NPOファンドレイジングフォーラム2008
「NPOの資金開拓を強化する」
―資金開拓のノウハウを革新し、寄付市場を拡大するために―
2008年3月24日の19時から21時まで、東京赤坂の日本財団会議室にて、「NPOファンドレイジングフォーラム2008」を開催した。フォーラムのテーマは、「NPOの資金開拓を強化する」。
このフォーラムは、シーズが日本財団の助成を受けて取り組んでいる、「NPO等のファンドレイズ推進ネットワーク構築事業」の一環として開催された。
なお、当初100名の定員で開催する予定が、事前告知への反響が大きく、申し込み多数により、定員200名(先着順)に拡大して開催。当日の来場者は182名。加えて、主催者側の関係者を加えると、ほぼ200名の参加者を得た。
総合司会はシーズの徳永洋子。
◇ ◇ ◇
【開会挨拶】
はじめに、シーズの徳永洋子が、
「シーズは、1994年に設立。市民側に立って運動を展開して、1998年にはNPO法の立法を果たした。さらに、2001年には、NPOに対する寄付が集まりやすい社会環境づくりとして、寄付税制である認定NPO法人制度の創設を実現し、その後は毎年改正に取り組んできた。このようにシーズはNPOに関する制度改革に取り組んできたが、NPO法ができて今年で10年、その数が3万を超えた現在、昨今のNPOが抱えている資金開拓の困難さの解決を目指して新しい取り組みを始めている。このフォーラムも、その一環として開催されるもの。NPOが資金開拓、すなわちファンドレイジングを行う上でも、NPO全体の発展のためにも、今日のフォーラムが意義あるものとなれば幸いだ。」
と、フォーラムの趣旨を述べて、開会の挨拶とした。
【日本財団からのメッセージ】
続いて、日本財団常務理事の三浦一郎氏が登壇し、
「日本財団は、ここ15年間、継続してNPOやボランティア団体に助成をしているが、この間、6,000件ほどの助成をおこなうなかで、NPOの活動に注目してきた。そうした中で、残念ながら一部の団体が存分な成果をあげていないという現実もあり、その原因の一つにNPOにおけるファンドレイズの意識の低さがあるのではないかと思い至った。NPOにとって、ファンドレイジングの意義は2つある。1つ目は、事業に対するファンドレイズをすることで、賛同者が増え企画に広がりが出て波及効果が期待できること。2つ目は、助成財団の助成金に関して言えば、管理費助成は基本的にはしないところが多いが、ファンドレイズは管理費の手当ても可能にする。いずれにしてもNPOの発展にとっては、ファンドレイズは大切な要素であると日本財団は考えている。今回、シーズとのコラボレーションによって、我が国の寄付文化の醸成をめざして、ファンドレイジングに関するプログラムを推進していきたいと考えている。」
と、このフォーラムに対する日本財団の期待を述べた。
◇ ◇ ◇
【問題提起】
第1部は、「ファンドレイジング道場」主宰者の鵜尾雅隆氏による、「問題提起」。
はじめに、鵜尾氏は、
「ファンドレイジングは社会からお金をもらうことだが、お金を集めてNPOがハッピーになって、その活動の受益者がハッピーになるばかりでなく、寄付者もハッピーにならなくてはならない。そして、寄付を通じてNPOの活動への理解を深めて、社会的課題への認識がひろがって社会がハッピーになっていく。いいファンドレイジングをNPOがすることで、社会全体がハッピーになる。」
と、ファンドレイジングの意義を述べた。
さらに、
「ファンドレイジングに関して、21世紀どの国が一番変化をするかと考えた時、私は確信をもって日本だと言える。その根拠の1つは加速した高齢化により、彼らの遺産がNPOに流れる可能性があること。證券会社のデータで2006年、遺産が一年で75兆円でているとされている。2020年には、109兆円になるといわれている。この1割がNPO界に流れたら10兆円になる。また、自宅を除く個人資産を1億円持つ人は147万人もおり、こうした富裕層がチャリティに興味を持ち始めているという現状もある。他方、新しい寄付文化が生まれる要素として、日本ならではのポイントやクレジットカード等を活用した多様な寄付手法の増加も注目に値する。こうした状況を捉え、寄付市場の変化にどれだけ対応できるかが、今後ファンドレイザーに求められてくることだろう。」
