その他 : 民主党、NPOと政策議論の場を定期的に
7月14日、民主党(代表:鳩山由紀夫)は東京・永田町にて「市民パワーと民主党の懇談会」を開催した。NPO/NGO関係者を中心に、定員を大幅に上回る約350人が出席。民主党の政策担当議員による説明、NPOからの政策提言、参加者との意見交換などが活発に行われた。民主党は今後も定期的にNPOとの政策議論を続けていく予定。
「市民パワーと民主党の懇談会」は、衆議院選挙が近づき政治や政策に対しての関心が高まる中で、公共の担い手であるNPO・市民活動団体と政党とが、政策論議を行い、市民の「知恵」と「想い」を政策に結び付ける場として開催された。NPO側では、特定非営利活動法人NPO事業サポートセンター、特定非営利活動法人日本NPOセンター、特定非営利活動法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会、日本サードセクター経営者協会設立準備会(JACEVO準備会)が、参加を呼びかけ、開催に協力した。
当初200名の定員で開催する予定だったが、政権公約(マニフェスト)や政策への関心の高まりから、申し込みが殺到。当日参加者も多数いたため、急遽椅子を追加するなどしたが、立ち見や会場に入りきれない参加者が出るほどの超満員350名が参加しての開催となった。当日の模様は、民主党と特定非営利活動法人(NPO法人)OurPlanet-TV( http://www.ourplanet-tv.org/ )により、インターネットを通じてライブ配信された。
「市民パワーと民主党の懇談会」は、3部構成で開催。
まず、民主党幹事長の岡田克也衆議院議員が開会挨拶。奈良市長選にて、当選したNPO法人奈良NPOセンター事務局長の仲川 げん(元庸)氏について触れ、NPOと政治との関わりを述べた。岡田氏は「NPOと政党は様々な意味で協働できると思う。直接の目的としているところは異なるが、『公』のために働きたいというところは共通だ。立法を担当する政党として、お役に立てるところも多い。ご意見をいただき、実現できるところは、ぜひ頑張って実現していきたい。」と、NPOと政党との協働による政策提言・実現に積極的な姿勢を示した。
続いて、NPO法人NPO事業サポートセンター代表理事の古賀伸明氏がNPO側を代表して、謝辞を述べた。古賀氏は「私は、連合の事務局長でもあるが、労働組合も地域に根ざした活動を始めている。NPO法人を設立するなどして、組合員だけでなく地域の方々を対象とした活動で地域社会への貢献を目指している。今回の試みは民主党にとっても有意義なのではないか。さらに個別課題に関する懇談会へと発展することを期待したい。」と、謝辞と今後の取り組みへの期待を述べた。
「第1部 民主党のNPO・市民政策と取り組みについて」は政調会長代理の福山哲郎参議院議員が司会を務め、政調会長の直嶋正行参議院議員、政調会長代理の長妻昭衆議院議員、市民政策議員懇談会会長代行の仙谷由人衆議院議員が民主党の政策について説明を行った。
直嶋氏は、「民主党が政権を担うことになったら、税金の使い方を抜本的に変えていき、国家予算を全面的に組み替えたい。国民の『生活回り』に予算を配分し、格差を是正していく。子育てや教育をはじめ、年金・医療・介護といった社会保障、地方分権など政策に取り組み。新しい公益の担い手として、みなさんNPOと連携して取り組んでいきたい。私が言うまでもなく、国内外の社会課題の解決に取り組むNPOは、公益の担い手として欠くことができない存在となっている。今日はぜひ、民主党の政策に忌憚のないご意見をいただきたい。」と政策を説明、NPOと連携していく姿勢を打ち出した。
長妻氏は、「私自身も以前、市民団体の事務局をしていた。NPOの皆さんの活動には大変共感している。現状では、公の仕事『公務』の大部分を公務員が担っているのではないか。しかし、これでは、きめ細やかなサービスはできないし、財政的にも問題がある。NPOやボランティアが公の仕事を担うようにしたい。現状では、NPO支援税制の対象は、100に満たない。民主党の政策集には、こうしたNPOを支援するための支援税制拡充が最初に掲載されている。2006年の数字では国民1人当たりの寄付金額は日本が2034円、アメリカ84825円、イギリス33597円だ。日本はあまりにも寄付が少ない。文化的な背景もあるが、私は税制の不備も大きいと思う。国民の寄付額を国の税収と比較すると、日本は0.33%、アメリカは8.74%、イギリスは2.65%。これを見ても、大幅な拡充が必要になると考えている。財務省は『財政民主主義に反する』と渋っているが、私は『税金の民営化』というように考えて、進めていきたい。」と述べ、民主党としては、税制面でNPOを優遇し、日本に寄付文化を根付かせること、公の分野のほとんどすべてを公務員が担っている現状を変え、公をNPOやボランティアが担うようにしたいと、民主党のNPOに関する基本的な考え方を説明した。
