その他 : 公法協、一般法人への移行推奨を懸念
12月からの新しい公益法人制度の全面施行を控えて、公益認定等委員会事務局では各都道府県などで、新制度の説明会を開催している。しかしながら、財団法人公益法人協会によれば、説明会の一部の内容が、一般法人を移行先法人として推奨しているように受け取れる内容だったとのこと。これを受けて、公益法人協会では、8月21日、公益認定等委員会に対して、こうした状況の是正を求める要望書を提出した。
公益法人協会によると、公益認定等委員会事務局が各都道府県などで開催している新制度の説明会の参加者から、事務局側の説明が、一般法人を移行先法人として推奨しているように受け取れるとの声が数多く寄せられ、その当否や背景についての問い合わせが多いとのこと。
こうした状況について、公益法人協会は、新制度においても公益法人を目指そうとする多くの公益法人を委縮させることとなれば、民間による公益活動を国として奨励し支援するという抜本改革の目的を逸脱するものとして憂慮。
そこで、当公益法人協会は、説明事例などを確認。実際に、説明会では、「公益 認定を取得すると事務負担が増え、相当な事務能力も必要となる。年間1000万円はコストアップになる。会計監査の費用も馬鹿にならない。」、「先ず一般法人を選択し、その上で様子を見て公益法人を目指したほうがよいのではないか。」といった、一般法人への移行を推奨していると受け取れる説明があった。
そこで、8月21日に、このような事態の是正を求めた要望書を、公益認定等委員会に提出した。
要望書の全文は以下。
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平成20年8月21日
公益認定等委員会
委員長 池田 守男 殿
財団法人 公益法人協会
理事長 太田 達男
公益法人制度改革関連三法の全面施行を控え、昨今ご高承のとおり貴委員会事務局では、本制度の理解促進及び普及啓蒙のため各都道府県に
おける公益法人を対象とする説明会ならびに個別関連団体等におけるセミナー等に事務局員等を派遣されているところであります。
現在までのこれら説明会等に参加した公益法人関係者の感想によれば、ほぼ一様に説明者は移行先法人として公益法人には様々なリスク等があり、一般法人を推奨されるかのごとき発言をされているようであります。
説明事例は別紙のとおりですが、その共通的な要旨は公益法人については1)公益認定申請および認定取得後の事務負担が過大であること2)公益認定取得には取消時の財産贈与リスクがあること、他方一般法人については1)公益目的事業もできること2)公益目的支出計画完了後は自由な運営ができること3)税制上も(非営利型の場合)法人税に関する限り公益法人と遜色ないことなどを説明し、無理して公益法人を目指すのではなく両者を比較して慎重に判断すべきと結んでいます。
これらの説明を聞いた参加者から、「今まで公益認定を目指して頑張ってきたが、今日の説明で、心が萎えてしまった」「そんな事務負担には到底耐えられないので公益認定は諦める」「事務負担が大変だというなら、事務量を減らすような知恵を出すべきだ」「なぜ、事務局は今頃そんなことを言い出したのか解せない」「公益法人の数を絞ろうというのか」などの声が弊協会に数多く寄せられています。また、このような説明内容を反映してか、「公益法人認定制度は『合法的に公益法人を減少させるための制度』」、「公益認定等委員会及び所管官庁は、一般法人化を推奨しています⇒公益法人の大幅な減少の実現化へ」などと記された商業的セミナーの案内チラシも出現しております。
弊協会といたしましては、このような現状を深く憂慮します。申し上げるまでもなく公益法人認定法は国会への提案理由によれば「内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施を促進して、活力ある社会を実現することが重要となっております」という認識の下、与野党が一致して賛成し成立した制度であり、同法第1条(目的)にも同様の趣旨が規定されております。貴委員会事務局におかれてはこのような趣旨に則り、少しでも多くの公益法人が新制度の下で誕生し、社会の各分野や地域において国民の志と知恵と資金により公益活動を担っていただくべく、本制度の普及啓蒙を図っていただく任務があるものと理解しております。
現に、公益認定等委員会ならびに同事務局ではガイドラインの策定やFAQの発表にあたり、様々な緩和措置を取り入れられており、また申請書の様式、同申請の手引き、電子申請の開発など、申請者の利便性に配慮した工夫をされていることは弊協会としても評価しているところでありますが、各地での説明会において公益法人関係者を萎縮させるがごとき発言をされていることには大きな失望感を覚えるものであります。
公益法人制度改革関連三法案が審議された第164国会(衆議院行政改革特別委員会)におきまして小職は参考人として招致されましたが、その際、今般の制度改革は「主務官庁制度を廃止する点で現行制度に比べ大きな前進」と評価した上で「公益性の認定と連動した税制の実現」「公益認定等委員会の独立的な運営体制の整備」「民間団体との意思疎通を十分に」などの意見を述べ、それらが附帯決議として採択された経緯もあり、そのような民間の立場から制度改革の推進・普及活動に努めている小職といたしましては、まことに残念の極みと申さざるを得ません。
貴委員会では上記のような現状をご認識いただき、早急に是正に向けてご検討いただきますようお願い申し上げます。 以上
(別紙)
公益認定等委員会事務局職員等の説明事例
下記説明者は、主として事務局職員。一部、普及・啓発員も含む。
<A地での説明>
○公益認定を受けることは相当なリスクを伴う。認定を取消された場合(自ら取消申請する場合を含む)1ヶ月以内に公益目的取得財産残額を贈与しなければならないが、公益認定にあたってはそのような場合、どのように対応するか十分検討しておかなければならない。
○認定申請時には大きな事務負荷がかかることに加えて、毎年の行政庁への報告にも各種財務基準の計算など恒常的な作業が発生する。
○公益認定を受けなくても公益目的事業はできるし、団体運営の自由度も大きい。
<B団体での説明>
○公益認定を取得すると事務負担が増え、相当な事務能力も必要となる。年間1000万円はコストアップになる。会計監査の費用も馬鹿にならない。
<C地での説明>
○公益認定はリスクが大。認定を取った後が大変。キチンとやらなければ認定取消がある。
<D地での説明>
○公益認定を取るとその後の報告とかがある。
○先ず一般法人を選択し、その上で様子を見て公益法人を目指したほうがよいのではないか。
<E地での説明>
○公益認定を取ると会計帳簿関係だけで11種類の提出が義務付けられている。それだけに専門的知識と技術的能力を持った職員を配置する必要がある。
○事業資金のほとんどを寄附金に依存している法人(例:日本赤十字社)は公益認定法人を目指してほしい。他方、会費を徴収している法人(例:互助会)はもともと構成員の福祉を目的としているので一般法人でいいのではないか。
○公益目的支出計画が終了すると報告義務がなくなる。一方、公益法人は「公益目的事業財産」を常に計算し、認定取消があれば他の公益団体等へ贈与しなければならない。(このような説明を聞かれた参加者の感想として、「無理して公益認定を取らなくてもいいのでは、つまり一般法人でもいいのではないかと聞こえた」とのこと)
<F省での説明>
○移行先については先入観を排し、戦略的判断を。一般法人だからといって決して格落ちということではない。視野を広くして検討することが必要。
○一般法人にもメリットがある、公益目的支出計画が完了すれば自由な経営が可能になる。 以上