こう変わる!NPO法とNPO支援税制(東京)
2003年1月28日、午後7時より、シーズ主催の「こう変わる!NPO法とNPO支援税制~改正NPO法と改正NPO支援税制の内容は?~」が東京ボランティア・市民活動センターで開催された。
講師は、シーズ事務局長の松原明。最後に、日本NPOセンターの李氏が昨年のNPO/NGO税・法人制度改革連絡会の運動の状況について報告した。
先着順・80名の定員で広報していたが、130名を超える参加があり、立ち見がでる盛況となった。用意していた資料が足りず、多くの方々にご迷惑をおかけしたことをこの場を借りてお詫びしたい。
イベント情報が新聞に掲載されたことが影響したと思われるが、このような制度改正に関するイベントへのニーズの高さを感じた。
以下、勉強会の要旨を報告する。
12月にNPOに関する大きな制度改正がふたつあった。今回は、その報告をしたい。
ひとつは、NPO法の改正、もうひとつはNPO支援税制の改正だ。
(1) NPO法改正
まずはじめに、NPO法の改正についてお話しする。
NPO法は1998年、市民活動団体が簡易に法人格をとれるようにすることを目的に成立した。法案の作成過程ではさまざまな市民や団体が強力に働きかけ、最終的には議員立法というかたちで成立。その際、税の支援措置をどうするか、という問題も大きな論点となった。しかし、「どんな団体が法人格をとるのか分からない」という理由で税についてはペンディングとなった経緯がある。
成立したNPO法には、「NPOの法人制度」と「税の優遇措置」について3年以内に検討を加える旨、附則に書き込まれた。
その後、2001年10月からNPO支援税制がスタートしている。
NPO法についても実態にあわせて改正を加えるべきであるとして成立したのが、「改正NPO法」だ。
2001年の臨時国会で議論される予定だったが、アメリカで起きたテロのため先送りとなり、2002年の通常国会でも個人情報保護法案のため審議に入れず、結局2002年12月11日、臨時国会閉会前ぎりぎりで参院を通過した。
NPO法改正のポイントは以下の11点。
- 特定非営利活動の分野の追加
- その他の事業の明確化
- 設立・合併の認証に関する申請書類の簡素化
- 定款記載事項の変更
- 暴力団排除の措置強化
- 役員の任期の伸長
- 事業変更を伴う定款変更の認証申請時の書類の追加
- 予算準拠の規定の削除
- 課税の特例
- 虚偽報告、検査忌避等に対する罰則規定の新設
- 施行期日等
これらについて詳細する。
1. 特定非営利活動の分野の追加
現在、12分野列挙されている特定非営利活動が、5分野増えて、17分野になる。
具体的には、以下の活動。
- 情報化社会の発展を図る活動
- 科学技術の振興を図る活動
- 経済活動の活性化を図る活動
- 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者保護を図る活動
また、「文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」に「学術」が追加された。
このように活動分野が増えることで、新たに認証される団体が増えるのか、といえばそうではなく、そのような団体も、旧来から認証されてきている。むしろ、活動分野に書き込むことによって、社会の認知をすすめる効果をもつものと考える。新しい分野を積極的に認めていこうというのが趣旨だ。
2. その他の事業の明確化
これまで、NPO法上の「収益事業」と法人税法上の「収益事業」の定義が異なるために、混乱を生じていた。これを避けるために、改正NPO法上では、「収益事業」という言葉を用いず、特定非営利活動以外の事業であれば、税法上の収益事業か、そうでないかを問わず、「その他の事業」という言葉で統一する。これによって、既存のNPOが定款を変更する必要はない。
3.設立・合併の認証に関する申請書類の簡素化
設立や合併時の申請書類のいくつかが統合されたり、省略されたりした。
4. 定款記載事項の変更
定款には法人の事業年度について記載することが義務付けられるようになった。
5. 暴力団排除の措置強化
NP0法人が暴力団と関係した団体であると疑うに足りる相当な理由があるときは、警察庁長官または警察本部長は、所轄庁に対して意見を述べることができるようになる。また、暴力団の構成員または暴力団の構成員でなくなった日から5年を経過しない者は、NPO法人の役員になることができないなど、暴力団排除の規定が強化された。
6. 役員の任期の伸長
