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NPOの信頼性

2007年08月23日 17:49

訪米調査の事例から(7)メリーランド・ノンプロフィッツ

2005年9月5日から17日まで、シーズでは国際交流基金日米センターの助成を受けて、米国のワシントンD.C.、ボルチモア、ニューヨーク、シカゴ、インディアナポリスの5都市を訪問しました。訪問団は、シーズ事務局長・松原明、茨城NPOセンターコモンズ事務局長の横田能洋、グローバル・リンクス・イニシャティブ事務局長の李凡、シーズ・プログラムディレクターの轟木洋子の4名(敬称略)で構成。NPOの信頼性に係る日米の現状、また信頼性向上のための取組みなどについて、23の団体を訪問し、米国側の専門家たちと意見交換をしてきました。

そのなかで、特に印象に残り、日本の皆さんにも参考になると思われる15の記録をご紹介します。

※ご紹介する方々の肩書きや団体の活動などは、訪問当時のものであり、その後、変わっている可能性があります。ご了承ください。また、文責はシーズ事務局にあります。

第七回 メリーランド・ノンプロフィッツ

CEO・ピーター・バーンズ氏
2005年9月8日(木)訪問

メリーランド・ノンプロフィッツの正式名称は、メリーランド・アソシエーション・オブ・ノンプロフィット・オーガニゼーションズ。1992年の設立で、メリーランド州全体のNPOの理事や職員、ボランティアリーダーを巻き込んで、NPOやフィランソロピー業界の総合的な取組みとして始まった活動。州内の1580ものNPOが会員。スタッフは約30名。NPOの運営や倫理の規定である「スタンダード・フォー・エクセレンス」をつくり、州内だけでなく全米に普及する活動をしている。組織内のこの事業部門は「スタンダード・フォー・エクセレンス・インスティチュート」と呼ばれている。

他にも、NPOの運営、会計上のアカウンタビリティを促進し支援する活動、政策提言、コンサルティングなどの事業を行っている。

訪問したのは、ワシントンD.C.とニューヨークの中間に位置するメリーランド州ボルチモアの事務所。他に、同州内のシルバースプリングにも事務所を置いている。


訪問団:

 まず、このメリーランド・ノンプロフィッツがどういうことをされているのかをお話いただきたい。

バーンズ氏:

 メリーランド州内の会員NPOの支援をしている。会員NPOの数は現在1580。会費は、NPOの規模によって異なり、最低が100ドルで、最高は2500ドル。事務所は、ここメリーランド州ボルチモアと、ワシントンDCの郊外にある。

会員NPOからの相談を受け付けており、専門知識を持った私たちの職員が答えている。また、資料室を備えており、ここでは会員が自由に資料を閲覧できる。書籍や資料の検索リストも開発しており、ホームページにも掲載しているので、必要とする資料をあらかじめ探してから資料室に来ることもできる。

ワークショップ・セミナーにも力を入れており、一年間で160回ほど実施。メリーランド州内のあちこちで開催しているが、およそ半分はこの事務所内で催している。

また、いわゆる集団購入も行っている。いくつかのNPOが集まって集団で購入すれば割引を受けられたりするため、保険とか、職員の福利厚生関係なども集団で購入している。

昨年一年間で、2400のNPOのサポートをした計算になる。

訪問団:

 NPOの信頼性については、どのように捉えているか。

バーンズ氏:

 米国で全国レベルでNPOを監督するのはIRS(内国歳入庁:日本の国税庁にあたる組織)だが、職員が不足している。州レベルでは、州の司法長官がその責務を負っているが、50州のうち19州の司法長官が現行法の改正を要求している。そのため、行政がより厳しい規制をかけてくるのでないかという危惧はある。

その一方で、依然としてNPOの不祥事が続出している。日本のように暴力団が関係するケースは聞かないが、悪意を持った人たちがNPO運営を乱用していることはよくある。

著名な団体でも、ユナイテッド・ウェイ(米国版の共同募金)や赤十字の役員の給与が高すぎるとか、出張が豪華すぎるなどの批判があり、メディアが告発記事を書いた。こうしたケースは時間がたってもなかなか国民の記憶から薄れないため、NPOを見る目が懐疑的になってきている。そして、どこに寄附をしていいか分からなくなってきている。

