堀田力氏公益法人改革で記者会見
2月21日午後1時から、公益法人制度改革の課税問題が議論されている「非営利法人課税ワーキンググループ(以下WG)」の委員である堀田力氏(さわやか福祉財団理事長)が緊急記者会見を開き、非公開で進められている同WGでの議論内容の問題点を指摘し、氏の対案を説明した。
(堀田氏の対案の詳細については、「/2003/02/行政-堀田氏が反原則課税に「支援求む」/」を参照)
なお、同WGは、政府(財務省)の税制調査会のもとに昨年10月に設置されたもので、今年2月7日から、新しい非営利法人に関する課税に関する議論を本格化させていた。
以下は、記者会見において堀田氏が述べた要旨。
今日は、政府(財務省)の税制調査会の非営利法人課税ワーキンググループ(以下WG)の審議状況を報告する。WGは、1回目が12月、2回目が1月、3回目は2月7日に行われた。今日(2月21日)も午前10時から12時まで開かれ、これが4回目だった。本日、WGの座長が財務省記者クラブで会見を行っており、本来は私が記者会見を開くべきではないかもしれないが、非常に重要な内容なので、この場で概況を話したい。
実は、別に開かれている内閣府の行政改革本部においては公益法人制度の基礎構造を検討しており、ここから12月中に公益法人制度の改革案が出る予定だった。私たちのWGは、この改革案をもとに税の議論をして3月中に改革大綱(仮称)を出すことにしていた。今年の3月中に大綱を出すのは、昨年3月に閣議決定されたものである。
ところが、行政改革本部からの案が出てきたのはやっと3回目の2月7日になってから。ここで初めて行革本部事務局の案が示されたが、これはまだ外部には非公開の案。
この行政改革事務局がWGに述べた案によると、公益法人のうちで、社団法人/財団法人、NPO法人、中間法人の3つをあわせて一括りとして「非営利法人」とし、届出によって設立するという準則主義をとる。さらに、その非営利法人のなかから、社会貢献性の高いものを登録法人とするというもの。また、登録は一つの省、または都道府県で行うというものだった。
これに対して、さっそく財務省から税調で審議するための「素案」が示された。これが非営利法人については、原則課税とするというものだった。また、登録法人については、原則非課税とするが、対価を得て行う事業はすべて課税とするという案。さらに、登録法人のなかから、国税庁長官が認定する認定法人(仮称)という仕組みを作り、ここに特定公益増進法人と認定NPO法人を入れるというもの。認定法人には寄附の優遇税制も認められる。いわば、非営利法人、登録法人、認定法人の3段重ねの案。
こうした案についての説明が長々とあって、審議をする時間は10分しか残されておらず、しかもこの2月7日のWGで基本構造についての議論を終えるということだった。そこで、私から、せめて次回(2月21日)まではこの基本構造について話すべきだと主張し、受け入れられはしたが、このままでは骨格が今日の21日中に固まってしまうし、大勢からすると財務省が示した案になることが明白だったため、2月12日に私から対案を財務省に提出した次第だ。
財務省の案と、私の案の違いは大きく2つ。
- 社団法人/財団法人、NPO法人、中間法人をまとめて新しく作られる「非営利法人」について、財務省案は原則課税であるのに対し、私の対案は原則非課税である点
- 「非営利法人」のうちで公益性が認められた「登録法人」に対して、財務省案は原則非課税であるものの、対価を得る事業には課税としているのに対し、私の対案は対価を得る事業のなかでも法人の目的に沿った本来事業であれば非課税とする点
つまり、財務省は「非営利法人」については、会費であろうと寄附金であろうと、収益事業といっしょにして課税しようというもの。私の対案は、非営利法人も原則非課税として、会費・寄附金は非課税。さらに、登録法人については、会費・寄附金非課税に加えて、本来事業以外の対価を得る事業にだけ課税するというもので、みなし寄附金制度も入れる案。
私の対案は、財務省案に提出すると同時にインターネットで公開したところ、20日までに162人の方々から反響をいただいた。大多数が私の対案支持であり、原則課税に反対するもの。今日のWGには、それらをとりまとめてのぞんだ。
しかし、事務当局の考え方は
- 非営利法人は準則主義とする予定で、いろいろな団体が入ってくるだろうし、なかには営利法人と同じようなものもあるだろう。よって、営利法人並みに課税は当たり前
