第五回 プロジェクトHOPE
コーナーのご紹介:
2002年5月、シーズは国際交流基金日米センターの助成を受けて米国を訪問し、米国の NPOや財団、そして企業は寄附をどのように捉えているのか、またNPOは募金のためにどのような努力をしているのかを調査してきました。
この特別コーナーでは、10回にわたってこの調査旅行で出会ったNPOや財団の募金担当者(fundraiser)、また企業の社会貢献担当者のインタビューをご紹介します。米国ならではの考え方もありますが、日本のNPOが参考にできるところもたくさん見つかるはずです。
この調査発表は、国際交流基金日米センターの助成事業です。
第五回 プロジェクトHOPE
(2002年5月7日訪問)
連載第五回目は、プロジェクトHOPEです。
この団体は、国際的な医療支援団体で1958年に設立されました。HOPEは、「希望」という意味でもありますが、Health Opportunities for People Everywhere(世界のすべての人々に健康を)という団体のミッションの頭文字でもあります。
民間の団体ですが、当時のアイゼンハワー大統領から贈られた船「HOPE号」で、さまざまな国を巡り、病気の治療を行ってきました。だいたい一年のうち11ヶ月は航海に出て、帰国したら医療品やボランティアを乗せてまた航海に出るという活動を行ってきたそうです。この活動は、米国ではかなり有名で、小学校の教科書にも紹介されたりしてきたようです。
このHOPE号による活動は1970年代半ばまで続けられましたが、船の機器も段々と古くなり、新しい通信機器も備えていなかったこと、また燃料代が高かったことなどから、陸に上がって活動することとなったそうです。今では、30カ国で医療支援活動を展開しています。
日本でも、このプロジェクトHOPEとネットワークを組むプロジェクトHOPEジャパンが、1997年に設立されています。
お話を伺ったのは、資金開発部長のジャック・ボードさん。企業からの寄附のお話が中心です。
お話を伺ったレストランの前で。右から2番目がジャック・ボードさん
「私たちの団体の寄附の特徴は、企業からの寄附が多いということです。米国のプロジェクトHOPEの年間予算は約1億1000万ドルですが、そのうちだいたい60%は企業からの寄附で、6500万ドルくらいになります。あとは、個人の寄附者や助成財団からの寄附が30%、米国政府の国際開発庁からの補助金が10%程度となっています。
米国では、企業との関係において、『コーズ・リレイテッド・マーケティング』と呼ばれる手法が20年くらい前から用いられるようになりました。これは、寄附をする企業に対して一定の見返りを組み込んだものです。たとえば、ある米国のNPOは、スターバックスから寄附をもらってエクアドルでエイズ・プロジェクトを展開しています。スターバックスは、エクアドルからコーヒーを買っていますから、スターバックスは消費者に対して、エクアドルで良い活動をしていることを宣伝できる訳です。
米国では、単なる寄附者ではなく、『寄附者からプロジェクトのパートナーへ』という流れがあります。これは寄附者側が、より深くプロジェクトに関わりたいというふうに変わってきたこともありますが、NPO側も新しい寄附者を探し続けるよりも、パートナーを組んだ方が有利だと考え始めたからでもあります。
プロジェクトHOPEは、この企業とのパートナーシップ作りではリーダー的な存在かもしれません。
私たちは今、企業との『アライアンス(提携)』事業を進めているところです。現在、7社がこのアライアンスのパートナーとして協力してくれています。これは、特定の企業と、特定の地域での事業を、パートナーを組んで進めていくものです。
例えば、中国の糖尿病プロジェクトについては、3つの企業とアライアンスを組んでいます。この3社はどれも糖尿病と関係するビジネスを行っている企業です。
実は、中国では人口の14%もがこの病気で苦しんでいるというデータがありますが、人々はあまりこの病気について知識を持っていません。というのも、この病気は中国では比較的新しいものだからです。そのため、今、中国では、糖尿病に関する意識を高めることが重要です。
企業との協力については、良いパートナー探しから始まります。プロジェクトへの資金だけでなく、事前調査についても資金提供してもらうようにしています。
事前調査が終了すると、その企業の決定権を持つ人と会い、プロジェクトの意義や方法などについてプレゼンテーションを行います。ここでの交渉は、本当に厳しいものです。というのは、企業は進出市場を求めていますから、私たちのプロジェクトがこの企業ニーズに会うようにと求めてくるからです。
そこで、私たちは企業のマーケティング戦略との間には『ファイヤーウォール(防火壁』を作るようにしています。例えば、中国の糖尿病プロジェクトについては、中国糖尿病協会、大学関係者、中国医療協会のトップ、また中国政府関係者などで構成する諮問委員会を作っています。この諮問委員会には、パートナー企業は入ることはできません。
そうはいっても、パートナー企業とはいっしょにプログラムをつくっていくことになりますから、こちらからプロジェクト案を提示して何度もやり取りをします。ここは、前進したり後退したりの連続です。中国でのプロジェクトには、なんと2年もかかりました。
このように、企業とは、長期戦で交渉しなければなりません。しかし、いったん動いてしまえば、企業の協力は大変大きなものとなります。
企業との関係で大事なことは、まず明確なゴールを設定し、それを達成したことを示すことです。私たちは、年に1,2回は会計報告も行っています。もし、企業側がそれに満足しない時には、向かいあってしっかりと協議し調整することになります。
企業は、ある意味でプロジェクトの購買者ですから、寄附者である企業がプログラムを後追いしているという形ではなく、企業がプログラムを引っ張っているという形を作ることは大事です。情報をきちんとパートナー企業に提供し、彼らの興味にも応えることです。ただし、プロジェクトは現地のニーズを満たすものでなくてはならないのは当然です。
中国のプロジェクトについては、今やっと地に足がついたところですが、プロジェクトによって糖尿病への関心が人々の間に高まれば、すぐにではなくとも、将来的には企業も利益を得ることができると思います。
NPOのプログラムは、あくまでも受益者のためにあることが前提条件ですが、それに誰が興味を持っているのか、また、彼らが何を望んでいるのかを知ることは大事です。そして、NPO側は、『アピール(呼びかけてお願いする)』するというよりも、『ディール(対等な関係で取引する)』という意識を持つことが重要でしょう。」
お話をしてくださったジャック・ボードさんはご多忙だったため、いっしょに昼食をとりながらのインタビューになりました。ちゃんと食事ができたのが心配になるほど、親切にいろいろと教えてくださいました。おかげで、企業との関係づくりに関して貴重なヒントをいただいたと思います。
プロジェクトHOPEのホームページは次のとおりです。
http://www.projecthope.org/
(2003.06.18)