ピープルズ・ホープ・ジャパン(PHJ) 須見 彰さん
ピープルズ・ホープ・ジャパン(PHJ) 須見 彰さん
ピープルズ・ホープ・ジャパンは、1997年に米国に本部を置く国際NGO Project HOPE の日本法人として設立された「プロジェクトHOPEジャパン」を前身とする国際医療支援団体です。
1999年に特定非営利活動法人の認証を受け、2001年には認定NPO法人第一号となりました。そしてこの度、Project HOPEとの協力関係を維持しつつも、「ピープルズ・ホープ・ジャパン」として独立することとなりました。
私達の活動目的は、特にアジアの開発途上国を対象に、その国の人々や組織と協力しながら健康・医療環境の向上を目指し、自立しようとする人々を支援するものです。この組織は、国際的連帯の中で自主的な援助活動を行います。そしてODA活動とも協力し、日本と相手国との相互信頼関係をより一層深めると共に、世界の国々より愛され、より信頼される国となるよう努めます。
PHJの活動は、1,817人の個人会員と339団体に及ぶ法人・団体会員(2006年9月15日現在)のご寄付(現金・商品)と公的補助金によって支えられ、年間活動予算規模は年間約1億5千万円です(2005年度会計実績)。現在、タイ、インドネシア、カンボジアの3カ国でプログラムを実施しています。
団体ホームページは
http://www.ph-japan.org/aboutphj.html
●1.募金が増えない
PHJは個人と法人の賛助会員制で、その年会費は個人3000円/口、法人20万円/口である。
現在個人会員は約2000人、法人は約400社で比較的多い方であろう。年間収入は約1億円で、法人からの会費が募金額の約80%を占める。したがって法人会員数を増やすことが募金額を増やす上で重要である。法人会員は今まで色々なルートを開拓し当初は順調に増えた。
しかし数年前から伸び悩み、募金が頭打ちになってきた。年会費アップや口数アップも考えられるが限度がある。
一方事業はどんどん増えるのに収入が増えない「さあ困った」と頭を悩ませた。募金活動は創立以来ガムシャラにやってきた、今年の目標はあったが将来目標なんてなかった、ただただスタッフ全員の行動だけが頼みだった。企業時代には「今年度目標だけでなく中期目標(3-5年)を設定していた」ことを思い出した。
それにはVisionが必要である。「そうだVisionを作ろう!」
●2.企業冠募金
Visionには数値目標と共に施策が絶対条件、ポイントは法人募金のアップ施策である。
募金推移をレビューしながら施策を皆で議論した。会費はNPO活動全体を支えるので、事業費だけでなく募金活動にも管理費にも自由に使える利点がある。しかしドナーに「貴社のご寄付はこの事業に使いました」と明確には言えるものではない。
したがってドナーへの報告にパンチがない、事業に企業名が出ないからである。事業に企業名を冠に仰いではどうか?企業では「○○サッカー」「○○コンサート」とスポンサー名を冠に付けることが多いが、NPOでも考えられないか?「待てよ?NPOが企業の宣伝に一役買ってよいのか?」との疑問が残った。
そこで理事会で意見を聞いた。
企業出身の理事から「企業の本音、賛成」「会費は管理費だが、冠募金は広告宣伝費で落とせる。予算規模が違う」「CSR奨励の時代、誰も文句は言うまい」。
こうして企業冠募金は決まった。幸い非難の声は来ていない。
2年前PHJは創立10周年を迎えた。記念行事としてドナー感謝のパーティもあるが、記念事業の方が前向きではないか?それも今後の活動の出発点になるものを!このようにして「タイAIDS予防教育センター設立」が決まった、費用1000万円は企業冠募金とした。昨年から冠募金に本腰を入れた、幸い多くの企業が協力してくれ2000万円以上となった、会費以外の収入である。
今年は更に洗練された冠募金に挑戦中である。
●3.チャリティ付き商品
今年6月、全国紙に全面カラー広告が出た。ある企業のチャリティ商品広告である。
読んで驚いた。「この売り上げの一部をPHJを通じてカンボジアの気の毒な子ども達に寄付いたします」。実はこの話、今年始めに打診があったが広告を見て現実となった。
なぜPHJに決めたのか?理由を聞いて嬉しかった「子ども支援、認定NPO法人、低経費率運営」が条件でPHJに決めましたとのこと。この3要素はPHJ創立以来もっとも力を入れてきたことで、その努力が評価されたことになる。
幸いこのチャリティ商品は超人気で爆発的に売れているそうだ。販売期間は12月まで、寄附は数千万円とか?クリスマスプレゼントが楽しみである。
こちらからお願いした訳ではないが、冠募金の一種と言えよう。この新聞広告を見て別の企業から同様の申し出があり、売り上げの一部をPHJに寄付するキャンペーンを実施してくれている。有難い話である。
●4.消費者にチャリティの機会を
企業のCSR活動は活発である。社会貢献が企業価値を高める要素と定着してきた。
企業が社会貢献費用としてその企業が出すのであるが、これを消費者にまで広める努力が始まった。
あるレストランチェーンの例である。メニューの一角にチャリティを含んだ料理がある。そこにははっきりと「この料理はチャリティ付でPHJを通じて食料難に苦しんでいる途上国の子ども達に寄附します」と明記してある。
この料理はメタボ対策メニューである。日本人のメタボ対策と食糧難民を結んだところが、消費者の心を揺さぶる企画だと思う。全商品にチャリティを付けるのではなくメニューの一部とし選択制にしたのもミソである。チャリティ分は1%位であり懐を痛めない。それでいて消費者は少しいいことをしたとの満足感を得るだろう。
企業はマッチングファンドとして同額を上乗せしてPHJに寄付してくれる。企業が消費者にまで寄付文化を広める一例であるが、この方式はあらゆる分野に適用できるので今後増えてくると思う。
●5.「集める時代」から「頼まれる時代」へ
企業冠募金は成功しつつある。さまざまな波及効果も出てきた。伸び悩んでいた法人募金は上昇カーブに入った。
また企業は「戦略的CSR」に取組んでいる。どのNPOをパートナーに選ぶか?NPO評価の時代に入った。選ばれるための特効薬はなく、日常の活動を地道に実施し実績を積み、「このNPOなら信頼できる」という評価を得ることが大事と思う。「ローコスト、ハイパフォーマンス」はここでも生きている。
今まで募金は「集めるもの」と思っていたが、冠募金が一般的になると逆に企業から「頼まれる時代」に移り変わってきたように思う。
冠募金は企業だけでなく個人にも可能性がある。それが次のテーマである。