自民党NPOシンポ報告
「これからのNPO・NGO並びに市民活動を考えるシンポジウム」
平成16年3月30日16時から、永田町にある自民党本部で、「これからのNPO・NGO並びに市民活動を考えるシンポジウム」が開催された。主催したのは、今年1月に自民党内に設けられた自由民主党組織本部団体総局NPO・NGO関係団体委員会(熊代昭彦委員長)。
このシンポジウムの目的は、NPO・NGOとの交流を推進し、NPO・NGOに関する諸問題について意見交換して政策に反映していくこと。
当日、会場となった自民党本部8階のホールには、全国から157団体約350名のNPO・NGO関係者が集まった。
シンポジウムのコーディネーターは、NPO・NGO関係団体委員長の熊代昭彦衆議院議員。
シンポジストは次の6氏
- 有村治子参議院議員
- 塩崎恭久衆議院議員(NPO・NGO関係団体副委員長)
- 下村博文衆議院議員(NPO・NGO関係団体副委員長)
- 大西健丞氏(ピースウィンズ・ジャパン統括責任者)
- 中村国生氏(東京シューレ事務局長)
- 松原明(シーズ=市民活動を支える制度をつくる会事務局長)
第一部 シンポジウム
始めに、NPO・NGO関係団体委員長の熊代昭彦衆議院議員から、次のような開会基調挨拶があった。
熊代昭彦衆議院議員(NPO・NGO関係団体委員長)
今日は、全国のNPO・NGOの関係者と一堂に会して、互いに交流を深め、率直な意見交換をしていきたいと願っている。
自民党は、NPO・NGOの活動を推進するための社会的な仕組みづくりに取り組んできた。なかでも、昨年、法改正されて、認定要件が緩和された認定NPO法人制度による支援税制は、NPOを支える寄附者の税の減免と、みなし寄附金制度の導入により、NPO活動の活性化が大いに期待できるものだ。しかし、現実にはまだまだ認定NPO法人の数は少ないので、よりいっそうの要件緩和が必要だろう。
そこで、自民党NPO特別委員会は、昨年12月、「平成16年度NPO関係税制改正重点要望事項」をとりまとめ、自民党税制調査会に提出した。要望事項には、「日本版パブリックサポートテストの計算式の修正として、国、地方公共団体、国際機関、公益法人、特殊法人又は独立行政法人からの補助金・助成金・委託事業費については、分母・分子の両方に全額算入できるものとすること」を盛り込んだ。こうすることで、よりいっそう認定が受けられやすくなると期待した。しかし、政府関係者から「今年は、4月に認定要件を緩和したばかり。それで申請が伸びていないのだから、なぜ伸びないのかという原因の実態調査などをしないと改正は難しい」といった意見が出て、残念ながら、現時点では実現に至っていない。今後も引き続き要件緩和にむけてがんばっていきたい。とりわけ、今日、認定要件のうち日本版パブリックサポートテストの計算式において、「分母から本来事業の収入を控除する」ということを今年改正の重点におくということを提案したい。このことは今から皆さんと話し合って決めていきたいと思っている。
続いて、パネリストの6氏が問題提起を行った。
有村治子参議院議員
議員になったのは、生活者の声を政治に届けたいと思ったからだ。昨年11月に母親になって国会と子育てに奮闘している毎日。子育てを経験して、初めて気づいたことも多い。そうしたことをNPOの皆さんと一緒に考えて、課題を解決していきたいと願っている。今日は、NPO・NGOの皆さんと対話するいい機会に参加できて嬉しく思う。NPOやNGOの活動の現場で蓄積された知識や経験を政策に反映していきたい。
塩崎恭久衆議院議員(NPO・NGO関係団体副委員長)
国際的な支援活動をしているNGOの活動に関わってきて、アフガニスタンやイラクといった紛争地域にも行き、現地で活躍する日本のNGOを目の当たりにして頼もしく思った。一方、地元では商店街の空き店舗などを活用した子育て支援のNPOの活動などを知るにつけ、そうした地域の市民による活動の重要性に注目している。そうしたNPO・NGOが活動しやすい社会的な仕組みを整備することが政治の役目だと思っている。とくに、支援税制をさらに整備しなくてはならない。認定要件の日本版パブリックサポートテストの分母・分子に国、地方公共団体、国際機関、公益法人、特殊法人又は独立行政法人からの補助金・助成金などが入れられないということは、官と民のパートナーシップの推進の妨げになる。民と民、官と民が支えあって公益活動を実現していくためにも支援税制の改正をしていきたい。
