板橋区職員研修「地域創造塾」報告
報告:轟木 洋子
2001年11月22日(木)より、板橋区の職員研修「地域創造塾」が開始された。研修目的は「区とNPOの協働の指針の一つである『職員の意識改革』を促進し、体験学習や意見交換を通じて、区とNPOとの相互理解を深める」というもの。
初日の11月22日は、まず東京都の生活文化局から「住民と行政との協働」というテーマで基調講演があり、その後、シーズ事務局長の松原明より「NPOを取り巻く諸問題」というタイトルで約1時間半の講義を行った。板橋区の職員、およびNPO関係者をあわせて約40名の参加者があった。
板橋区総務部職員課職員研修係によると、この日の研修を受けた板橋区の職員のうち10名が、11月から来年の2月にかけて区内の5つのNPO団体で活動体験を行う予定だという。職員2名が1組となり、まちづくり、高齢者、障害者、子どもなどに関する活動を行うNPOで、延2日半の体験をする。
また、NPOと研修生がともにテーマを決めて自由研究にも取り組むことになっており、3月頃にはこの研究発表も予定されている。一連の研修は、区の職員とNPOによる研修報告会で、3月中旬頃に終了予定だという。
現在、多くの自治体でNPOとの協働の指針や、NPO支援の施策などが打ち出されており、NPOに関する職員研修も活発であるが、板橋区のようにNPO体験研修や、NPOとの共同の自由研究の例は少ないのではないだろうか。
相互理解の面白い試みである。
なお、11月22日に松原が行った講義のポイント、および質疑応答からの抜粋を以下に紹介する。
<松原講演「NPOをめぐる諸課題」のポイント>
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1998年にNPO法がスタートしてから、NPO法人は増加を続け、5000法人を超えるようになった。そして、NPO法は、市民活動の分野にまったく新しい環境の変化を起こしてきている。
その環境の変化にいかに対応するのか、がNPO法人の今後の経営にとって大きな課題となってきている。同時に、自治体も、行財政改革を進めていく中で、NPO法人や他の公益法人等との関係を組み直す時期が来ている。
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これまで社会福祉法人のみに許されていた保育園などが、規制緩和によりNPO法人なども参入できるようになってきた。また、介護保険事業では、社会福祉法人、NPO法人、企業が参入できるようになっている。さらに、自治体が補助金や委託事業を公募制にしたりしていく動きも広まっている。
小泉改革では、特殊法人改革とならんで、行政補完型の公益法人改革が大きなテーマとされている。これは、いままで特定の公益法人が独占していた事業や補助金を、NPO法人などの新しい主体に開いていこうということに他ならない。
これらのことから、NPO法人には、事業参入や補助金獲得の機会(チャンス)が急速に増加している。緊急雇用対策の補助金・委託事業もその流れを加速している。一方で、NPO法人の数も急速に増加しており、企業との競争も拡大している。今までに無かった競争状況が起こりつつある。
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自治体のNPOのパートナシップが叫ばれているが、これもデリケートな時期にある。従来の社会福祉法人や公益法人との関係に慣れている自治体は、NPOをも下請化しようとするし、委託先に適当なNPOがないと自らNPOを作ろうとする動きもある。しかし、これでは今までと少しも変わりはない。
自治体とNPOが、共通の目的を持っている時に、そのために協力しあうのが協働である。事業は協働でする場合でも、NPOが経営体として長い期間、独立して活動できることが大事である。利用者や受益者のためにそれが重要なのである。
NPO界は、自治体からの委託などでミニバブルの状態になっている。ミニバブルに踊っていると、バブルははじけた場合に、極めて深刻な経営上の危機を迎える可能性が大きい。
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企業との関係も新しい局面にはいりつつある。企業は、NPOを社会貢献活動のパートナーであると認識しはじめている。また、企業とNPOの間で、バリアフリー商品の開発など、提携して行う事業も増えている。
