「日米ファンドレイジング・フォーラム」報告(東京)
2006年9月6日、東京芝公園の東京アメリカンセンターにて「日米ファンドレイジング・フォーラム」が米国から講師を招き開催された。
来日したのは、米国フィランソロピー・公益寄付・企業フィランソロピー研究の第一人者であるインディアナ大学フィランソロピー・センター副学科長でフィランソロピー/公共環境学科教授のドゥワイト・バーリンゲーム博士と、米国で最も定評があり歴史のあるファンドレイザーの専門学校であるインディアナ大学ファンドレイジングスクールで教鞭をとるリリア・ワーグナー博士、米国でプロのファンドレイザーとして活躍し、現在はインディアナ大学フィランソロピー・センター研究員の大西たまき氏。
フォーラムには、パネリストとして、この3名の他に、シーズ事務局長の松原明が登壇した。
主催は、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会、インディアナ大学フィランソロピー・センター、米国大使館/東京アメリカン・センター、中央共同募金会の4団体。
独立行政法人国際交流基金日米センター、トヨタ財団の助成を受けている。
今回のフォーラムはNPO関係者にとっては非常に関心の高い「ファンドレイジング」がテーマであったこともあり、参加した会場一杯の約120名は、皆、熱心に聞き入っていた。
司会は、中央共同募金会の阿部氏により進められた。
【会議の趣旨について】
冒頭にシーズ事務局長の松原が、以下のように会議の趣旨を説明した。
「シーズでは、ここ数年、日本におけるNPOの発展をどう考えるかということを検討してきた。制度ができても基盤がしっかりしていないのが現状で、NPO自体が、資金集め、そして信頼性を高める必要があり、それらをどうしていくかということは重要な課題である。
昨年、米国の多くのNPOを訪問し『NPOの信頼性』について調査をし、米国ではNPO側が市民に信頼されるための基準を作り、多くの市民に信頼されるよう努力していることがわかったが、特に感銘を受けたことは、具体的に誰に対し、どういう形で、どのように信頼性を築いていくかということがしっかりと議論されていることである。
日本でもNPOが今後発展していくためには、寄付者・潜在的寄付者とのコミュニケーション・関係づくりをしっかりしていくことが大事で、これがファンドレイジングの基本だと考えている。」
【ファンドレイジングの枠組み・原則】
ワーグナー氏は、ファンドレイジングの原則について以下のように解説した。
「米国では、NPOがこの2~30年で大きく成長してきたことと同時に、どうやって充分な資金を集めて運営をしていったら良いかということについて、非常に関心が高まっている。
『NPOは、ハートは熱いが頭はダメ』というイメージがある。寄付者は、寄付先の団体が信頼するに足る経営・企画・活動をしているかどうかの根拠を求めており、成功を収めた組織に寄付をしたいと考えている。成功している組織であるという図式を示せなければ、沈み行くタイタニックのデッキに椅子を並べるようなものである。
成功しているNPOには、『ミッションが明確である』、『質の高い適切なプログラムを実施している』、『有能で意欲的な指導力のあるリーダー、そしてそれを実行するスタッフがいる』、『広報を上手にしている』、「透明性が高い』、『理事が自発的に参加してお金を持ち込むという熱意のある人たちである』、『データベース・サポートシステムがきちんとしており、事務、経理の処理がきちんとできている』などのいくつかの共通項がある。」
【フィランソロピーの発展と米国のファンドレイザー】
バーリンゲーム氏が、米国におけるファンドレイジングの歴史について解説をした。
「寄付者といってもいろいろ違いがあり、また、国によりフィランソロピーの伝統、文化的な違いもあるが、『他の人の力になりたい』、『助けたい』、『社会で認められたい』など、寄付の動機に国境はなく、人類に共通な普遍的にあるものだと考える。それがまさに『寄付をする』という伝統につながる。
米国ではファンドレイザーはプロの専門職として存在している。現在は、かなり良いカリキュラムを作成し、『フィランソロピー』、『NPOセクター』、『ファンドレイジング』ということについて、きちんと教える体系ができている。
プロのファンドレイザーである以上、この基準に照らして、寄付者の意思を尊重し、寄付者が望む形でお金を使うということがきちんとできるかどうかが試されている。」
【ファンドレイジングの原理とファンドレイジングサイクル】
ワーグナー氏は、ファンドレイジングの原理について解説した。
「寄付をお願いするということは、『社会で必要な何かの一部になることへの招待』をするということであり、『お金を出さなければならないのではないか』というプレッシャーを与えることではない。そのためには、さまざまなテクニックも必要である。
ファンドレイジングとは、『適切な担当者が、適切な寄付者に対して、適切な内容と金額の寄付を、適切な活動・プログラムのために、適切なタイミングで、適切な方法で、実行すること。』である。
