「ボランティアコーディネーター養成講座(浦安市)」報告
2002年3月20日(水)、千葉県の浦安市市民活動センターにて、ボランティアコーディネーター養成講座が午後2時からと午後7時から2回、開催されました。
講師はシーズスタッフの鮎川葉子が担当。約2時間にわたり、近年重要性が認識されてきているボランティアコーディネーターの役割や目指すべきものについて話しました。
阪神大震災を機にクローズアップされたコーディネーターという職種を、新人に担当させる組織がみられるなど、コーディネーターとボランティアに対する認識不足が広がっているのが現状です。コーディネーターという仕事の難しさと専門性を理解することが大切であり、それだけに非常にやりがいのある仕事であることを強調した講演となりました。
講演の要旨は以下のとおり。
(1)ボランティアという言葉がさす領域
世間では、「ボランティア」という場合、次の3つのいずれかを指しています。
第1に、「個人」を指す場合。有償であるとか、無償であるとかの議論がなされるときは、この意味で使われています。
第2に、「活動」をさす場合。「ボランティア活動の義務化」や地域で推進していこうといわれるときはこの意味で使われています。
第3に、「組織」を指す場合。この領域になると、管理や運営、法人化という問題が議論されます。
一般に第3の方向に進むにつれ、組織化がすすみ、活動の安定化、継続化が進みます。ボランティアコーディネーターは、この方向性で進んでいるとき置かれることが多いポジションです。
ボランティアコーディネーターが理解するべきことは、問題が生じたとき、それが個々のボランティアの特性から生じているのか、それとも組織化の中で生じているのか、といった問題発生のレベルを見極めることです。
(2)自発性と無償性
ボランティアのもっとも際立った特徴は「自発性」と「無償性」です。両者は車の両輪のようにふたつあわせもつことが重要です。「自発性」がなく、「無償」であったとすれば、それは「奴隷労働」ですし、「自発性」が高くとも「有償」であれば通常の「労働」となるからです。対価の多寡とその判断は議論のある問題ですが、少なくとも「ボランティア」をコーディネートしようとするときには、この二つの特徴の意味をしっかり押さえた上で考えていかなければなりません。
有償ボランティアという言葉が使われたり、ボランティア切符というものもありますが、どのようなかたちであれ、その活動に対する対価が払われていれば、そのコーディネートは無償のボランティアのコーディネートとはちがったものとなります。
コーディネーターや組織が、有償だろうと、無償だろうと同じようにコーディネートすればいいという考えでいると、必ず問題が生じます。ヘルパーとボランティアを同じ人がコーディネートしていて混乱するという話はよく聞かれます。
そもそも、当然のことですが、人をなんの見返りもなしに働かせることはできません。ここに、ボランティアコーディネートの難しさの第一の理由があります。無償で働くがゆえに表面的には奇特なひとだと思われがちなボランティア活動ですが、それらの人には必ず目的があります。動機があるからこそ人はボランティアをするのであり、ただその動機や目的が対価をもらうことにないだけなのです。
ボランティア活動の目的や動機は、活動者により千差万別です。これらの千差万別な動機を発展させたり、つなぎ合わせたり、新しい動機を生み出したりしながら、ボランティアが組織や活動の目的を達成させる力となっていけるように支援し、かつそれら千差万別なボランティアの個別の活動目的も満たせるように働きかけるのが、ボランティアコーディネーターの仕事です。
ボランティアコーディネーターは、常に人の自発性を強化するよう働きかける必要があります。人の自発性、やりたいという意志は、個人差もありますが非常にこわれやすく、何の働きかけもしなければ減退します。このこわれやすい「意志」を使って何かを成し遂げようとするには、「意志」を高める仕掛けが必要になります。
