公益法人改革・東京シンポジウム
NPO法成立7周年記念シンポジウム
「どうなる?公益法人改革 どうする?NPO」
2005年3月19日(土)、東京都新宿区で、NPO法成立7周年を記念するシンポジウム「どうなる?公益法人改革 どうする?NPO」が開催された。
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会の主催で、共催は日本NPOセンター。財団法人トヨタ財団の助成を受けて開催された。
シーズでは、各地のNPO支援センターと共催で、このような学習会を連続して開催してきており、このシンポジウムは、一連の学習会の総括という位置づけで行った。
パネリストは、赤塚和俊氏(公認会計士・税理士・(特活)NPO会計税務専門家ネットワーク理事長 )、勝又英子氏((財)日本国際交流センター 常務理事・事務局長)、高成田享氏(朝日新聞社論説委員)、山岡義典氏((特活)日本NPOセンター副代表理事)の4名。 コーディネーターは、シーズ事務局長の松原明が務めた。
当日は、札幌や山形、京都、愛知など遠方からの参加も多く、約120名がNPOの今後についての議論に耳を傾けた。
以下、シンポジウムの概要を報告する。
まず、コーディネーターの松原がNPOの現状や公益法人制度改革の概略、NPOが改革の対象からはずれた経緯などについて説明をした後、各パネリストが以下のような問題提起を行った。
2003年11月に設置された政府の有識者会議(正式名称「公益法人制度改革に関する有識者会議」)の委員であった勝又英子氏は、以下のように述べた。
NPO法成立の7周年という記念日にこのようなシンポジウムが行われることは大きな意味がある。NPO法は、市民が立法過程に参画した画期的な法律。
公益法人制度改革は、一部公益法人のスキャンダルがきっかけとなり改革に組み入れられたことから、本来議論すべきことが後回しになったというボタンの掛け違いがあった。
有識者会議の委員であったが力及ばず、結果として満足できるものにはならなかったのが非常に残念。何度も議論の過程で、これからの社会におけるシビル・ソサエティのあり方という哲学は何か?という問いかけをしたが、技術論が先行した。
また、非営利法人への支援策の第一歩はなんといっても税制であるべきなのに、「税制のことは税調(政府税制調査会)だ」と、議論さえすることは許されなかった。このようなプロセスを通じて、政府の審議会のあり方についても考えさせられた。
公益法人自身の関心が全体的に低かったことも問題である。
現在、法案化の具体的な作業は行革事務局の手にうつっている。その具体案をできるだけ早く公表してもらい、当事者であるわれわれ市民の意見を反映してもらうことが必要であるし、またそのときに市民の声を強くあげていくことが重要だ。
次に、上記の会議に先立って2002年11月に設置された、いわば第1次有識者会議(正式名称「公益法人制度の抜本的改革に関する懇談会」)の委員でもあった山岡義典氏は、以下のように述べた。
公益法人制度の問題点として、長らく3つが指摘されてきた。すなわち、1)非営利非公益団体の法人制度の欠如、2)市民活動団体のような自由度の高い活動を保証する法人制度の欠如、3)主務官庁制による官民癒着の問題である。
これらのうち2)は、1998年のNPO法の制定で一定程度解消してきたし、1)は2001年の中間法人制度の創設で半分解決した。しかし、中間法人的な団体が公益法人として存在してきた問題は解決されず、中途半端に終わってしまった経緯があり、このことと3)を解決することが今回の公益法人制度改革につながっているといってもいいだろう。
今回の改革では、1階は中間法人と同等の仕組みにして、解散時に残余財産を分配してもいい仕組みとしている。それを土台に2階部分に公益認定制度をつくろうというもの。中間法人は寄付金も課税される原則課税の法人であるから、そのままなら1階部分は原則課税となる。
しかしこれでは、この1階部分の法人制度は非常に稚拙な制度設計である。2階部分で税の優遇を受け蓄財し、わざと1階に落ちて財産を私的に分配することも可能となってしまう。
このような制度が市民の信頼を得るものとなるだろうか。大事なのは、1階部分の制度設計であることを指摘したい。すなわち解散時に残余財産を分配できない仕組みにしなければならない。そうすればおのずと対価性のない収入は非課税になるはずだ。
これを受け、NPOの会計税務の第一人者である赤塚和俊氏は、以下のように税制上の問題点などを指摘した。
NPO法人は、他の法人類型に比べて、活動に規制を受けない非常に自由な法人類型である。かつ、情報公開を行うというオープンなあり方に特徴がある。
