その他 : 鳩山首相、所信表明・代表質問でNPO支援
10月26日、鳩山由紀夫内閣総理大臣は、開催中の第173回国会(臨時会)の衆・参両院本会議で所信表明演説を行った。「地域の『絆』」や「新しい公共」等で市民やNPO、ボランティアに多数言及。30日の代表質問では、答弁でNPO支援税制(認定NPO法人制度)の拡充を明言した。
10月26日、鳩山由紀夫首相は、開催中の第173回臨時国会の衆・参両院本会議で、所信表明演説を行った。「所信表明演説」とは、首相が臨時国会の冒頭などで行う演説のこと。衆議院と参議院の本会議で国政全般について当面の方針や重点課題を説明する。
通常国会の冒頭で行われる首相の「施政方針演説」が、主に内閣全体としての基本方針を述べるのとは異なり、所信表明演説では、首相個人の政治姿勢や方向性、考えなどが述べられる。数日後、両院各会派の代表者が演説内容について、質問を行うのが通例(代表質問)。
注目を集めた鳩山首相の所信表明演説では、冒頭で「政治と行政に対する国民の信頼を回復する」ことが重要とし、「これまでの官僚依存の仕組みを排し、政治主導・国民主導の新しい政治」への転換を強調した。
具体的には、政府・与党の意思決定一元化や大臣・副大臣・大臣政務官の政務三役による政策決定、事務次官会議の廃止、閣僚委員会での徹底的議論などを挙げた。
また、国民への情報公開や国民からの政策提案募集、国民参加のオープンな政策決定を推進する姿勢を示した。
演説全体で「NPO」「市民」「ボランティア」がそれぞれ4回も登場。「地域の『絆』」部分では全国各地で取り組まれている、子育て、介護、教育、街づくりなど多様で自発的な市民活動・NPO活動に言及し、子育て支援活動を具体的に紹介した。
「新しい公共」部分では「私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う『新しい公共』の概念です」と表明。新しい公共について、官だけでなく、市民参加により市民やNPOが公共を担うような社会と説明。その実現に向けた政治の役割としては、市民活動やNPO活動を邪魔する余分な規制を取り払うなど「市民やNPOの活動を側面から支援していくこと」と考えを述べた。
個別課題においても、「経済・雇用危機の克服と安定した経済成長」で雇用問題解決へのNPO参加、「『架け橋』としての日本」でアジア太平洋地域での防災・災害対策ボランティアのネットワーク活用や東アジア地域におけるボランティアなど若者の文化交流について言及している。
麻生太郎前首相・福田康夫元首相の所信表明では、NPOやボランティアに関する言及は無かった。また、安倍晋三元首相は「NPOなど『公』の担い手を支援し、官と民との新たなパートナーシップを確立します」と触れただけだった。これら最近数年の自公政権における演説内容と比較して、大幅に言及回数や取り上げ方は増加。首相が掲げる「友愛政治」の実現に向けて、NPOやボランティアの重要性が表された形だ。
参考ニュース 「福田新首相、NPOに触れず」 (2007/10/10)
/2007/10/その他-福田新首相、npoに触れず/
参考ニュース 「安倍首相、所信表明で『NPO支援』」 (2006/10/02)
/2006/10/行政-安倍首相、所信表明で「npo支援」/
鳩山首相の所信表明演説を受けて、10月29日・30日には衆・参両院本会議で各会派代表者が代表質問を行った。30日の参議院本会議での代表質問では民主党・新緑風会・国民新・日本の円より子参議院議員が「NPOへの税制面での支援」について質問。
これに対する答弁で、首相は「(NPOは)新しい公共の当然ある意味での中心的な担い手」と述べ、NPOの公益性とのバランスへ配慮するとしながらも「認定NPOの寄附税制、これはまだ貧弱なものだという認識は私も感じておりまして、これをもっと積極的に拡充していく、こういう税制面での支援を私どもとして実現してまいりたい」とNPO支援税制(認定NPO法人制度)の積極的な拡充を明言した。
他にも首相は雇用問題でのNPOとの連携に触れ、菅直人内閣府特命担当大臣も答弁の中で、内閣府政策参与となった湯浅誠氏(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長・反貧困ネットワーク事務局長)らと共に問題解決に当たっていく姿勢を示した。
鳩山首相が理念とする「友愛政治」には、NPOやボランティアの果たす役割が非常に大きいことが、改めて示された。今年度の税制改正の議論の中でも、首相の本所信表明演説や「政治主導・脱官僚」の流れは大きな影響を与えており、期待が高まるところだ。今後の政策展開を注目していく必要がある。
鳩山首相の所信表明演説全文は、首相官邸の下記ページを参照。
http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/200910/26syosin.html
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●鳩山由紀夫首相 所信表明演説(10月26日) 関連部分
一 はじめに