「この業務はボランティアで、十分対応できる」などという表現がなされますが、これは大きな間違いです。ボランティアを安い労働力とみなしている典型例といっていいでしょう。何かを成し遂げるために、ボランティアを導入するには、かなりの費用がかかることを自覚する必要があります。自発性を高めるための説明、訓練、連絡調整、研修など目に見えないものにかけるコストや、保険など目に見えるコストを含めるとかなりのコストがかかるのです。「空気と水はタダ」という例えがありますが、実際には、空気や水をきれいにするために膨大な労力と経費がかかっています。ボランティアについても同じことがいえます。
これだけのコストをかけても、やはりボランティアにしかできない、ボランティアだからこそできるという価値を、ボランティアを導入しようとする組織が明らかにしてからコーディネートを始めるようにする仕組みづくりも、コーディネーターの仕事です。
組織がそのような認識を持つことで、ボランティアに対して価値のフィードバックが自然に行われるようになり、ボランティアの意志や継続性、問題解決能力を高め、ボランティアにかかるコストも自然に減少していきます。
(3)ボランティアの機能
ボランティアは、手段であって、目的ではありません。何かの目的を果たすときに、正規の職員ではできない、プラスアルファの価値を実現できる可能性があるのがボランティアです。その機能は、次の三つの言葉で表すことができます。
・ エンパワーメント
エンパワーメントとは、力のない状態、または奪われている状態の人が、本来の力を取り戻すという意味で使っています。働きかける対象がひとであるとき、ボランティアが関わる相手と対等な関係を持ち、共に生き、一緒に喜んだり悲しんだりすることで、関わる相手の価値を高めたり、自信を回復させたり、生きることを支援することにもつながっていきます。
・ アカウンタビリティ
「ボランティアが組織を開く」と表現される機能です。ボランティアが組織内で活 動することにより、組織の構造や能力がボランティアの前にさらされてしまいます。またボランティアが自発的に行動しようとするには、組織のやり方や目的を説明し、理解してもらわなければなりません。こうした様々のボランティアの効果が、組織のアカウンタビリティを高める働きをします。
・ アドボカシー
ボランティアが十分な自発性を発揮して活動できていれば、ボランティアは組織の内部や外部の社会に対して代弁的、権利擁護的なさまざまな働きかけを行うことができるようになります。例えば組織の提供するサービスの中で権利擁護について指摘し、改善する中心の働きは、有給スタッフよりもむしろボランティアの方が適する場合が多くあります。ボランティアのアドボカシー機能は組織に柔軟性を与え、よりよいサービスの提供や、活動の成果を得ることを可能にします。
これらの機能は、先に述べた無償であることと、自発的であることから生まれるものです。
(4)システムを問う
このようなボランティアの性質や機能は十分に理解されているとはいいがたいのが現状です。
ボランティアが集まらないとき、コーディネーターは自分の力量が足りないのだと自己批判をすることが多いようです。しかし、コーディネーターの所属する組織の管理職がボランティアを理解していないことがあります。管理職だけでなく、ほかの職員の理解不足もあるでしょう。
また、責任問題に発展したとき、組織自体があいまいで、問題をもっていく先がどこにあるか分からないことさえもあるようです。このような場合、ボランティアは離れていきますが、これもシステムに問題があるためにおこることです。
問題の所在が個々のボランティア、またはコーディネーターの素質に起因するものか、システム自体にあるのか、問い直す作業は必要ですし、システムに欠陥がみられた場合は、それを改善しなければ、結果的に大きなリスクを背負い込むことになります。
(5)コーディネートする際の注意点 ~タイプ別に考える~
コーディネーターは、ボランティアと対象者、双方の利益を守るために存在しています。そのためにも、コーディネーターの所属する組織、対象者の所属する組織、ボランティアの所属する組織がどのような関係にあるか、いくつかのタイプに分けて考えることも有用です。
・ 仲介型
ボランティアの活動先がコーディネーターの所属する組織の外にあり、コーディネーターは活動を紹介している場合です。ボランティアセンターや情報センターなどのコーディネーターはこのタイプに属します。
<仲介型1>