今回の公益法人制度改革は、準則主義で設立を可能とし、主務官庁制を廃止して活動を自由にしようというものだから、公益法人の側からすれば、一歩前進といってもいいかもしれない。しかしNPOからみて、役所の関与が強まるのであれば、「退歩」との評価は免れないだろう。
また、税の観点からいえば、準則主義だから原則課税というのも間違いで、そうでない法人もたくさんある。課税か非課税かの分岐点は、これまでの法人税法の整理では、配当しないという点であったはずである。
しかし、中間法人は存続中の利益配分はできないが、解散時は分配可能となる法人類型。後付の理由として、中間法人は最終的に財産を分配するから原則課税となったと説明されているが、中間法人ができるときに、まったく税の議論をしなかったことこそが一番の問題点なのである。今回の公益法人制度改革がその中間法人の間違いをそのまま引き継ぐ改革となってしまうことを危惧している。
このような指摘を受け高成田享氏は、報道機関に勤める立場から、以下のように述べた。
日本で20数万ある非営利法人のうち、今回の改革の対象が、2万数千法人のみであるといった点が、一般の関心を低めてしまっている。宗教法人がはずれたことも問題。社団法人、財団法人といっても、これらが何をしているかあまり知られていないのが現状ではないか。
準則主義で、何でも設立可能とする今回の改革は、たとえ、情報公開を義務づけるとしても、何らかの規制をした方がいいと考えるのが一般の人の感覚だ。だから、このような二階建て構造は、一面では妥当な設計であるといえるだろう。
ただ、役所の縦割りで「仕組み」と「税」が別々に議論されたことには違和感を感じている。これから税の議論がはじまるということだが、実は、財務省も、これでいこうという確固たる信念をもっていないのでは。政府に限らず、議員などもいい意味でも悪い意味でもポピュリズム的なところがあるので、NPOなどが率先してこれはおかしい、ということをちゃんと主張していけば、市民に共感され、マスコミや政府を動かしていく力となると考える。
休憩をはさんで行われたパネルディスカッションでは、それぞれのパネリストが「○」「×」「△」の札をもって、松原の質問に答える形式をとった。
はじめに松原より、NPO法が、行政が公益性を判断する公益法人制度のアンチテーゼとして誕生した背景、現在NPO法人制度に関して濫用の問題やあやしげな団体の名称使用といった市民の信頼を揺るがすような事態が一部で生じはじめていること、さらに、公益法人制度が変わるなか、それとの差別化ができなければ、NPO法人をいずれ統合しようという動きがおこるのは必至であることなどについて、問題提起があった。
続けて、以下のような○×△を使った議論が展開された。
松原:
まず、公益法人制度改革であるが、必要なものと考えるか。これには、全員が「○」。
代表して勝又氏が、「言い古されたことであるが、今までの公益法人制度は、あまりにも官主導のものであった。多様化した社会に対応できていないことは明らか。どういう方向性となっても、一歩進む必要がある」と述べた。
松原:
基本的枠組みの内容で、民間非営利活動は活性化されると考えるか。
これには、赤塚氏を除いて3人が「○」。
「×」をだした赤塚氏は「新制度では、政府の関与を極力少なくするといってはいるが、あまりいい展望はもっていない。一階に関していえば、中間法人制度で達成されなかったことが、新しい制度でできるようになるとは考えられない」と批判した。
一方で、山岡氏は、「条件付で○とした。有識者会議の報告では一階は残余財産の分配が可能としているので×だが、年末の閣議決定においては、その部分が明確に記述されなかった。非分配を貫くということであれば、希望はある」と述べ、勝又氏も「市民の活力はあなどれない。どのような制度になったとしても、自分たちの活動に今回の制度を活用する人は確実にいると信じる」と話した。
松原:
公益法人税制を見直すべきか。全員が「○」を提示。
赤塚氏は「今の原則非課税の考え方を変える必要はないと考えるが、収益事業33業種の考え方が時代にあっていない」という意見。
勝又氏は「抜本的に見直すべきは、寄付税制。もっとその恩恵を受ける団体を広くするべき」と述べた。高成田氏は、「一階・二階に連動して税制をくっつけるのではなく、一階の法人の中にも公益的な活動を行う法人もある。その団体の活動のありようによっては、非課税にするという論理があってもいいのではないか。法人制度と税制度をリンクさせるこれまでの方針を転換し、法人格を取得する論理と税制の論理を切り離すという発想も必要ではないか」と述べた。
