第一回 シティ・ハーベスト(ニューヨーク市)
コーナーのご紹介:
2002年5月、シーズは国際交流基金日米センターの助成を受けて米国を訪問し、米国の NPOや財団、そして企業は寄附をどのように捉えているのか、またNPOは募金のためにどのような努力をしているのかを調査してきました。
この特別コーナーでは、10回にわたってこの調査旅行で出会ったNPOや財団の募金担当者(fundraiser)、また企業の社会貢献担当者のインタビューをご紹介します。米国ならではの考え方もありますが、日本のNPOが参考にできるところもたくさん見つかるはずです。
この調査発表は、国際交流基金日米センターの助成事業です。
第一回 シティ・ハーベスト(ニューヨーク市)
(2002年5月3日訪問)
連載の第一回目は、「シティ・ハーベスト」です。
シティ・ハーベストは、1981年に食堂で働く一人の労働者によって始められた活 動です。ニューヨーク市内のレストランやスーパーで余った食料をホームレス、高齢者、貧困層の子ども等の必要としている人達に届ける活動を行う中間団体です。現在では市内で緊急食料支援を行っている800の団体に365日食料を届けています。
ハンガーホットラインという電話窓口も運営し、食料を必要としている人たちへの情報提供も行っています。資金源の95%が民間からの寄附や食料の寄附で成り立ち、公的機関等からの助成はごくわずかです。
シティ・ハーベストによると、ニューヨークの食品店や外食産業は、膨大な量の食品を毎日捨て続けていますが、その一方で150万人もの市民が飢えに苦しんでおり、その3分の1は子どもだということです。シティ・ハーベストは、この矛盾の解決のために活動しており、同種の団体としてはニューヨーク最大規模を誇っています。
左の3名がシティ・ハーベストの職員。左から、ボーカー氏、エリクソン氏、ルドリー氏。続く4名は日本調査団のメンバーで、左から松原明、リチャード・フォレスト、轟木洋子、黒田かをり。
お話を伺ったのは、事務局長のジュリア・エリクソンさん、寄附担当のジル・ボーカーさん、そしてマーケティング担当のエレン・ルドリーさんです。3名ともとても頼もしい女性でした。以下は、3名に伺ったお話をまとめたものです。
「組織というものは、椅子にたとえることができます。2本脚しかない椅子では役に立ちません。3本になるとなんとか使えます。でも、3本よりも多くの脚で支えられた方が安定しますね。組織も同じです。さまざまな資金源からお金を得ていくことが大事なのです。寄附もそのひとつです。
こうした脚には、お金の寄附、食べ物の寄附、イベントの売上げ、政府からの委託などいろいろあります。寄附には、企業からのもの、個人からのもの、財団からのものなどがあります。イベントもいろいろです。
寄附集めに大事なことは『寄附をお願いする』というのではなく、『寄附をする機会を提供する』と考えることです。人というのは、何か良いことをしたがっているものです。私たちの団体でいえば、誰もが『食べ物を粗末にしたくない』『捨てるのはもったいない』と考えています。これは、寄附者であるレストランなどもそうですし、レストランに来るお客さんもそう考えています。
それから、『問題を解決するのは誰もが好き(people love solution)』ですし、この解決の過程に『あなたも参加できる(you can join us)』ことも好きなのです。こうした人たちに、私たちは機会を提供しているのです。だから寄附依頼は『社会を変えることができる機会を提供』していることだと捉えることが重要です。
寄附集めの際に大事なのは、相手の興味や利益にいかに合わせるか、ということです。寄附をしてくださる側には、寄附をするにあたっての理由があります。だから、その理由にこちらも合わせることが大事なのです。
私たちが寄附者にとって大事だと考えているのは『寄附していることが他の人たちの目に見えること(visibility)』だと思っています。私たちの団体に寄附してくれているAT&Tやアメリカン・エクスプレスなどの企業は、良い『コーポレイト・シチズン(企業市民)』であることを、たくさんの人に知ってもらいたいと思っています。
シティ・ハーベストでは、食品を運ぶトラックには大きく大口寄附者であるアメリカン・エクスプレスの名前を入れています。アメリカン・エクスプレスは、市内のレストランに一件1000ドルで協力を呼びかけてくれています。トラックには、協力してくれたレストランの名前も書いているんです。だから、ニューヨーク市内を走っているこのトラックを見た人は、アメリカン・エクスプレスやこうしたレストランが、シティ・ハーベストに協力してくれていることを知ることができ、企業やレストランのイメージ向上に役立っているのです。
アメリカン・エクスプレス社や、市内のレストランなど、寄附者の名称を付けたシティ・ハーベストのトラック。
他にも、寄附者が好むことがあります。たとえば、寄附者への感謝をするパーティーを開く時、寄附者の一人である著名なフランス料理のシェフの店で開催すれば、そこに参加した人たちは、その後にその店の顧客になったりします。私たちが開催したパーティーを通じて、お店の顧客になったというデータは、お店の予約管理のコンピューターに残りますから、シティ・ハーベストに寄附したおかげで、どれだけの顧客が増えたかも目に見える訳です。
私は、長年NPOにかかわってきましたが、明確な意思がなくて寄附をするような企業はないと考えています。でも、10年前には、NPOの募金担当者の90%は、企業のマーケティングとかPRなどについては意識していなかったと思います。それらはチャリティとはかけ離れたものだと考えられていたからです。でも、ここ5年くらいで考え方がだんだん変わってきました。つまり、寄附者が何を求めているかを考えながら募金活動をすることが普通になってきたのです。そして、『これはうまくいく(it works)』と皆が分かってきたのです。企業とNPOのニーズが合致したということですね。」
シティ・ハーベストの事務所は、カジュアルな雰囲気でとっても活気があふれたところでした。事務局長のエリクソンさんは、私たちのインタビューの後すぐに外出の予定が入っていたようでしたが、ギリギリまで熱心にお話をしてくださいました。シティ・ハーベストは、一昨年のテロ事件の後も、随分と活躍したようです。英語ですが、よろしければシティ・ハーベストのホームページにもアクセスしてみてください。
( http://www.cityharvest.org/ )
(2003.05.21)