NPO法上、役員任期は2年以内(再任は妨げない)となっているが、役員選任を総会で行うことにしている法人の場合、任期が終了して総会が開催されるまでの間、後任の役員が選定されない空白期間が生じることになる。こうした場合に、役員の任期の末日以降、最初の社員総会が終わるまで、前任の役員の任期を伸長できるようになった。ただし、定款にその旨定めておくことが必要。
7. 事業変更を伴う定款変更の認証申請時の書類の追加
定款に書かれている事業の変更を伴う定款変更を行う場合は、新しい定款の認証を所轄庁から受ける際、その認証申請書の添付書類として、2事業年度分の事業計画書と収支予算書の提出も義務付けられることになる。
8. 予算準拠の規定の削除
NPO法第27条の条文のうち、「収入および支出は、予算に基づいて行うこと」という規定が削除される。これにより、一旦成立した予算によって活動が過度に制限されることなく、NPO法人がより柔軟かつ迅速に活動できることが明確になった。ただし、定款に「予算の変更は総会をもって行う」などとしている場合は、定款が優先される。定款づくりの際は、注意が必要だ。
9. 課税の特例
NPO支援税制ができたことをNPO法でも明確に示す条文。
10.虚偽報告、検査忌避等に対する罰則規定の新設
NPO法人が定款やその他の法令に違反する疑いがあると認められる相当な理由があるとき、所轄庁は、それに関してNPO法人に報告を求めたり、立ち入り検査を行うことができるようになる。この際、当該NPO法人が報告を怠ったり、虚偽の報告をしたり、検査を拒み、妨げ、また忌避した場合には、20万円以下の過料に処せられる旨の規定が加わる。
11.施行期日等
この改正NPO法は2003年5月1日から施行される。
以上の説明に対し、以下のような質疑応答が行われた。
(質問) 設立当初の財産目録が不要になった(3.設立の認証に関する申請書類の簡素化の一項目)ということは、はじめの財産は「0」でもかまわないということか。
(答え) 設立前の任意団体の財産は法人化してから移行することが多く、実際は「0」がかなりある。登記の際は用意しなければならないことに変わりはないので、二度手間を省略しようというものだ。「0」でなくてもかまわないし、「0」でもかまわない、ということだ。
(質問) 予算準拠の規定がなくなったといっても、定款が優先するから、定款に書いてしまったものを変えたければ、定款変更しなければならないということか。
(答え) そのとおりだ。所轄庁のマニュアルには予算の変更を総会マターとしていることが多いが、このことひとつをとっても、所轄庁のマニュアルどおりに定款を作成することは自分の首を絞めることになることが分かる。認証は簡単にとれるけれど、そのために柔軟な活動が妨げられるようでは意味がない。もし、所轄庁の担当者に指示されるようなことがあれば、必ず「根拠法は何か」ということを確認するようにしてほしい。
(質問) 認証時の書類が簡素化されたということに関して。役員の承認承諾書と宣誓書が統合されたが、新しい役員がこれ以降なったときの扱いについて教えてほしい。
(答え) 改正後は、統合された書類になる。
(質問) 学術の振興が新しく分野に追加されたが、当会はすでに認証済みで、学術の振興も兼ねた活動をしている。その場合、定款変更をしなくてはならないのか。
(答え) どちらでもよい。積極的に訴えたければ定款変更しなくてはならなくなる。繰り返すが、改正NPO法は、5月1日以降に設立申請するNPOに適用されるので、すでに認証済みの団体は、特に何もしなくてもよい。
(質問) 当会の定款には、「総会で新しい役員が選任されるまでは、前任の役員がその任務を行う」旨明記しているが、これは現行法上は有効なのか。
(答え) これについては、確認させてほしい。
→ 後日(2月27日)、内閣府に確認したところ、定款において「任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない」など、役員任期の満了後に「職務」を遂行する旨を定めている定款であれば現行法上の有効とのことでした。ただし、もし「任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その任期を延長する」と書かれていれば、法令違反と言わざるを得ないそうです。ただし、もし「任期を延長する」という定款案が法人認証申請時に提出されれば、そこですでに法令違反は発見されているのではないか、ということでした。
(2) NPO支援税制
