フィランソロピー教育日米シンポジウム 報告
2月22日、シーズは緊急企画として、中央共同募金会ならびに「ユース・フィランソロピー・エデュケーション日米研究開発事業実行委員会」とともに「フィランソロピー教育日米シンポジウム 『心』を育てる米国の新しい寄付戦略から学ぶ」を米国からゲスト4名を招いて開催した。平日3日、土日を入れても5日しか広報期間がなかったにもかかわらず、100名の定員のところ162名の参加者を得、椅子を増設するなどのなか進められた。
来日したのは、インディアナ大学フィランソロピー・センター副学科長でフィランソロピー/公共環境学科教授のドゥワイト・バーリンゲイム博士、また若者向けのフィランソロピー教育を行っているNPO「ラーニング・トゥ・ギブ」のバーバラ・ディルベク氏と「ユース・フィランソロピー・イニシャティブ・オブ・インディアナ」のジェリー・フィン氏、また、米国でプロのファンド・レイザーとして活躍し、現在はインディアナ大学フォランソロピー・センターで研究員をしている大西たまき氏の4名。
司会は、シーズの松原が担当した。
主催者側の挨拶の後、まずバーリンゲイム博士と大西たまき氏が登壇。米国の新しい寄付戦略として、以下のような解説を行った。
「募金にあたっては、寄附者の動機を考えることが重要。米国では、かつてはNPO側のニーズをベースにした募金が考えられていたが、現在は、寄附者のニーズに基づいた募金活動の方が効果が高いということに気づいてきている。この、いわばデマンド側ではなく、サプライ側に立ったアプローチは、これから寄付をするかもしれない潜在寄附者の掘り起こしに役立つもの。
これまでは、「○○のために寄付が必要」というデマンド側の「必要だ」という発想から、サプライ側に「あなたの持っている資源で何がしたいか」という発想への切り替えで、その資源を社会にどう反映するかを問いかけるものである。
そのためには、個人が何を信じているか、あるいは人生上でどういう経験をしてきたのかという点などと、NPOの事業をマッチさせることが重要である。これについては、「Seven Faces of Philanthropy」(※)という本が参考になる。人々が持っている7つの異なる背景に注目すべきという内容で、個人の過去の経験、また過去の受けた恩恵、社会への働きかけの動機などがその背景である。つまり、過去に自分が恩恵を受けたから今度はお返しをしたいとか、あるいは「私が社会を変える」というようなビル・ゲイツ的な社会企業的なものなどだ。
また、募金で大事なことのひとつは「頼む」「依頼する」ということであるが、これは基本の一部であり、一旦寄付をもらったら、その寄附者へのスチュワードシップをどのように行うかという方が7倍も大事なことである。つまり、寄付をもらったら、「ありがとう」というメッセージを7つの違う方法で伝えることである。」
次に、若者向けのフィランソロピー教育の専門家であるディルベク氏は、若者が関わる重要性について次のように語った。
「子どもであっても、NPOやボランティアに関わる必要があると考えている。一人の市民として『倫理的言語』を会得し、その重要性への理解を深めていくことは、民主主義の発展のためにも重要。これは、幼稚園児のような小さな子どもでも可能なことだ。
私たちは、学校で先生が使える手法を800以上ホームページに掲載している。これは、幼稚園児から高校生向けのものまで多様であり、実際に教師によって作られ、学校で使われている。ここで重要なことは、特別にフィランソロピーの授業を設けるというのではなく、既存の科目のなかにサービス・ラーニング(奉仕活動)を組み込んでいることである。これにより、教師へ大きな負荷を与えないようにしている。
例としては、子どもたちが地域のお年寄りの伝記を書くというものがある。これは、文章能力の向上に役立つフィランソロピー教育であるが、お年寄りにインタビューし、彼らが人生のなかでどう社会に貢献してきたかを聞き、それを本にする。できあがった本はお年寄りにプレゼントしたり、図書館や行政施設に寄贈している。また、算数の授業とのマッチングでは、浜辺に行ってゴミ拾いをするというものもある。これは、どこにどういうゴミが多かったかを調べ、それを分類したりグラフを作成したりして発表するものである。」
