NPO支援財団研究会シンポジウム(東京)
「助成によって何が生まれたか-3つの事例を検証する」
11月24日、午前9時半から12時半まで、NPO支援財団研究会主催のシンポジウムが、千代田区の東京商工会議所会議室で開催された。
NPO支援財団研究会は、2001年に、助成財団の資金強化策の検討と、いかにして助成財団とNPOの協働によって社会のニーズに対応していくかを研究することを目的に、財団関係者とシーズの松原を含むNPOの有志で立ち上げた研究会。
今回のシンポジウムは、「市民セクター全国会議2006」の協賛プログラムとして開催された。
会場には、財団、NPO、企業などから約100名の参加者が集い、助成財団とNPOのパートナーシップ、NPOへの資金助成の成果についての関心の高さをうかがわせた。
総合司会はNPO支援財団研究会事務局損保ジャパン記念財団の神納由美子氏。
コーディネーターは、共同通信社編集局ニュースセンター整理部委員の松本正氏が務めた。
【開会挨拶】
はじめに、コーディネーターの松本正氏が、
「トヨタ財団の地域社会プログラムに関わるようになってから、NPO支援財団研究会との交流が始まり、今日のシンポジウムの進行役を務めることになった。地域の課題の解決に取り組むNPOの活動に、助成財団の資金をいかに有効に活かしていくかは、この研究会における重要なテーマとなっている。
そこで研究会は、昨年度から、全国各地のNPOとの直接対話を通して、ニーズの把握とネットワークの構築をめざして、各地でシンポジウムを開催している。研究会のこうした活動は地域でも大きな関心を集め、先週開催された宮崎県でのシンポジウムには100名を超える参加者があった。社会の問題や地域の課題の解決、夢の実現に果たすNPOの役割は益々大きくなってきている。そして、そうしたNPOを支援するのが助成財団の役目だろう。
今日のシンポジウムでは、財団の助成を受けた経験をもつ3つのNPOからの事例報告と、その事例に関係した財団からのコメントも交えて、助成活動のあり方やNPOにとっての助成金の効果的な活用法について検証したい。さらに、今日は、行政、企業からも多数ご参加いただいているので、NPOを支えるパートナーシップのあり方について、さまざまな観点から活発な議論がなされることを期待している。」
と、シンポジウムの趣旨を説明し、開会の挨拶とした。
第1部「助成によって何が生まれたか」
第1部では、助成を受けた3つのNPOが、その経験、成果、今後の課題などについての事例報告を行った。加えて、会場から、各事例の助成を行った財団関係者が当該助成プログラムの趣旨などについてコメントした。
なお、第1部冒頭、総合司会の神納由美子氏が、今回、会場参加者との意見交換をより活発、かつ円滑に行いたいという趣旨から、参加者には第1部の報告を聞きながら、配られた紙片に意見や質問を記入してもらい、その紙片を第1部終了時に回収・整理し、第2部の質疑応答と討論に活用すると説明。参加者への協力要請があった。
■事例報告1
はじめに登壇したのは、NPO法人ケアタウン浅間温泉理事長の水澤勇一氏。
水澤氏は、
「NPO法人ケアタウン浅間温泉は、後継者の不在などで廃業する旅館が増え、まち全体が衰退していた長野県浅間温泉で、温泉を利用した福祉事業と町づくりを進めている。2001年から活動を開始し、2002年にNPO法人化。主な事業は、宅老所の『御殿の湯』と高齢者、障害者の訪問介護を行う『東御殿の湯』。ともに、廃業旅館を活用して開設され、『御殿の湯』では、好きな時間に好きなだけ温泉にはいることができ、『東御殿の湯』では、温泉を使った入浴サービスや温泉の出前、温泉による清拭なども行っており、温泉地ならではのサービスを提供している。」
と団体の概要を説明。助成については、
「活動開始に先立つ準備会議に対して住友生命社会福祉事業団から助成を受けたことで計画が実現した。宅老所開設には行政の補助金が交付され、これが大きな後押しとなって事業が進んでいった。NPO法人設立と介護ヘルパー研修事業に対しては損保ジャパン記念財団から助成を受け、活動基盤が強化できた。また、現在進められている障害児を持つ親たちが立ち上げる機織作業所にはトヨタ財団からの助成があって事業化が進んでいる。」
といった経緯が報告された。水澤氏は、
「助成を受けることで励みになり自信がついた。また、社会的な信用にもつながった。」と振り返り、「何よりも事業立ち上げ時には夢があっても資金に乏しく、仲間とビジョンを共有する時間も場もない。こうした初期の段階で助成を受けたことで、夢が実現した。」
