「市民活動の事業・財源開発ABC」研修シリーズ報告
シーズでは2003年2月、東京ボランティア・市民活動センターからの助成を受け「シーズ・NPOマネジメント研修『市民活動(NPO)の事業・財源開発ABC』」を6回シリーズで開催した。
開催日時とタイトル、講師は以下のとおり
- 【第一回】2月12日(水)「事業・財源開発の基礎I 事業戦略のポイント」
シーズ事務局長 松原 明
- 【第二回】2月14日(金)「事業・財源開発の基礎II 財源開発のポイント」
シーズ事務局長 松原 明
- 【第三回】2月19日(水)「NPOの事例から(1) 『環境市民』から学ぶ」
環境市民代表理事 すぎ本育生氏
シーズ事務局長 松原 明 - 【第四回】2月21日(金)「NPOの事例から(2) 『難民支援協会』から学ぶ」
難民支援協会事務局長 筒井志保氏
シーズ事務局長 松原 明 - 【第五回】2月26日(水)「NPOの事例から(3) 『東京シューレ』から学ぶ」
東京シューレ事務局長 中村国生氏
シーズ事務局長 松原 明 - 【第六回】2月28日(金)「事業・財源開発の戦略 まとめ」
シーズ事務局長 松原 明
シーズ事務局 轟木 洋子
6回シリーズの内容の要旨は次のとおりである。
1.基礎知識
(1)非営利、有償/無償、(無)報酬の違い
市民活動団体(NPO)は「非営利」だが、これは儲けた利益を仲間(会員、寄附者、職員など)で分配しないこと指しているのであって、団体が行う財やサービスの提供が無料か有料か(有償/無償)を指しているのではない。団体が有料で財・サービスの提供をすることと「非営利」とは全く違う概念。また、「非営利」だからボランティアだけで運営しなければならない、ということはない。職員を雇用して給与を支払うことは可能で、この給与は経費である。「非営利」であることと「(無)報酬」であることも全く違う概念。
(2)市民活動団体の8つの資金とそれぞれの特徴
市民活動団体の資金となりうるものには、次のようなものがある。これらの特徴をよく知っておく必要がある。
- 会費:次の2種類
- 対価性のない会費:団体に対して一定期間、定期的かつ継続的に提供される寄附的な会員からのお金。団体からは商業的価値のある財・サービスの提供はない。一定程度の安定性があり、自由度も高い。会員は、会費を支払うことでNPOを支え、かわりに会員という地位を得る。
- 対価性のある会費:サービス利用会員の支払う会費など。財・サービスの対価であり、いわば事業収入。
※ただし、上記がミックスされた会費あり
- 寄附金
継続性がなく、NPO(またはその事業)に対して賛同した者から、自由意志で見返りを期待せずに拠出されるお金。NPOの活動全般に対して受けた寄附金は自由度が高いが、一定の事業などに指定を受けた寄附については使途が限られる。 - 本来事業による収入
NPOの目的に沿ったサービスや資材の提供によって、利用者や購買者から料金や代金などの形で対価を得て行う事業からの収入。介護保険事業の国保連からの還付金もこれに含む。また、行政や企業からの委託事業もこれに含まれることが多いが、この場合はNPOの自由度は低下する。また、市場経済の影響を強く受ける。 - 非本来事業による収入
NPOの本来の目的とは直接関係のない財・サービスの提供によって得られる収入(例えば、国際協力NPOがクリスマスカードを販売するなどして得た収入など)。自由度は高いが、あまりにこの事業に力を注ぐと、本来事業に支障をきたす。また、市場経済の影響を強く受ける。 - 助成金
- 財団法人
- 事業財団・・博物館/美術館など
- 助成財団・・助成金を出すことで自らの目的を達成(奨学金等)
ほかに、基金や公益信託など
※助成金は、NPOの活動を支援する為ではなく、自らの目的達成のために提供。NPOはパートナーである - 財団法人
- 補助金
NPOの活動が行政の目的と合致した時に提供される。ただし、事業費の一部のみの補助の形が多い - 金利
資金の運用益。ただし、一定以上の資金がないと期待できないし、金利の変動にも影響される。 - 借入金
いわゆる借金なので、返済が必要。
2.市民活動団体(NPO)にとっての「事業」とその課題
- 対価を得られない事業
市民活動団体が行う事業の特徴であり、かつ課題でもあるのは、対価を得られない事業があるということ。例えば、難民に食糧や住居を提供する時、サービスの受け手である難民からは対価を受け取ることはない。環境団体がイルカの保護をやったところで、イルカはお金を払ってくれない。しかし、ここが市民活動団体のダイナミズムでもある。 - 財源が安定しない
