その他 : 政府の「新しい公共」円卓会議が発足
1月27日、政府は内閣府内に「『新しい公共』円卓会議」を設置、初会合を開催した。円卓会議は鳩山首相の私的懇談会で、経営者や研究者、NPO/NGO関係者など19名で構成。座長に慶応大学院教授の金子郁容氏が就任。今後、「新しい公共」の実現に向け、NPO法人制度や寄付税制、規制改革などの議論を行う予定。
鳩山首相は所信表明演説で「新しい公共」という概念を取り上げた。首相の発言によれば、「『新しい公共』とは、人を支えるという役割を、『官』といわれる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観」。
はっきりした定義があるわけでないが、一般的な理解としては、各省庁(官)が中心的に担い、価値規定してきた「公共」を、市民・NPO/NGO・企業など様々な社会の構成主体が参加しながら、創りあげていくというところだろう。
このような考え方は、以前から存在する。類似概念・用語としては、「新たな公」や「新しい公益」、「新しい公共空間」、「新しいコミュニティ」、「民間が担う公益活動」などがある。提唱する省庁や地方自治体により、微妙に用語は異なっているが、概ね似たような考え方だ。
2000年代に入ってから、行政改革の流れの中で、公共(パブリック)や公(おおやけ)概念の見直しが進み、徐々にこのような新たな捉え方が出てきたようだ。特定非営利活動促進法(NPO法)制定や公益法人制度改革なども関連した流れとも言える。
参考ニュース「PPP研究会で『新しい公益』を公表」(2002/06/10)
/2002/06/行政-ppp研究会で「新しい公益」を公表/
参考ニュース「国民生活白書、NPOを主題に」(2004/05/31)
※タイトルが「人のつながりが変える暮らしと地域―新しい『公共』への道」
/2004/05/行政-国民生活白書、npoを主題に/
参考ニュース「『新しい公共』を考える横浜会議」(2005/09/22)
/2005/09/行政-「新しい公共」を考える横浜会議/
参考ニュース「石税調会長『寄付税制でNPO支援を』」(2006/09/22)
※「民間が担う公益活動」に言及
/2006/09/行政-石税調会長「寄付税制でnpo支援を」/
一連の「新しい公共」的な概念では、NPO/NGOが重要視されている場合がほとんどだ。
鳩山首相も同様に、昨年の所信表明演説で「私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う『新しい公共』の概念です」と表明。その実現に向けた政治の役割としては、市民活動やNPO活動を邪魔する余分な規制を取り払うなど「市民やNPOの活動を側面から支援していくこと」と考えを述べた。代表質問では「(NPOは)新しい公共の当然ある意味での中心的な担い手」とも答弁している。
参考ニュース「鳩山首相、所信表明・代表質問でNPO支援」(2009/11/11)
/2009/11/その他-鳩山首相、所信表明・代表質問でnpo支援/
今回の円卓会議は、この鳩山首相の所信表明演説を受ける形で、「新しい公共」について議論するための場として設置されることとなった。構想段階では「新しい公共を実現する円卓会議」とされていたが、最終的に名称は「『新しい公共』円卓会議」に決まった。
目的は「『新しい公共』という考え方やその展望を市民、企業、行政などに広く浸透させるとともに、これからの日本社会の目指すべき方向性やそれを実現させる制度・政策の在り方などについて議論を行うこと」。
円卓会議は金子郁容氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)や福原義春氏(株式会社資生堂名誉会長)、谷口奈保子氏(NPO法人ぱれっと創始者・理事長)、大西健丞氏(一般社団法人CIVIC FORCE代表理事)ら、経営者や研究者、NPO/NGO関係者など19名で構成。内閣総理大臣や副総理、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(「新しい公共」担当)が出席する。
会議資料は公開され、インターネットによる動画中継・配信も行われる。
1月27日に開催された初会合は、政府側の挨拶や座長選任の後、参加者による自由な意見交換が行われた。具体的な内容の検討や議論はこれからの模様。メンバー間での「新しい公共」の捉え方や方向性の違いもあるようだ。
