足立区職員研修 講演報告
2001年12月19日(水)午後2時より、足立区庁舎ホールで開催された足立区職員研修「自治講座」にて、シーズ事務局長の松原明が、「NPOと行政との協働」をテーマに約2時間にわたって講演を行った。
足立区においても、NPOと行政との協働(パートナーシップ)についての関心が高く、「NPOとは何か」、また「NPOと行政の協働の意義」や「その際に注意すべき点」などについて、区の職員の間でもっと知りたいとのニーズが高まっているという。
この日聴講したのは、区の管理職職員と希望した職員の方々で、300名を超える参加者があった。
松原の講演要旨は以下のとおり。
NPO法施行以来、NPO法人の数も5千を超え、順調に増加を続けている。
それにつれ、国や自治体からもNPOへの期待も高まり、行政とNPOの協働(パートナーシップ)は、一種のブームになっている。
その結果、「協働したいけれども良いNPOがない」と考える自治体のなかには、自治体が音頭をとってNPOをつくり、そのNPOと協働するという例さえ見受けられるようになってきた。
しかし、そもそもNPOの特徴などをしっかりと理解していないと、行政側がNPOの発展や自立性を奪い、NPOを従来の行政の下請型公益法人や悪しき公共事業と変わらない存在に変えてしまう危険さえある。
NPOが生まれるきっかけは、多様な小さな市民の「ニーズ」に応えようとする市民の自由な発想である。
こうしたニーズは、ますます多様化しており、公平なサービスを提供している行政では、なかなか満たせないものが多い。
例えば、不登校の子どものためのフリースクールや、障害者のヨット活動なども、もともと行政では発想できないものだった。
NPOは基本的に民間の独立した組織であり、行政のサービスを補完してきた旧来の公益法人や社会福祉法人とは違うものであると捉えなければならない。
自由に新しいNPOがどんどん誕生し、機能しなくなったNPOは姿を消していく。これは自然な形である。
こうしたNPOと協働していく際に重要なポイントは、協働をNPOと行政といった2者関係だけで考えないことである。
着目すべきは市民のニーズである。
NPOも行政もそれぞれアプローチや対象は違うが、市民・住民のニーズに応える組織であるということを忘れてはならない。
NPOについて先進的になろうとするあまり、わざわざNPOのための仕事を作り、NPOへの業務委託を増やす自治体もあるようだが、これでは行政の委託を受けやすい事業だけをやろうとするNPOが生む結果となり、これまでの悪しき公益法人と変わらなくしてしまう。
協働という名のもとに、NPOという組織の自立性を奪い、行政との癒着さえ生むというリスクもある。
これを回避するためには、市民のニーズを満たすために、協働するのだという前提を忘れないこと。
また、「協働」は、NPOへの「支援」とは別なものであることも知っておくべきである。
NPOとの「協働」とNPOへの「支援」を混ぜて考えると癒着の原因にもなりうるので、注意が必要。「協働」は、NPOと行政との間で、事業の目的(市民ニーズへの対応)が一致した時に、行われるもの。
しかし、支援は、そのNPOが行政と違う考え方である時にも行われなければならない。
また、支援や協働では、NPO間における競合的な関係を促進していく必要もある。
千葉県の我孫子市では、市の補助金の仕組みを見直して公開制とし、NPOどうしが競争できるようにした。他の自治体においても、こうした仕組みが必要となるだろう。
また、講演の後、質疑応答の時間があった。以下は、その抜粋。
Q:法人化のメリットとデメリットは?
A:メリットとしては、団体自身が権利義務の主体になれるということ。一定の信用にもなる。介護保険事業など、法人格がないとできない事業もある。しかし、メリットをあまり感じない団体は、無理して法人化する必要はないだろう。長い間活動してきて、法人格を取っていない団体もある。デメリットとしては、住民税など税金がかかる場合があるということ、理事会をおいたり、総会を開いたり、事業報告書を提出するなどの手間がかかるということ。法人化を検討する時は、こうしたメリット、デメリットを考えて判断することが大事だろう。
Q:協働と支援の違いをもう少し詳しく話して欲しい。
A:協働することによって、NPOが力をつけていくことが望ましく、そういう意味では協働と支援が重なる部分もある。しかし原則的に、協働では、事業を行うパートナーとなるNPOが選ばれる。この時、その仕組みなどが公開されていることなどは重要だが、相手のNPOの能力などを見て選ぶことになるし、行政と目的が一致しないNPOをパートナーにする自治体はないだろう。一方、支援は公平に行われるべきもの。たとえ行政と意見が違うNPOであっても支援をすることは必要である。
2002.12.25
以上