第七回 コロラド・バレエ団(Colorado Ballet)
コーナーのご紹介:
2002年5月、シーズは国際交流基金日米センターの助成を受けて米国を訪問し、米国の NPOや財団、そして企業は寄附をどのように捉えているのか、またNPOは募金のためにどのような努力をしているのかを調査してきました。
この特別コーナーでは、10回にわたってこの調査旅行で出会ったNPOや財団の募金担当者(fundraiser)、また企業の社会貢献担当者のインタビューをご紹介します。米国ならではの考え方もありますが、日本のNPOが参考にできるところもたくさん見つかるはずです。
この調査発表は、国際交流基金日米センターの助成事業です。
第七回 コロラド・バレエ団(Colorado Ballet)
(2002年5月13日訪問)
連載も第7回目になりました。
今回ご紹介するのは、米国中西部コロラド州デンバーの「コロラド・バレエ団」です。
このバレエ団は、1951年にデンバー出身のバレエダンサーがデンバー市内でバレエ・スクールを開校したことから始まりました。1961年には、コロラド・コンサート・バレエ団が結成され、その後、1978年にプロのバレエ団としての規模を備えるまでになり、名称もコロラド・バレエ団に変更しています。
1987年には、演出家として著名なマーティン・フリードマン氏を迎えたことで、コロラド・バレエ団はさらに発展していきました。バレエ・スクールの経営とともに、現在は、36人のプロのダンサーを抱え、米国内外で公演活動を行っています。年間予算は約700万ドル。ダンサーには、数人の日本人も含まれており、日本での公演活動も活発です。
お話を伺ったのは、資金調達部長のマイケル・シュルツさんです。
右端がシュルツ氏。ポスターは、2002年シーズンの演目で、よく見ると寄附者 であるジャガー社、オッペンハイマー社、英国航空などの名称が入っている。
以下は、インタビューをまとめたものです。
「コロラド・バレエ団(以下、CB)は、主にデンバー周辺地域にパフォーミングアートの発展を促進させることを目的としているパフォーミングアート団体です。36人のダンサーによるパフォーマンスを通して、あるいはバレエ・スクールでアートを教授するという方法で、この地域のパフォーミングアートの発展に寄与しています。
ダンサーの他には、総務関係の職員が25名、資金調達を手がける職員が3名います。
年間予算は、約700万ドルですが、そのうち60%はチケット販売収入で、残りの40%が寄附など、その他の資金調達によるものです。理由は分かりませんが、私たちのような芸術団体にとって、この6対4というのは、良いバランスであると言われています。ですから、チケット販売収入が多くなると、その分、寄附も増やすようにしています。
40%の資金内容は、以下の3つとなっています。イベント、個人からの寄附がそれぞれが10%ずつ、企業や財団からの寄附・助成金が20%程度の割合です。
- イベント
- 個人からの寄附
- 企業や財団からの寄附・助成金
これらのそれぞれについて説明します。
(1)イベント
ひとつは、バレエシーズン(秋からスタート)中に催すオープニングディナーです。一回の参加者は平均約500名で、パーティ参加費のうち60%は、CBの収益となります。
また、バレエ・スクールに通う子どもたちの発表会もあります。だいたいにおいて、裕福な家庭の子どもが多いですから、親はお金を払うのです。家族にとっては、子どもを舞台に立たせることは誇りですから。
このようなイベントはコロラド・バレエ・オーグジリアリーという、いわば友の会のようなグループに参加している女性たちがボランティアで開催してくれています。このグループには、約400名の女性が会員となっていて、会費は年間35ドルです。
このグループの会員名称は、ちゃんとイベント・プログラムに紹介するようにしています。
(2)個人からの寄附
これまでにバレエのチケットを買ってくれた人たちの名前はすべてデータベース化されていますから、私たちはそういう人たちに、寄附依頼の手紙を送ります。
寄附者のうち、年間300ドル以上寄附してくださった方々の名前は、次のバレエ・シーズンのプログラムに掲載するようにしています。
大口の寄附者には他にも大きな特典があります。例えば、年間5000ドル以上の寄附者を、メジャー・ドナーと呼んでいますが、チケットオフィスに行かなくても、DBに直接チケットの手配を頼むことができます。また、CBの演出家でCEOである、マーティン・フリードマンの自宅でのパーティに招待されたりもします。こうした特典は、寄附の金額によってかわってきます。商業的には、金銭的価値をもたないものですが、寄附者が喜ぶものを、このように返す工夫をしています。
個人の寄附者は約6000人いますが、大切なのは、そのひとりひとりがCBのファミリーとして帰属意識をもつようになることです。昨年は、40周年でしたが、その記念公演のプログラムには、10,000ドル以上の大型寄附者を認知する方法として、彼らをルビー・ソサエティ(Ruby Society)と読んで名前を掲載しました。
40周年記念公演プログラムのページから。
1万ドル以上の寄附者を『ルビー・ソサエティー』を名づけて紹介している。寄附者を公開リハーサルにも招待したりします。公開リハーサルは非常に人気が高いのです。この時には、演出家がバレエのストーリー解説をしたりします。見てもらうのは、だいたい1、2章だけで、全章を見たい人にはチケットを買って本番の公演を見にきてもらいます。
他の寄附者への特典としては、舞台裏ツアーとレセプションです。舞台裏ツアーは、バレエ公演の始まる1時間前くらいに、寄附者に楽屋や舞台裏を見せるもので、大道具や、衣装部屋、実際にバレリーナがメークアップをするところなどを見ることができます。そのあとで、簡単な飲み物や食べ物を用意した部屋でのレセプションにも招くものです。バレエ好きな人には、こうした舞台裏のツアーはたまらなく魅力的なものです。
(3)企業からの寄附
企業からの寄附も大切です。私たちは、企業のマーケティングの資金にも注目しています。
大型寄附者であるオッペンハイマー社は、毎年20万ドル寄附してくれていますが、契約を結び、公演プログラムの表紙やポスターの上部に名前を印刷することと、表紙の裏ページに広告をのせることにしています。
自動車のジャガー社は、年間50,000ドルの寄附を下さいますが、プログラムの中に掲載する広告費を20%ディスカウントしています。ほかにも、公演の際、劇場前に、宣伝用の車を置くことを許可しています。
ティファニー社からは物品による寄附をもらっています。ディナーパーティーの時にお土産として配る商品をティファニーから約100個いただきました。
寄附をくださる会社の社員を招いて、小さなレセプションを公演後に開くこともあります。公演の開始時には、寄附企業の名前をアナウンスしますが、レセプションの日には、たとえば、『今日は、寄附会社のティファニーの方たちをお招きしています。』というようなアナウンスが入れています。そうすると、会場から拍手がおきるものです。
それから、メディアからの寄附もいただいていますが、これはお金ではなく、ラジオやTVであれば無料で公演の宣伝をしてもらったり、新聞社であれば無料で広告を掲載してもらったりなどです。市内を走るバスの後部にもポスターを貼ってもらっています。」
シュルツさんからのお話を聞いて、コロラド・バレエ団は地域に根付き、地域の人たちに支えられ、そして愛されているバレエ団だということを強く感じました。著名な演出家であるマーティン・フリードマンさんにもお会いできましたし、今度日本で公演がある時には、ぜひ出かけてみたいと思っています。
コロラド・バレエ団のホームページ・アドレスは以下のとおりです。
http://www.coloradoballet.org
(2003.07.02)