次に、フィン氏が登壇し、次のように米国での活動を説明した。
「私たちは、自分が大儀を求める前にまず『与えなさい』ということを教えている。そして、若者であっても、大人が命令しなくても、自発的に普通の子どもたちが寄付をするようになることを知っている。ある学校で、500人ほどの聴衆を前に、8歳の子どもが『僕は学校が好き。だって、フォランソロピーを教えてくれるから。そこでは、僕の時間、能力、お金などを公共のために使うことが教えてくれた』と話しているのを実際に聞いたことがある。
私たちは、子どもを囲んでいるものが子どもに影響を与えると捉え、その囲んでいるそれぞれに対してフィランソロピー教育が組み込んでいけるようなアプローチを行っている。それぞれの団体とは、例えば、学校、家族、企業、教会、また、図書館や青少年教会のような地域の団体である。
もし、家族に対してアプローチしようと思えば、学校をとおして家族に「ボランティアを子どもといっしょにするように」と依頼したり、企業であれば「メンター・プログラム」という、社員が子どもの良き指導者となるような事業を提案したり、図書館には子どものフィランソロピーに役立つコーナーを作ってもらったりしている。私たちは、子どもたちがフィランソロピー活動を活発に行うことは、健全な発育のために有用なことと捉えている。」
最後の質疑応答では、次のようなやり取りが行われた。
Q: フィランソロピー教育が、子どもの成長にどう影響を与えたのかの評価はどうしているのか?
A(ディルベク氏): ミシガン州立大学の調査がある。生徒を対象とした調査で、奉仕活動の量と時間を尋ね、学校以外でもやりたいか否かなど彼らの感想を聞くもの。これによれば、全国規模の調査と比較すると、フィランソロピー教育を受けている子どもは、2.5%も地域活動に高い関心を持っていることが分かっている。この調査は、ミシガン州立大学のWEBからも見ることが可能。
Q: 日米の寄付額の格差は、寄付税制の違いにあるのではないか。
A(大西氏): 確かに税制の違いは大きいが、寄付をする理由は税制だけではない。それ以外のところにもアンテナを張って欲しい。
A(フィン氏): 私が関わっている子どもたちの寄付をする一番の理由は、まず「頼まれたから」であり、次に「自分の関心のある大儀だから」である。この理由は、大人と同じであり、税制上の恩恵だけではないことが分かる。税制はもちろん大事で役立つことだが、それだけではない。
A(バーリンゲイム氏): 募金においては、寄付者が何を求めているのかを見つけることが重要だ。たとえば、個人的なことで恐縮だが、私は奨学金を出す団体に亡くなった母親の名前をつけた基金を寄付した。母は、大学教育は重要だと考えていた人だった。私は自分の親族で始めて大学を卒業したこともあり、こうした寄付をしたいという動機付けがあった。
他にも活発な質問が会場から寄せられ、最後に会場を無料で提供した東京財団の内田晴子氏、また主催団体のひとつである中央共同募金の阿部氏が挨拶して、2時間半を超えたシンポジウムは終了した。
以上
2006.04.20
※ このThe Seven Faces of Philanthropyに書かれている寄付者の7つのタイプとは、次の7つ。
- 寄付をするのは地域のために良いことだと考える共同体重視タイプ
- 良いことをするのは神の意思と考える信心深いタイプ
- 良いことをするのはビジネスと同じようなものと考える投資家タイプ
- 良いことをするのは楽しいからだと考える社交的なタイプ
- 良いことをするのはそれが正しいからだと考える利他主義的なタイプ
- 良いことをするのは恩返しだと考えるタイプ
- 良いことをするのは我が家族の伝統と考えるタイプ
【設立のご報告】
皆さまのご支援のおかげで、寄付文化の革新を目指す「日本ファンドレイジング協会」を、全国47都道府県の580人の発起人・360人の当日参加者の方と共に、2009年2月18日設立できました!
ご参加・ご支援ありがとうございました!
日本ファンドレイジング協会に関する今後の情報は、「日本ファンドレイジング協会オフィシャルブログ」をご覧ください!