今後は、月に1回程度開催し、新しい公共に関する先進事例のヒアリングや促進に向けた社会制度の提案を行っていく方針。制度提案の具体例としては、バウチャー等によるNPO/社会企業活動の促進や法人制度・税制・規制緩和・特区活用などが挙げられている。
今後の議論に注目したい。
「『新しい公共』円卓会議」については、内閣府サイト内、下記ページを参照。会議資料の入手や会議動画の閲覧が可能。
http://www5.cao.go.jp/entaku/index.html
「新しい公共」関連情報まとめ(随時追加・更新予定)
◆各省庁・地方自治体
●2002年(平成14年)5月
経済産業省 産業構造審議会NPO部会
「中間とりまとめ 『新しい公益』の実現に向けて」
<概要>
多様な価値観をベースとして、多元的に公益を企画立案・実施するのが「新しい公益」。提供を担うのがNPO。NPOを支える寄付を重視、促進には税制改正や情報公開・コミュニケーション拡充が必要。
http://www.meti.go.jp/report/data/g20514aj.html
●2002年(平成14年)7月
神奈川県大和市 「新しい公共を創造する市民活動推進条例」
<概要>
多様な価値観に基づいて創出され、共に担う「公共」が「新しい公共」。
市民・市民団体・事業者・行政が対等な立場で協働、「新しい公共」創造への理念と制度を定める。
http://www.city.yamato.lg.jp/web/katudo/jourei.html
●2004年(平成16年)5月
内閣府 「平成16年版国民生活白書~人のつながりが変える暮らしと地域―新しい「公共」への道~」
<概要>
地域社会の担い手、新しい公共の担い手としてNPOに焦点。
期待されるNPO活動の推進と持続のためには、参加者、支援者の拡大、財政基盤の強化、信頼性の確保が必要。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/
●2005年(平成17年)4月
総務省 分権型社会に対応した地方行政組織運営の刷新に関する研究会
「分権型社会における自治体経営の刷新戦略-新しい公共空間の形成を目指して-」
<概要>
・「新しい公共空間」(=多元的な主体により担われる「公共」)の形成
・行政内部の変革と住民との関係の変革
・危機意識と改革意欲を首長と職員が共有
http://www.soumu.go.jp/iken/kenkyu/050415.html
●2007年(平成19年)4月
総務省 地方公共団体における民間委託の推進等に関する研究会
「地方公共団体における民間委託の推進等に関する研究会<報告書>」
<概要>
民間委託等は、地域において多様な主体が公共サービスの提供を担っていくために重要。
公共部門の生産性向上や行政資源の重点的配分、効率的行政にも有用。
http://www.soumu.go.jp/iken/kenkyu/050616.html
●2008年(平成20年)3月
厚生労働省 これからの地域福祉のあり方に関する研究会
「これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告書」
<概要>
多様なニーズへの的確な対応を図る上で、成熟した社会における自立した個人が主体的に関わり、支え合う、「新たな支え合い」(共助)の拡大、強化へ。
ボランティアやNPO、住民団体など多様な民間主体が担い手となり、地域の生活課題を解決したり、地域福祉計画策定に参加したりすることは、地域に「新たな公」を創出するもの。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0331-7.html
●2008年(平成20年)6月
内閣府 「『豊かな公』を支える資金循環システムに関する実態調査」
<概要>
「公」の多様な担い手の役割・重要性は増加。
関連諸制度の更なる改善(例:新たな非営利法人制度の検証、資金仲介機関改革、非営利営利法人間の組織変更容易化等)など、「豊かな公」の構築・拡充が必要。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/2008/0623yutakanaooyake/
●2008年(平成20年)7月
国土交通省 国土形成計画(全国計画) 「『新たな公』を基軸とする地域づくり」
<概要>
「新たな公」とは、行政だけでなく多様な民間主体を地域づくりの担い手と位置づけ、協働によって、社会サービスの提供等を行おうとする考え方。社会貢献による自己実現や地域経済活性化、社会的コストの軽減など、多面的意義がある。
