その他 : 農地法改正、農地の借り入れを原則自由化
6月17日、参議院本会議で農地法改正案が可決・成立、6月24日公布された。改正農地法は従来までの農地所有と耕作を一体的に行う「自作農主義」を転換。農地の利用は原則自由化され、NPO法人などによる農地借入・耕作が可能になる。NPO法人による農業と観光・教育・環境・まちづくり等との多様な展開が期待される。
戦前までは、地主が田畑を小作農(小作人)に貸し出して耕作させ、利用料として小作料を納めさせるという寄生地主制が中心であった。しかし、戦後の農地改革(農地解放)により、地主が有していた農地は小作人所有へと変わった。そのような状況の中で旧農地法は、1952年に制定。「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて」と耕作者が農地を所有することを前提とし(自作農主義)、「耕作者の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整し、もつて耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ること」に見られるように、農地の所有・利用を一体的に行うことが推進されてきた。
しかし、一方で制定当時と、社会状況が大きく変化する中で、農業分野では農家の高齢化や採算性の低下、農地の減少、耕作放棄地の増加、食料自給率の低下などの問題が発生。こうした状況を受け、農林水産省は、平成17年(2005年)に農業経営基盤強化促進法を改正し、構造改革特区制度の一環として導入された「農地リース特区」を「農地リース制度」として全国展開。ただし、農地リース制度では対象が遊休農地に限定され、都道府県知事の同意が必要であり、農業に参入するNPO数は69にとどまっている(2009年3月31日現在)。
参考ニュース 「解禁半年、農業参入NPOは35法人」 (2006/3/24)
/2006/03/行政-解禁半年、農業参入npoは35法人/
参考ニュース 「農業参入NPO法人は全国で29法人」 (2007/4/25)
/2007/04/行政-農業参入npo法人は全国で29法人/
農水省は、昨年、平成20年(2008年)12月には、抜本的な制度改革に向けた「農地改革プラン」を発表。その中で、農地転用規制強化など「農業生産・経営の基礎的な資源である農地の確保」と、自作農主義転換を含めた「貸借を通じた農地の有効利用」などがうたわれていた。
農水省は、農地改革プランの考えを盛り込んだ「農地法等の一部を改正する法律案」を、閣議決定後、2月24日に国会へ提出。その後、自民党と民主党間で修正協議がなされ、貸借に関する要件が追加された修正案が5月8日に衆議院を通過し、6月17日には参議院本会議で可決・成立した。施行は平成21年(2009年)12月までに行われる見込みとなっている。
改正農地法では、農地の所有と利用(貸借)に関する要件を分離させた。所有に関しては従来通り「法人の場合は農業生産法人であること」など厳格な要件を設ける一方で、貸借に関しては一定の条件下で、一般の農地でも自由化された。
具体的には、下記5要件を満たせば、特定非営利活動法人(NPO法人)や株式会社、一般社団・財団法人、社会福祉法人などで農業生産法人でない法人でも、農地の借り入れが可能になる。
・農地のすべてを効率的に利用して耕作の事業を行うこと
・周辺の農地利用に影響を与えないこと
・農地を適正に利用していない場合に貸借を解除する旨の条件を契約に付していること
・地域の他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うこと
・法人にあっては、業務執行役員のうち1人以上の者が農業に常時従事すること
また、農地の賃貸借の期間が20年以内から50年以内へと延長された他、農地税制も相続税の納税猶予制度が見直され、農家が農地を貸し出しやすくなる予定。
この他、農地転用規制の強化や農業生産法人制度の見直しなども実施される。
NPO法人にとっては、これまで一部の遊休農地に限定されていた借り入れが原則自由化することで、本格的な農業参入が可能になる。また、既存の観光・教育・環境・まちづくり・福祉・自然体験などの活動と、農業との有機的な融合(コラボレーション)によって、新たな可能性が生まれてくるであろう。
あるいは、地域の農家と都市住民が集まってNPO法人を設立し、農地を借り入れ一緒に農業を行いながら農村と都市間の交流を行うなど、農家や農村が主体となった村おこし・町おこしも展開可能になる。NPO法人の農業分野での活躍に期待したい。
改正農地法の概要や制定背景、詳細内容などは、農林水産省内の下記ページを参照。
http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/kaikaku/index.html
農地リース制度(改正農業経営基盤強化促進法の特定法人貸付事業)については、農林水産省内の下記ページを参照。
http://www.maff.go.jp/soshiki/keiei/nouchi/shiensaito/shientop1.htm