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新!特別連載コーナー

2007年08月23日 16:16

第四回 アメリカン・インスティチュート・フォー・キャンサー・リサーチ

コーナーのご紹介:

 2002年5月、シーズは国際交流基金日米センターの助成を受けて米国を訪問し、米国の NPOや財団、そして企業は寄附をどのように捉えているのか、またNPOは募金のためにどのような努力をしているのかを調査してきました。

 この特別コーナーでは、10回にわたってこの調査旅行で出会ったNPOや財団の募金担当者(fundraiser)、また企業の社会貢献担当者のインタビューをご紹介します。米国ならではの考え方もありますが、日本のNPOが参考にできるところもたくさん見つかるはずです。

 この調査発表は、国際交流基金日米センターの助成事業です。


第四回 アメリカン・インスティチュート・フォー・キャンサー・リサーチ

(2002年5月7日訪問)

 連載第四回目は、ワシントンDCに本部があるアメリカン・インスティチュート・フォー・キャンサー・リサーチ(American Institute for Cancer Research:AICR)です。

 AICRは1982年に設立されたNPOで、がん予防のための栄養や食事に関する研究助成と、がん予防に関する教育プログラムを開発・実施しています。また、がん予防に関する国際会議の開催や、専門家・一般の双方を対象とした出版物も発行しています。

 アメリカでは3番目に大きいがん関連のチャリティ団体ですが、政府、企業、特定の利益を目的とした組織からは援助を受けないという方針です。

 AICRが設立された直後、全米科学アカデミー(National Academy of Sciences:NAS)が「Diet, Nutrition, Cancer(食生活、栄養とがんの関係)」という報告書を発表しましたが、AICRではNASの許可を得て、この報告書を全国3万人の科学者、保健関係者に配布しました。この報告書は大きな影響力となり、その後多くの関連の研究が全国的に行われることになり、AICRはそれに助成を行ってきました。その後の調査の結果、がんの30%~40%が食生活、運動、体重に直接関係していることが判明しました。

 また、AICRは World Cancer Research Fund International(本部:英国)のメンバー団体にもなっています。

 2001年の収入は、約3800万ドル(約46億円)でした。

 お話を伺ったのは、副代表のキャスリン・ワードさんと、人事・総務部長のジョン・マッキルビーンさん。ダイレクトメールと遺贈寄附について、詳しくお話を伺いました。

 右からジョン・マッキルビーンさん、調査員の轟木、キャスリン・ワードさん、調査員の松原とリチャード・フォレスト


 「多くの人が、癌患者を親戚に持っています。しかし、遺伝は癌の重要な要素ではありますが、研究によるとたった5%の発癌要素でしかないということです。その他の要素の方が圧倒的に大きいのです。約20年前にこの団体ができた時、食生活はそれほど癌の要素として重要だとは思われていませんでした。しかし、この20年間で、科学も食事と癌との関係について証明してきました。

 私たちは、集めたお金で概ね2つのことをしています。ひとつは、研究のための助成金を出すことです。私たち自身で研究をするのではなく、例えば、乳癌、大腸癌、繊維癌などについて研究する大学の研究者などに助成しています。

 もうひとつは、普通の人を対象とした教育プログラムです。数々のパンフレットを作って、肉の量を減らし、果物や野菜を多くとるように呼びかけています。ご存知のように、米国人はたくさん食べますし、肉が大好きです。そこで、絵を多用したパンフレットで、肉を少なくして、多くの野菜をとるようにと呼びかけているわけです。常識的に、野菜や果物は体に良く、肉のとりすぎはよくないということは、米国人もわかっています。そこで、実質的に食生活を変えられるようにさまざまな調理法もパンフレットで紹介しています。

 野菜や果物を増やし、動物性たんぱく質を減らす食事を呼びかけるパンフレットから。癌予防になるレシピが紹介されている。

 この主要な二つの活動に加えて、セミナーや会議も開催しています。例えば、明日はシカゴで、そこには癌を克服した人たちに話してもらう会議を予定しています。

 調理法のパンフレットについては、フリーダイヤルで多くの人が入手したいと電話をかけてきます。その他にも基本的な質問などの電話があります。平均すると、カスタマー・サービスの部署では一ヶ月に20,000件もの問い合わせの電話を受けています。

 こうした問い合わせに対して資料を送ったり、夏にはバーベキューの時に焦がさないで肉を焼く方法などのパンフレットも郵送します。ですから、この建物の地下は発送室になっていて7人が働いています。

 さて、募金活動ですが、私たちの募金ツールはダイレクトメールです。収入の3分の2はダイレクトメールからのものです。年間3千万通出します。このダイレクトメールは、本当に普通の人に出すのです。だいたい一人が寄附する額は、10ドルとか20ドルとかくらいで、あまり大きな額ではありません。100ドル以上寄附してくださった方には、必ず電話をして感謝を伝え、その後、お礼状を送ります。このお礼状には、私たちがどういう活動をしているかがより詳しく書かれていますから、次の寄附にも結びつきます。250ドル以上の寄附者には、もちろん電話もしますし、お礼状も送りますが、電話での会話に出てきたもの、例えば調査報告書なども送るようにしています。それに担当者の署名もきちんとして、この団体との関係がより強くなるようにしています。私たちの団体では、500ドル下さる寄附者は「大口寄附者」ということになります。

 ここでは、会員制をとっていません。ただし、資金集めのためのキャンペーンを「メンバーシップ・キャンペーン」と呼んでいて、年に2回実施しています。このキャンペーンでは、一回あたり25万人のボランティアを募集します。つまり、年間では50万人のボランティアが活動する訳ですが、このボランティアの方々が近所の人たちに寄附依頼の手紙を送るのです。