- 本来事業に課税しないといっても、公共性のある事業とそれ以外を区別するのは難しい。単一の基準でつくることはできない。だから対価性のある事業は全部課税すべき
- 会費・寄附金は非課税という主張だが、会費といっても対価性のあるものも含まれ区別が難しい
というもの。
また、委員のなかにも、公益法人のなかには悪い法人がたくさんあるから、全部課税として抜け道をつくらないことが大事だ、という意見が大きかった。私は、良い法人と悪い法人を分けて考えなければ、アルカイダをやっつけようとしてアフガニスタンの人を全員殺すのと同じことになってしまうと主張。
本音のところでは他の委員は私の対案に反対であるが、こうした応酬ができた結果、今日の午前中に税の基本構造の審議は終了させる予定になっていたところを、なんとか押し切られずに、基本構造についての議論を次回まで持ち越されることとなった。
次回の3月4日午後2時から4時までに予定されているWGでは、寄附金と寄附金的な会費、助成金・補助金、金融資産による収入(利息)についての課税に関し、きめの細かい議論に入る予定である。
未だに行政改革本部の法人制度案は、外部には存在しないということになっているが、私は、早く公開すべきであると考え、今日は洗いざらい申し上げた。
堀田氏から以上のような説明があった後、参加した記者といくつかの質疑応答が行われた。以下は、その抜粋。
記者: 準則主義で非営利法人が設立できるのなら、原則課税で仕方ないように思うが?
堀田: 私の対案では、「非営利法人」の場合は、儲ける場合は課税として良いが、会費・寄附金は非課税にというもの。インチキな法人なら、寄附金や寄附金的会費を集めることは難しい。記者: NPO法人が登録法人に移行すれば問題ないのではないか?
堀田: 私の対案であれば、NPO法人が登録法人になると、本来事業は非課税だから、現在よりも良い。しかし、財務省案では登録法人であっても、対価を得る事業は全部課税となっていて問題。記者: 21世紀の公益的な活動をする法人のあるべき姿の議論がなく、たった10人そこらで、NPOや中間法人もセットにして重要なことを決定しようとしているのは問題では?
堀田: そのとおり。私もそう考えて公表することとした。ホームページを見た方々から大変な数の支援メールをいただいており、現在も続々届いている。記者: 特殊法人改革について一般に知られているが、公益法人改革についてはあまり一般に認知されていないようだが?
堀田: 公表せずに、非公開で進められているから。だから、記者の皆さんにはよろしく(報道していただくよう)お願いしたい。記者: NPO法人が登録法人になるうえで、高くなるハードルにはどんなものがあるか?
堀田: 中間法人並の基金を準備せよ、という案が入っているので300万円の基金を積まなければならない。これに対しても怒っている。財務省案は、一旦「非営利法人」になって、まだひ弱なうちから課税され、実績を見られてやっと登録法人になったら300万円を積まなければならないというもので、現状よりも大きく後退したものだ。
(ここまでの文責:シーズ事務局・轟木 洋子)
なお、堀田氏は現在、3月4日の政府税制調査会非営利法人課税WGの席上、できるだけ多くのNPO関係者などからの意見をまとめて提出したいとして、意見を募集している。
意見は、FAX、またはメールで、また、名前、肩書きを明記して送付のこと。
以下は、堀田氏からの意見依頼の文書。
非営利法人制度改革の個別論点に関し、ご意見をお寄せください
財団法人さわやか福祉財団理事長
政府税調非営利法人課税WG委員
堀田 力
2月21日の頭記WGでは、2月14日のメールで御紹介した「政府税調論議の素案」とこれに対する「堀田対案」について議論が行われ、それによって主張とその理由の対立点がかなり明確になってきました。議論は3月4日に持ち越されましたので、それら個別の論点について、御意見をいただければ、同日の会議に概要を提出したいと思います。なお、WGは、その次の3月11日は、意見をペーパーにまとめて合意に達したいとしています。
○印を付した論点及び理由は、2月21日に述べられたものです。
<ご意見のご送付先>
メール: XLM00370@nifty.ne.jp
ファックス 03(5470)7755
1.非営利法人について
○(1)原則課税か原則非課税か
○(素案)=原則課税:
