第十回 コミュニティ・シェアズ・オブ・コロラド(Community Shares of Colorado)
コーナーのご紹介:
2002年5月、シーズは国際交流基金日米センターの助成を受けて米国を訪問し、米国の NPOや財団、そして企業は寄附をどのように捉えているのか、またNPOは募金のためにどのような努力をしているのかを調査してきました。
この特別コーナーでは、10回にわたってこの調査旅行で出会ったNPOや財団の募金担当者(fundraiser)、また企業の社会貢献担当者のインタビューをご紹介します。米国ならではの考え方もありますが、日本のNPOが参考にできるところもたくさん見つかるはずです。
この調査発表は、国際交流基金日米センターの助成事業です。
第十回 コミュニティ・シェアズ・オブ・コロラド(Community Shares of Colorado)
(2002年5月10日訪問)
この連載シリーズで最後にご紹介するのは、コロラド州デンバー市内に事務所を置くコミュニティ・シェアズ・オブ・コロラド(以下、CSC)です。
この団体は、コロラド州内のNPOが財政やマネジメントにおいて、より力を付けて活動できるよう支援する、NPOの中間支援団体です。1986年に設立され、州内の約100のNPOが会員となっています。
CSCの具体的な活動は、企業を回って従業員にNPOを紹介し、従業員が選択するNPOに、給料天引きで寄附ができるよう中継ぎをすること。
米国において、市民から寄附を集めてNPOに配分する中間支援団体として著名なのは「ユナイテッド・ウェイ」ですが、CSCによれば、ユナイテッド・ウェイなどの大手は、受刑者の人権問題を扱う団体、ゲイ・レズビアンの支援団体、原子力発電問題を扱う団体など、必ずしも万人が賛成しないような問題を扱っているNPOには配分したがらないそうです。
そこで、CSCでは、こうした問題に取組んでいるNPOや、設立してまもないために実績が乏しいNPOなどをサポートしています。
現在では、コロラド州内の20万人の一般企業の従業員が、CSCを通じてNPOに寄附をしているそうです。
お話を伺ったのは、事務局長のグレッグ・トゥルオグさんと、外渉部長のジェシカ・クネヴィシアスさんです。お二人のお話を以下にまとめてみました。
トゥルオグさん(左から2番目)とクネヴィシアスさん(右から2番目)。CSCの事務所は、廃校となった建物の中にある。歴史的な建造物でもあり、現在はいくつものNPOが店子となっている。
「コミュニティ・シェアズ・オブ・コロラド(以下、CSC)が設立された1986年当時、ユナイテッド・ウェイ(米国最大の中間支援団体)が資金提供していた先は、すでに確立された、保守的なNPOだけでした。
ユナイテッド・ウェイは、地域の企業リーダーを理事などの形で取り込んでいましたから、ユナイテッド・ウェイからお金をもらいたいと思えば、NPOはこうした企業リーダーから認められなければなりませんでした。そのため、ゲイ・レズビアンの権利、生殖に関する権利、平和や正義、そして原子力発電の問題を扱っている団体は、ユナイテッド・ウェイからはお金をもらえなかったのです。
私たちは、こうしたいわゆるモノポリー(独占)を改善したいということで、この団体をつくりました。私たちがやっていることは、民間企業の従業員とともに進めるコミュニティづくりです。具体的には、企業に出かけていって従業員に話をし、従業員が指定するNPOに給料から天引きで寄附が控除される仕組みを紹介し、参加を求めていくことです。
ユナイテッド・ウェイと違うのは、次の3つの点です。
- 多様なNPOを代表しているので、多角的にものごとを見ることができること
- 寄附者が寄附先を指定できること(ユナイテッド・ウェイは指定できない)。また、従業員が自ら寄附先を選ぶように奨励していること
- 寄附を受ける団体からなる会員組織で、大企業のえらい人たちが役員として座っているような組織ではないこと
この寄附集めのプロセスですが、まず、企業にコンタクトし、従業員への呼びかけができるよう交渉します。そして、まずパンフレットを会社に置かせてもらい、従業員が受け取れるようにします。次に、従業員を集めてプレゼンテーションを行います。この時には、いくつかのNPOを連れていきます。NPOの人が活動の紹介をし、私たちはこの寄附の仕組みについて説明します。そこでは、寄附の誓約をしてもらうための書類も渡します。この書類に書き込むと、寄附が天引きされるようになるのです。寄附者である従業員には、寄附先の団体からニュースレターが届いたり、ボランティアに関する情報が来るようになります。
こうした給料天引きによる寄附は、現在年間約100万ドルとなっています。
