【海外からの特別寄稿1】香港におけるNPO概観 Timothy K. W. Maさん(日本語訳)
【海外からの特別寄稿1】香港におけるNPO概観
Timothy K. W. Maさん
ファンドレイザー奮闘記の特別寄稿として、海外で活躍されるファンドレイザーから事例を紹介いただきます。
第1弾は、香港のSenior Citizen Home Safety Associationの事務局長を務めているTimothy K. W. Maさん。この団体は、香港初の100%自己資金による社会サービス団体です。
2007年には、香港特別行政区で最も成功した社会団体と言われました。彼のリーダーシップの下、当団体は2005年にResource AllianceとCitiBank Corp.からアジア太平洋NGO賞を授賞され、現在、24時間体制の緊急リンクサービスを、62500人以上の高齢者や慢性疾患患者に提供しています。
●1.はじめに
香港でNPOが活動を始めたのは19世紀半ばです。1950年代初頭に、政権交代によって中国本土から大量の移民が流入した時にも、地元のチャリティ団体や海外の宗教団体などが、NPOという名前で様々な社会サービスを提供しました。その活動は、物品面での支援のみならず、教育、住居、就業にまで及びました。
1950年になって、国の社会福祉局が本格的なサービスを始めましたが、NPOの役割はそのまま残されました。
●2.香港のNPOシステム
香港では、NPOはcompany、association、またはsocietyという形で登録されます。チャリティ団体にする場合は、香港税務局の調査を受け、必要事項を満たさなければなりません。承認されると、チャリティ団体に分類され、組織の活動に寄付した支援者は所得控除が受けられるようにます。組織の目的は、貧困対策、就職支援、教育や社会サービス関係の福祉活動に関わる活動でなければなりません。
2008年の不況以来、香港政府は、地元支援者に対し、寄付促進インセンティブとして、控除割合を10%から30%に引き上げました。2009年までに登録したチャリティ団体は3400以上に上ります。中にはエリート層や裕福な家族によるファミリー財団もあります。
非課税のチャリティ団体資格を得るために、NPOは会計監査報告書を税務局に提出しなければなりません。
香港には2種類のNPOがあります。Tung Wah Group of Hospitalや高齢者のSenior Citizen Home Safety Associationなどの地元拠点のNPOと、World VisionやOxfamのような海外拠点のNPOです。
●3.数字で見る香港のNPO
香港で活動するNPOの約半数は宗教団体または宗教的な信条を持って活動する団体です。また、70%以上が小規模な組織です。HKCSS会員データによると、半数以上が中小規模のNPOに所属しています。これは、彼らが1年間に決済する金額で測ることができます。100万香港ドル以下を小規模、100万から500万香港ドルを中規模と見なします。高齢者、若者、リハビリ、子供関係のサービスが中心です。
50年以上の歴史を持つ組織も1割程度あります。Tung Wah Group of Hospitalは130年前から活動を行っていますし、YMCAは1900年に、YWCAは1920年に活動を始めています。ここ10年を見ると、患者らによる、いわゆるプレッシャーグループと呼ばれる組織が活動を始めました。
NPOは、香港の福祉対策や社会サービスの改善に貢献してきました。社会サービス発展の第一段階として、NPOが中心となり、香港政府のパートナーとしてサービスを提供しました。現在でも、政府の助成を受けてNPOが行う直接的な社会サービスは90以上あります。こうしたサービスを提供するだけでなく、教育団体として学校を運営しているところもあります。Tung Wah Group of Hospitalも幼稚園から高等学校まで50校以上の学校を運営し、同時に医療を無料で提供する4つの病院の運営と、貧しい人のための医療サービスを行っています。
●4.NPOのファンドレイジングの状況
NPOの中には、一時金という形で定期的に政府の助成を受けているところがありますが、自己資金で賄っている福祉団体もあります。政府の助成金カット対策として、また資金を確保し持続可能な組織運営を行うために、今では、一部のファミリー財団を除くほぼすべてのNPOが様々なファンドレイジング活動やイベントを実施しています。
最も望ましく、また安定した方法は、定期的な寄付プログラムを計画することです。NPOに入会するという形をとって、支援者の口座から直接NPOの口座に引き落としをすることができます。大きなNPOになると、定期的に寄付をしてくれる支援者を110,000人以上も抱えているところもあります。
ファンドレイジングのイベントや、アイコンイベントファンドレイジングと呼ばれるものも、香港でよくみられる資金集めの方法です。アイコンイベントとは、優良企業が毎年開くイベントのことです。Annual Community Chest Million Walkathonは30年以上の歴史があります。最近ではStandard Chartered Marathonもスポーツ系のファンドレイジングイベントとして人気があります。
直接アピールする方法として、TVのスペシャル番組や災害救済の広告も人気がある方法ですが、かなりコストがかかります。
ラッフルセールという当たりくじ販売や高価なグッズのチャリティ販売もよく用いられる手段です。
さらに、遺言や保険の寄付も、新しいファンドレイジングのスタイルです。これは、遺言や保険金の一部をNPOが受け取れるように準備するものです。
それ以外にも、書籍販売、チャリティの写真サービス、チャリティセールなどはよく目につく方法ですし、収益面でも効果的なやり方とされています。祝祭日もファンドレイジングに活用されています。NPOの活動を目に見える形にし、社会的支援をさらに得る戦略です。
●5.関連データ
表1: 昨年1年間に、NPOにいくら寄付をしましたか?(単位香港ドル)
$1-49 7.5%
$50-99 8.5%
$100-199 17.2%
$200-299 7.8%
$300-399 7.6%
$400-499 3.1%
$500-999 14.4%
$1,000-1,499 12.2%
$1,500-1,999 2.5%
$2,000-2,999 7.1%
$3,000-4,999 5.6%
$5,000-9,999 2.6%
$10,000或以上 3.9%
平均 $1,620
表2: あなたの寄付に影響を与えたものは何ですか?