中間法人は原則課税であるところ、新非営利法人は、準則主義で設立され、事業内容においてもガバナンスの程度においても様々な法人が混在することが想定され、営利法人が行う商行為と実態としては変わらない活動を行うことができるから。
○(堀田)=原則非課税:
非営利法人に対する寄附金や会費は、営利法人における出資金(資本金等)に相当するもので、収入と扱うべき性質のものではない。補助金・助成金も同じである。素案は「営利法人が行う商行為と実態として変わらない活動を行うことができる」というが、法律が予定する非営利法人はそのような活動はしないのであるから、非営利法人すべてを原則非課税にする理由にならず、営利法人と変わらぬ活動をする法人には、収益事業による所得に対する課税、一定以上の内部留保金に対する課税、個人に分配する財産についての課税で十分対応できる。素案では、定款(寄附行為)で残余財産の分配を禁止した法人について、どんな根拠で課税するのか?(末尾部分は未主張)(2)寄附金・会費(寄附の性質を持つもの)についての課税
○これに課税する実質的根拠は何か
課税しない根拠は、(1)(堀田)主張以外にどんなものがあるか
○対価を会費に仮装したもの(そういう例は少なくないという)を区別できるか
(堀田案)例えば、「会費(もっぱら非営利法人の運営に資するものに限る)」 というのでどうか(未主張)
○諸外国の法制で、寄附金・会費は本当に課税対象になっているか(財務省が調査することになったが知っている方は教えてほしい)(3)「補助金・助成金」についてはどうか
(堀田案)寄附金と同じ理由で非課税
(4)「資産の運用収入(利子)」はどうか
(堀田案)課税やむを得ないか(未主張)
2.登録法人について
(1)堀田案(2月14日メール)に対し2月21日財務省事務当局が述べた意見
○公益的・公共的な事業により、課税・非課税を区分することについては、以下のような問題があり、営利法人が行う事業と同種・同等の事業の多くが、公益的・公共的な事業という名の下で、課税されないことになってしまうのではないか。
- 公益性・公共性のある事業とそれ以外の事業を明確に区分する基準を具体的に定めることには限界があるのではないか。
- 公益性・公共性の定義を「対象者がもっぱら不特定かつ多数」とし、寄附金、会費等の支出に占める割合やボランティア性労働の提供量により測ることとしているが、公益性・公共性について、こうした単一の基準だけで割り切ることには無理があるのではないか。
- 「会費」といっても対価性の有無が極めて不明確であり、会費名目で資金を集めるだけで公益性・公共性のある活動と判断されることになりかねないではないか。
○客観的な基準に限界がある中で、公益性・公共性について実質的な価値判断を行うことになれば、行政庁の裁量を広げる結果となりかねないのではないか。
(2)(堀田の再反論)意見は、区別不能、基準が無理あんどと指摘しているが、それぞれ客観的で適正な区別基準は、智恵を出せば設けることが可能である。それが出来ないのであれば、出来ないことを理由にすべて課税に持っていくのではなく、国民に有利な方向、つまりすべて非課税に持っていかざるを得ないのはないか。
以上、2月21日の議論を中心にまとめましたが、3月4日には、これから先の議論も当然出ると思われます。その論点は次の通りです。
非営利法人制度改革の個別論点に関し、ご意見をお寄せください(後編)
2003年2月25日
財団法人さわやか福祉財団理事長
政府税調非営利法人課税WG委員
堀田 力
前日(2月24日)に続き、頭記WGで議論すべき事項について、 ご意見をお待ちします。文中(堀田私案)について、○印を付したもの以外は、WG未主張で変更可能です。
1.登録法人(社会貢献法人・公益法人)について
- 社会貢献性・公益性を、誰が、いかなる基準で決めるか(特に、行政機関の恣意的判断を避けようと主張する方は、客観的な基準案を提案して下さい)。
(堀田私案)
寄附金・会費(寄附と同性質のもの)及び補助金・助成金・行政委託金の合計と本来事業による収入の合計との比率が、ある比率(たとえば3対7)以上のものとする。ただし、情報開示及びガバナンスが不十分なもの、残余財産を分配するもの、活動が私益又は共益を目的とするもの、政治活動を主たる目的とするもの、宗教活動を行うものは除く。(未主張) 設定者は行政(国税を含む)とし、第三者委員会がチェック。 - 原則非課税とする根拠は何か
