公益法人改革連続学習会・東京
「どうなる?NPO法人制度の未来~公益法人制度改革の有識者会議報告を受けて~」
NPO法施行6周年の記念日でもある2004年12月1日の19時から21時まで、東京都中野区で、シーズ主催によるイベント「どうなる?NPO法人制度の未来~公益法人制度改革の有識者会議報告を受けて~」が開催された。
このイベントは、11月19日に政府の有識者会議が公益法人制度改革に関する最終報告書を発表したことを受けて、開催されたもの。
講師は、雨宮孝子明治学院大学法科大学院教授と、シーズ事務局長の松原明。
当日は、緊急の開催にもかかわらず、NPO関係者を中心とした100名を超える参加があり、制度改革へのNPO側の関心の高さを十分に感じさせるものであった。
NPO関係者のほか、議員秘書、マスコミ、学生、公益法人関係者、政府関係者など多様な参加があった。
このイベントでは、雨宮氏が報告書の内容の説明を行った後、会場からの質問に応える形式で進められたが、報告書の内容にあいまいな部分が多く、税に関する部分が完全に先送りされているため、参加者の関心の高い部分のほとんどに報告書が応えていないことが、共有されることとなった。
最後に回収したアンケートを見ると「まだよく分からないということが分かった」、「報告書の中身が具体的でないので、実際にどうなるかまだ分からない」、「官僚によって、恣意的な制度にならないよう監視すべき」といった意見が多数寄せられた。
まず、雨宮孝子氏は、村上行革担当大臣の私的諮問機関である「公益法人制度改革に関する有識者会議」(座長・福原義春資生堂名誉会長)が、11月19日に発表した最終報告書の内容を以下のように説明した。
このたびの報告書で、新制度はいわゆる2階建て構造の仕組みになることが示された。現在の公益法人と中間法人制度を廃止して、非営利法人制度を創設、そのうち「公益性」のあるものだけを優遇措置のある2階にあげようというもの。しかし、中間法人と公益法人を統合することには反対。中間法人制度は、解散のときに財産を分配できる法人類型だからだ。一方で報告書では、NPOはこのまま存置するべきと提言している。これに反対しているわけではないが、その理由はあいまい。政治的な配慮が後ろで働いていると感じている。
この報告書の冒頭に掲げてある改革の方針には、許可制と主務官庁制を原因とする天下りや官民癒着の問題、補助金の不正使用の問題などさまざまな問題が噴出した現行の公益法人制度を改革して、民間非営利活動を活性化させることが書かれている。しかし、一階に中間法人がはいることで課税強化が危惧されており、それで本当に民間の活動が活性化するかは疑問。
天下りや官民癒着の問題を解消するのであれば、天下り防止法などをつくればいいはず。
結局、何か問題がおこれば、課税を強化することで対処しようという政府の姿勢が現れたものと考える。このスキームであれば、任意団体のときは非課税(収益事業は課税)であるから、法人化にブレーキがかかるのではないか。
中間法人が統合されることが今回の制度設計をおかしなものにしてしまったと考える。非営利の定義は存続中の収益も、残余財産も構成員で分配せず、すべてを社会に還元するということ。しかし、民法72条の規定に、非営利であっても解散の際は定款で残余財産の処分を決めていいというものがあることから、民法学者も今回の制度設計を後押ししている。非常に残念なことだ。
今回の改革では、1階と2階をいききできる内容。そうすれば、2階にいる間に寄付を集めて蓄財し、わざと1階におちて分配することも可能になる。
また、1階が寄付や会費にも課税となる原則課税になるのであれば、いくら寄付をしてもその先の法人が課税法人であれば、意味がない。
このように、中間法人がはいることで、残余財産の分配や税の問題をいびつなものにしてしまっており、これにより民間の非営利活動が活発になるとは到底思えない。
判断主体の問題も看過できない。公益性の判断主体は、特定の大臣の下に設置される委員会とする方針が示された。これは、国家行政組織法の8条に定められているいわゆる「8条機関」。この機関の性質は、最終的な権限を大臣がもつことになるので、独立性には疑問符がつくといわざるを得ない。
委員会は民間の有識者で構成するような書きぶりだが、事務局の機能を果たすであろう行政が実際には主導権をもつのではないだろうか。
さらに問題なのは、主務官庁制を廃止することが今回の改革の目玉になっているにもかかわらず、報告書のなかに「公益性を専門的見地から適切に判断できる措置を講ずる」という記述がある点。これは主務官庁が「名を捨てて実をとった」結果と考えられないだろうか。今後も主務官庁が公益法人に関与し続けるのであれば、前進とはいえない。
このような問題提起の後、会場との質疑応答にうつった。
(会場)実績のない団体もいきなり2階の公益性のある法人になれるのか。
報告書に、「新設の法人に活動実績を求めることはかえって公益的な活動の促進を妨げるおそれがあること等を踏まえれば、定款・寄附行為や事業計画、収支予算等が要件に適合しているかどうかを判断することが適当である。」という記述があり、一定配慮はされるようだ。(雨宮、松原)
(会場)公益性の判断基準はどのようなものになるのか。