下村博文衆議院議員(NPO・NGO関係団体副委員長)
教育分野でのNPOの活動に注目している。構造改革特区では、すでに教育分野へのNPOの参入が始まっている。不登校、学習障害児など、公教育からドロップアウトした子どもたちを支援するためには、NPOなどによる多様な教育環境の整備が不可欠だ。実際、各地のNPOが開設したフリースクール、フリースペースなどで多くの子どもたちが学んでいる。ただ、現状ではフリースクールなどで学んでいる子どもたちのほとんどは、義務教育では学籍が学区域の学校に置かれ、形式的にそこを卒業したことになるといった実態もある。そういうギャップを解消していくことも大切だと思う。民間公益活動の活性化のために、NPOをバックアップする政策の実現に取り組んでいきたい。
大西健丞氏(ピースウィンズ・ジャパン統括責任者)
長年、紛争地帯での支援活動に取り組んできたが、過去には海外のNGOとの格差を実感することが多かった。自分たちが未熟だったということも否めないが、何よりも、日本の社会的インフラが整備されていないことが活動の発展を妨げていた。そうした問題の打開のために、ジャパンフラットフォームを設立して、政府拠出の公的資金や民間企業・市民からの寄附を財源として人道支援活動を行っていくスキームをつくった。様々なセクターが集まって決定していく仕組みが成功して、その結果、紛争地帯での日本の緊急援助活動が格段と迅速なものになり、海外のNGOと互角になった。ジャパンフラットフォームのシステムは、いわば日本のシビルソサエティの発展を促進する具体的な試みだと思う。大正デモクラシーで象徴されるように、政党というものはシビルソサエティの原点かもしれない。私党である自民党が政党機能をいっそう高めて、市民社会の実現にむけてNPO・NGOとともにがんばってもらえることを期待している。
中村国生氏(東京シューレ事務局長)
東京シューレではこの19年間で1000名を超える子どもたちが巣立った。ただ、公的に認められた学校ではないということから、卒業資格も得られず、進路につながらないのが実態。義務教育では、シューレの子どもたちにはそれぞれの学区域に在籍校があり、その「行っていない」学校には公的な財政支援があるが、フリースクールにはないので、親の経済的負担も重い。高校生になると通学の学割も無くなる。多様な選択肢があることは親にとっても子どもにとっても大切なことなので、公教育以外の教育の場にも経済的な支援が必要だと思う。シューレがNPO法人になって一番良かったと思うのは、公益的な活動をする団体として社会的な認知度が高いNPO法人が運営するところで学んでいるということで子どもたちが喜んでくれることだ。子どもたちが世の中に支えられて生きていることの実感として感じられる。先生、友達、地域の人、時には親からさえも疎外されていると感じて育ってきた子どもたちにとって、何よりの励ましになっている。また、こうした実感がさらに自分の将来を考える時の材料にもなっているようで、シューレを巣立ってからNPOでボランティアをしてみたい、将来はそういう仕事についてみようかという子どもたちも出てきている。
松原明(シーズ=市民活動を支える制度をつくる会事務局長)
10年前、NPOによる活動が社会を支える大きな役割を果たすことになると信じた人たちが集まってシーズをつくった。そしてNPO法をつくり、税制を整備することを行ってきた。現在、NPO法人は15000を超え、新聞にNPOという文字の出ない日はないほど、その認知度はたかまった。こうした状況は10年前には考えられなかったこと。一方、自治体、行政とNPOの関係は、パートナーシップという言葉のもとに推進されているが、きちんと対等な関係でいい成果をあげているかは疑問。企業とNPOの関係も行政のサービスが民営化されていくなかで競合する場面が増えている。悪いNPOの問題も出てきて、NPOの信頼性の確保も課題になってきた。市民、行政、企業の関係づくりが見直される時期が来ている。今後も政党とNPOの対話のなかで、認定NPO法人制度の認定要件の緩和、NPO法人制度の情報公開制度の強化、公益法人改革に関して意見の言える場の設定を、実現していきたい。
第二部 会場も交えての自由討論
次に、会場との自由討論が行われた。
参加者A:環境政策提言をしているNPO関係者
今日のような、NPOの意見を聞いて政策決定に反映してもらえる場を、もっとつくって欲しい。NPO施策ということでは、NPOの活動は分野、形態など多義にわたっている。それぞれの活動しやすい環境をつくることも希望する。