仙石氏は、市民政策調査会と市民政策議員懇談会の活動を紹介。NPO活動に敬意を表す一方で、自身の体験から、「NPOの自律性も大切だ。ある程度行政と緊張感を持った関係でなければ、官僚側に取り込まれてしまう可能性もある。」と指摘。民主党としても「NPOへのできる限りの支援を、適度の緊張感を持ちながら行っていく。このことは党是のようなもの。今後とも協力して市民政策を進めていきたい。」と述べた。
「第2部 NPO関係者による政策提言」では、NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会副代表理事の池本桂子が司会を務め、NPO側からNPO法人市民福祉団体全国協議会の平野覚治常務理事、NPO法人自立支援センターふるさとの会の佐久間裕章理事、NPO法人日本子どもNPOセンターの清川輝基常務理事、NPO法人「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD‐J)の大前純一理事、NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の大橋正明理事長、NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会の松原明事務局長、NPO法人市民フォーラム21・NPOセンターの後房雄代表理事が、それぞれ福祉、子育て、環境、国際協力、NPO全般、公共サービス問題について、民主党への政策提言、要望を述べた。
市民福祉団体全国協議会の平野氏は、介護保険制度が抱える問題点を指摘。介護の一定の質を確保することや、医療と介護の連携、市民自治・コミュニティの形成を担う市民セクター組織への支援強化などを提言した。
これに対して、民主党衆議院議員の山井和則『次の内閣』ネクスト厚生労働副大臣は、「介護の現場は人材が宝」と重要性を指摘。介護報酬引き上げなどを予定していると答えた。また、障害者自立支援法についても触れ、廃止した上で応能負担へ切り替えていく方向性を示した。最後に「箱物から人へ」支援対象を変えていくことを強調した。
自立支援センターふるさとの会の佐久間氏は、2009年3月に群馬県で起きた「たゆらま」での悲劇の背景を説明。介護が必要だが、生活保護を受けるなど生活に困窮している一人暮らしの高齢者の問題を指摘。地域での介護の新しい形として、「支援付き住宅」を紹介・提案した。
これに対して、同じく山井氏は「生活保護を受けている方の介護の問題など、介護保険により低所得者が切り捨てられていっている。ぜひとも直していきたい。」と制度改善に意欲を見せた。また、福祉分野で「NPOが行政の安い下請けとなりつつある状況を変えていきたい。」とも述べた。
日本子どもNPOセンターの清川氏は、日本の子どもや教育分野での遅れを指摘。3割の子どもたちが孤独感を感じていたり、運動能力が大幅に低下しているなど「子育ち」が危機的状況にあると訴えた。具体的な提言として、「子ども省の創設」や「子ども特定財源の確保」、「地方での子ども総合センター設置」、「労働法規改正による親の働き方是正」を発表した。
これに対して、まず民主党参議院議員の神本美恵子ネクスト子ども・男女共同参画大臣は、「子どもの育ちへの注目などは民主党も同様だ。『子ども第一』の政策を目指してきている。子どもの貧困も問題化している。予算も優先的に配分していく。」と共感を示した。
続いて民主党衆議院議員の西村ちなみネクスト子ども・男女共同参画副大臣は、「まるで民主党の政策を読んでいる気がした。親時間の確保のためには、ワーク・ライフ・バランスが重要になるので、進めていきたい。『子ども省』については、『子ども家庭省』という縦割りを廃した形で同様の主張をしている。省庁再編を伴うので、ハードルは高いが、一緒に頑張りたい。」と述べた。
「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD‐J)の大前氏は、イギリスで発表されたスターン・レビューでの気候変動に伴う被害想定などを紹介。安倍・福田・麻生内閣での環境への姿勢を批評した上で、「民主党のマニフェストには、ぜひ『持続可能な社会づくり』を盛り込んでほしい。」と要望した。
