一時的な資金で通常経費を賄うものではないこと、立ち上がりや新しい展開のために活用するものであること、現在よりは未来の要請に応えることのできる財源であることを知るべきだ。
助成財団の特徴は、企業と比較すると、助成プログラムに継続性・安定性があり、長期的に実施する組織であること、また企業の価値観からは自由であり、独自に専門性を高めることが可能であることがあげられる。また、行政と比較した場合には、地域を超えた視点で地域を越えた課題に対応でき、かつ行政の価値観に縛られることなく、専門性を高めていけるということがある。
助成財団は、今こそ時代のツボを押さえた専門性のある助成プログラムを開発し、総体としてNPOへの助成金額をどう増やすかを考え、また助成財団の活動資金を得ていくために、自らに関する税制改革についても積極的に取り組む時である。」
第一部が終了したところで、司会の長沢氏は、「企業の社会貢献を促進する立場だが、山岡氏の『未来への投資』という言葉は企業の社会貢献にとってもキーワードだった。しかし、企業は人が変わるため、専門性が蓄積できず、また企業の価値観に捉われて限界がでてきてしまった。よって、企業は、これまで関わってこようとした市民社会の実現に、財団にも加わって欲しいという思いがある」とコメントした。
■第二部 シンポジウム「NPOの時代における助成財団の役割」
第二部では、約2時間半にわたり、学者、財団関係者、企業の立場から、4人のパネリストが意見交換を行った。コーディネーターは松原明(シーズ事務局長)が務めた。
以下は、各パネリストの発言から一部を抜粋したものである。
雨宮 孝子氏(松蔭女子大学教授)
「米国と違うのは、日本の助成財団はほとんどが企業財団であり、経済と密着している。日本企業は、経済状態が良いと財団法人、悪くなると社団法人を設立してきたが、現在は両方とも減少してきている。財団は、設立時の寄附行為に縛られるため、時代や社会の変化に対応できないという問題があるが、寄附行為の目的はもっと柔軟に解釈できるものだろう。助成財団関係者のなかには、寄附行為の目的と主務官庁の指導に縛られ、失敗しないことだけを目指している人もいるが、もっと事業の活性化を図るべきである」
黒川 千万喜氏(財団法人 トヨタ財団常務理事)
「トヨタ財団も、当初は研究者に対する助成が多かったが、それでは十分ではないと考え、今では大学に閉じこもった研究よりもNPOとの共同研究などを歓迎する方向である。市民活動助成に関する応募は、99年から倍増し、今年は600件を超えた。助成件数は30件にまで増やしたが、なかなか応えきれない状況だ。なお、公募によるプログラムとは別に、非公募の事業にもこれまで7件の助成をしている。どれも極めて専門性の高いNPOで、社会性や時代の変化を考慮した事業だ。なお、米国では、助成先はプログラムオフィサーと内部で決定するのが普通。応募を待つ姿勢ではなく、出かけていってでも助成を行ったりしている。」
田中 皓氏(財団法人 安田火災記念財団専務理事)
「企業財団の特色は、企業から寄附を受けて設立し、企業との関係は断ち切れないものの、独立した組織であること。安田火災記念財団では、平成11年から毎年100のNPOに対して法人設立支援の助成を行っている。また、NPO法人設立・運営の手引きも作成配布して、実質的なNPO支援を行ってきた。21世紀は、NPOが、日本の発展に寄与するものと考えている。そのNPO活動の発展を支え、世の中のニーズに応えていく意味で、各財団はそれぞれの分野で可能なNPO支援に目を向けていく時期ではないか。」
加藤 種男氏(アサヒビール株式会社 環境社会貢献部副理事)
「助成財団の選考委員会が機能しなくなっている。選考委員は、応募者のライバルか師弟関係であることが多く、そこにある種の利権と癒着が発生しやすい。この解決のためには、選考委員は任期制にして再任できないようにしたり、次の選考委員候補の申し送りをできないようにするなどの工夫が必要。また、芸術分野の助成なら、選考委員には芸術家ではなく、芸術をプロデュースする人、雑誌や新聞社の人で芸術に詳しい人など、人を発掘して喜びを感じる人を選ぶべきだ。日本の財団のなかでプログラムオフィサーを持っている財団は極めて少数だが、良いプログラムを作るには大事な職制である。どうしても選考委員会でということなら、ある程度プログラムオフィサーが絞り込んだ上で、選考するというのでも良いのではないか。」