企業であれば、製品が売れ、サービス利用者が増えるほど利益もあがるが、市民活動団体の場合は、事業が忙しくなることと、収入増加は比例しない。むしろ、事業が活発化すると資金が追いつかなくなることがある。 - 「儲けてはいけない」という常識の壁
非営利とは、利益を分配しないことであり、利益があげてはいけないという意味ではない。しかし、一般的にはまだこの原理が理解されているとはいえず「非営利団体なのに儲けている」という意識で見られることがある。
3.市民活動団体(NPO)を取り巻く社会環境の変化
市民活動団体が資金を得て、活動を展開していくためには、社会環境をよく知る必要もある。例えば、次のような社会変化がある。
- 市民ニーズの多様化と行政の財政・機能の限界
- 助成財団の現状(金利の低下、親企業の合併・解散・経営難、スタッフの減少など)
- 行政の補助金の問題点と課題、補助金改革の始まり
- 行政の外郭団体(特殊法人等)の資金の枯渇と行政による監督強化
- 委託事業などのNPOへのシフトとパートナーシップの発展
- 企業の社会貢献活動の活発化とパートナーシップ戦略の発展、経済情勢の悪化
- 経済情勢の悪化による市民からの寄附等の減少と選別化(コストパフォーマンス重視)
- 問題を起こすNPO法人などの顕在化
つまり、市民活動団体(NPO)は、社会環境の変化に敏感である必要があるとともに、競争環境にも備える必要がある。これは、市民活動団体(NPO)にとってのチャンスでもある。
4.事業開発のモデル
事業開発のモデルとしては、次の4つがある。
- ボランティアモデル
意志のある人が手弁当で事業を実施。人件費(経費)はかからないが、すぐに無理がきて長期継続が難しい。 - 会費・寄附金モデル
賛同者からの会費や寄附金だけで運営して事業を実施。これだけで大きな金額を集めて成功している事例もあるが、その数は少ない。 - 行政補完モデル
本来は行政が行う事業を、委託を受けたり、補助金を得て市民活動団体(NPO)が実施するもの。一定程度の大きな金額が期待できるが、行政枠にも限界があるため、新規参入は困難。他団体との競争もある。 - 事業ミックスモデル
会費・寄附金、補助金、委託費、その他の非本来の収益事業などを組み合わせて資金を得るもの。非本来の事業収入によって、本来事業を実施する形もあるが、本来事業のなかだけでお金になる事業とお金にならない事業を組合せる形もある。
5.資金提供者の関心を知る
会員、寄附者、また委託を出す行政など、資金を提供する人の関心は団体そのものにあるのではなく、事業を実施した時に恩恵を受ける受益者にあることを知るべき。団体を応援しようというのではなく、その事業の受益者である難民、環境、子ども、高齢者などの状況改善に関心がある。
よって、○○は我々を理解してくれない、と嘆いたり、団体が苦しいから資金を、というアプローチは間違い。
6.NPOが目的(ミッション)を達成していくために
事業で多忙になってくると、目的(ミッション)と事業が乖離していくことがある。ある海岸の環境保護を目的にした団体が、国際会議の場に参加することが大事だと、継続して会議に参加していくうちに、海岸の保護がおろそかになることもあり得る。よって、いつも何が目的なのか、そのために何を優先すべきかを考える必要がある。
同時に、時代の変化を読み取って、目的に合致した「製品」開発をする意識を持つことも重要。「製品」とは、単に商業的価値をもつモノやサービスだけではなく、ステークホルダーとの関係構築も製品となりうる。
また、市民活動団体(NPO)の特徴のひとつは、事業、製品のなかに、市民参加が得られること。市民参加の拡大が事業開発の拡大につながる。
7.「製品」開発の手法
市民活動団体(NPO)の製品とは、商業的価値をもつモノやサービスだけではないが、それでも、変化するニーズと外部環境への柔軟な対応がなければ良い製品は生まれない。また、他と比較した時に、自分の団体の「比較優位性」はどこにあるのか、を考えなければならない。比較優位性がなければ、事業は成功しない。
また、「製品」の利用者または購入者(資金提供者)へのリターン(商業的価値の無いもの含む)は何なのか、そのリターンをどう設計するかは、製品開発の鍵である。
8.事業の分割と合併