と述べた。
この事例報告を受けて、助成を行った損保ジャパン記念財団の田中皓専務理事がコメントした。田中皓氏は、
「当財団では、それまでは、任意団体の活動実績を評価した上で、その団体のNPO法人化を支援することが多かった。よって、2002年に全く活動実績のないケアタウン浅間温泉から申請を受けた折には慎重論もあった。しかし、廃業旅館の有効活用という極めて先駆的なアイディアに期待して助成を決定した。
その後は、さらに活動の質を高めてもらうために、訪問介護ヘルパーへの研修に助成している。その内容は、単に介護技術の向上を目指すものではなく、旅館の女将に習う、もてなし学、茶の湯といった、いわば心の教育と呼べるもので、この先駆性も評価した次第だ。こうした新しい夢へのチャレンジを今後も続けていってもらいたい。」
と、新しい夢の実現に向けたNPOのチャレンジ精神への期待を述べた。
■事例報告2
2番目の事例報告は、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ(以下、AIT)理事長の小沢有子氏が行った。
小沢氏は、
「AITは、日本ではとかく敷居が高いと思われがちな現代美術を、もっと身近に楽しんでもらえるものとしようと活動している。2001年に立ち上げ、2002年にNPO法人化。主な事業は、現代視覚芸術に関する見識を広めてもらうスクール『MAD』の運営と、アーティスト等を対象に、東京における滞在場所とソフト面での支援を行う『AITレジデンシー・プログラム』の運営。他にも、新しい美術展のあり方を考えて、『8hours ミュージアム』を廃校の体育館で開催するなど、実験的な取組みにも挑戦している。」
と説明。
「この『AITレジデンシー・プログラム』にトヨタ財団が助成してくれた。毎年、経済力のある国からは多くのアーティストやキュレーターなどが調査や制作活動のために東京を訪れているが、経済的基盤の弱い国々のアーティストやキュレーターは自国の公的な支援をうけにくく、物価の高い日本は訪れにくい環境にある。
このプログラムでは、滞在場所の提供、人的紹介、資料・情報の提供、制作活動や企画調査の補助を行う、独自のレジデンス事業を展開している。」と述べ、「このようなレジデンス事業は、トヨタ財団のような先駆的な実験事業に対する理解と支援がなければ実現が難しかった。」
と振り返った。さらに、小沢氏は、
「文化活動は、すぐに成果の出るものではないことから活動する側も自負と信念を持ち続けることが大切。また、活動への理解が得られないと、とても助成してはもらえない。トヨタ財団の助成金がシードマネーとなって活動基盤ができたことには感謝している。また、トヨタ財団の助成では、事務局費が出て、スタッフへの敬意が感じられ嬉しかった。事業推進中も、自由に任されることが多く、信頼関係の表れだと感じた。」
と語った。最後に、小沢氏は助成財団に対して、
「団体の初期の段階と実績を積んだ後では、必要とする資金の内容も規模も異なる。よって、助成財団には、こうした点に配慮した各種のプログラムを用意していただきたい。また、資金だけでなく、所有施設や遊休施設の提供なども期待したい。」
と要望を述べた。
この事例報告に対しては、助成を行ったトヨタ財団の田中恭一地域社会プログラムシニアプログラムオフィサーがコメントした。田中恭一氏は、
「Artist in Residence の申請を受けた折、若い人達による、とても斬新で魅力的な事業内容だと評価された。同時に、AITの活動には弁護士、会計士といった専門家も参加しているためか、マネジメントがしっかりしており、これが信頼につながった。当財団の助成は、比較的自由度の高い内容になっているが、あまり干渉せずに事業が進んでいった背景には、こうした信頼関係があった。」
と、NPOと財団の信頼関係の重要性について述べた。
■事例報告3
3番目の事例報告者は、MOVEインターナショナル日本支部支部長の白崎淳子氏。
白崎氏は、
「『MOVE』は『教育をとおして動く機会を』(Mobility Opportunities Via Education)を意味する。障害者の自立援助プログラムである『MOVEプログラム』は、当事者と家族の希望に基づいて目標を設定、専門職のチームが指導、援助し、適切な機器の利用によって障害をもつ人自らの動きを引き出す体系的なプログラム。人間の可能性への信頼と人権の尊重がベースとなっている。