このタイプの場合はボランティア活動の現場がコーディネーターには見えにくく、ボランティアが現場で役にたっているのか、また、ボランティアが活動に満足しているのか分かりません。この関係にあるときは、コーディネーターは事前説明もさることながら、活動先やボランティアへの積極的な情報収集の努力が欠かせません。
<仲介型2>
また、学生ボランティア紹介センターや企業の社会貢献担当部署などもこの型に入ります。ニーズは外にあるが、ボランティアをしたい人はコーディネーターの所属する組織のなかにいる場合です。このとき、見落とされがちですが、ボランティアをしない自由を尊重することは非常に大切です。
どちらの場合も、ニーズが外にあるわけですから、コーディネーターの属する組織が長期的なビジョンをもっていることが必要です。闇雲にボランティアを推進すればいいと設立されることが多いこのタイプでは、踏まえておくべき重要な注意点です。
・受け入れ型
ボランティアの活動先がコーディネーターの所属する組織である場合です。社会福祉施設や病院でのボランティア活動やNGO、規模の小さいボランティアグループもこれに含まれます。
組織の内部でボランティアが活動するこのタイプでは、ボランティアが組織運営に強い影響を与えます。ですからボランティアの機能を活かし、ボランティアが力を発揮できるようにするためのオリエンテーションやフォローアップが、コーディネーターの重要な仕事になります。
<受け入れ型1(施設型)>
社会福祉施設や病院など、コーディネーターの所属する組織に活動対象となる人が存在し、組織の内部にはボランティア以外に多くの人が勤務していて、それらの有給スタッフは比較的専門性が高い現場です。
この現場は、内部の人間関係を対等に保つことが非常に難しいのが特徴です。ボランティアがいなくても、サービスが提供できている状態ともいえますので、プラスアルファの価値としてのボランティア本来の意味が大きく問われます。<受け入れ型2(NGO型)>
NGOやボランティアグループなど、有給スタッフが少なく、職員とボランティアが同じ仕事をすることも多いのが、この現場の特徴です。ボランティアの専門性や目的達成のためのモチベーションが有給スタッフより高いこともあります。この現場では、ボランティアが有給スタッフのことを「自分より費やす時間が長いから給与をもらっている」と思ってしまわないような配慮が必要です。また、ボランティアのモチベーションの高さに甘えて、ボランティアの評価がおろそかになりがちな現場であることにも注意して、ボランティアが目的に貢献した部分を見えやすくする努力も大切です。
・ 複合型
災害時などの特殊な状況などで、設置される災害救援ボランティアセンターなどがこのタイプに当たり、状況によって様々な組織形態をとります。このタイプで重要なことは、要素が複合的であると理解しながらコーディネートを進めていくことです。かつ災害時などでは、刻一刻と状況が変化しますので、情報収集と組織の柔軟性、意思決定の早さなどが非常に重要なファクターとなります。
(6)コーディネーターとは
コーディネーターという言葉のもつマジックか、コーディネーターというのは、ボランティアと対象者または組織の「間に入る」ものだという誤解をする人がいます。しかし、もっとも留意しなければならないことは、コーディネーターの仕事の特徴は「間接性」にあり、「間に入る」ことではないということです。
コーディネーターとは、ボランティアと、その活動の対象となる人や、所属する組織や、その他のスタッフらが、直接対話をしながら問題解決に当たっていけるような状況を作っていく裏方だと思った方がいいでしょう。
例えばボランティアが、何か組織に問題を感じてコーディネーターに相談しにきた場合を考えてみましょう。そのとき、問題の所在をはっきりさせるためにボランティアから話を十分聞くことは大切ですが、コーディネーターはただ話を聞き置くのではなく、最終的にどうやればボランティアがその問題の所在と直接コミュニケーションができるかを考えなければなりません。
組織のいろいろな部署にボランティアがいて、それぞれが多様な個性を持っていきいきと働いているにもかかわらず、ボランティアコーディネーターはほとんど目立たない、という活動現場を作るのが、裏方としてのボランティアコーディネーターの仕事です。それは非常に難しい仕事なのですが、しかしそれだけにやりがいも大きいのです。
(2002-03-26)