その他 : 日税連税制審議会、所得/税額控除の答申発表
3月17日、日本税理士会連合会(日税連 会長:池田隼啓)の税制審議会は、「所得税における所得控除と税額控除のあり方について」の答申を発表した。この中で、寄付金控除について「所得控除として残す」ことが適当とし、また、「所得控除と税額控除との選択制とする」ことも検討すべきとした。
日本税理士会連合会(日税連)の税制審議会とは、日本税理士会連合会会長の諮問機関で、学識経験者らの特別委員と税理士の専門委員の20名強で構成。会長の諮問に応じて税制や税務行政などの調査・審議を行い、その結果を会長に答申している。
答申の内容は、日税連が、毎年各省庁へ提出している「税制改正建議書」に反映されていく流れ。これまでに「中長期的視点から見た消費税のあり方について(H12)」や「納税者番号制度のあり方と問題点について(H15)」、「企業会計と法人税制のあり方について(H19)」などを議論し、答申してきた。
平成21年度は、2009年10月26日に、池田隼啓会長から、「所得税における所得控除と税額控除のあり方について」が諮問された。
「税制と社会保障制度等との役割分担を明確にし、税制として措置すべき控除と他の制度で手当すべき項目を区分した上で、複雑化した現行制度を整理合理化すべきである」という基本的認識の下に総会6回、専門委員会8回を開催し、3月17日に答申をまとめた。
答申の構成は下記の通り。
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はじめに
I 所得控除の意義と問題点
1.所得控除の意義
2.所得控除の問題点
II 税額控除の意義と問題点
1.税額控除の意義
2.税額控除の問題点
III 個別所得控除項目のあり方
1.人的控除のあり方
2.その他の所得控除のあり方
IV 所得税における控除制度のあり方
1.所得控除制度の整理・合理化の考え方
2.個人住民税における控除制度のあり方
3.税制と社会保障制度の関係
4.給付付き税額控除制度の導入の課題
おわりに
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●所得控除について
答申では、所得控除について「基礎控除、配偶者控除、扶養控除、配偶者特別控除、障害者控除、寡婦控除、寡夫控除、勤労学生控除、社会保険料控除、医療費控除、寄附金控除、
生命保険料控除、地震保険料控除、雑損控除、小規模企業共済等掛金控除」と控除項目が15種類に上ることを指摘。さらに、「配偶者控除における老人控除対象配偶者、扶養控除における特定扶養親族や老人扶養親族、同居特別障害者、同居老親等、特別寡婦など8種類の加算・割増し措置」が存在することを述べている。
これら多様な所得控除は、「担税力に応じた課税の実現」「納税者の事務負担軽減」「徴税コストの削減」へ寄与している。
一方で、「複雑な制度は税制の簡素化に反する」、「課税ベースが浸食され、所得税の財源調達機能が低下する」、「高所得者の税負担を軽減する効果が大きく、所得再分配に支障がある」などの問題点を指摘している。
●税額控除について
税額控除については、所得税法で規定されている課税技術上の「配当控除、外国税額控除」がある他、租税特別措置法で規定されている政策税制としての「住宅借入金等特別控除、特定増改築等住宅借入金等特別控除、政党等寄附金特別控除制度」などがあるとしている。
税額控除の利点としては、「高所得者ほど軽減額が大きいという所得控除の問題点が解消されるため、所得控除に比べて所得再分配がより促進される」と指摘。また、納税者から見ると「税負担の軽減度合や税制による支援額が明瞭になる」というメリットもあるとした。
税制が今後、所得控除から税額控除へ移行していく中で、想定される課題としては下記点を挙げている。
・税額を算出した後に適用する税額控除の仕組みからみると、一定の所得以課税最低限を規律することが困難になるおそれがある。
・税額控除によって課税最低限を定めた場合には、その控除額が所得金額に換算してい
くらになるかが分かりにくくなるという問題が生じる。
・税額の有無を申告要否の判定基準とした場合には、申告件数が増加することになる。
その結果、徴税コストが増大するとともに、納税者と税務当局の双方において事務負担
が増加するおそれがある。
・税額控除の適用もれや無申告者に対しては、税務署長による減額更正等の処分を要す
ることになり、税務当局の事務負担が増加するおそれがある。
●寄附金控除
個別の控除項目の内、寄附金控除については「寄附金の支出は、個人の消費に属するものであり、その限りでは、高所得者を優遇する現行の寄附金控除は廃止すべきということになる。」と述べ、高所得者優遇となっている現行寄附金控除に問題提起した。
しかし、「教育、文化、福祉等のための寄附を促進させ、民間における寄附文化の醸成を図るためには、税制としてのインセンティブを与える必要がある。」と寄付促進に向けた政策税制としての必要性を述べた。また、「所得控除の対象となる寄附は、国、地方公共団体、特定公益増進法人、一定の認定NPO法人などに限られていること」なども根拠に「所得控除としての寄附金控除を存置することが適当である。」と結論付けた。
さらに「一層の公益の増進を図るため、政党等に対する寄附金の取扱いと同様に、所得控
除と税額控除との選択制とすることも検討すべきである。」と述べ、NPO/NGOに関する税・法人制度改革連絡会が要望し、政府内でも検討が進んでいる寄付金控除への税額控除方式導入を検討すべきと指摘した。
参考ニュース「事業型NPOも支援へ、制度の抜本改正を提案」(2010/02/24)
/2010/02/その他-事業型npoも支援へ、制度の抜本改正を提案/
個人住民税のいわゆる「ふるさと納税」については、それなりの意義を認めつつも、「負担分任を原則とする地方税の考え方からみると、必ずしも適切な制度でない。」とした。
今回の答申の内容は、日本税理士会連合会サイト内、下記ページを参照。過去の答申も掲載されている。
http://www.nichizeiren.or.jp/guidance/intro/organization_council.html
今回の答申をまとめた税制審議会委員は以下の23名。
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税制審議会委員名簿(敬称略)
〔 特 別 委 員 〕
(会 長)金子 宏
(会長代理)品川 芳宣
青山 伸悦
阿部 泰久
岩崎 慶市
岩本 俊雄
潮田 道夫
瀬戸 実
田近 栄治
中里 実
成道 秀雄
星野 厚志
丸山 淳一
水野 忠恒
弥永 真生
山田 二郎
若林 勝三
〔 専 門 委 員 〕
(専門委員長)小池 正明
(同副委員長)牧野 正高
井寺 洪太
上西 左大信
川島 雅
山田 俊一
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