シンポジウム「政府とNGOの健全な関係とは?」
2002年5月27日、国際交流基金国際会議場 アーク森ビルにて午後1時より、表記のシンポジウムが開催された。主催はアジア財団、CSO連絡会、国際交流基金日米センター。シンポジウムは、基調講演と2回のパネル・ディスカッションで構成。4時間にわたる長丁場のものであったが、会場を埋め尽くした参加者から次々と質問がだされ、タイムリーな企画だけに、このテーマに対する関心の高さをうかがわせた。
このシンポジウムは、NGOに対する関心が急速に高まっている一方で、国際会議へのNGO参加拒否問題などが起きていることを背景に、NGOと政府はどのような関係を構築していく必要があるのか、米、欧のNGO関係者、さらには、外務省職員や議員を交えて議論しようというもの。
シーズ事務局長の松原明は第2部の「非営利セクターを育てるために政府のなすべきこと」で発言。政府のNGO理解がまだ浅く、多元的な価値を実現するNGOを、単なるサービスの供給者としか見ていないことに警告を発し、市民のニーズを中心に据えず、NGOをどう援助するかということに終始しがちだった会場の議論に、一石を投じた。
以下にシンポジウムの要旨を報告する。
基調講演では、ピース・ウィンズ・ジャパン統括責任者の大西健丞氏が「政府とNGOの健全な関係」について報告した。
このなかで大西氏は、イラク北部でのクルド人自治区における難民支援活動から、欧米のNGOと日本のNGOの実力の差を痛感し、その後、ジャパン・プラットホームを設立した経緯を説明。NGOと政府が1対1で話しあえば、圧倒的に政府が強かった状況から、経済界、メディア、財団など各セクターが対等な立場で議論する場を設けたことで、NGOにとって有利なカウンターバランスが生まれたと話した。いわば、ジャパン・プラットホームとは、国際的活動をするNGOが現場で責任ある事業体として活動するための社会的インフラづくりであったとした。
また、1月のNGO参加拒否問題については、大正時代の第1次結社革命のときに生まれ、疲弊した政党システムと、第2次結社革命の申し子といわれるNGOとが衝突したのであるとして、ある意味必然であったのではないかと指摘した。
講演のなかでは、政府がすべての公益を担う存在ではなく、市民セクターにパワーシフトがおこっている現状を説明した、ハーバード大のジョセフ・ナイ教授の論文を引用し、その論文のタイトルが「In Government, We Don’t Trust(お上は信用しない)」であることを紹介して会場を沸かせる場面もあった。
パネルディスカッション1では、「国際協力の分野におけるNGOと政府の関係」について議論された。
ここでは、アンドリュー・ホルバート氏(アジア財団駐日代表)の司会のもとで、以下のパネリスト(敬称略)が発言した。
- 大西健丞(ピース・ウィンズ・ジャパン統括責任者・常務理事)
- 池上清子(CSO連絡会共同代表、ジョイセフ企画開発事業部長)
- ウィリアム・シングルトン(GLOBE International最高経営責任者)
- マリオレーン・ブルーヴェル(Novib人権政策支援事務局シニア・アドバイザー)
- 小畑正比呂(外務省経済協力局民間支援室長)
各パネリストの発言の要旨は以下のとおり。
大西健丞氏(ピース・ウィンズ・ジャパン統括責任者・常務理事)
プラクティカルな話をすると、国家はスピーディな対応するには不向きである。効率的に動けるのはNGO。突発的な国際紛争がおこったときには、初動にまとまった資金が必要だ。それを前もって寄付を集めておくとか、寄付が集まるのを待って動く、ということは実際的ではない。政府のファンドが、とりわけ国際的NGOには必要である。
池上清子氏(CSO連絡会共同代表、ジョイセフ企画開発事業部長)
この3月に最終報告がだされた「第2次ODA改革懇談会」の委員を務めた。審議の段階から議事録のサマリー部分が外務省ホームページ上に公開され、「透明性の確保」を大切にしていた。最終報告書では、国民各層で構成する「ODA総合戦略会議」が外相のもとに常設されることになった。NGOにとって、独自性を保ちながらODAとどのように連携していくか、計画段階から関与していくことが大切であるし、複数のNGOがコンソーシアムとして活動する場合には、それぞれの比較優位を生かし、アカウンタビリティを上げていくことが大事だ。また、この懇談会の委員には、NGO関係者が私以外にもはいっており、政策決定プロセスにNGOが参加しはじめている。法人格をもたないNGOにも門戸を開こうという動きが外務省内部にはある。このような動きを歓迎したい。