また、シンポジウムの途中、会場からキリン福祉財団常務理事の金沢俊弘氏が「財団は、自分の顧客が誰であるか理解しておらず、ライバル感覚もない。また、柔軟性に欠けるなど、寄附者としてのおごりがあるのではないか。単に寄附するのではなく、財団もいっしょに事業を作っていくことで事業評価できるようにすることも大事である。キリン福祉財団では、京都の大学と福祉NPOとともに、ボランティアコーディネーターを養成するプログラムをケーススタディとして実施している。」と発言した。
三菱財団の石崎氏は、パネリストの意見に付け加える形で、「先ほど選考委員会の問題について話が出た。三菱財団では世界が注目しているので大変真剣に選考を行っている。例えば、選考委員に就任した人は、直接の部下には任期中の5年間は応募をあきらめて欲しいと言っているし、任期が終わる時も、次の委員を指名したりすることはない。さまざまな選考委員会の形があるだろうが、三菱財団については誤解がないように願う。」とコメントした。
第二部の後半では、会場からのいくつかの質問にパネリストが答えた。
ある福祉団体の参加者は、「財団の方は、先駆的な人を発掘して育てるのも仕事というが、NPOはノーベル賞も金メダルも目指しておらず、地域の100人のおばさんが頑張って仕事を進めている。NPOに対する期待がずれているのではないか?」と質問した。
これに対してトヨタ財団の黒川氏は「助成財団が提供できる資金には限りがあるが、それでも世の中に大きなインパクトを与えたいと思っている。NPOもそこのところは理解して提案を出してくれるように期待します。」と答えた。また、安田火災記念財団の田中氏は「NPOの活動が国を動かす、というところがかけはなれて聞こえたかもしれないが、そうではない。将来のビジョンを持って気概をもっていただきたい。」と答え、アサヒビール株式会社の加藤氏も「生活のなかで、やむにやまれずやっていることも先駆的といえる。100人のおばさんが先駆性がないというのは間違いだ。何も少数の優秀な人たちだけを育てようというのではない。」と答えた。
また、ある国際交流団体の参加者からは、「NPOには先見性、先駆性が大事だというが、助成財団は主務官庁からの監督が厳しく、なかなか新しいことには助成できないのではないか。失敗が許されないのなら、安定したところにばかり助成してしまうのではないか?」という質問があった。
これに対してアサヒビール株式会社の加藤氏は「私はプログラムには失敗はないと考えている。失敗してもどうしてそうなったかを学べば、それは成功である。」と答えた。
最後に、コーディネーターの松原が「助成財団もミッションを持った団体で、広い意味のNPOの仲間である。ただ、他のNPOを通してミッションを達成していこうとする組織である。そう考えるとお互いパートナーだ。助成財団も財政的に苦しい状況にある。民が民を支えるしくみをきちんと考えていく必要があり、その仕組みの中では助成財団が果たす役割は大きい。それは非営利セクター全体の課題である」とコメントし、シンポジウムは終了した。
会の最後には、安田火災記念財団顧問の堀内生太郎氏が、「赤い羽根の共同募金は昭和22年に始まり、当時5億6千万円の寄附を集めている。その後の物価上昇や経済成長などを考えると、今なら兆単位の寄付ではないか。日本には寄附の思想がないと言われるが、必要があれば日本人も寄附をするということだ。もし、寄附金税制の仕組みが整備され、NPOの活動が社会的にもっと認められるようになると寄附金は何倍、何十倍にもなるだろう。このNPO支援財団税制研究会の活動への意見もぜひ寄せて欲しい。」と挨拶して締めくくった。
(2002-03-25)