ファンドレイジングに必要なステップとして、ここで『ファンドレイジングサイクル』を紹介したい。ファンドレイジングというものは、常に継続的につながるステップのサイクルである。ファンドレイジングの最初は、環境・土壌を見極め、『ケース』を作成し、誰が寄付者なのかを見極めるということである。
『ケース』とは、団体の存在意義は何か、何をゴールとして目指しているのか。そのゴールの達成のためには、どの方法を使うのか。さらに、ガバナンス、スタッフ、理事会、企画とサービス提供の施設や方法、財務・予算、団体としての企画、発展、評価、会計報告はきちんとできているのか、などのことである。なぜ自分の組織を支持しなくてはならないのか、そして支援して欲しいのか、その理由を『ケース』として示す、これはファンドレイジングにおいて最も重要なものとなる。」
【寄付者を育てるプロセスと効果的な手法】
バーリンゲーム氏は、募金戦略について、以下のように語った。
「寄付をお願いするということは、多くのプロセスのうちの一つのステップに過ぎず、他に多くのすべきことがあるということを認識することこそ、経営側のトップには必要なことである。
だから、寄付をお願いするときに、まず最初に寄付をする能力のある人のところに行こうとするのは誤りである。
まず第1に、つながりのある人は誰かを考えないといけない。潜在的に寄付をしてくれる人は、自分達の活動に関心を持ってくれている人、つまり、ミッションに共感してくれる人たちであるから、その人に働きかけることが大事である。と同時に、誰が働きかけるかということも重要である。団体の活動が、寄付者のニーズと一致し、連携が生まれるということが大事なことである。」
【スチュワードシップとリコグニション】
バーリンゲーム氏は、さらに寄付者へのリターンについて以下のように語った。
「寄付を受けたら、感謝の意を表明することが非常に重要である。昔からファンドレイジングをしてきた人たちの間では、『少なくとも7回「Thank you」を言わないと、新たな寄付をお願いすることはできない』といわれている。これは、推奨されるガイドラインでもあるが、7回お礼を言ったからといって、寄付が集まるわけではない。
さまざまなかたちで、寄付者に対して寄付してもらったことを認知し、感謝する方法を考え、そして、寄付者の関心をさらに深めることにつなげ、寄付の金額を高めていってもらうことが必要である。」
また、ワーグナー氏も以下のように語った。
「スチュワードシップという概念は、寄付者との約束を守り、寄付金を有効に使い、寄付者の期待に応えるということである。そして、アカウンタビリティをもって、寄付の更新をしてもらうということ。『一度寄付してくれた人に、二度目はお願いできない』という人が多いが、そういうことができていれば、再度寄付してくれるはずである。」
大西氏も付け加えて、アカウンタビリティの重要性について語った。
「ファンドレイジングは、寄付者に活動の報告をすることはもちろんのこと、お礼をきちんと伝え、今いる寄付者を大事にし、いかにつなげるかということが大切である。
会報やウェブサイトなどで寄付者への感謝の意を表する際、氏名を載せてもよいかどうか確認をすることが必要だということは先ほども話があったが、私はこの確認をする時こそ、寄付者に直接お礼を言える『関係強化』の絶好の機会だと考えている。」
【質疑応答】
質疑応答では、次のようなやり取りが行われた。
Q:日本の財団の支援は、ランニングコストへの支援はなく、特定プロジェクトへの支援のみだが、米国はどうなのか。
A:(バーリンゲーム氏)米国でもそうだ。しかし、教育的な取り組みも行われており、資金の提供はプロジェクト助成以外に、間接的なものに対しても行われるべきものであるということに耳を傾けてもらっている。
Q:数年かかる長期的な事業に取り組んでいるNPOだが、5年~10年の間に支援者の熱が冷めてしまうのではないかと思い心配だ。リピーターをどう獲得していくかについてアメリカの事例を知りたい。
A:(ワーグナー氏)いずれにしても、退屈な団体になってしまってはよくない。お金が必要であることに対するダイナミックな説明や情報提供は必要だ。友情をはぐくむのと同じことだ。
【寄付を広めるために】
最後に、シーズ事務局長の松原が、
「本日、日本のニーズに合った大変興味深い話を聞くことができ、感謝したい。シーズは制度をつくってきたが、NPOが自立的に発展する社会にしていくためには、多くの人に支えられることが必要で、そのためにも、寄付の文化を育てる必要性を感じている。
日本でも、ファンドレイジングサイクルをきちんと考え、寄付者を育て、良い寄付文化を構築したいと考えている。そのためにも、これからも、多くの方たちのご参加・ご支援・ご協力をお願いしたい。」
と締めくくり、3時間のフォーラムは終了した。
2006.11.20
丁 理惠
【設立のご報告】
皆さまのご支援のおかげで、寄付文化の革新を目指す「日本ファンドレイジング協会」を、全国47都道府県の580人の発起人・360人の当日参加者の方と共に、2009年2月18日設立できました!
ご参加・ご支援ありがとうございました!
日本ファンドレイジング協会に関する今後の情報は、「日本ファンドレイジング協会オフィシャルブログ」をご覧ください!