透明性 83%
ブランド名 81.1%
プロジェクトの緊急性 76.5%
寄付の行いやすさ 67.2%
有名人によるアピール 34.3%
表3: どうすれば2度目の寄付を決意しますか?
寄付金が正しく使われていることを知ること 74.6%
受益者の状況を知らせてもらうこと 64.6%
プロジェクトの進捗状況を知ること 53.6%
そのNPOから2度目のリクエストをされること 52.3%
さらに便利な寄付方法を知ること 50.0%
特に理由はないが支援したいから 4.0%
●6.チームファンドレイジングの具体例
透明性、説明責任、コミュニケーションは、香港のNPOがファンドレイジング組織として成功するための3つのカギです。責任が増せば増すほど、頻繁に支援者に報告をすることが最も大事でしょう。
香港でファンドレイジング活動を統括するために、社会福祉局は2002年にNPOに対し、実施のガイドラインを発表しました。同時に汚職捜査委員会は、優良事例のガイドラインを、ガバナンス手法、方針という点で公表し、監査委員会とファンドレイジング委員会を設置して詳細をチェックすることにしました。
社会福祉局は、すべての公開許認可申請に、ファンドレイジング活動の収支報告書を新聞掲載し、集めた資金の正確な金額やその使途を公表するとともに、過失や不正防止を図っています。
現在では、申請、承認されたファンドレイジングのほぼすべてがモニターされています。ホットラインも設置され、一般市民でも、ファンドレイジングイベントが承認を受けたものかどうか確認することができます。
ファンドレイジングにとって、情報伝達と高い透明性は重要です。よりよいガバナンスを求めることでNPOのファンドレイジングがさらに信頼され、責任ある活動になります。
チャリティ基準は米国のBBBや英国のGuidestarなど、国際的に認知されている基準とともに開発されてきました:
基準1 ガバナンス
理事会を設置し、チャリティ活動を適切に管理する。
基準2 資金
監査を受けた年度決算報告書とプログラムの支出、運営活動を一般公開する。
基準3 ファンドレイジング
チャリティミッションと寄付された資源の使い道を公表し、約束事項などが正確で誠実であることを示す。
基準4 サービスの質
チャリティサービスのクオリティ基準や効果を評価するシステムを作り、ミッションを達成するために必要な今後の活動を決定する。
基準5 透明性
年度報告書を一般公開する。そこに、ミッションステイトメント、前年のプログラム到達度のサマリー、役員や理事の名簿や財務情報を掲載する。
●7.課題と今後の展望
香港で増加傾向にあるファンドレイジングイベントのチェック機能を強化し統括するために、ファンドレイジングの制度改革委員会は、2010年の終わりからチャリティ委員会を設置し、NPOのファンドレイジングを実施、統括するよう提案しました。チャリティ委員会とは、英国のそれと同様に、ファンドの目的や資金集め管理コスト、設立の流れとチャリティ活動に一貫性があることを当局が認可するというものです。
1つ心配なのは、チャリティ委員会が、政治目的のファンドレイジングの承認を渋る可能性です。その場合、香港の政党のファンドレイジングイベントは資金不足に見舞われることになるでしょう。
●8.まとめ
2009年の税控除申請(87億香港ドル、約11億米ドル)は、今後ますます増加が予想されることから、管理を強化し、説明責任を求めていくことが必須となるでしょう。さらに、ITやインターネットを使うなど、もっと効果的なファンドレイジングの方法を探り続けなければなりません。
しかし、集めた資金と使途に一貫性があることがファンドレイジング成功のカギである点は変わらないでしょう。
レファレンス:
1. www.guidestar.org
www.hkcss.org.hk
www.oxfam.org.hk
www.gov.hk
2. Donation Survey by HKU on 2007
3. Burnett Ken, The ZEN of Fundraising, Th White Lion Press, 2006
4. Drucker, Peter F., The Five Most Important Questions You will Ever Ask About Your Org., Jossey-Bass, A Wiley Imprint, 2008
5. First Course of AFP
6. Reynold levy, Give and Take, McGraw Hill, 1999
7. Chung, TY, Giving Behaviour Study 2008, Public Opinion Program, The Univ. of HK, 2008
8. http://www.nptimes.com
9. http://www.wisegiving.org
10. http://www.afp.net
11. http://www.wisegiving.org
Timothy Ma
Executive Director
Senior Citizen Home Safety Association
Vice-president
Association of Fundraising Professional (Hong Kong Chapter)
Contact: by email timothy@schsa.org.hk, by phone: 852 9038 0545
Mar. 12. 2010