このプログラムはアメリカで1986年に開発され、MOVEインターナショナルが普及・研究に取り組んでいる。日本では1998年から普及・研究活動が始まっている。」
と『MOVEプログラム』の概要を説明。助成の経緯について、白崎氏は、
「1990年半ばに『MOVEプログラム』を国内に紹介した時、先駆的な内容が理解されにくく、また、医療・教育・福祉の領域に掛かることから公的な支援が受けにくく、専門家の協力も得にくかった。
そこで、調査研究によって、このプログラムの有効性を検証し、研究を通じて専門家を巻き込んでいきたいと考えた。三菱財団に助成を申請し、1997年に調査研究助成を受け、1999年には啓発を期した研究に対して、2004年には高齢者施設における『MOVEプログラム』の導入と研究に助成を受けた。」
と語った。また、
「2000年にはキリン福祉財団から、2005年にはトヨタ財団から、2006年には損保ジャパン記念財団から普及活動への助成も受けている。団体にとっては、研究も普及もどちらも重要だが、MOVEの場合、はじめに調査研究に力を入れたことが団体やプログラムの信用につながったと思う。有効性が検証され、社会的な信用も得られたことで普及が始まった。」
と、助成のもたらしたものについて振り返った。
この事例報告を受けて、三菱財団常務理事の石崎登氏は、
「三菱財団は、社会が必要としている取り組みであるにもかかわらず、公的な資金が得られにくい事業を支援していきたいと考えている。MOVEのような、福祉、医療、教育など複数の分野にわたる、しかも先駆的な事業を助成して、その事業が成果をあげていることは、まさに、NPOが財団のポリシーを実現してくれていると言える。
また、助成に際しては、失敗を恐れているばかりではならないと思う。たとえ失敗しても、何故失敗したのかがきちんと検証できれば、それが別の意味での成果になり、次につなげることが出来るからだ。」
と述べ、NPOと助成財団の関係は、より良い社会の実現に向けたパートナーシップであるとの視点を示した。
第2部 質疑応答
第2部では第1部の報告者に加えて、コーディネーターの松本氏とシーズ=市民活動を支える制度をつくる会事務局長の松原明が登壇。
第1部の事例報告を受けて会場から出された質問・意見カードの内容を集約して、6つの問題を提起。それに対して、事例報告者と会場の財団関係者が答える形で進められた。
(1)事例報告を行った3団体ともに、助成によって活動が発展してきているが、団体の経済的な自立につながる、それ以外の資金調達はどのようになっているのか。
水澤勇一氏
主な活動資金は介護保険収入によるもの。行政の補助金も欠かせないが、補助金を得て事業展開していくことは、地域に根ざした活動を行っていることから地域住民の賛同も得られていると思う。
小沢有子氏
今年度の収入については、自主事業であるアートスクールの受講料が4割、企業メセナに関する委託などが4割、助成金は2割。助成金は、事業立ち上げのシードマネーだと考えている。
白崎淳子氏
これまでは財団からの助成金が中心だったが、今後は、企業とのタイアップ、寄付なども増やしていきたい。会費、MOVEプログラムのトレーニング料、テキスト代も収入になっているが、資金繰りは厳しい。常勤1名、非常勤2名の事務局スタッフ給与も一般に比べれば低いし、専門家には、ほぼボランティアで協力してもらっているのが現状。
(2)行政の補助金と財団の助成金の違いは何か。
水澤勇一氏
財団からの助成金は新しい事業を興すためのシードマネー。行政の補助金は初期投資的な資金だと思う。
(3)財団は、同一事業に対して、複数の財団が重複して助成することを認めているのか。また、多年度にわたる継続的な助成は行っているのか。
キリン福祉財団常務理事・事務局長 国松秀樹氏
重複助成については、同一事業に関して他の財団等からの助成金が獲得できた場合には辞退していただいている。継続助成については、NPOの「事業」というより、その「運動」を支援していくという意図で行っているケースがある。
トヨタ財団地域社会プログラムシニアプログラムオフィサー 田中恭一氏
なるべく多くの団体に助成したいということで継続については3年までとしている。
損保ジャパン記念財団専務理事 田中皓氏
重複助成は避けたい。継続助成については、活動の発展、強化に必要なので新しい助成プログラムとしていきたいと考えて試行している。継続するとしても、基本的には単年度助成ということで、再申請してもらって改めて審査して決める。