(戦後行政の大掃除)
・・・情報面におきましても、行政情報の公開・提供を積極的に進め、国民と情報を共有するとともに、国民からの政策提案を募り、国民の参加によるオープンな政策決定を推進します。
三 「居場所と出番」のある社会、「支え合って生きていく日本」
(地域の「絆」)
ここ十年余り、日本の地域は急速に疲弊しつつあります。経済的な意味での疲弊や格差の拡大だけでなく、これまで日本の社会を支えてきた地域の「絆」が、今やずたずたに切り裂かれつつあるのです。しかし、昔を懐かしんでいるだけでは地域社会を再生することはできません。
かつての「誰もが誰もを知っている」という地縁・血縁型の地域共同体は、もはや失われつつあります。そこで、次に私たちが目指すべきは、単純に昔ながらの共同体に戻るのではない、新しい共同体のあり方です。スポーツや芸術文化活動、子育て、介護などのボランティア活動、環境保護運動、地域防災、そしてインターネットでのつながりなどを活用して、「誰かが誰かを知っている」という信頼の市民ネットワークを編みなおすことです。「あのおじいさんは、一見偏屈そうだけど、ボランティアになると笑顔が素敵なんだ」とか「あのブラジル人は、無口だけど、ホントはやさしくて子どもにサッカー教えるのも上手いんだよ」とかいった、それぞれの価値を共有することでつながっていく、新しい「絆」をつくりたいと考えています。
幸い、現在、全国各地で、子育て、介護、教育、街づくりなど、自分たちに身近な問題をまずは自分たちの手で解決してみようという動きが、市民やNPOなどを中心に広がっています。子育ての不安を抱えて孤独になりがちな親たちを応援するために、地域で親子教室を開催し、本音で話せる「居場所」を提供している方々もいらっしゃいます。また、こうした活動を通じて支えられた親たちの中には、逆に、支援する側として活動に参加し、自らの経験を活かした新たな「出番」を見いだす方々もいらっしゃいます。
(「新しい公共」)
働くこと、生活の糧を得ることは容易なことではありません。しかし、同時に、働くことによって人を支え、人の役に立つことは、人間にとって大きな喜びとなります。
私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う「新しい公共」の概念です。「新しい公共」とは、人を支えるという役割を、「官」と言われる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です。
国民生活の現場において、実は政治の役割は、それほど大きくないのかもしれません。政治ができることは、市民の皆さんやNPOが活発な活動を始めたときに、それを邪魔するような余分な規制、役所の仕事と予算を増やすためだけの規制を取り払うことだけかもしれません。しかし、そうやって市民やNPOの活動を側面から支援していくことこそが、二十一世紀の政治の役割だと私は考えています。
新たな国づくりは、決して誰かに与えられるものではありません。政治や行政が予算を増やしさえすれば、すべての問題が解決するというものでもありません。国民一人ひとりが「自立と共生」の理念を育み発展させてこそ、社会の「絆」を再生し、人と人との信頼関係を取り戻すことができるのです。
私は、国、地方、そして国民が一体となり、すべての人々が互いの存在をかけがえのないものだと感じあえる日本を実現するために、また、一人ひとりが「居場所と出番」を見いだすことのできる「支え合って生きていく日本」を実現するために、その先頭に立って、全力で取り組んでまいります。
四 人間のための経済へ
(経済・雇用危機の克服と安定した経済成長)
・・・また、政府が一丸となって雇用対策に取り組むため、先般、緊急雇用対策本部を立ち上げ、職を失い生活に困窮されている方々への支援、新卒・未就職の方々への対応、中小企業者への配慮、雇用創造への本格的な取組など、細やかで機動的な緊急雇用対策を政府として決定したところです。このような時にこそ、地方公共団体や企業、労働組合、NPOの方々を含め、社会全体が、支え合いの精神で雇用確保に向けた努力を行っていくべきだと考えます。
五 「架け橋」としての日本
アジア太平洋地域は、その長い歴史の中で、地震や水害など多くの自然災害に悩まされ続けてまいりました。最近でもスマトラ沖の地震災害において、日本の国際緊急援助隊が諸外国の先陣を切って被災地に到着をし、救助や医療に貢献してまいりました。世界最先端レベルと言われる日本の防災技術や救援・復興についての知識・経験、さらには非常に活発な防災・災害対策ボランティアのネットワークをこの地域全体に役立てることが今後、より必要とされてくると思っております。
今後、さらに国民の間での文化交流事業を活性化させ、特に次世代の若者が、国境を越えて教育・文化・ボランティアなどの面で交流を深めることは、東アジア地域の相互の信頼関係を深化させるためにも極めて有効なものと考えております。
●衆議院 代表質問(10月29日) 関連部分
□日本共産党 志位和夫衆議院議員(雇用問題に関する質問)
【鳩山由紀夫首相 答弁】