ウィリアム・シングルトン氏(GLOBE International最高経営責任者)
1961年にアメリカで成立した海外援助法について述べたい。この法律では、海外の貧しい農村を支援するなどの活動は、企業が行うよりも、NGOが行う方が効果が高いとし、政府の役割はODAをそのようなNGOに供給するなど、公的資金の提供であるとしている。NGOは人材やノウハウを提供する主体であるとして、政府との役割分担を明確化した法律ともいえる。また、援助を実施する場合、政府資金だけでなく、民間資金を拠出することを原則とすることで、民間側の自治、独立も確保されるシステムとなっている。一方で、セーフティネットとして、契約書に厳正なるプロジェクトの進捗状況や会計報告をNGO側に課している。もし、このような救援活動を企業に執行させた場合には、契約期間が終わり資金が途切れたとき、業務から撤退してしまうであろう。このような理由から、政府はNGOを重要なパートナーと考えている。
マリオレーン・ブルーヴェル氏(Novib人権政策支援事務局シニア・アドバイザー)
Nobivはオランダで一番大きなNGOで、公的資金を受けることのできる5つのNGOのうちのひとつ。収入の70%は政府からのものであるが、詳しい年次報告書を作成している。また、政府の高官とのミーティングを月に1度開催している。我々のミッションは貧しい国と富める国との格差の解消であり、このミッションを達成するため、途上国援助を大切にするとともに、アドボカシーにも力をいれている。オランダ政府のNGOへの援助額はODAの14%を占めており、日本もこの率をあげていくべきなのではないか。
小畑正比呂氏(外務省経済協力局民間支援室長)
信用できない政府からの出席です。いじめられることは覚悟してきた。みな、政府とNGOは対立関係にあるようにいうが、我々は、NGOを大切なパートナーと思っている。財政状況が厳しいなかで、NGO支援予算は伸びており、今年度は56億にのぼる。前年度比40%増である。また、今年度は、NGOから要望の高かった人件費等管理費への援助も一部認められることになった。ODA改革の柱のなかにもNGOとの連携を重視することをいれており、官と民が協力すると同時に、相互に「切磋琢磨」していく方針だ。そのためには、NGOを支援することと同時にNGOに対しては、体制・能力の強化、適格性、透明性の確保のための一層の主体的な努力を求めていく。日本のODAの額がまだ少ないというが、歴史の浅い日本のNGOと欧米のNGOを同列に論じるべきではない。この額が飛躍的にのびたとしても、適正にハンドルできる団体がどれくらいいるかは疑問視せざるを得ない。これから徐々に増額していけばいいと考える。
パネルディスカッション2では、「非営利セクターを育てるだめに政府のなすべきこと」について議論された。
ここでは、今田克司氏(CSO連絡会事務局長、日米コミュニティ・エクスチェンジ代表)の司会のもとで、以下のパネリスト(敬称略)が発言した。
- バーネット・バロン(アジア財団エグゼクティブ・バイス・プレジデント)
- マリオレーン・ブルーヴェル氏(Novib 人権政策支援事務局シニア・アドバイザー)
- 松原明(シーズ事務局長)
- 塩崎恭久(衆議院議員)
各パネリストの発言の要旨は以下のとおり。
バーネット・バロン氏(アジア財団エグゼクティブ・バイス・プレジデント)
日本の方々は、欧米ではキリスト教の精神からNPOに対する寄付が根付いているということをよくいうが、それは間違っている。「政府の役割に対する考え方がちがう」から、市民は当然のようにNPOに対して寄付をするのだ。私は、政府のなすべき役割は次の7つであると考えている。
- NPOセクターが簡単に法人化し登録できるようにすること
- 規制は単純化し、行政指導を減らすこと
- NPOへの監督を減らし、NPOの自治権を強化する法整備を行うこと