三菱財団常務理事 石崎登氏
継続助成は厭わない。また、繰りかえし助成を行っているケースも多い。
(4)財団にとって好ましい、あるいは好ましくない申請書の書き方について。
三菱財団常務理事 石崎登氏
福祉の分野だけでも、毎年250余りの申請を6人の審査員で読んでいる。よって、できるだけ簡潔に書いてほしい。さらに、助成金を団体の取り組むプロジェクトのどの部分に活用したいのか、建築に喩えるなら、基礎、内装、仕上げのどの部分で活用したいのかを明確に示してもらいたい。また、その事業の実施者、協力者についても、実効性の根拠となるのできちんと書き入れることが大切。資金使途をきちんと積算して記載することも欠かせない。
トヨタ財団地域社会プログラムシニアプログラムオフィサー 田中恭一氏
その事業がなぜ社会に必要とされているのかを明確に書いてほしい。加えて、具体的な成果を期待させてもらえる内容が好ましい。
日本財団公益・ボランティア支援グループ 菅井明則氏
NPO・ボランティア関連だけでも1000件余りの申請があるので、申請時期は時間的な余裕がないが、申請・審査の時期を外してもらえれば、事前相談も受け付けている。また、地方の団体についても出張中に訪問して相談を受けることが可能だ。助成に限らず、こうした交流の中から、協働事業が生まれることもある。
(5)申請書の書き方の「コツ」はあるのか。
小沢有子氏
一言で言えば「熱意と誠意」。熱意と誠意を込めて、事業の必要性と可能性を書くことが大切だと思っている。
白崎淳子氏
ビジョンを論理的に書くことが大事なのは言うまでもないが、特に、事業の先駆性と社会的な意義をきちんと書くことが重要ではないか。社会的な意義については、活動していると「当然」だと思っている場合が多いが、全く予備知識のない人にも理解してもらえるように書くことを忘れてはならないと思う。
(6)助成を受けた場合の財団への説明責任など、財団とのコミュニケーションについて。
水澤勇一氏
助成に感謝するのは当然だが、それ以上に助成を受けたことの責任の重さを痛感しているので、責任を持って事業を遂行すると同時に、財団への説明責任をきちんと果たさねばならないと考えている。
小沢有子氏
お金をもらうことの「重み」に加えて、助成財団と団体の関係をパートナーシップとみなしていることから、互いを理解するために事業の成果を伝える努力を惜しんではならないと思っている。芸術振興事業の場合、成果がでるのには時間がかかるが、それでも短期的な成果を細かく報告するようにしている。展覧会を開催した場合なら、その参加者数、参加者の声などを示すことで成果が表せる。また、来日・滞在支援をした外国人アーティストについては、帰国後の活動、活躍ぶりなどを報告している。他方、説明責任の重要性を自覚した上で、あえて財団に申し上げたいのは、シードマネーとして助成をする場合、長期的な成果に期待して、ある程度、「任せる」という気概も持っていただきたいということ。
白崎淳子氏
財団は「ともに社会を変えるパートナー」だと思っている。連帯しているからこそ、報告は欠かせないし、それを通じて、よりいっそう活動について知ってもらいたいと願っている。事業で成果をあげ、それを報告することで、財団に「助成してよかった。」と思ってもらえるように努めている。
最後にシーズの松原明が、
「今日の事例報告は、いずれも、世の中をより良くしていくために、NPOと財団が互いの力を出し合って、良好なパートナーシップを築きながら成果を実らせたケースだと言える。こうした事例に学び、成功事例をいっそう増やしていくためには、NPOと財団が互いの考えを知ること、そのための対話の機会を増やしていかなくてはならない。
NPO支援財団研究会は、昨年度より全国各地で地域社会の活性化と助成財団の役割を考えるシンポジウムを開催している。研究会では、今後も各地で積極的にシンポジウムを開催していきたいので、開催希望があれば、ぜひ、事務局にお申し出頂きたい。こうした交流を通じて、NPOとNPOを支援する財団との関係づくりが進み、より多くの実りある事業が生まれていくことを期待したい。」
と総括し、3時間にわたって行われたシンポジウムは閉会した。
なお、終了後、会場内には参加財団による「相談コーナー」が設けられ、NPO関係者などの参加者が立ち寄り、財団関係者との交流を深めていた。
文責:徳永 洋子(シーズ)
2006.12.01