熊代議員:
NPOとの対話の場を増やすためにNPO・NGO関係団体委員会をつくった。今後は分野ごとにもきめ細かな交流をはかりたい。
塩崎議員:
自民党には部会があるから、そこに受け皿をつくればいいと思う。
参加者B:環境NPO関係者
環境NPOは、自然に対する活動を展開しているので対価を払う受益者がいない。そこで、補助金が頼りとなる。とはいえ、補助金は活動目的を限定したものなので事務局運営などに自由には使えない。そこで収益事業をすることになるが、課税されるとほとんど残らない。そういう税制面での優遇もあるといい。
熊代議員:
認定が受けられればみなし寄附金制度が適用される。そのためにも認定要件を緩和しないといけない。
松原:
できればみなし寄附金制度の限度枠を現行の20%から社会福祉法人並みの50%にしてもらいたい。
参加者C:環境NPO関係者
NPOの職員の低収入の実態を忘れないで欲しい。
大西氏:
アメリカでは公的補助金の15%を人件費として認める場合が多い。日本はほとんどゼロ。これを改善して、せめて10%くらいは認めるようにしてもらいたい。
塩崎議員:
NPO=ボランティアという発想が間違い。この発想を転換しないと民間公益活動の発展は望めないことになる。ODAについて言えば、アメリカはその3分の1がNGOを経由して実行される。日本はほんの4から5%。国内NGOに対してなら0.4%に過ぎないのが実態。これも改善して、もっとNGOを活用していくべきだ。
参加者D:手話教育のNPO関係者
NPO法人になったが、メリットが感じられない。文部科学省が、公教育でないことから、万事にわたり対等に扱ってくれない。
シューレの中村氏に聞きたいのだが、それだけ有意義なユニークな活動をして、「シューレなら行く」という子どもたちがいる現実から、文部科学省のほうから見学や視察に来るということはないのか?
中村氏:
地方の教育委員会などは関心をもってくれて視察に来ることもある。自分たちは、公教育を否定しているのではなく、教育における多様な選択肢を実現していきたいと願って活動していることを理解してもらえれば、そこに存在価値を認めて対等な関係も築けると思う。
下村議員:
現在、公立中学には一人当たり年間90万円、私立中学には30万円の私学助成金がでているが、企業立、NPO立の学校にはこうした助成金は出ない。神奈川の特区で、校有地をもたなくても学校法人が設立できるということで、NPO法人が学校法人になって学校を運営することになった。こうした形態が拡大すれば、私学助成金を得る道筋ができる。行政サービスについては、何事であれ、自治体なら、NPOなら、企業ならいくらで出来るのか、そして、提供されたサービスへの満足度はどういうことになったのかということを評価しながら、いい意味で競合していって欲しい。
ここで、会場に参加していた内閣大臣官房の河幹夫審議官(国民生活局担当)からの発言があった。
河審議官:
日本版パブリックサポートテストの計算式の修正として、国、地方公共団体、国際機関、公益法人、特殊法人又は独立行政法人からの補助金・助成金・委託事業費については、分母・分子の両方に全額算入せよとの意見が出ているが、これについては、「補助金」というものをNPO法人がどう評価して位置付けるのか見解を統一してもらえるといい。一部のNPO法人は、補助金頼みの活動は評価できないという意見を持っている。また、介護保険事業をしているNPO法人の場合を要件緩和によって認定NPO法人にするのが良いのか否かは意見の分かれるところだ。
情報公開については、内閣府は3月末からホームページ上で申請団体の縦覧、認証団体の事業報告などの閲覧が出来るようにしたので、是非活用して欲しい。3月26日からは、申請や届出がホームページ上で出来るような電子化も実現している。これも活用して欲しい。
その後、会場では以下のような発言がなされた。
有村議員:
かつて、難病の子どもを持つ親達と連携して、特定公益増進法人に関する税制改正に取り組み、実現に至った。一年生議員の自分にも出来たことが嬉しかった。そのとき、強い理念を持って、多くの共感者を巻き込んでいくことの大切さを実感した。政治には数の力も有効。政治とNPO団体とのコミュニケーションを大切にして、力を合わせて社会を変えていきたい。強い理念で、官僚すら巻き込むようなパワーを持とうではないか。市民活動と自治体、行政との対立構図を打開していく努力をしていきたい。
