その他 : 安心社会実現会議、新たな「公」などを議論
5月15日、有識者らで構成される政府の「安心社会実現会議」は、第3回会合を開催した。会合では、社会不安について、これまでの議論を踏まえた論点整理がなされ、対応する形で「目指すべき国家像・社会の姿」が提示された。「新たな『公』の創造」については、NPOや国民の社会参加などが議論された。
安心社会実現会議は、「国民が安心して生活をおくることができる社会(安心社会)を実現するため、国家として目指すべき方向性や基本政策の在り方について議論を行うこと」を目的に政府内に設置された。座長は電通最高顧問の成田豊氏、座長代理は東京大学大学院経済学研究科教授の吉川洋氏。その他学識経験者や企業・労組関係者、 薬害肝炎全国原告団代表の山口美智子氏など計15名で構成される。 2009年4月13日に第1回会合を開催、「国家像」や「社会の姿」など中長期の戦略を議論している。
第3回会合では、麻生太郎内閣総理大臣の挨拶の後、論点整理について説明があった。
「『国民の不安』の根源・背景について」では、日本の将来展望や日本社会の持続可能性への不安をはじめ、地域のつながりの希薄化や市民の連帯感の喪失、利他意識の低下、不公正・不公平感の増大、「公」(政治・行政)への信頼の低下などが指摘された。これらの具体的表出として、様々な局面での格差の拡大・固定化や貧困問題、雇用の不安定化が挙げられた。
社会の連帯感、他者への信頼、相互扶助意識といった「社会を支える基底意識」にかげりが出ているとの指摘もあった。
「目指すべき『国家像』『社会の姿』について」では、下記8つのポイントが提示された。
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1.「成長と安心」
安心と成長の同時実現、安心と活力の両立世界への貢献―共生を通じた自らの発展・成長
2.「信頼」
安心の基礎となる政府と国民との信頼関係、国民相互の信頼関係=「社会的信頼関係」の回復、「社会契約」としての安心社会の実現
3.「切れ目のない安心」
全世代・全生涯を通じた「切れ目のない安心」の実現、特に現役世代(人生前半期)の安心―雇用を軸とした安心保障―の実現
「リスクをカバーするセーフティネット」から「人への投資を重視した能力発揮・自己実現の支援」へ
4.「公正な社会」
社会の一体性の維持・社会的公正の実現、格差の固定化・世襲化の防止、「努力が報いられる社会・一生チャレンジできる社会―複線の人生設計を可能にする社会―」の実現、社会参加・社会貢献の積極的評価
5.「次世代の支援」
少子化対策・次世代育成支援対策の抜本的強化、未来への安心(社会全体の持続可能性)を高める取り組みの強化
6.「新たな「公」の創造」
「公」の役割の再構築・再定義、分権化と多元化、多様な主体による新たな「公」の創造、小さい政府から機能する政府へ
国民の社会参加の効果的な保障と役割・責任の分担
7.「地域・家族の支援」
地域(コミュニティ)や家族の変容・多様化に対応した支援策の再構築、「住まい」や「まちづくり」をも含めた支援
8.「国民へのメッセージ」
中福祉・中負担の大きな設計図・見取り図と具体的政策の優先順位の提示、ライフステージに沿った具体的な「安心」の提示
安心社会実現に向けての国(政府)、自治体、企業、地域、家族、個人それぞれの参加、責任と役割の分担
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その後、各出席者から意見発表が行われた。
元岩手県知事で野村総合研究所顧問の増田寛也氏は、 「『地域としての総合力』を発揮するためには行政だけでなくNPOやボランティア、企業の参加が不可欠」とした。しかし、「まだまだNPOの基盤整備には課題が多いとして、支援税制など制度面のより一層の充実が必要」と述べた。また、ベンチャー企業やコミュニティ・ビジネス、社会起業家の育成の必要性も指摘した。
三菱商事代表取締役社長の小島順彦氏は、米国での自身の体験を交えながら、 教育の重要性を述べ、配布資料では「(教育の場として)家庭や地域社会、NPO、企業等が重要。地域ボランティアや世界各地での就業、途上国での協力活動等の経験は、企業が求める人材像とも合致する。」とした。
トヨタ自動車代表取締役会長の張富士夫氏は、英国での体験に触れ、「ボランティアなど、定年退職後に地域で活躍できる場の提供や寄付が賞賛される文化の醸成など、『世代間の支え合い』の仕組みが必要」と述べた。また、寄付税制についても課題として指摘した。
北海道大学大学院法学研究科教授の宮本太郎氏は、英国の事例に触れながら、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン) などを紹介した。
安心社会実現会議は、6月中には報告をまとめる予定。
安心社会実現会議の詳細は首相官邸内、下記ページを参照。配布資料や議事録が入手できる他、実際の会合の模様が動画配信されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ansin_jitugen/index.html