(注)堀田案では、非営利法人の場合と同じ理由となるが、素案ではどういう理由付けをするのか。 - 本来事業非課税とするか、収益事業課税とするか
○(堀田案)=本来事業非課税:
本来事業は社会貢献性のあるもので、その事業収入は受益者の一部負担金に過ぎず、通常、事業経費をカバーしない。つまり、社会貢献性のある事業は、営利事業としては成り立たないものであるから、営利事業との競合は生じない。また、剰余が生じたとしても、それは通常、寄附・会費・補助金等の収入が加算されるためであって、担税力を生ぜしめるものでない。また、剰余金は、本来事業を継続するため用いられるものだから、これから税金を取るのは、国家の公益活動を絶対視し、市民の公益活動の意義を無視することとなり、不当である。
○(素案)=収益事業課税:
営利事業と競合する収益事業を営みながら、これに課税しないのは、税制の中立を損なう。
(注)本来事業非課税制を採る外国の法制について教えて下さい。 - 収益事業の定義
○(素案)
対価を得る事業一切をいう。ただし、実情調査のうえ、例外を設けることを検討する。
○(堀田案)
素案と同旨(33業種に限定する説の方は、特にご意見をお寄せ下さい)。 - みなし寄附
○(堀田案)
100%認める。公益活動に用いるのだから、税金と同旨の出損。 - ボランティア活動の労力寄附
○(堀田案)
市場価格に換算し、寄附と扱う。
(注)技術的に算出困難との反対説があるが、みなし価格を定めることにより、技術的に可能。
社会貢献活動の特徴は、それが、営利活動としては成り立たず、寄附金等の出資とボランティア(有償ボランティアを含む)労力の提供によってその活動が成り立つところにあるから、労力寄附制度は重要。 - 資産の運用収入(利子)
(堀田私案)
「会費は寄附金収入とは異なり、公益法人等の段階で新たに発生した所得で会って、経済的価値においては現在収益事業とされている金銭貸与業から生じた所得と同じであること、同じ収益事業課税の対象とされている人格のない社団等は、利子・配当について源泉所得税を負担していること等から、公益法人に対しても一定の税負担を求めてもよいのではないか」(平成8年11月税制調査会法人課税小委員会報告)との考え方。ただし、その収入が本来事業に用いられる時は、みなし寄附と同じく100%控除。
(課税反対説)
「これに対しては、公益法人等の金融資産収益は、民間企業と競合関係はなく、しかも公益法人等の目的からして、金融収益に余剰が生じてもいずれ公益目的に費消されるのであるから、課税に慎重あるべきとの意見があった」(同報告)。 - 内部留保金課税
○(素案)
内部留保金に制限を設ける。
○(堀田案)
一定限度を超える内部留保金は、その超える分の収入を課税収入とする。ただし、事業に用いられることが明白な分は除く。
2.悪質な法人への対応策(堀田私案)
(注)原則課税論、課税範囲拡大論は、悪質な法人(脱法的に営利事業を行う法人及びフリンジベネフィット等の形で利益分配を行う法人を含む)を締め出せということを最大の根拠とする。
- 収益事業の範囲を明確にし、現行の33業種限定をやめ、「対価を得る事業一切」とする。
- 一定限度を超える内部留保金に課税。
- 登録法人及び認定法人(仮称)の要件を客観的なものにする。
- 情報開示を徹底し、市民の告発を奨励し、第三者委で告発を受け、同委に国税及び警察に対する調査・捜査指示権を認める。
- いつわりの情報開示をした者に対する罰則。
- 不正・不当行為をした時の役員の責任の強化。
以上の税制上の措置に加え、
- 行政の補助・助成・委託の公開と、第三者評価の徹底。
- 委託事業の独占禁止。
等により対応する。
3.認定法人
(堀田私案)
登録法人のうち、寄附金・会費、補助金・助成金・行政委託金の合計と、本来事業による収入の合計との比率が、ある比率(たとえば5対5)以上のものとする。(未主張)
4.その他
- 「NPO関係者等の反響」について
2月14日のメールに応じ、20日までに162人の方から意見やエールが寄せられ、感謝しています。これをまとめてWGに提出したら、ある委員から「課税強化の時は反対意見が山ほど来るのは当たり前だ」との発言がありました。私は、NPO関係者の反対は、一般に行われる課税反対とは性質が違うと思いますが、どう表現すればよいでしょうか。 - 法人制度のあり方について
いろいろご意見がおありと思いますが、税制上の優遇措置を採るための要件という観点から、ご意見を賜れば幸甚です。
以上
2003.03.03