この税制は2001年3月に成立し、同10月に施行されている。しかし、この制度によって、認定されたNPO法人はわずか10法人でしかなく、認定されるための要件が厳しすぎるということが問題として、NPO側から指摘されていた。
今回のNPO支援税制の改正は、昨年12月に税制大綱のなかに明記されたもの。法律としてはまだ国会を通っていないので、1月20日から始まった通常国会で法律として成立し、それに則って省令、政令で細則が3月31日までに定められ、4月1日施行というスケジュールになるだろう。
大きな変更点は以下の4点である。
- 日本版パブリックサポートテストの緩和
- 広域性の要件の削除
- 海外送金や海外への金銭持ち出しに関わる手続きの緩和
- みなし寄附金制度の導入
1のパブリックサポートテストは複雑な算式であるが、簡単に言えば、その団体の総収入金額に占める寄附金の割合が3分の1以上であることを求めるもの。しかし、さまざまな制約があり、最も改正要望の強いものであった。このうちのいくつかが以下のように改正となった。
- 「総収入金額」(分母)に占める「寄附金総額等」(分子)の割合が「1/3以上」とされていた要件が、「1/5以上」に引き下げられる。ただし、この措置は2003年4月1日から3年間という時限措置。
- 「寄附金総額等」(分子)に含めることができる一者あたりの寄附金には、2%という基準限度額が課されていたが、これが「5%」に緩和される。
- 一者からの寄附金が3000円未満の時は、その金額を「総収入金額等」(分母)にも「寄附金総額等」(分子)にも含めないとされていた要件が、「1000円未満」に緩和される。
- 国・地方公共団体からの補助金は、「総収入金額等」(分母)にも「寄附金総額等」(分子)にも含めなくても良いこととなっていたが、これらに加え、国際機関(国連など日本国も加盟している国際団体)からの補助金も分子・分母の両方に含めなくてもよくなった。さらに、国・地方公共団体・国際機関からの委託事業費も、分母から差し引けるようになった。
その他の改正点について以下に詳述する。
2. 広域性の要件の削除
ひとつの市区町村内だけで事業を行っていたり、事業の受益者が一市区町村内だけに居住していたり、あるいは、一市区町村内だけで寄附を集めていると認定を受けることができなかった「広域性の要件」は、削除されることになった。
3. 海外送金や海外への金銭持ち出しに関わる手続きの緩和
認定NPO法人は、海外送金や海外への金銭持ち出しについては、1円から管轄税務署に「事前届出」を行うことが義務付けられていたが、200万円以下の海外送金や海外への金銭持ち出しについては、年度終了後に一括して報告すればよいことになった。
4. みなし寄附金制度の導入
みなし寄附金制度が創設される。これにより、認定NPO法人の行う法人税法上の収益事業収入から経費などを差し引いた所得の20%までの金額を、非収益事業に支出した場合、寄附とみなされ、非課税対象になる。
旧NPO支援税制では、認定NPO法人に寄附をした個人や団体(企業など)が納める税が軽減されていただけであったが、この制度の導入により、認定NPO法人自身が納める法人税も軽減されることになる。
このような改正は、基本的には歓迎するが、以下のような問題が依然として積み残されている。
- 社員(正会員)の会費が寄附金とみなされないこと。総会で議決権を行使できる正会員の年会費は寄附金とカウントされないことについては、改善されなかった。総会での発言権を保障する民主的な運営をしている団体が不利になっている。
- 匿名の寄附金は寄附金にカウントできないことについても改善されなかった。多くのNPOは、街頭募金や小学校の児童たちが出し合う少額の寄附金を集めている。しかし、これらは、「管理できないお金」であるとして、除外されている。
- 広く薄く支援を集めていることを「公益性」があるとみなす考え方のなかで設定された「基準限度額」が残された。これは、「少数の人やグループによって支配されているNPOには公益性を認めることはできない」、という考え方から導入されているもので一定合理性はあるが、たとえば助成財団からの助成金などもその限度額以上は寄附金にカウントできない。年度末に大きな助成金を受けたら、その年度の基準を満たすことができなくなるなど、その団体の運営に大きな影響がでるものとなってしまっている。
以上の説明の後、改正NPO支援税制について質疑応答がなされた。
(質問) 国や地方公共団体の委託事業が分母の総収入にカウントされないことになったようだが、国や地方公共団体の外郭団体から受けたものについてはどうか?