その一方で、移送サービスなどは、NPOだけでなくタクシー会社も参入してきており、また介護保険事業では、企業と競争する場面が増えてきている。企業は、NPOを競争相手としても認識しはじめている。
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社会問題は多様化し、それとともにNPOへの期待も高まっている。その結果、政府・自治体のさまざまな資金がNPOに急速に流れ始めているように見える。
しかし、それは、パイが拡大しているのではなく、限界となったパイの中で、流動化がおこっていると考えるべきである。資金がシフトしてきているに過ぎない。確かに、チャンスも増えている。しかし、政府財源は財政危機から長期的には減少していくものと思われる。パイは限界であり、その奪い合いがしばらく起こるだろう。NPO同士で、また規制緩和などを背景に、社会福祉法人や公益法人、また企業などとの間で競争も激化してくると思われる。
こういう時だからこそ、NPOは自立性を失わず、しっかりとしたアカウンタビリティを持つ必要がある。NPOであっても、企業と同じように経営努力が求められる。「NPOの評価」が注目を浴びているが、評価されるのはNPOという団体ではなく「事業」であることを知るべきだ。NPOならではのサービス(事業)の「質」などをどのように確保し続け、競争に勝ち残っていけるのかが、今からのNPOの最大の課題となってくる。
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NPOの自立性・独立性は、NPOの経営における精神主義的な主張ではない。受益者や利用者などに責任あるサービスや事業をしていくためには、かならず考えなければならない経営上の要請である。
自治体からの委託事業や補助金、助成金などでは、団体の運営管理費や新しい事業をする際の開発投資の資金に充てられない場合が多い。NPOは、受益者や利用者のニーズを主体にして、サービスを考えていくことにその優越性があるが、委託事業や補助金、助成金は、自治体のニーズを反映したものとなる。NPOが利用者・受益者主体のサービスを提供していき続けるためには、独自の自立的財源が不可欠になる。また、補助金や委託事業は、出る場合には、大きな金額が出るが、切れた場合には、一気に大きな金額が入ってこないことになる。
助成金や委託事業に頼っている団体の経営の安定性は悪いといえるのである。会費、寄附、委託以外の料金収入などの自立的な財源を確保する努力が欠かせない。今から2~3年が、NPOにとって大きな試練の時期になるだろう。
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NPOの自立的な財源を確保するために、寄付金控除などの支援税制が必要となってきたわけだが、現状のNPO支援税制はNPOの実態にあわないものになっており、変化に対応するためにも、一刻も早い改正がのぞまれている。
<質疑応答より抜粋>
Q:行政主導でNPOを作ることをどう思うか?
A:行政主導でNPOを作るのは自由。ただし、そのNPOが行政の下請けとなって、行政と癒着するのはいかがなものか。大事なことは、市民が求める良いサービスとは何かを考えること。また、旧来のように特定のNPOばかりを支援し続けるのも問題とされてくるだろう。行政主導でNPOを作ったとしても、他のNPOが参画の機会を求めてくるときに、特別扱いはできにくくなる。そうなると、競争させることになるが、行政主導では、競争力が生まれてこない。最終的に扱いに困ることになるだろう。
Q:行政からの補助金や助成金で運営しているNPO。NPOの経営努力が必要と言われたが、よくわからない。行政が100のお金でするところを、NPOは20~30のお金ですむ。だから、仕事が来る。非営利なのに、競争だとか、ピンとこない。
A:非営利と競争は矛盾しない。今後は、価格だけでなく、サービスの質や内容などが評価される時代になってくる。NPOのサービスは価格競争には向いていないものも多い。たとえば、難民救援であっても、現地で日本のNGOは他国のNGOと競争している。良い事業をすれば、国連との協働の機会も増える。日本国内でも、自治体の補助金改革が進められている。我孫子市などは抜本的な改革を行った。自治体はこれからより財源を開いていく方向だ。そこでは、価格競争だけでないモノサシで、NPOの事業が、市民や、企業や、行政から、選択されるようになってくる。私が言いたいのは、NPOはそれに「備えよ」ということである。