訪問団:

 そうしたデータはあるのか。

バーンズ氏:

 ある調査では、NPOが「非常に良いことをしている」または「良いことをしている」と答えた人は82%だったが、その手法に対しては「まったく評価していない」または「あまり評価していない」が32%もあった。「まあまあ評価している」も50%あるが、積極的に評価していたり支持している割合は少ない。また、お金の使い方については、「まったく賢明な形で使っていない」と「あまり賢明な形で使っていない」が26%もあった。「賢明に使っている」は51%、「非常に賢明に使っている」は11%だが、またNPOの不祥事があれば、この数字も変わるだろう。また、メリーランド州内の個人を対象にした調査では、名前を聞いたことのないNPOから「寄附してください」と頼まれた時に不信感をもつかと聞いたところ、64%が不信感を持つと回答した。

しかし、NPOへの期待は非常に高いことも分かっており、そこにギャップがあることがわかる。NPOを対象に「事業を評価するシステムが必要か」と聞いたところ、81%があった方が良いと答えているが、実際に所属するNPOにそうしたシステムが導入されていたのは48%にとどまった。ここにもあるべき姿と、実際の姿にギャップがある。

そこで、市民を対象にした世論調査で、NPOを規制する方法として何が必要かを問うた調査をみると、「より多くの法規制を設けること」も32%あったが、一番多かったのは「NPO自身による自己規制」で44%だった。両方の組み合わせがよいとの回答は21%だった。

訪問団:

 このメリーランド・ノンプロフィッツは、そのNPOによる自己規制に関連する事業をされていると聞いている。

バーンズ氏:

 3つのことに取り組んできた。1つは、スタンダード・フォー・エクセレンスというNPOの運営基準の作成、2つ目はその教育啓蒙活動、そして3つ目はこの基準を満たした団体の認証システムである。

まず、1つ目の取組みのスタンダード・フォー・エクセレンスだが、これはアカウンタビリティを高め、しっかりしたガバナンスのためのガイドラインのようなもので、8つの原理原則・指針と、55の基準から構成されている。

この8つの指針のうちの1つ目は、NPOの目的(ミッション)と実際の事業に関するもの。ミッションを詳細に分析して、事業がはたしてそのミッションにあった形で行われているかどうかを評価する仕組み。

2つ目は理事会に関するもので、無報酬のボランティアによって構成された理事会が、そのNPOの運営方針を決定し、人的資源や財源を確保し、財務や活動内容について監督しなければならないというもの。

3つ目は利益相反(利害の衝突)について。NPOは、役員や職員、ボランティアなど、特定の個人や第三者の利益のためではなく、公共的な利益を追求するものであるため、これを明確にすべきだという内容である。

4つ目は人的資源に関するもので、職員やボランティアに係る人事方針や職員の実績評価などに関する方針だ。

5つ目は、財務と法務に関するもので、正確な会計が記録されており、資金がNPOの目的推進ために使われていることを保障すべきということと、さまざまな法律や規則を遵守すべきであるという内容。

6つ目は情報公開に関する点であり、NPOはガラス張りでなくてはならないというもの。

7つ目は資金調達(ファンドレイジング)に関するもので、募金活動においては、NPOの目的や資金の使途について正しい情報を与え、また寄附者のプライバシー保護にも努めなければならないという指針。

8つ目は、いわゆるアドボカシー(政策提言)と広報活動について。NPOは、政策提言や啓蒙活動をすべき組織であり、一般市民の参加を奨励しなければならないし、そのために理解しうるに十分な状況を提供しなければならないという内容である。

こうした8つの指針は、特に目新しいものではないが、こうして説明することにより応用しやすくなる。

2番目の取り組みであるスタンダード・フォー・エクセレンス(基準)の教育啓蒙活動だが、この普及のためのセミナーやワークショップを開催しているし、この指針を実際に応用して守っていくための教育的な材料も開発した。22もの教材が入っているパッケージだ。例えば、利益相反(利害の衝突)を回避する決まりごとを現在持っていないとすれば、どうやって導入すればよいかなどの教材を提供している。パッケージにはモデルとなる指針が入っている。NPOをよりよく変革していこうとするときに、パッケージは簡単に改良しながら使えるようになっている。

