シーズ学習会「NPO法人消費税セミナー」
2003年10月6日、午後7時より中野サンプラザ(東京都中野区)にてシーズ学習会「NPO法人消費税セミナー」が開催された。
講師は、シーズのHP「なんでも質問箱」のレギュラー回答者でもある、公認会計士の赤塚和俊氏。NPOの会計担当者や税理士などで、約70名が参加した。
このセミナーは、来年4月より消費税法が改正され、これまで3千万円だった免税点が1千万円に引き下げられることなどを受けて開催されたもの。
講義を始めるに当たり、赤塚氏は、「免税点が1000万円に引き下げられたことで、対応が必要なNPO法人も多くあるはず。改正法施行後、課税事業者になるかどうかで大きく会計事務が変わることになる。早めの対応を」と、今回のセミナーの意義を強調した。
講義は、1時間半あまりの消費税の解説の後、30分程度、質疑応答の時間が設けられた。
消費税の仕組みは難解で、ほとんどの受講者は、「消費税が複雑で難解ということは分かった。とくに計算方法が難しい」という感想をもらしていた。
以下、セミナーの概要を報告する。
「2004年の4月1日から改正消費税法が施行される。その内容は、これまで3千万円だった免税点が1千万円に引き下げられること、価格表示においては総額表示が義務づけられることなどである。これにより、課税対象となる取引高が1千万円を超えるNPO法人は消費税を納税する義務が生じる。NPO法人の場合、収入構造や取り組んでいる活動が一般の営利企業とは異なるので、消費税法をしっかりと理解することが重要だ。」
冒頭、赤塚氏はこのように話したうえで、そもそも消費税とはどのような税金なのか、その概要と必要な手続きなどを解説した。
解説のポイントは以下のようなものである。
○ 課税事業者か免税事業者か
- 消費税は、担税者(税金を払う者)と納税者(税金を実際に税務署に納める者)が異なる「間接税」で、この納税者になるかどうかは、基準期間の課税取引が1千万円を超えるかどうかで決まる。
- 「基準期間」とは、課税事業年度の2年前の事業年度をさす。
- たとえば、3月決算の法人の場合、2004年4月からの年度が課税となるかどうかは、2002年4月1日から2003年3月31日までの1年間に課税対象取引が1千万円を超えるかどうかで決まる。
- 2年前の事業年度が1年に満たない場合は、1年に換算する。(例えば6ケ月しかない場合は2倍する)
- 新設法人の場合、基準期間が存在しないため、2事業年度は免税。
○ 届出、申告
- 課税売上が1千万円を超えない限りは何も届ける必要はない。
- 基準期間の課税売上が1千万円を超えたら「課税事業者届出書」を税務署に提出。
- 消費税の計算の仕方で、「原則課税」と「簡易課税」があり、1千万円を超えた場合、5千万以下までは、簡易課税が有利であれば「簡易課税制度選択届出書」を提出。(何も提出しなければ「原則課税」が適用になるので注意が必要!)
- 5千万円超の場合は、自動的に「原則課税」の適用になる。
- この届出の提出期限は、課税の対象となる年度の前事業年度の終了の日。
- ただし、今回の改正の特例で、免税事業者が新たに課税事業者になる場合は課税年度中に提出すればよい。(たとえば、3月決算のNPOであれば、2005年3月31日まで)
- なお、免税事業者でも、届出によって、課税事業者を選択することも可能。課税売上にともなう受け取った税額よりも課税支出にともなう支払い税額の方が多い場合はその差額の還付を受けることができる。このような場合は、「課税事業者選択届出書」を税務署に提出する。
- 確定申告および納税は、事業年度終了後2ケ月以内。延長の特例はない。
○ 課税対象取引
- 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供をさし、「非課税取引」以外のもの。
- 資産の譲渡以外の取引は「不課税取引」で、そもそも消費税の対象ではない。
- 「不課税取引」とは、補助金、助成金、寄附金などで、対価性のないもの。会費に関しては、対価性のない場合に該当。スポーツクラブなど「会費」と称していても、サービスの対価である場合などは該当しない。
- 「非課税取引」とは、取引の性格上、課税になじまないものや、政策的に課税を免除するもの。
- 課税になじまないものは、たとえば、「有価証券等の譲渡」や「行政手数料、国際郵便為替」等5種類。
- 政策的に課税を免除するものは、8種類で、「介護保険事業や支援費事業などの社会福祉事業」や「埋葬料、火葬料」、「助産」、「身体障害者用物品」など。ただし、授産施設の行う物品の販売は課税取引。
○ 「簡易課税」か「原則課税」か
- 本来の消費税の納税額の計算方法(原則課税)
納税額=売上税額-仕入税額(控除対象仕入税額) - 簡易課税の計算方法
納税額=売上税額-みなし仕入税額(控除対象仕入税額) - 本来であれば個々の取引について売上税額から仕入税額を引いた額を算出し、これらを合算したものが1年間の納税額になるが、そのようなことをするのは大変な手数がかかる。簡易課税制度は、政策的な配慮から、業種によって「みなし仕入れ税率」を設定、事務の簡素化を図るもの。