山岡氏は、欧米の寄付税制に比べて格段に厳しい日本の寄付税制の欠陥を指摘し、「もっと寄付者が支援したくなる団体の選択肢を増やすためにも、寄付税制の恩恵を受ける団体を欧米のように数十万単位、少なくとも十万ぐらいはある社会にしていきたい」と語った。
松原:
今回、NPOが切り離しとなったが、それについてはどう思うか。全員が「○」。
この理由については、将来的に理想的な制度となるのであれば、統合されてもいいかもしれないが、まだ新制度の概要が明らかではなく、NPO法の理念よりも後退するような制度になってしまう可能性も高い。現状では、選択肢を残しておくことが賢明であるとの意見で一致。
松原:
NPO法人についても、企業と変わらない活動をしているといった疑問や、官製NPOなど、問題がでてきている。公益法人制度が変わっていくなかで、NPO法も改正していく必要があると考えるが、いかがか。これには、全パネラーが「×」を掲げた。
赤塚氏は「今いろいろな問題がでているとしても、それは、法律の運用の問題だと考える。法律を変えても使い方が変わらなければ問題は解消されないのでは」と述べた。
山岡氏は「まだもっと、われわれ自身でできることがあると考える。日本NPOセンターで提案している“信頼されるNPOの7つの条件”は、NPOがNPOらしくあるために常に気をつけておかなければならないことを具体的に提示している。NPOに参考にしてもらいたい」と語った。
高成田氏も、「昨年のイラクの人質事件ひとつを見ても、まだまだ日本のNPO/NGOは弱々しい。NPOには、いいイメージが定着しつつあるのだから、大事にしてそれを育てていく段階なのでは」とNPO法の改正は時期尚早との見方を示した。
企業と変わらない活動をしている法人がでてきていることに関して、勝又氏は「介護保険事業ひとつをとっても、これからは、事業で区別することはできなくなっていく。どこで区別かは、利益を関係者で分配せず社会に還元するか否かということになってくるのではないか。」と述べた。
赤塚氏は「社会が非営利活動を見る目が育っていくことが大事だ。以前、米国の会計専門家に米国の寄付に関する免税団体が80万もあるのは、少し甘すぎるのではないか、悪用する団体がでてきていないか、と尋ねたことがある。そのときの答えは、それは寄付した人の責任である。寄付をするなら何に使われるか見届けるべきだ、というものであった。日本で寄付文化を定着させようというとき、量の問題や質の問題もあるが、NPOから情報公開を積極的にすると同時に、寄付者もそれをしっかりと見ていくことが、市民社会を育てていくことになるのではないか」と述べた。
この後、行われた会場との質疑応答では、「道路公団や郵政公社が民営化され、税金を払っていく流れにあるなか、NPOが非課税を主張していくのは、一般的に理解されないのではないか」という質問がでた。
これには、赤塚氏が「非営利団体の大きな特徴ともいえる、会費・寄付金に課税するのはおかしい、ということを問題にしている。すべてを非課税にと訴えているのではない」と原則非課税の意味について解説した。
最後に各パネリストから以下のようなメッセージが発せられ、閉会となった。
勝又氏:
「今回、主要な論点としてでてこなかったが、地域の役割が拡大していくなかで、中央が地方を導いていく時代は終わった。そのような意味で、都道府県がそれぞれの地域の実情にあったかたちで市民のニーズをくみとっていく体制を整えることが大事。地域が変われば中央が変わるという時代がやってくると考えている。」山岡氏:
「NPO法をつくるときも、都道府県でそれぞれ条例をつくって認証する仕組みをつくることにこだわった。そのことがNPO法人制度が地域で使われていくことに大きな道筋をつけたと思う。条例づくりをNPO法にビルトインしたことは非常に大きな意味をもっていた。制度設計するにあたって、このような市民的な発想を取り入れていくための市民参加できるチャンネルをどう確保するかが重要だ。」赤塚氏:
「行政や企業とちがう固有の価値や、NPO法人制度の理念をどう保っていくのかを議論するときに、その法律をどのように運用するか、ということを見過ごしてはならない。行政はどうしても指導監督したがるという性質をもっている。それをどうはねのけていくかについても覚悟が必要だ。そのような覚悟なくして独立性は保てないだろう。」高成田氏:
「この国はずっと“公”を国に独占されてきた。その“公”をどう市民の手でつくっていけるのか、今問われているのだと思う」
各パネリストの提言を受け、松原は「このたびは問題提起がメインであったが、このような議論をNPO法成立7周年にできたことは非常に意義があった。今年から来年にかけて公益法人制度や税制など大きな制度改革があるので、今後もこの問題に関心をもってもらいたい」と結んだ。
報告:シーズ事務局 安部嘉江
2005.04.27