・・・雇用確保については、これも前から申し上げておりますように、国だけではなく、地方公共団体、さらに企業、さらに労働組合、NPOなど、社会全体で支え合いの精神によって努力をして解決に向けていくことが重要だと思っておりまして、正社員化に向けて私ども一丸として頑張っていきたい、そのように考えております。
●参議院 代表質問(10月30日)
□公明党 山口那津男参議院議員 質問(社会保障に関する質問)
【鳩山由紀夫首相 答弁】
社会保障の給付と負担についての御質問でありますが、新政権は何よりも人の命を大切にしていきたい、そして国民の暮らしを何としても守りたい、この思いの下でそれぞれの政策を実施をしてまいります。
急速な少子高齢化が進んでおります。そんな中で、年金、医療、介護など社会保障制度を国民の皆さん方から見て信頼をしていただける持続可能なものにするために、国民の皆様方との御議論も一生懸命尽くしていきながら、さらに連立政権の合意、さらにはマニフェストで示しました政策を着実に実行に移してまいりたいと思います。
一つ一つのことに関しては後で触れさせていただきますが、その際に、国や地方公共団体ではなく、市民の皆さんあるいは企業、そして労働組合、NPO、こういった方々が信頼のネットワークを編み直して、そのことによって人と人とが支え合う新しい公共を実現をしていきたい、このようにも考えているところでございます。
□民主党・新緑風会・国民新・日本 円より子参議院議員 質問(NPO支援税制に関する質問)
鳩山総理は、今回の政権交代を無血の平成維新と表現し、国の形の変革への試みは今なら間に合うと説いておられます。同じ考えを持つ私は、ヒューマン・ニューディール政策をこれまで提唱してまいりました。これは、個々の人たちのライフスタイルを重視し、人間中心に経済や社会の在り方を考える政策です。
具体的には、既存の就業形態を大幅に変えて在宅就業システムを社会に導入することで、省エネで環境に優しい人間中心型のライフスタイルをつくります。次いで、官による非効率な公共サービスのみに依存せず、民間のNPOにも公益を担ってもらうために、NPOに対し大胆な寄附金控除を行います。さらに、地域コミュニティーやインターネット上のバーチャルコミュニティーなど、共同体の活性化を支援するのです。
公共投資についても、都市部の集合住宅に老人介護施設や保育園を併設して、職住近接と世代を超えた共生が可能な住環境を実現したり、自転車専用道や低床の路面電車など、どのような世代の人たちでも安全で快適に移動できる交通機関、そして環境に配慮した都市空間をつくるためなら、私は公共投資にも予算を振り向けることが必要ではないかと思います。
実は私は既にこの六年間、NPOを通じて、母子家庭の母親千人近くが参加するITを使った在宅就労支援を行っております。こうした時間と場所にとらわれない働き方は、母子家庭のみならず、より人間的なライフスタイルを求めるすべての人たちが利用することができるのです。そして、在宅就業システムを社会に導入することで、省エネで環境に優しい人間中心型のライフスタイルが実現します。
こうした考え方は、総理の示された国の形の変革への試みにも共通すると思います。日本は今、高度経済成長時代が終えんし、額に汗して働けば豊かになると信じられた「三丁目の夕日」の時代の神話と自信を失っているとも言われます。しかし、人間中心型にライフスタイルを変えることで、日本はもう一度活力と自信を取り戻すことができるのではないでしょうか。
総理は、緊急雇用対策本部を設置し、雇用対策を進めておられますが、このヒューマン・ニューディール政策による在宅就業システムも雇用の確保に資することになると思います。在宅就業支援並びにNPOへの税制面での支援について、総理のお考えをお聞かせください。
【鳩山由紀夫首相 答弁】
・・・NPOに関して申し上げれば、新しい公共の当然ある意味での中心的な担い手だと、そのように考えております。したがいまして、NPOの公益性とのバランスを当然考える必要はあろうかと思いますが、認定NPOの寄附税制、これはまだ貧弱なものだという認識は私も感じておりまして、これをもっと積極的に拡充していく、こういう税制面での支援を私どもとして実現してまいりたいと思います。
【菅直人内閣府特命担当大臣 答弁】
先週の二十三日、緊急雇用対策を鳩山本部長の下でまとめましたが、特に注意をしたことは、新たな雇用をいかにして創造していくか、介護の分野あるいは農林業の分野、さらにはNPOなどのいろんな活動と連携をしての雇用創造、さらには新卒者が卒業した途端に失業しないようにといった問題、それに合わせて貧困の問題にもしっかり取り組んでいこうということで、例えばワンストップサービスをハローワークなどで可能にするようにという観点を入れました。
また同時に、往々にして政策を出せばそれで終わりということになりがちなんですが、現場からの視点をしっかりフィードバックさせていただくために、湯浅誠さんに内閣府の参与になっていただきまして、そういう視点からのフィードバックをお願いをすることにいたしました。
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