 ボランティアの方々には、こちらからダクレクトメールのキットを送ります。これには、15通の手紙、封筒、そして小切手を入れて返送してもらうための返信用封筒などが入っています。それに、このボランティアの方が住んでいる通りの居住者で、過去に寄附をした人のリストも送ります。ボランティアは、自分でその近所の方々に宛名を書いて、自分で買った切手を貼って送るのです。

 寄附に応じる人は、小切手を切って封筒に入れ、ボランティアに宛てて送ります。ボランティアは、そうした小切手をまとめて、私たちのところに送付してくれます。小切手の受取人は、この団体ですから、どこかでうやむやになるということはありません。

 こうしたボランティアには、お礼状は送りますけれど、他には特別には何もしていません。しかし、この国の人は、こういうことをするのですね。他の団体、たとえば心臓病協会、白血病協会などでも、こういう募金活動をしています。これは、米国の伝統かもしれません。

 もし、ボランティアのインセンティブになるものがあるとすると、私たちの「癌予防」というメッセージでしょうか。予防に力を入れて募金活動をしているところは他にはありませんから。

 こうしたボランティアの多くは、高齢者です。もともとは寄附者であった人ですが、その後、収入も固定したために、金銭的支援が難しくなった人たちです。しかし、彼らには、時間と行動力、そして切手代くらいはありますから、協力してくれています。

 熱心に話をしてくださるキャスリン・ワードさん

 ボランティアを選ぶにあたっては、この国のすべての通りの名称などを網羅したデータベースを利用します。将来は全州でやりたいのですが、今は22州を見ています。そして、ひとつひとつの通りについて、まず昨年のボランティアに依頼してみます。それでだめだったら、その近所で最近寄附した人に依頼してみます。その人もだめだったら、以前寄附したけれど、ここ3年間はしていない人に頼みます。もしその人もだめだったら、その通りはあきらめます。でも、毎年やっていますから、以前からやっている地域ではボランティアの人脈がすでにかなり広がっています。

 なお、ボランティア募集の電話かけのためには、1200人もの人が必要ですから、これは外注しています。

 過去の寄附者のリストは、かなりの数にのぼっていますが、新しくダイレクトメールの宛先リストを得ようとする時には、他の団体とリストを交換するということもします。この国では、チャリティ団体間でのリスト交換は普通のことです。また、交換ではなく、貸し借りもあります。私たちの団体の収入のうち、150万ドルはリストの貸し出しによるものです。ただ、寄附者がリストの売買や貸し借りに入れてほしくない、という場合にはちゃんと除くようにしています。

 他の収入としては、近隣の家を訪問して回る募金方法もやっていますし、遺贈の寄附プログラムもあります。

 遺贈は、遺言状に寄附の約束を書いてもらうわけですが、大きな寄附額が見込めます。遺贈プログラムも、ただ待っているのではなく、電話してお話するなどの総合的なアプローチ方法をとっています。

 日本でもそうかもしれませんが、この国では遺言状を書かないと、州政府がその財産の行き先を決めてしまいます。遺族がいる場合には、相続した人が大きな税金をとられるということもあります。ですから、チャリティへの寄附を書く遺言状は大切なものなのです。それなのに、あまり遺贈について人は話したがらないものです。ですから、私たちが遺言の残し方などの情報を提供すると随分と感謝されます。そして、遺言状に私たちへの寄附も書いてくれたりするのです。なかなかセンシティブなことですから、最初は私たちも随分心配しましたが、今までこのことで怒りの電話をもらったことはありません。

 遺贈プログラムでアプローチする対象についてですが、すでにダイレクトメールによって110万人ものデータを私たちは持っていますから、ここから50ドル以上の寄附者、8回以上寄附した人、65歳以上の人などのリストを選び出します。また、私たちのニュースレターは160万人に発送しているのですが、このニュースレターにも遺贈寄附に関しての情報を載せています。ですから、それを見て資料請求してくる人もいます。

 ところで、私たちは収入の32%を募金活動の費用と一般管理費に使っています。ベター・ビジネス・ビューローという団体は、非営利組織は75%を本来事業費にあてるように、と言っていますが、ダイレクトメールを主要な収入源としている団体であれば、30%以下の経費に納めるのは絶対に無理です。遺贈の割合が増えれば可能になるでしょうが、小口の寄附をたくさん集めている限り、これは無理な話です。

 私たちの団体のもうひとつの特徴は、企業や財団から大きなお金を受け取っていないということです。統計によると、米国では企業からの寄附は全体の5%以下でしかありません。財団も、多くは小さな個人財団ですから、そういうことを鑑みると、この国の寄附の90%は個人からのものなのです。個人がもっとも寛容な寄附者といえます。

 確かに少数の企業は多額の寄附をしていますが、そういう企業は何かしら見返りを求めています。例えば、別の癌に関するNPOは、ある飲料水会社から寄附をもらいましたが、この企業は「私たちのジュースは癌予防になる」と広告に使っているのです。私たちは、いかなる製品についても、それを保証するようなことはしたくありません。ですから、私たちは、もっぱら小口の個人寄附者から寄附を募るようにしているわけです。」


 年間50万人のボランティアが、15通ずつのダイレクトメールを出す「しくみ」には、とても驚かされました。また、米国では遺贈寄附は一般的だと思っていたのですが、やはり最初はセンシティブな問題なので不安だったとのこと。しかし、実は求められていた情報だったということを考えると、案外、日本でもニーズがあるのかもしれません。

 アメリカン・インスティテュート・フォー・キャンサー・リサーチのホームページのアドレスは、次のとおりです。 http://www.aicr.org/

(2003.06.11)

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