CSCの会員団体は、寄附をもらえるという理由からだけではなく、草の根性、ネットワーク性、そして公開性にも惹かれているようです。ユナイテッド・ウェイに企業が寄附決定する時は、企業のトップがその決定をしますが、CSCの場合は従業員である個人が寄附先を決めることができるのです。ここが好きだという人も多いと思います。
会員のNPOは、企業でプレゼンテーションを行う訳ですが、その際、私たちは、どうやったらセクシーな(魅力的な)NPOになって、一般の人たちから理解してもらえるかを懸命に教えています。刑務所の囚人や、麻薬の依存症などの問題を扱っている団体のなかには、せっかく意義のある活動をやっていてもセクシーでないところが多いのです。ですから、私たちはそういう団体には、良いストーリーを話せ、と助言しています。
一般的に、なかなか理解を得られにくい活動をしている団体には、統計とか数字とかではなく、個別のストーリーを話した方が良いと思います。関わったことで自分がどう変わったかについてです。元囚人だった女性、エイズ患者、元娼婦だった人などの実体験に基づいた話なども良いでしょう。
たとえば、ゲイ・レズビアンの団体のあるボランティアは、自分の体験を話してくれました。その人は、ある日、自分の息子が実はゲイであることを知り、大変なショックを受けました。どこに相談すればよいのか、どうしてそんなことになったのかを随分と悩んだそうです。しかし、勇気を出して、ゲイ・レズビアンのための活動をしているNPOに行ってみたら、自分と同じような人たちとたくさん出会うことができ、そこで同性愛についての理解も深まり、子どもとの関係もうまくいくようになったと話してくれました。
原子力発電に反対している団体には、難しい理屈ではなく、放射能廃棄物が自分たちの家族の健康にどう影響するかを話してもらったりします。
よくあることですが、活動家というのは、えてして難しい言葉やチャートやグラフを使って説明したがります。でも、寄附集めでやらなくてはならないのは、一般の人たちにハンバーガーやソーダを売るようなものなのです。深刻な話でも、ユーモアも混ぜて話すことも大事です。
会員団体には、寄附をもらったらすぐに礼状や機関誌を送付するように、と伝えています。というのは、寄附者は寄附したことに対して、きちんと認知してもらいたい、と考えるからです。この認知されたい、というのは人間として自然で基本的なことです。
たとえば、パーティーに呼ばれたり、お金持ちが多額の寄附をしたら建物に名前が刻まれたりするのは、嬉しいことですし満足できるものです。ですから、寄附者の名前をちゃんとリストに載せたり、イベントへお誘いしたりして関係作りをしていくことは大切です。寄附だけではなく、ボランティアをしてもらうということもそうです。
もし、寄附者がちゃんと認知されていないと感じてしまうと、寄附者はいったい何が進行しているのかわかりませんし、自分は忘れられていて、寄附をしてもたいした存在ではないんだ、と思ってしまうのです。
人は、何もしていない時には、社会問題を知っても自分は何もできない存在だと思ってしまうものですが、その問題に取組んでいる団体に寄附などを通じて関わるうちに、同じようなことを考えている人と知り合い「もしかしたら、自分だってこの問題に一策を講じることができるかもしれない」と、考え方がポジティブになるものです。この寄附者の変化というのが、大事なのです。
さて、CSCはNPOの連合体組織ですが、集められた寄附の17.5%は、このCSCの運営にあてることにしています。それから、職員は4人しかいませんから、会員団体は、1年に40時間、このCSCのためにボランティアとして活動しなければなりません。
CSCのマスコット。この熊のキャラクターは、パンフレットやマグネットなどに使われている。
たとえば、ここには、資金調達委員会、会員開発委員会、そしてキャンペーン委員会などがありますが、ボランティアにはこれらの委員として、企業にコンタクトしてもらったりしています。会員団体になりたいという新しい申込みがあれば、会員開発委員会のボランティアがその団体を訪問し、申込書に書いてあったことを確認したりします。彼らは、なかなかのエキスパートですよ。」
私自身、以前職員として働いていたNPOでは「重要な活動なのに、どうして普通の人は関心を持ってくれないんだ!」なんて思っていたものです。しかし、CSCの方のお話を聞いていて、理解してもらうための工夫が足りなかったのではないか、どこか一人よがりになっていたのではないか、と反省させられました。寄附をいただくためには、セクシーでなくてはならないのですね。
CSCのホームページは、次のアドレスから読むことができます。
ホームページ:http://www.cshares.org/
(2003.07.24)