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/kokudokeikaku_fr3_000003.html
「新たな公」ページ
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/aratana-kou/index.html
●2009年(平成21年)8月
総務省 新しいコミュニティのあり方に関する研究会
「新しいコミュニティのあり方に関する研究会 報告書」
<概要>
今後、地域コミュニティやNPO、マンション管理組合など多様な主体が「公共」を担う仕組みや、行政と住民の相互連携により地域力を創造する新しい仕組みが必要。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/new_community/18520.html
◆政党
◆シンクタンク
◆NPO/NGO
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●「新しい公共」円卓会議構成員(五十音順・敬称略)
秋山 をね 株式会社インテグレックス代表取締役社長
市村 良三 長野県小布施町長
井上 英之 慶應義塾大学総合政策学部専任講師
大西 健丞 公益社団法人Civic Force代表理事
小城 武彦 丸善株式会社代表取締役社長
小栗 泉 日本テレビ報道局記者
海津 歩 株式会社スワン代表取締役社長
金子 郁容 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
金田 晃一 武田薬品工業株式会社コーポレート・コミュニケーション部シニア・マネジャー
佐野 章二 ビッグイシュー日本代表
島田 京子 日本女子大学共同教職大学院設置準備室室長
谷口奈保子 NPO法人ぱれっと創始者・理事長
寺脇 研 京都造形芸術大学芸術学部教授
新浪 剛史 株式会社ローソン代表取締役社長
福嶋 浩彦 前我孫子市長
福原 義春 株式会社資生堂名誉会長
堀 久美子 UBS証券会社 コミュニティ アフェアーズ マネージャー
横石 知二 株式会社いろどり代表取締役社長
渡邊 奈々 写真家
●「新しい公共」円卓会議の進め方(案)
○目的
首相がはじめての国会開催にあたって行った所信表明演説で打ち出した「新しい公共」というビジョンの普及と促進について議論を深める。「新しい公共」のスピリットを、市民、企業、行政などに広く浸透させ、ひとりひとりが「居場所と出番」があると感じることができる、公正で活気ある社会を作るという、これからの日本社会の大きな方向性を示し、それを実現させるための広い意味での社会制度や具体的なアクションにつながる方策などについて提案を行う。
○基本的考え方
社会問題の解決はこれまで、ともすると、「政府か市場に任せる」、いわば、人任せになっていた。政府・行政や市場を通じての企業活動が重要であることは言うまでもないが、「新しい公共」を実現するには、それに加えて、当事者のひとりひとりがそれぞれの役割でかかわることで課題を解決するという「コミュニティ・ソリューション」を促進することが重要である。それぞれの地域でさまざまな社会的ネットワーク活動が展開され、多くの人が参加し、成果を共有し実感することで、ひとりひとりの潜在力が発揮され、絆が強まり、相互信頼が育つ。それによって一層、社会ネットワーク活動が盛んになるという好循環が生まれる。
これは、単にボランティア活動や社会貢献活動というだけでなく、地域の雇用を創出し、新しい市場を生み、公正でコストが低く、満足度が高い社会が実現する。それによって「人間のための経済社会」にも寄与する事が期待される。
○検討事項の例
(1)先進事例スタディ(現場の話を聞く)
①NPOや社会的企業の取組
(例.徳島県のコミュニティビジネス「いろどり」、長野県茅野市の子育て・医療、24時間在宅医療支援ネットワークであるライフケアシステム等)
②企業CSRによるNPOとの連携・支援
(例.クラウドサービス提供、クリック募金、融資プラットフォームの提供等)
③学校と地域の連携など教育分野の事例
(2)環境整備(「新しい公共」を促進するための社会制度の提案)
①バウチャー等によるNPO/社会企業活動の促進
②法人制度、税制のあり方
③規制のあり方、地域と期間を限定した特区の活用(社会イノベーション特区等)
○今後のスケジュール
・おおむね月1回開催を目途
・加えて、国会日程等を勘案しつつ、現地視察・意見交換を行う
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