NPOステーションオープニング講演会
NPOステーションは、今年2月11日に設立総会を持った(現在NPO法人認証申請中)、福岡の新しい民設民営のNPO支援組織です。3月16日に、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会事務局長松原明さんの基調講演(前半)と、NPOステーションの設立メンバーを中心としたパネルディスカッション(後半)からなるオープニング講演会「NPO成功のカギがここにあります」を、約120名の参加で開催しました。
松原さんの講演は「NPOが築く未来」と題するもので、これまでの公共サービスの担い手としての政府や公益法人制度の問題点と、これに対比する形でNPOに期待される役割や機能について、海外の例も紹介しながら解説されました。
パネルディスカッションでは、松原さんの講演を受けて、福岡ですでに「社会サービスの提供」と「事業としての自立」を両立させている3団体の代表が、それぞれの活動内容の紹介と問題の提起を行い、それに基づく討論を行いました。
参加者は、松原さんやパネリストの話に、改めてNPO活動の社会的位置づけおよびその意義を確認するとともに、これからの活動に関する指針やヒントを得ることができました。時間が足りなくて、会場との質疑応答、討論がほとんどできなかったことが心残りです。
■ 松原さんの講演要旨
NPOはわかりにくい存在です。ボランティア団体から企業と区別のつかないような活動をしている団体まであります。まわりの受け止め方も、たとえば有償でサービスを提供することに対する反発もあります。
社会的なサービスは行政も企業も提供しているもので、NPOはそのすきまを埋めるものという誤解もあります。NPOがそれに振り回されることもあります。
本来のNPOの定義は文字通り「非営利」であって、たとえばアメリカでは学校や病院や宗教団体も全部NPOです。
日本の場合はNPOの概念はそれよりかなり狭く、それには歴史的な背景があります。つまり、欧米では民間が作ってきたような非営利セクターの仕組みを、日本では国が仕組みを作り、予算をつけました。
具体的には、社会福祉法に基づく社会福祉法人、医療法に基づく医療法人、私立学校法に基づく学校法人、民法に基づく財団法人や社団法人などです。これらはすべて、措置費や補助金、社会保険制度、委託費などで維持され、政府に管理される存在です。
しかし、法律や予算でカバーできる社会サービスには限界があります。日本の非営利セクターはしょせん法律の決めたことしか対応できなかったのです。
これに対し80年代ころから、多様なニーズを持つ市民が、自分たちで問題を解決するために自ら組織を作るようになりました。不登校の子どもの親や医療過誤の被害者などです。そこで、学校や病院が対応してくれない問題に取り組もうということを始めたのです。これがNPO法制定の運動の源流です。
小泉さんの構造改革でも、公益法人改革は政府の課題で、民間に期待することの中にNPOが入っていることが象徴的です。NPO法というかたちで器はできました、すでに第2段階に入っています。政府と従来の公益法人が社会サービスを独占することは否定されます。その第1号が介護保険です。
それではNPOの未来はどうか。暗い面と明るい面の両方があります。暗い面から言うと、まず財源の問題があります。会費や寄附金の限界、補助金や助成金の限界など。
明るい面をみるには、まず戦略を立てる必要があります。きちんとしたNPO像を作ることです。
たとえば、ウミガメの保護をミッションとするNPOがあるとします。ウミガメを保護してもウミガメはお金をくれません。しかし、ウミガメを観察したい子どもや生態を研究したい大人はいます。行政も補助金や委託費をつけるでしょう。
そのNPOがちゃんとしたノウハウや技術を持っていれば、それを利用したい人や参加したい人がいます。そこで有料でサービスを提供するのです。イベント、物販、委託調査などが成り立つはずです。
いいことをしているのだから誰か支援してくれるはずだ、という姿勢ではだめです。ニーズや社会参加の動機も多様化しているのだから、NPOもその多様なニーズに応える努力が必要です。
これを言い換えれば、人、企業、団体が関係性を作るニーズと言えます。NPOはそのための場を作るのです。従来は個人は企業などどこかに帰属するものでしたが、今はそうではありません。皆、不安です。新しい関係作りを求めています。それができるのは、行政や企業ではなくNPOなのです。
NPOは本来他力本願の組織です。一人でがんばる自力本願の組織ではありません。個別の事業(ミッション)の先にある大きな目的を達成することは、まわりの市民、企業、地域社会、他のNPOの協力なしには、できません。
本来の活動と支援を求める活動を別々に考えると、なかなかうまくいきません。時間やお金など、資源も分散されます。すぐれたNPOは、支援者と活動の対象を直接結びつけ、組織はそのサポートをするという形をとります。
今はやりのエコマネーもそうです。これは本質的にはお互いの関係作りの手段です。こういった個人の自発的な関係性作りこそが、NPOのパワーの源泉です。
政府のパワーの源泉は権力と税金、企業のパワーの源泉は利潤、NPOのパワーの源泉は関係性。だから直接のサービス対象ではないところからもお金や労働力を生み出せるのです。
こういった関係性をどうイメージして作り出せるか、これがNPOの提供するプロダクト(製品)であり、ここにこれからのNPOの最大の課題があります。これは、新しい経済の仕組みを作り出す試みです。
これは、個人の資産を社会に還元するルートであると同時に、個人が社会や歴史に関係性を持つ方法でもあります。NPOがすぐれた専門性を持つことによって、社会サービスも一層発展させることができます。
■ パネルディスカッション(パネリストのプロフィール)
【コーディネーター】
松田美幸(麻生総研ディレクター、ハビタット福岡市民の会代表)
麻生グループ80社のグループ経営戦略策定とその推進を担当する責任者。
企業や学校、病院などの組織改革・事業改革・人事制度改革に携わっている。
自治体や中央省庁の新しい行政経営改革にも関わる一方、非営利組織やボランティアグループの運営を通して地域活動にも数多く関わっている。
【パネリスト】
石井カズエ(NPO法人北九州あいの会代表)
1991年、自分の自立を目指し、時間預託によるたすけあい組織を九州で初めて創設。1999年、活動保証と介護保険参入のためNPO法人格取得。現在、ホームヘルプサービス、ケアプランサービス、デイサービス(2箇所)を行う。
誰でも参加できる「たすけあい」を活動の軸にしている。
理念と経営の両立の苦労を語る。
古田稔(NPO法人淑明学園理事長)
1989年、子どもの健全育成団体、淑明学園を設立。1995年、インクルーシブな保育活動を行う付設チューリップ保育園を併設。2000年NPO法人化。
WEBを通じた組織化がITの講習や機器販売の事業に発展。子どもを守る活動がセキュリティー事業に発展。保育の専門ノウハウが企業やイベントの託児請負事業に発展。収益事業部門は有限会社としてNPOの活動を側面から支援している。
専従職員とボランティアの関係、収益事業と本来事業の関係について語る。
横山りえ(心を洗う石けん本舗代表)
1998年、紅豆杉茶リサイクルによる「心を洗う石けん」製造を知的障害者施設に委託、販売を始める。障害者を謳わない販売方法で品質の評価を確立。「自然を主体とした人間本来の健康の提供」を経営理念に、現在、自然食のファスト・フードショップを企画中。
「思い」と「出会い」が経営を支える、揺るがない理念が必要と語る。
報告:NPOステーション 赤塚和俊
(2002-03-29)