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2006年の報告

2007年08月29日 15:59

シンポジウム「NPOのアカウンタビリティとは何か」

【関連イベントのご紹介】
2009年3月31日東京・飯田橋にて、NPO法人の会計基準策定プロジェクトのキックオフイベントを開催します!
会計基準はNPO法人のアカウンタビリティ(説明責任)向上のためにも不可欠です。NPO法人の会計基準をみんなで創りましょう。
皆さまのご参加をお待ちしております!

詳細・お申し込みは、
NPO法人会計基準策定プロジェクト キックオフイベント
「NPO法人の会計基準をつくろう!~NPO法人の信頼性向上のために~」
をご覧ください!

【概要】

2005年12月20日、東京港区の日本財団会議室にて、シンポジウム「NPOのアカウンタビリティとは何か~NPO法人の会計・税務・事業報告をどう作るか~」(主催:シーズ=市民活動を支える制度をつくる会、助成:(財)笹川平和財団)が開催された。

このシンポジウムのコーディネーターはシーズ事務局長松原明が務め、パネリストには研究会の委員である赤塚和俊氏(公認会計士/税理士/NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク理事長)、江田寛氏(公認会計士/日本公認会計士協会非営利法人委員会専門委員)、黒田かをり氏(CSOネットワーク共同事業責任者)、杉田洋一氏(NPO法人難民を助ける会経理担当)、水口剛氏(高崎経済大学経済学部助教授)が登壇した。

シンポジウム会場には、NPOの会計に関心を寄せる127名の参加があり、会場は熱気に包まれた。

【問題意識と発表のポイント】

シンポジウム冒頭、コーディネーターの松原がアカウンタビリティ研究会(第2期)をスタートするに至った経緯を説明。NPO法人のアカウンタビリティが十分果たせない状況が拡大していることや信頼性確保が大きな問題となっていること、所轄庁の指導強化の問題、2006年に国会に提出される予定の非営利法人法(仮称)によってNPO法人の制度に影響が考えられる点、寄付を今後促進していく上での会計や税制面での課題など、この研究会の問題意識が説明された。

今回のシンポジウムでは、NPO法人がいかにして信頼性を得るための外部報告を行えばよいのかについて、基本的な考え方から、具体的な会計報告や事業報告の手法に関する提言「NPO法人の外部報告に関する基本的考え方~NPO法人の会計・事業報告・税務会計作成基準への提言~」を発表した。

「NPO法人の外部報告に関する基本的考え方」のポイントは以下の通り。

  1. NPO法人の事業報告書の様式、会計基準、税制について検討していく時の前提となる考え方を示したもの。
  2. NPO法人を「資本的取引、贈与取引、損益取引の3タイプの取引を行う法人」として捉えた点。
  3. NPO法人の損益取引以外の資金・資源の性格を法人自身への贈与ではなく、信託的贈与を受託していると考えた点。
  4. 外部報告における責任を一般的な法人としての受託責任と贈与取引における使途が拘束された贈与への信託的責任に分けた点。
  5. NPO法人の活動・業績の報告責任は、どう資源を使ったかにあると考えた点。
  6. 事業報告書、会計報告書(会計基準)、税務申告(税制)に関して、NPO法人の資金・資源の性格から、その一貫した論理を求めた点。
  7. 会計報告書に標準型と簡易型を設けた点。

【ポイントの解説】

続いて、研究会のメンバーが提言のポイントをさらに専門的な見地から説明した。

江田氏は、非営利法人会計の専門的立場から、この提言のポイントについて説明した。

「この提言のポイントは、NPOは何を利用者に伝えたいのか、どういう組織で、どう報告したらいいのかという原点に立ち返って考えた点にある。NPOと企業がどう違うのかを考えたとき、たとえば震災の被災者を支援するNPOに、援助したい気持ちをもって寄付をする人は、被災者の役に立ちたいと思って寄付をする。それを受け取ったNPOは、その寄付者の思いを受けて届けるための活動を行う。これは企業の行う損益取引とは明確に異なる取引であり、このNPOに特徴的な取引を贈与取引と位置づけた。この贈与取引のうち、寄付の受入を「受贈(じゅぞう)」とし、寄付を対象に届けることを「出損(しゅつえん)」とした。

