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新!特別連載コーナー

2007年08月23日 16:42

第九回 ナショナル・コーリション・アゲインスト・ドメスティック・バイオレンス(National Coalition Against Domestic Violence : NCADV)

コーナーのご紹介:

 2002年5月、シーズは国際交流基金日米センターの助成を受けて米国を訪問し、米国の NPOや財団、そして企業は寄附をどのように捉えているのか、またNPOは募金のためにどのような努力をしているのかを調査してきました。

 この特別コーナーでは、10回にわたってこの調査旅行で出会ったNPOや財団の募金担当者(fundraiser)、また企業の社会貢献担当者のインタビューをご紹介します。米国ならではの考え方もありますが、日本のNPOが参考にできるところもたくさん見つかるはずです。

 この調査発表は、国際交流基金日米センターの助成事業です。


第九回 ナショナル・コーリション・アゲインスト・ドメスティック・バイオレンス(National Coalition Against Domestic Violence : NCADV)

(2002年5月10日訪問)

 ナショナル・コーリション・アゲインスト・ドメスティック・バイオレンス(以下、NCADV)は、1978年に設立された米国内のドメスティック・バイオレンスの問題に取組むNPOの連合体組織です。本部はコロラド州のデンバー市内にありますが、ワシントンDCにも政策提言のために事務所を置いています。

 設立のきっかけは1978年1月、ワシントンDCで開かれた人権委員会の公聴会に、被害者である女性たちの弁護士が、全国から100人以上参加したこと。

 NCADVは、この問題に関する会議の開催や、被害を受けている女性とその子どもたちを一時的に避難させるシェルター確保の支援、一般の理解を深める啓蒙活動、専門的サポート、政策提言活動のほか、教育資料、出版物開発と配布なども行っています。

 女性たちが力をつけていくことでドメスティック・バイオレンスを止めさせようと、地域、州、国レベルでのネットワーク作りを進めています。収入源はグッズや出版物販売による事業収入、個人、企業からの寄附、会費収入などです。

 以下は、事務局長のリタ・スミスさんに伺った内容をまとめたものです。

 NCADVの事務所にて。真ん中がスミスさん。


 「私たちの団体は、ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)の問題に取り組んでいる地域コミュニティ団体の、全国的なネットワークとして生まれました。活動内容のひとつは政策提言で、そのためにワシントンDCにも事務所を置いています。職員は、デンバーに6名、ワシントンDCに4名います。

 政策提言の他には、DVに取り組むNPO職員向けの研修を行っていますし、コミュニティの意識を喚起するためのグッズの配布(販売)なども行っています。

 2年に1回、大きな全国会議を開催するのですが、その会議の開催年の予算は約100万ドル、そうでない年は75万ドルくらいです。政府からのお金は、いっさいもらいません。会費収入が25%くらいですが、あとは財団や企業、個人からの寄附と、グッズ販売による収入です。

 政府からお金をもらわないのは、彼らの問題解決方法と私たちの方法は異なっているからです。80年代半ばに、政府の補助金を受けていたことがありましたが、制約が多いものでした。それに、政府の関心は、刑罰によって問題解決を図るもので、加害者を刑務所に入れることで済まそうとしていたのです。民族や文化による違いも全く考慮せず、皆同じように扱っていました。

 今も、政府が行っているDV政策はハウジング(シェルター)に偏っています。しかし、シェルター建設だけではDVは解決しません。なぜなら、DV被害者の多くがシェルターにくる訳ではないからです。DVの問題には、シェルター、医療、法律、宗教など、様々な分野からの取り組みが必要ですし、周囲の地域全体がプログラムに参加していくようにしていかなければなりません。

 活動においては、地域社会を活動に巻き込んでいくことが大事です。DVへの取り組みは、プライバシーの問題にも気を付けなければなりませんが、実際の被害者の中には、名前をあかさなければ体験を話してもいいと言ってくれる人がいます。そうした人たちの話は公にしていっています。私たちの販売物である書籍にもこうした人たちの体験談を載せたりしています。実は、このNCADVの役員の半分は元DV被害者で、問題を克服した人たちです。彼らも、自分の体験を語ってくれる人たちです。

 DVで亡くなった女性たちを忘れないようにと、家族や友人が寄せた手紙や詩などをまとめた冊子。一人一人の死が悲しみを呼び起こすとともに、NCADVの活動の重要性が伝わり、寄附の動機付けにもなる。

 こうして情報を発信していくことは、支援者を増やすとともに、支援を受けたい人への情報提供にもなるのです。

 企業からの寄附は、企業にとっても良い広報手段になるようです。たとえば、モトローラという電話会社は、古い携帯電話を集めて修理し、DV被害の女性に提供してくれました。そうすることで、問題が起こった時に、すぐ女性が電話できるようにしてくれたのです。これに加えて、AT&TやMCIは、この電話からの通話料を無料にしてくれています。こうした協力は、会社にとっては良いイメージづくりに役立ちますし、私たちの活動の広報にもなっています。

 デンバー近郊で有名な企業のひとつにクアーズ社がありますが、ここからも寄附をもらっています。関わりの最初は、クアーズから電話がかかってきたことです。アルコールと暴力との関係を調べてほしいということでした。実は、すでにそうした調査はありましたから『確かに飲酒のために怪我を負うことはあるけれど、アルコールが暴力そのものを生む訳ではない』、ということを伝えました。奇妙なことですが、それからクアーズとは良いパートナー関係を続けています。

 私たちもアルコールをスケープゴートにして、暴力の原因の本質を見えなくすることは嫌でしたし、クアーズはアルコールを売りたいと考えていました。その両方の考え方が合致したということですね。」


 DVを扱っている団体はたいていどこもそうですが、NCADVも住所を明らかにしていません。DVから逃げてくる被害者を擁護するためです。そのため、郵便物は私書箱宛となりますし、NCADVが発送する郵便物にも団体名は入れないことが多いそうです。

 写真で紹介した「Remember My Name」という冊子には、亡くなった女性の写真と、彼女たちのストーリーが紹介されており、悲しみとともに怒り、そしてやるせなさが襲ってきます。こうしたストーリーは、もちろん家族など近い人たちの了解を得て掲載されているものです。そして、NCADVが支援者を広げていくツールにもなっているそうです。

 NCADVのホームページは、次のアドレスから見ることができます。

 http://www.ncadv.org/

(2003.07.18)

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