目的そのもので資金を得ることが困難でも、目的に到るまでの行程を分割して、その行程ごとに資金を得ることは可能。例えば、シーズではNPO法をつくる活動を行ってきたが、それ自体に資金を提供してもらえなくても、外国のNPO関連法律の調査研究への助成金、全国での学習会開催、などに資金を得ることはできた。
目的達成のために、いくつかの事業をたて、それごとに資金を得る方法である。
また、逆に複数の事業を合併させて、そこに資金を得ていくことも可能だ。
9.資金集めのハードルを乗り越える
市民活動団体(NPO)に、現在の競争社会とは違う価値感を求めて参加してくる人もいるが、実際は市民活動団体(NPO)にも競争はあることを認識すべき。特に、市民活動団体(NPO)の数は増加しており、いかに自分の団体のオリジナリティ・優位性を作るかは大きな課題。
また、立ち上げの時期には信用をどうやって作るか、という問題もある。よって、最初は無理をしてでも頑張って一定の実績を作ったり、専門家・著名人などの参加をえたり、マスコミなどのパブリシティの利用、他団体との連携などの方法を工夫すべき。
10.資金集めの手順
資金集めのおおまかな手順は、例えば、以下のようなものである。
- まず何をするのか、なぜするのかを明確にする
- いくらいるのか、何にいるのかを明確にする
- どこから資金を集めるのかを検討する(マーケットを考える)
- どのくらいの単価もしくは分担で行うのかを考える
- キャッシュフロー等の団体の運営に支障がないかを検討する
- リターンを設計する
- 初期費用を計算する(ツール、スタッフ、準備費用など)
- ツールを開発する(団体案内、事業計画書、期待される成果、信用、申請書等)
- 資金集めをスタートする
以上のような視点から、3団体から講師を招聘し、事業事例を紹介してもらった。3団体から紹介された事業内容の一部は、以下のとおり。
【 環境市民の事例から 】
- グリーンコンシューマーガイド(地球にやさしい買物ガイド)出版事業
- 京都市内の全スーパーマーケットをボランティアが訪問調査
- ガイドの出版
- 行政が関心をもち、グリーン購入をはじめる(効果)
- 大阪府、大阪市、マイカルのパートナーシップ(効果)
- 各地でガイドが作られる(効果)
- 環境首都コンテスト(環境に配慮している自治体のコンテストと表彰)
- ドイツの環境首都コンテスト視察
- ドイツのコンテスト主催者の招聘と、自治体への紹介
(当時の日本の団体には同コンテストを実施するだけの力量がなく、社会の関心も薄いうえ、自治体は環境団体に警戒心を持っていた。そのため、7年がけで、ドイツからの招聘や自治体への紹介をしながら構想を練った) - 試作品のアンケートを自治体に送り意見を請う
- 首都コンテスト実施(多くの自治体が応募)
【 難民支援協会の事例から 】
- 国連との協力
- 専門性とオリジナリティ。他がやらない活動
- 国連のニーズ、難民のニーズ、ボランティアのニーズの結びつけ
- 結果として外務省や法務省からの信頼を得る
(日本政府の政策を変えていくという目的へ近づく)
- 難民アシスタント養成講座
- 国連でボランティアをしたい学生のニーズ、難民支援協会のニーズ、国連のニーズの結びつけ
- 助成金の獲得
- 自主独立の事業に
- 難民サポーター制度
- 緊急ファンドだけでは経費に使えないことから新たに開始
【 東京シューレの事例から 】
- ホームシューレの開発(通わずとも家にいて参加できるフリースクール)
- 社会環境の変化(文部省の方針転換)によるニーズと、東京シューレの財政助成事業としてのニーズ、家にいたい子どものニーズの結びつけ
- 不登校の子どもが家で何をしているかという調査(財団からの助成)
- 米国事例の研究
- モニターを通した試行期間を経て製品開発
- 英米から先人を招聘してのシンポジウム
- 受益者(子ども)とともに開発したプログラム
なお、この研修シリーズには、のべで172名が参加した。アンケートによれば、ほとんどの参加者が「分かりやすかった」と答えており、「事業展開のプロセスが理解できた」「対価を取れない事業でも関係者の分析や創意工夫で事業展開できることが分かった」「1つの実績から次のステップへのつなげ方が事例を通じて分かった」などの声が多く寄せられた。
助成をいただいた東京ボランティア・市民活動センターには、心から感謝する次第である。
2003.03.20