シェア=国際保健協力市民の会 山口誠史さん
シェア=国際保健協力市民の会 山口誠史さん
1970年代末に、インドシナ戦争の影響でカンボジア、ラオスなどの周辺国からタイへ多くの人々が難民として逃れました。その難民救援活動をきっかけに1980年に設立された日本国際ボランティアセンター(JVC)には、多くの医師、看護師などの医療関係者も参加し、国境での移動レントゲン活動、難民キャンプでの補助給食活動などを行いました。
これらの医療関係ボランティアが中心となって、国際保健医療を目指す人々のグループとして、1983年にJVC内に「海外援助活動医療部会」が設立され、タイ国境の活動に参加すると共に、国内で学習会や機関誌の発行を始めました。
この海外援助活動医療部会がJVCから独立して、現在のシェア=国際保健協力市民の会になりました。2008年に認定NPO法人を取得しています。
団体ホームページは、
http://share.or.jp/index2.html
●1.ファンドレイジングの場面で直面した課題
シェアは、従来から収入における自己資金の割合が低いことが課題であった。
総収入の約6割が政府や国連、JICAなどからの補助金や委託金であり、それ自体は信頼性が高いことを表しているが、一方で公的な資金は、使途が項目単位で決められている、活動内容の変更に柔軟に対応できない、事務作業が煩雑等の使いづらい面がある。
現地のニーズに合わせた柔軟な活動を行うためには、自己資金の拡大が不可欠である。また市民社会に基盤を置くNGOとしては、総収入の半分くらいは民間からの資金で支えられたいと考えている。
自己資金について詳しく見てみると、個人やグループ、財団からの寄付金や助成金は少しずつ増えているが、企業からの寄付金はとても少ない。これは、従来から企業に対して積極的な働きかけをしていなかったことが原因と考えられた。
そこで、設立25周年を期に、支援者拡大を2008年の目標に掲げる中、企業との連携を重点課題と位置付けた。
●2.その課題解決に向けたチャレンジ
企業との連携を目指すに当たり、ただ闇雲に電話を掛けてアポイントをとっても成果は無いだろうと考え、どのようにアプローチするかの戦略を策定した。
最初にこれまで協力関係があったいくつかの企業の担当者に対してインタビューを行った。企業は、NGO/NPOをどう考えているか、どのような連携のニーズがあり、どのようなアプローチは歓迎されないかなど、率直な意見を聞いた。
そこで得た情報や教訓を元に、シェアとして企業に対し何を打ち出していくか、連携という形で何が提案できるか、関係者が集まって議論してシェアからの提案内容を整理した。
整理した内容を元に、企業への広報ツールとして、シェアの概要と連携の提案を20分程度で説明できる資料を作成した。
資料作りと平行して、シェアと理念が合いそうで社会貢献に積極的な企業をリストアップし、CSRへの取組みや企業研究を行った。
上記のような準備の後、具体的に訪問する企業のリストを作成して、順次企業訪問を開始した。今年は、シェア設立25周年に当たるので、「いのちのパートナー」として1年間で25社の企業と連携することを目標とした。
●3.チャレンジの中でおこったエピソード
最初に行った旧知の企業担当者へのインタビューでは、NGOの専門性や企業の特徴を活かした連携が望ましいこと、社員に対するボランティアの場の提供は企業のニーズも高いこと、CSRはトレンドであるが組織的に行なっている企業がある一方で、多くの企業はまだ手探り状態で何をどうしたらよいか分からず事例を探していることなどが分かった。これらは、その後企業との連携戦略を立てる上で、重要な視点であった。
企業研究の過程では、シーズや東京ボランティアセンターなどが主催する、企業とNPOとの交流セミナーなどに積極的に参加し、名刺交換を行った。その中では、他団体から紹介された相手とすんなり会話ができ、実際にボランティア受入れ事業に繋がった。
実際に企業訪問を開始してみると、以前から関係があった企業については、具体的な提案を聞いて早速協力を約束してくれるところがあったが、初めての企業については、あたりまえのことではあるが、なかなか会ってくれなかったり、会っても話だけ聞いて「うちは既にこれこれと協力関係があり、これ以上は無理です」という反応が多かった。
●4.チャレンジの結果
25周年を記念した「いのちのパートナー」に関しては、企業訪問を開始した4月以降2社の協力が確定し、数社が検討中となっている。25社との連携という目標は厳しい状況であるが、関係作りの第1歩としたい。
一方で、ある企業とは、社員のボランティア活動の場を提供するということで、HIV/AIDSに関係した3回のワークショップをシェアの事務所で行い、約30名のボランティアを受け入れた。参加したボランティアの人たちにも喜んでもらい、個人的なつながりや企業との継続的な連携に繋がっていくことを期待している。
まだ成果は不十分であるが、企業との連携に関する基本的な戦略とツール、やり取りのノウハウが蓄積されてきたので、今後はそれらを生かして、さらに積極的に企業との連携に取り組んでいく。
また、今回の経験は、他の支援者層へのアプローチにも応用できるので、企業以外の個人や労働組合など、広く民間セクターとの協力、連携、支援に生かしていきたい。
●5.教訓!
日頃の人間関係が一番だいじ!