NPOの中には、毛布や食料を援助する活動をするところがある。寄付者は寄付をすれば当然に援助が届くと思っている。その場合の寄付は、NPOにとっては寄付を「預かった」と考えるのが的確で、このような条件付き寄付は、NPOの正味財産が増えていると考えるわけにはいかず、預かっているもの、すなわち「負債」なのだという考え方である。

NPOの会計を混乱させるかのようなご批判を受けるかもしれないが、NPOに特徴的な取引をどう表現し、会計に反映させたらNPOの活動をより正しく寄付者に伝えられるかという点に着目した提言である。」

水口氏は、この提言に基づき、具体的にどんな会計フォーマットをイメージするのか、活動計算書、指定寄付金等増減明細表、貸借対照表の例示を用いて説明した。

「研究会では、当初、小規模の法人でも対応できるものを提案したいと考えていたが、小規模法人であれば現在の収支計算書でも当面運営可能であり、大規模法人こそがアカウンタビリティを果たす役割が大きいことから、標準型を中心に議論が進められた。

活動計算書で、寄付付き商品販売は寄付該当分もいったん損益取引で計上し贈与取引に振替えるとしている。また当期に受け取った寄付金のうち未使用分は、貸借対照表の負債(指定寄付金)に振替えることとしている。始めて見るとちょっと抵抗感があるだろうが、企業の連結決算などを読むのと同じで慣れも必要な面もあるかと思う。

また、寄付として預かったお金がどう使われたか、どう取り扱うのかを示す必要のために、指定寄付金等増減明細表の例示をした。位置づけは付属明細書である。

貸借対照表の例示では、負債の部に流動負債、固定負債の他に、預かり寄付金を示したところがポイントである。」

赤塚氏は税理士の立場からみて、この提言の示すところの重要性や必要性について説明した。

「会計のことはゆっくり考えて議論していてもいいかもしれないが、税はそうもいかない。NPOの特徴的な収入の位置づけを行わなければ、NPO分野の税金の混乱が生じるし、現に混乱は広がっている。

1つ目は、NPO自身が料金をとる活動はすべて税法上の収益事業と勘違いすることもあることや、33業種の解釈が税務署によって異なる見解を示されるという混乱である。NPO法人が行う事業は原則非課税であるが、収益事業の33業種に限って課税される。しかし、ある法人では当然非課税のところ、ある法人では課税されるということが起きていて、租税法律主義を逸脱している実態がある。

2つ目は、赤字なら法人税はかからないが、住民税の均等割はかかるという配慮のなさである。もし3つの都道府県に事務所をおいていれば、たとえ事業が赤字であっても、年間21万円の住民税がかかる。こんなばかげた話はなく、NPOへの配慮が欲しい点である。消費税は免税点を1千万円としているのだから、同様の考え方ができて当然だろう。

3点目は、非営利法人改革に伴って、収益事業の課税ベースが拡大されるという懸念である。これには反論をしていく必要があり、公益分野の取引の特徴をわきまえた税の議論が求められる。」

杉田氏は、NPOの経理を担当する現場の立場から、この提言の重要なポイントについてコメントした。

「この提言が示すものは、いかに寄付者に寄付の使い方を見せるのが大事なのかという点であり、NPOの経理を担当していて、会計は単なる収支の計算ではない、会計が本来果たすべき目的が見えてきた。特に贈与取引と損益取引を分けるという考え方や、指定寄付の考え方、寄付付き商品の売り上げの計上方法などについて、理解でき、イメージができるものである。この提言にさらに付け加える必要があると思われるのは、所轄庁や税務署に出す書類が異なる現状の改善である。」