(答え) これは従前からそうだが、外郭団体からの委託事業などは総収入に加えなければならない。
(質問) 一度認定を受けたらその後ずっと優遇措置を受けられるのか。
(答え) 「認定NPO法人」は、ある意味では資格ともいえるが、この資格の有効期間は2年間。期限の切れる前に再申請しなければならない。そして、再度認定されるかどうかわからない。申請の手続きが非常に複雑・煩雑であるうえ、2年ごとに再申請しなければならないことについても問題として指摘してきたが、今回この部分は改正されなかった。
(質問) なぜ、パブリックサポートテストの緩和措置(3分の1→5分の1)が時限措置となったのか?
(答え) これは推測でしかないが、理由はふたつ考えられる。
ひとつは、日本版パブリックサポートテストがアメリカの同様の制度を導入してつくられたものであることによる。しかし、理念なく輸入されたために、アメリカでは95%の法人がテストをパスできるのに、日本では、この惨状。日本のパブリックサポートテストは完全な設計ミスだ。しかし、アメリカでは1969年以来の歴史があり、3分の1というのが一定妥当なものであるとされている。そのため、3年間日本で運用してみてどうか、ということを測ろうとしているのだろう。
もうひとつは、今公益法人制度改革が動いていることによる。政府は平成17年度には新しい制度へ移行するといっている。今さまざまな案が浮上しているところだが、NPO法人制度が発展的に解消する可能性もありうる。このような状況を受けて3年間としたものと思われる。(質問) 今回の改正によって、どれぐらい認定NPO法人が増えるのか。
(答え) 当会が中心となって昨年夏に実施した、NPO実態調査から試算したところによると、今回の改正によって、全NPO法人の2%程度は認定される可能性があるという結果が得られた。
このような低い数字しか得られなかったのは、右辺の問題(5分の1)だけではなく、左辺(算定式)の問題であるとことを示している。さきに挙げた助成金が全額寄附に算入できないということもあるが、分母である総収入から、事業収入を差し引くことできなかったことも響いている。今NPOはスタディツアーやエコツアー、研修会、講演、出版など、ミッションを果たすための方策としてさまざまな事業を行っている。これらの事業収入を差し引くことができなかったために、料金を得て、自立していこうとするNPOには恩恵の少ないものとなってしまった。
また、55%が分母から差し引けるといっても介護保険収入がほとんどのNPOには、ハードルの高いものとなっている。
このような事情から、認定数が劇的に増えるようなことにはならないと想定される。
(3) 昨年の運動の報告
以上のような質疑応答の後、会場に駆けつけてくれた、シーズも世話団体を務める「NP0/NGO税・法人制度改革連絡会(以下、連絡会)」で署名運動などを中心となってとりまとめた日本NPOセンターの李氏が昨年の運動の状況を報告した。
連絡会は、1999年にNPOに関する法人制度や税制度の改革を目的として設立された組織で、現在全国のNPOサポートセンターなど40団体で構成されている。
この会では、昨年、NPO支援税制改正のために、大きく分けて3つの運動を行った。
まず、第1に、実態が分からないとなんともいえないとする税当局にデータを示すためのアンケート調査。
第2に、秋に行った全国のNPO法人に対する署名運動。これは、3046団体の賛同署名を集めることができ、国会議員や関係者に届けた。
第3に、全国16箇所でNPO支援税制を変えよう!という内容の集会を行った。この集会では、地元の議員を招聘し、NPOの声を届け、地方から改正の機運を高めることができたように思う。
これらの運動はさまざまなマスコミで取り上げられ、12月の改正に結びついたものと考える。これらの改正は、まだ不十分なものであるが、大切なことは、「制度を使う側が運動しなくては何も変わらない」ということだ。今後もみなさんの協力をお願いしたい。
報告:安部嘉江
2003.02.22