事業内容にいろいろと制限が入りそうだ。やってもいい公益的事業が列挙されたり、営利企業の事業を阻害しないことが要件にはいってくる可能性がある。過大な内部留保や管理費は認められないといった姿勢も打ち出されている。基本的には、現行の公益法人への指導監督基準を踏まえたものとなっている。
判断の方法には2種類あり、役員報酬などは相当の基準の設定が困難との見方を示して情報公開して社会の監視にまかせることにしているが、そのほかに生じたグレーゾーンは、判断主体がその当否を判断することになっている。こうなると非常に裁量的なものになる恐れがあるし、裁量的な判断をしても許される理屈がたくさん用意されていることになる。このことこそが、非常に危惧されるところである。(雨宮、松原)(会場)判断機関の構成はどのようになるのか。
報告書には「民間有識者からなる合議制の委員会」と書いてあるだけで、具体的なことは一切分からない。委員は大臣が選ぶことになる。事務局は省庁に設置されるだろうけれど、そこにどの程度民間人がはいるかどうかなど、分からないことだらけだ。(雨宮、松原)
(会場)今後法人を設立するのであれば、新制度に基づく「公益性のある法人」の方がいいのか。NPO法人の方がいいのか。そのメリット・デメリットは。
それはよく分からない。とにかく判断基準が不明確な現在では分からないとしかいえない。
ただ、2階建て構造をこんなに高らかに提案しているから、2階にあがったらどんなにいいことがあるのかと期待してしまうのが人情というもの。しかし、2階にあがった効果について報告書では、次のようなものしか例示していない。すなわち公益性がある団体だという何らかの呼称を使用できるうえ、規律のしっかりとした団体であることが社会的に証明されるので、寄附やボランティアなどの労務の提供を受けやすくなり、活動が促進される、というものだ。
一方で、肝心の税については今後政府税調で検討してください、ということで何も決まっていない。これでは、現状でこちらの方が得だといえないのがお分かりいただけると思う。(雨宮、松原)(会場)NPO側はどのようにこの改革を評価しているのか。
誰もNPOを代表するような立場にはない。それよりも、まだこの改革や、報告書の内容について知らない人が多いのが現状ではないか。この報告書をしっかりと読み、わからないことが多いということを共有し、その分からないところをみなで考え意見をだしていくことが大事である。(松原)
(会場)松原さんの評価は。
準則で2階建て構造というのは、基本的に悪くはない。しかし、判断主体が関所のように存在し、「公益性」を判断する今回の仕組みには反対。
なぜなら、判断主体を信用していないから。民間人で構成する第三者機関で独立性が保障されていればOKという論者は多いが、その論にも与さない。なぜなら、判断基準の明確化が重要と考えているため。要件が明確化されれば誰が判断しても同じになると考える。公益性の判断を誰かに預けることは、どのような性格の機関が設置されても恣意的な判断を招くことは避けられない。(松原)(会場)NPO法は将来的にどうなるのか。NPO法の未来はどんな色か。
将来統合される可能性はまだあると考える。だが、先ほどお話したように、今提示されているスキームには統合されたくない。そのようなとき、NPO法人のあり方をどのように差別化していくのか。自分たちをどういう仕組みとして再構築するかが問われてくることになる。NPO法をもう一度つくり直すときがきているのかもしれない。
色にたとえるとすると、そんなに暗い色ではないと考える。なぜなら、市民がいろいろな社会活動を自ら担っていくという大きな流れが底流にあり、それは世界的な潮流となっている。このような流れはどんどん強くなっていくと考えている。(松原)(会場)あるべき理想的な制度とはどのようなものだろうか。
NPO法ができたときに「認証」となったのは、残念だったが、準則に近いかたちで簡易に設立が可能な制度になっている。寄附税制の恩恵が受けられる認定NPO法人制度が非常に厳しく問題を感じているので、理想に近づけるため、改正運動を行っているところ。「公益性」は時代によってかわるし、ときの政府と対立するようなものもあるはず。そのようなものを定義しようとするよりも、いかに公益性の判断をしないで制度をつくりこめるかに力点を置いていく。(松原)
「公益性」はある程度定義できると考える。イギリスでも400年ぶりにチャリティ法の改正を行い、12分野を公益の目的に掲げた。ただグレーゾーンはどうしてもでてしまうので、それをどこかが判断ということになるだろうけれど、そのような不明瞭な部分がでてこないように、なるべく明確な基準を法定すべき。
判例法の国である米英では、不明瞭な部分については、どんどん裁判がなされて判例が積み上げられていくが、日本では公益性の判断を不服として裁判で争った例はほとんどない。判例法の国と一緒にできないが、本来であれば、グレーゾーンは裁判所が判断するべきではないだろうか。(雨宮)
以上のような質疑応答ののち、シーズの松原は、「このような社会制度は、公共の道具である。これをどのように使いやすい制度にしていくか、皆さんにもぜひ議論に参加していただきたい。今回は”知る“という目的でこのような会をもったが、来年からは“議論”していきたいと考えている。今後も関心をもってほしい」と呼びかけ、閉会した。
報告・シーズ 事務局 安部嘉江
2005.04.04