黒田氏は、米国、英国などのNPO事情にも精通している立場から、この研究会が発表する内容は世界的に見てもまさにタイムリーな提言であるとした。

「アカウンタビリティの議論は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどでも活発なテーマとなってきている。アメリカでは、9.11テロの後、赤十字社にあつまった寄付の使途が不明確であるとしてメディアでバッシングされた。寄付をする側は、自分の寄付したお金の使途に対する意識は高まっており、また、その影響もあってNPOは規制強化される動きにある。多くの人々から集めた寄付金を説明した通りに使ったかどうか、また、その結果、どのような成果やインパクトがもたらされたかなどを報告することは、重要であり、かつ今まで以上に強く求められている。説明がなかったり、不十分だったりすると、トラブルを生み、NPOの信頼性を大きく損ねることにもつながる。寄付を集めるときは、その計画の最初から結果報告に至るまで、それぞれのフェーズで説明をしていくことが大切である。」

【会場からの意見】

研究会が4月に行ったシンポジウムで、パネリストの一人として迎えた佐藤鐘太氏(内閣府国民生活局市民活動促進課課長補佐)が会場に参加しておられ、現在のNPO法改正の動きなどを説明していただいた。

「NPOが施行されてから7年になる。所轄庁の運用についてご批判を受けることもあるが、NPO法は市民の自由な活動を促進するための法律と十分承知している。今日の提言が示す小規模法人向けの対応や贈与取引の考え方は、とても重要に思った。政府の議論するテンポは、NPOの方からすると、やや遅いように感じられることもあるかもしれないが、国民生活審議会では今月からNPO法の改正の検討を開始した。NPO法の見直しの作業は、政府レベルだけの議論に終始せず、NPOの方々の意見を聞きながら、より良い制度にできたらと思う。」

会場からは、「提言の考え方はとても良いが、所轄庁が受け付けてもらうものになるのだろうか?」「先日NPO法人の認証の件で東京都に行ったら、とても指導が厳しく、腹が立ったので、所轄庁にも影響力のあるフォームを出して欲しい」といった意見や、「NPOの労働分配率などがわかる会計フォーマットは検討されているのか」といった質問が出された。

【まとめ】

最後にコーディネーターの松原は、以下のように締めくくった。

「シーズ・アカウンタビリティ研究会ではご意見を募集している。

アカウンタビリティ研究会の発表した提言では、NPO法人の会計報告・事業報告・税制に関して、基本的なコンセプトを提案している。このコンセプトをさらに実務レベルで検討していく必要があるものである。そして、今後のNPO法改正の議論や、公益法人制度改革の議論に活かしていきたい。
シーズでは、1998年のNPO法や2001年の認定NPO法人制度を提案・実現してきている。常に、NPO・市民側で考え、まとめた意見や提言を立法の場で、実際の法律として実現してきている。ぜひ今からの議論に積極的にご参加いただき、よりよいNPO法の制度作りにご支援いただきたい。」

こうして、約2時間のシンポジウムは熱気のなか終了した。

【経緯解説】

シーズでは、かつて、アカウンタビリティ研究会(第1期)において、1998年3月17日に「NPO法人の会計指針草案 第1号:NPO法人等の会計報告の責任 第2号:NPO法人等の財務諸表の体系 第3号:NPO法人等の財務諸表の作成基準と様式」を発表した。この3つの公開草案はNPO法が施行される前に発表したもので、NPO法が施行された後のNPO法人や市民活動団体のための財務諸表のあり方について提案したものであった。

その後、シーズでは、2005年1月から、アカウンタビリティ研究会(第2期)を立ち上げ、NPO法人の会計基準が定められていないことや、事業報告書の基準もないこと。そのため、市民がどのようなポイントでNPOを見たら信頼できるのか、その判断基準となるものがない現状を問題視し、研究、提言を行っていくことを目的に議論を重ねてきた。

同年4月にはシンポジウム「NPO法人のアカウンタビリティを考える~NPO法人の会計・税務・事業報告の課題を考える~」を開催。「NPO法人における会計・税務・事業報告書における論点整理」を公表し、研究会での議論を広く一般に公開、広く意見を募集してきた。

今回のシンポジウムでは、NPO法人がいかにして信頼性を得るための外部報告を行えばよいのかについて、基本的な考え方から、具体的な会計報告や事業報告の手法に関する提言「NPO法人の外部報告に関する基本的考え方~NPO法人の会計・事業報告・税務会計作成基準への提言~」を発表。この提言を公開草案第4号につなげていく予定である。

報告:鈴木歩
2006.02.03

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