- 政府の競争入札などにNPOが参加できるよう、手続きを簡素化し、透明性を高めること
- NPOに対する優遇税制の実施
- 学校教育のなかでNPOへの理解を深めること
- 大学にNPOのコースを設けること
40年前の米国のNGOは日本と同じように小さかったが、ここまでの規模に成長したのは、必要なときに必要な資金がNGOに流れたからである。日本のある意味での不幸は、官僚システムがうまく機能しすぎたことでもあった。真の民主主義を実現するためには、これからは専門家にまかせておかず、自分たちで声をだしていくことが大切である。
マリオレーン・ブルーヴェル氏(Novib 人権政策支援事務局シニア・アドバイザー)
オランダにはCO-FINANCINGというシステムがある。政府からの援助を受けるときは、自分たちも資金を用意しなければならない、というものである。これにより、独立性が失われることなく事業を遂行できる。5つのNGOのみが政府からの資金を受けることができることに批判が高まった時期もあった。しかし、補助金のスキームを関係するすべての人々にオープンにすれば閉鎖的であるという批判はあたらないのではないか。昨年の3月に補助金を受けるための申請を新たに受け付けたが、結果は、従来の5団体に加え、1団体が応募しただけであった。このことは我々の立場が強化された出来事だと考える。
松原明(シーズ事務局長)
NPOを支える財源的なシステムができていないことが問題である。今まで述べられてきているような、官から民への資金の流れだけではなく、民間どうしの資金の供給システムが整えられていない。寄附税制は昨年できたが、まだまだ基準が厳しく、7000を超えるNPOのうち5法人にしか優遇税制は認められていない。完全な設計ミスである。このような状況下で、政府からの援助を増やすべきであるという議論に陥ってしまうことは問題である。政府からNGOに資金が流れる場合はその明確なルールづくりが必要だ。
政府は、NGO/NPOを単なるサービスの供給者としてしか見ておらず、企業とのちがいが分かっていない。パートナーシップといったとき、単なる外部委託が増えるだけの今の現状には危機感を感じている。NGO/NPOは多元的な価値を実現する主体である。NGO/NPOへ資金を流すときは、政府との二者関係だけで議論せず、その先に市民のニーズがあることを見落としてはならない。
また、NGO/NPO側にもきちんとしたアカウンタビリティを示していく努力をしていかなければ、政府の監督を呼び込むことになるだろう。
シーズでは、議論するプロセスを公開していくことで、国民的議論を深める戦略をとってきた。日本のNPOは、議会と関係をつくっていく力が弱いのではないかと思っている。補助金やNPO支援税制をどうしていくかは、当事者のNPOが細かな制度設計に関与していく必要性を強く感じる。
塩崎恭久氏(衆議院議員)
中国の大使館の応対などが問題になっているが、亡命者を受け入れるかどうか、などという問題は大使個人の判断ではなく、ガバメントパーティ(政権を握っている政党)が決めていく問題である。あらゆる意味で、日本の官僚システムは疲弊しており、日本を変えたいのであれば、システムを変えるしかないのではないかと思っている。これは過激なことをいっているのではなく、議院内閣制をとっている国ならどこでもやっていることをしなければならないということだ。つまり、首相の指導力を高めること。今までの事前承認制度はなくすことだ。また、議員は自分の情報源とアイデアをもつこと。大臣、役人ではないアドバイザーをたくさん持つ。そして、予備選挙などを導入して政治家の質をあげる。これらを実践して、もっと政治の求心力を高めることが必要であると考える。
NGOがどう働くかという問題も国の政治のしくみを考え直したうえで議論した方がよいであろう。今まで、役所/お上のすることがすなわち公益であったという図式ではなく、たとえば外交は、外務省も働くが、議員外交もあるし、NGOも働く、という多様なものとなるべきだ。NGOは国に取り込まれるのではなく、自分たちで考える公益をどんどんやって、それが本当に公益かどうかは市民が判断する、というパラダイムシフトを起こす必要がある。
報告:安部嘉江
2002.06.07