- 簡易課税の業種区分とみなし仕入税率は以下のとおり。
- 第1種事業(卸売業)・・仕入商品を小売業者へ販売・・・90%
- 第2種事業(小売業)・・仕入商品を最終消費者へ販売・・80%
- 第3種事業(製造業)・・製造業、農林水産業、出版業・・70%
- 第4種事業(その他の事業)・・飲食業、加工業(加工賃収入)・・60%
- 第5種事業(サービス業)・・請負業、手数料収入、運輸通信等・・50%
- しかし、実際の仕入率の方がみなし仕入率よりも大きい場合や、大規模な設備投資を行った場合、輸出免税等の金額が大きい場合などは、「原則課税」の方が有利なときもある。有利かどうかの判定は2年間通算して計算する。
いずれにしても、どちらが有利かどうかを判定するために、原則課税方式で仮計算してみなければ分からない。
原則課税の場合は、収入の内訳を厳密に区別し、複雑な計算が必要で、一定の知識と労力が要求される。(ここではこの説明は省略)
原則課税の計算は、一般人には理解しがたい複雑なもの。この方式の導入理由は、課税の公平性を維持するためだという。しかし、たとえば社会福祉事業を例に挙げると、これは政策目的から非課税取引となっているが、その仕入税額までも控除できない仕組みになっており、還付を受けることができない。消費税法には矛盾が散見され、欠陥が多い法律といわざるを得ない。非常に残念だが、このようなことが知られていないのが現状だ。
○ 総額表示の義務付け
- 2004年4月1日から、取引価格の表示は税込みの支払い総額でなければならない。
たとえば、「10,290円(税込み)」や、「10,290円(本体価格 9,800円)」などとして表示することになるが、ただ単に「10,290円」とした場合も、税込み価格として扱われるようになる。
以上のような解説のあと、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。
Q.課税対象は法人全体にかかるのか、事業区分ごとにかかるのか?
A.法人全体に対してかかる。法人税法上の収益事業である33業種などは関係なく、対価性があれば課税取引となる。
Q.講座の受講料をいただく場合もこれからは消費税をとる必要があるのか?
A.課税事業者ならとった方がいいが、どのように表示するかは別。今まで3000円を受講料としていたとしても、必ずしも3150円にしなければならない、ということではなく、自動的に105分の5が消費税とみなされる、ということである。
Q.自治体からの委託で配食サービスをしているが、契約額が1000万円を超えている。
A.自治体からの委託事業は課税取引。契約書にも消費税が明記されていることがほとんど。課税事業者になると考えてよい。
Q.移送サービスを自治体からの委託事業として行っているが、仕入れ物品などはなく、ほとんどが人件費といってよい。
A.人件費は、控除対象にはならないので、5%のほとんどを納税しなければならなくなる。このように、人件費割合の高い、受託事業中心に活動しているのであれば、原則課税ではなく、簡易課税を選択した方がよい。一定のみなし仕入率が認められるからだ。
Q.委託契約であるが、海外での活動に関するものである。
A.海外で行う事業は消費税の対象外として不課税取引。しかし、本部が日本にある場合、海外で調査を行い、国内で分析、報告書作成ということも多くある。そのような場合は国内事業に関しては課税取引となる。要注意なのが、契約の仕方にもよるが、「10~15%は管理費として支払われたものであるから、この部分は国内事務所で発生したものではないか」、と指摘され課税される恐れがあることだ。しかし、事業全体が海外で完結したものであれば、そのような解釈には異議をはさむ余地がある。委託契約に消費税が含まれると記載されている場合でも、実態をみて判断する必要がある。
Q.NPO法人の場合、収入のほとんどは寄附金で、一方支出面では課税仕入れが多く、還付が多額にのぼる、というケースが発生するのでは?
A.寄附金は特定収入にあたり、特定収入で賄われた税額は控除対象にならないという原則がある。そのようなケースは発生しない。
Q.前年の売掛金を課税売上に計上しておき、貸し倒れになった場合、あとで税額控除できるのか?
A.できる。
Q.任意団体の活動暦があるのだが、それは基準期間にカウントされるのか。
A.されない。まったく別の団体と考える。
Q.収入が1700万円ぐらいの団体で、うち600万円は会費(対価性なし)。残り1100万円は宿泊を伴う研修などの事業で得ている。しかし、ホテル代は実費そのままの金額であり、それを除けば1000万円に満たない。課税事業者になるのか。
A.研修の参加費の表記のしかたを工夫することで、免税事業者にもなりうる。要点は、パンフレット等で「宿泊費」と「研修費」を明確に区別して集めること、宿泊費は実費であることを明確にしておくこと、帳簿上も「預り金」として団体の収入にはしないことである。全体を「研修費収入」にすると、一体として団体の収入となり課税売上となる。