これに対して、民主党参議院議員の岡崎トミ子ネクスト環境大臣は、当日配布されていた「民主党環境ビジョン」中、1ページ目の「持続可能な社会を構築する」との記述を紹介。国づくり・社会経済づくりの根本に「持続可能な社会」を据えていくと語った。また、「持続可能な社会の担い手を育てる環境教育をしっかりやっていきたい。定期協議や政策決定プロセスの中には、必ずNPO・NGOの方の発想を据えていきたい。」と語った。
国際協力NGOセンター(JANIC)の大橋氏は、貧困問題の解決に向けたODA(政府開発援助)の課題を指摘。「ODA基本法の制定」や「ODA省/国際開発省の創設」を提言した。他にも、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けたODA増額やODAへの市民・NGOの参画の機会確保などを提案した。
これに対して、民主党参議院議員の犬塚直史氏は、「援助大国から援助人材大国へ」との主張を紹介。ODAにも積極的な姿勢を表したが、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成にはODA増額に関する国民の合意が重要になるとの認識を示した。
続けて、西村氏も「政府とNGOとのパートナーシップなどODAのあり方の見直しが必要な時期に入っていると思う。」と述べた。
シーズ・市民活動を支える制度をつくる会の松原は、まず、特定非営利活動法人(NPO法人)制度の時代に合わせた改正を提案した。また、申請書類が煩雑で、審査に長期間かかっている認定NPO法人制度の改正を提言した。市民と政党の力で社会を良くしていくための民主党のリーダーシップに期待を示した。
これに対して、民主党参議院議員の大河原雅子NPO担当は、「NPOは公共サービスの担い手であり、自己実現や社会貢献の場であり、また分権型社会を促進する主体であると認識している。NPO法の改正と同時に、協同労働法など市民が地域に合った事業を迅速に展開できる仕組みを考えていきたい。」と述べた。
続いて、民主党参議院議員の尾立源幸政調副会長は、「市民が公益を担う社会の実現には、税制面からも、新しい寄付文化を育てていく必要がある。そのために所得税において寄付金の税額控除を一定割合取り入れていきたい。認定NPOも範囲を拡大して、さらに税制優遇を受けられるような社会をつくっていきたい。」と積極的な方向性を表した。
市民フォーラム21・NPOセンターの後氏は、縦割りの主務官庁制の下で、天下りなどが問題になっている外郭団体を改革し、自律した「サードセクター組織」にすることの重要性を述べた。「官から民への公共サービス移行の際には、人件費などを含めた適正なコスト(フルコスト)で委託するなどルールづくりが必要」とした。
これに対して、民主党衆議院議員の原口一博ネクスト総務大臣は、「政権を取れば、公共サービス基本法から落ちてしまった『市民公益』の考え方を盛り込みたい。分権と市民公益の拡大・自由化、いわば「税の市民化」に取り組んでいきたい。」と応じた。
「第3部 質疑応答・意見交換」では、限られた時間の中で、移民政策、子ども政策、大麻問題、介護、事業型NPOへの支援、在日外国人政策、少数派差別の禁止、メディア政策、放送への市民・NPOの参画、環境教育、フリースクール、子どもの遊び、入院している子どもたちへの支援、女性の人権、非営利協同セクターの育成、マイクロクレジット、憲法問題、科学技術者の援助などそれぞれの現場を踏まえた様々な意見が出された。福山氏らができる限り、対応した。
最後に、NPO法人日本NPOセンターの山岡義典代表理事が閉会挨拶。「まず、こうした場を準備してくださった民主党に感謝申し上げる。開催前は少し心配していたが、こんなにも多くの方々にご参加いただき、本当に良かった。NPOには現場に根ざした様々な意見があることが強み。今後の政治では、これらのNPOが重要になってくるだろう。他党とも同様の機会を設けたいと思っている。最近はNPO側から、政治の世界へ入る方も多い。これからも政治とNPOをつなぐ役割を果たしてきたい。」と語った。
福山氏は今後も定期的にNPOと政党との政策議論・意見交換の場を設けることを約束した。
シーズらNPOは各党に対して、今回のような「NPOと政党の政策討論会」の開催を提案していく予定。
当日の模様は、下記ページにて動画配信されている。
NPO法人OurPlanet-TV
NPOと政党の政策討論会「市民パワーと民主党の懇談会」
http://www.stickam.jp/profile/ourplanet
民主党
NPOと民主党の政策懇談会
http://www.dpj.or.jp/news/?num=16527