三番目の取組みは、認証システム。スタンダード・フォー・エクセレンスを導入したNPOが、その認証を受ける仕組みである。NPO自身が認証申請して、私達が認証する仕組み。私たちの組織の会員NPO数は1580とお伝えしたが、そのうち認証を受けているのは55だけ。ハードルはかなり高い。だから、これはいわば褒章のようなものである。

訪問団:

 このスタンダード・フォー・エクセレンスの導入は、メリーランド州内だけにとどまっているのか。

バーンズ氏:

 この取り組みは1998年から開始したが、発表したら全国から関心が集まり電話が殺到した。それに応えるべく、2001年から2003年まで、5つの州のNPO支援団体がコピー版をつくる活動を始めた。この結果、このスタンダード・フォー・エクセレンスの基準は、どこの州でも応用できることがわかった。

他州で内容を変えたい場合には、私たちが許可した場合は変えてよいことにしたが、ほとんどはそのまま導入されている。

訪問団:

 スタンダード・フォー・エクセレンスを導入した他州のNPO支援団体は、お金を支払うのか。

バーンズ氏:

 契約期間の最初の1年間は1万5千から3万ドルを受け取る。その後、2年目、3年目と徐々に金額は小さくなる。スタンダード・フォー・エクセレンスは、私たちが長い年月をかけて開発したものだが、1万5千から3万ドル出せば、6ヶ月間くらいの準備で完全な形のスタンダードを導入できる。

訪問団:

 米国全体ではいくつのNPOがこの認証を受けているのか。

バーンズ氏:

 現在は110団体。しかし、認証団体の数が大事なのではない。むしろ、この基準を導入しようとして地道に努力をする団体が増えることが大事。ある意味で、認証を受けた団体は、全体の基準を上げるための旗振り役になって、他の団体はこれにならって欲しいと思っている。

訪問団:

 認証を得るためにはお金を払うのか。その認証はずっと有効なのか。

バーンズ氏:

 認証を受けると、認証を受けたことを示すシールが渡される。認証を受けたNPOはこれをホームページやその他の媒体に示すことができるが、この認証シールの有効期限は3年間。認証申請には400ドルかかり、2年目と3年目には150ドルずつ支払う。再申請の際はまた400ドルが必要だし、その後も毎年150ドルを支払うが、2回目以降の認証有効期間は5年間となる。これまで、再申請の段階で認証を受けられなかったNPOもあったし、途中で認証を取り消したNPOもある。NPO側から、再申請はしないと決めたところもいくつかあった。

訪問団:

 認証を受けるための準備にだいたい1年くらいかかるとのことだが、その段階でプロのコンサルタントが入るのか。

バーンズ氏:

 そういうことはある。そのため、コンサルタント向けの研修をメリーランド州ではすでにやっているし、全国規模でも始めたところだ。

訪問団:

 せっかく認証シールを受けて、それを掲示していても、一般の寄附者がその意味を知らないとあまり効果がないように思う。一般向けの広報はしているか。

バーンズ氏:

 認証シールを授与する時には、これを広報するための材料も提供している。例えばメディアにそのまま送ればいいニュースリリースや、そのままNPOが自分の機関誌に掲載すればいいような記事の原案などだ。また、私たちもたとえば地元の新聞に、「NPOへの寄附ガイド」のような記事を掲載してもらい、そこに認証したというニュースを扱ってもらうなどしている。この広報も、私たちの活動の大事な柱で、力を入れ始めている。

訪問団:

 NPOのなかには、これを新たな規制と考えて嫌がるところはないのか。

バーンズ氏:

 懸念する声はあったが、批判とか嫌がるというところまでは行っていない。私たちは、こうした包括的な基準は、法律で定められるべきものではなく、NPOが自律的にやるものであることを明確にしている。

数年前、日本を訪問し、この基準について説明をしたことがある。日本でも、この基準がNPOの自己規制の議論の出発点に使えないだろうかと思っている。


スタンダード・フォー・エクセレンスは、NPOの信頼性を高めるひとつの方法として、全米でも注目されているようだ。同時に、今後、これがどのように全米に向けて拡大していくかも、興味をもたれているようだった。このスタンダード・フォー・エクセレンスをシーズでは仮訳しているので、希望する方は、シーズ事務局までメールでご連絡ください。

2006.12.12

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