参加者E:海外援助NGO関係者
NGOは政府に反対するばかりの団体だと誤解されていた時期もあったが、今はそうではなくなり嬉しく思う。公的資金に関しては、かつては精算払いだけだったのが概算払いになって、活動がとてもやりやすくなり発展した経験がある。こうしたことが一般化することを望んでいる。
参加者F:NGO関係者
事務所の運営費を節約するために、自治体の有休施設を低廉な価格で貸し出してくれると助かる。
参加者G:福祉NPO関係者
財政で苦しんでいる。各地に社協などのNPO支援組織が出来ているが、やはり行政のなかに市民活動を積極的に支援する部署を設置してほしい。社会福祉法人に比べて、NPO法人が信頼度の面でまだ低い位置にあるのが残念。
参加者H:NPO関係者
NPOと自民党の交流が深まって、互いの距離が近づいてきているのが感じられる。今日のような場をたびたび、また、各地で設けてもらいたい。
参加者I:NGO関係者
ODAにおけるNGOの活用を具体的な数値目標を示しながら推進してもらいたい。人件費などの管理費に対する補助も欲しい。
最後に、シンポジストから下記のコメントがあった。
下村議員:
今後もNPO・NGOとの接点を増やしていきたい。自民党の各部会にそういう場を設けていければ、個々の分野での交流が深まっていい結果を生むと思う。
塩崎議員:
何よりもコミュニケーションが大事。各議員がホームページを持っており、メールアドレスも表示しているので、そういうものも活用して欲しい。民間による公益の実現をNPOが担うことで、新しい社会の仕組みを作っていって欲しいと願っている。
有村議員:
与党の強みは出来ることと出来ないことの境目が明確なこと。交流を深めて対話していくことで、出来ることをどんどん実現し、必要なことは、今、出来ないことも可能にするように頑張っていきたい。
大西氏:
NPO・NGOの活動に必要な財源について議論されてきたが、公的な資金と寄附金などの市民から得る資金とのバランスが大切だということを付け加えたい。
中村氏:
今日は、自民党本部でも市民集会が出来たとのだと嬉しく思っている。
松原:
NPOは新しい社会の仕組みだ。それを支える仕組みもつくっていかなくてはならない。そのためにはNPOと政治の対話が大切。その意味で、今日のシンポジウムは大きな進展につながるものだと思う。
その後、党本部9階に会場を移して、18時からレセプションがおこなわれた。
はじめに、谷津義男組織本部長が「NPOとの連携でNPO法を議員立法した実績がある。党としては今後も、NPO・NGO関係者の意見を政策に反映していくために、各地でこうした意見交換の場を設けていきたい。」とレセプション開始の挨拶をした。
続いて額賀福志郎政務調査会長が「地域コミュニティの連帯を取り戻すことが求められている。そうした場面でNPOに活躍してもらいたい。行政の行き届かない公的なサービスの隙間を埋めていくことでもNPOは高く評価されている。自民党として、このような重要な活動を担うNPOがもっと活躍できるような環境をつくる取り組みを続けていきたい。」と挨拶。
竹山裕参議院議員会長は、「今日は、全国からこんなにも多くのNPO・NGO関係者が参加してくださり、有意義なシンポジウムとなった。自民党にとって歴史的な日だった言える。これからも日本国内、世界のために貢献する活動を続けていってもらえるよう応援している」とエールを送った。
そして、小池百合子環境大臣は、「NPO法人が15000を超えたのはすばらしいこと。個人の持つ眠れる資産が、もっとNPOに流れていくべきだと考えているので、皆が寄附をしやすくするための支援税制の充実に取り組んでいきたい。」と述べた。
さらに、茂木敏充国務大臣が「全国のNPOのいっそうの活躍を願っている。そのためにも、NPO側から出ている税に関する要望をしっかりと受け止めていきたい。」と述べ、会場に駆けつけた議員達とNPO・NGO関係者との懇談が始まった。
その他、レセプションには、シンポジウムに参加した熊代昭彦衆議院議員、有村治子参議院議員、塩崎恭久衆議院議員、下村博文衆議院議員をはじめ、今井宏衆議院議員、自見庄三郎衆議院議員、小杉隆衆議院議員、小林興起衆議院議員、渡辺博道衆議院議員ら国会議員が次々と来場して、終了時間の19時半まで参加者との意見交換、歓談の輪が広がっていた。
以上
報告者:徳永洋子(シーズ)
2004.04.08