と、日本におけるNPOのファンドレイジングの可能性を語った。
また、日本におけるファンドレイジングの手法については、
「まず日本人は、一人のときよりも二人のときに感動しやすい。また、日本社会では、縁が重んじられる。さらに、お歳暮とか、結婚式の引き出物といった、善意として何かをもらった場合に誠意をきちんと返すといった文化もある。こうした日本人の特性をいかした手法が求められる。その上で、ファンドレイザーが具体的なノウハウを出しあって、NPO全体で寄付市場の開拓に取り組んでいくことが有効だろう。」
と、述べた。
さらに、
「アメリカには、AFP(Association of Foundrasing Professionals)というファンドレイザーの協会があり、年1回総会がある。これはアメリカのファンドレイザーのノウハウを共有する場となっている。毎年3,000人くらい集まり、自分の成功体験を話してノウハウを共有しあう。何回参加したことがあるが、ノウハウを得ることに加えて成功談を聞くことで元気がでてファンドレイジングへの意欲も高まる。日本でも、こういう場ができるといい。」
と、日本におけるファンドレイザーのネットワーク構築への期待を語った。
◇ ◇ ◇
第2部はパネルディスカッション。
パネリストは、以下の4名。
- 鵜尾雅隆氏(「ファンドレイジング道場」主宰)
- 鹿島美穂子氏(難民支援協会広報部チームリーダー)
- 高木克巳氏(ワールド・ビジョン・ジャパン副事務局長・国内事業部長
- 山北洋二氏(あしなが育英会常勤監事)
コーディネーターは松原明(シーズ事務局長)がつとめた。
ディスカッションの冒頭、コーディネーターの松原が、
「今日は、日本における寄付文化や現状をどう捉え、それに対し、我われとして個々の団体もしくは連携して取り組むべき課題解決策をディスカッションしていきたい。」
と、パネルディスカッションの趣旨を明らかにした。
続いて、パネリストの山北氏、高木氏、鹿島氏が、各々の団体のファンドレイジングなどについて以下のように語った。
■山北氏
「学生の時に、目の見えない子どものための募金をやったことがきっかけで、交通遺児の団体に入った。1988年4月からはじめて約20年間経った。あしなが育英会は奨学金と子供の心のケアを行う民間団体で、国などの補助金助成金はもらっていない。総額で、308億円にのぼる寄付は、個人、法人など12万9,000件の個人・団体から寄せられたもの。奨学金は、2万5,000人の学生に226億円を貸し出した。特徴的なのは、企業からの寄付が少ないということ。個人寄付が86.2%、企業は全体の寄付件数の2.1%。金額ベースでは5.6%になるが非常に少ないといえる。あしなが育英会は個人で支えられているといっても過言ではない。」
■高木氏
「ワールド・ビジョンは国際的なNGO。1950年にアメリカで始まり、現在約100カ国で活動している。現地の団体とパートナーシップを結んで活動する形をとっているので、日本ではNPO法人。実は、戦後60年代、70年代、日本の孤児院がワールド・ビジョンに支援を受けていたことがある。その後日本が復興したので、支援をされる側からする側として、1987年にワールド・ビジョン・ジャパンが設立された。そして、1988年、チャイルドスポンサーシップが始まった。これが、主な支援プログラム。月4,500円で継続的に子供と家族を支える地域開発をするための寄付をもらっている。去年の9月末現在、支援チャイルド数が3万7,000人。有給スタッフが55名で、その10倍以上のボランティアの方がいる。総収入が34億円。」
■鹿島氏
「難民支援協会は、海外から日本に逃れてきた難民を支援している。来年で、ちょうど10年。年間、難民として30カ国以上の人がきて、6,500件以上の相談が寄せられている。7000万円程の収入については、自己資金部分が15%程度で、補助金や助成金が多くを占めている。ただ、安定的に存在していくためにも、今は、自己資金拡大の取り組みを始めている。新しく進めたブランディングの中でロゴマークも作り、月々のマンスリー支援制度もつくった。この過程で思ったのは、組織をファンドレイジングできるような体制に変えていくことが重要だということ。また、当初はスタッフによって思いが若干違っていたが、このブランディングの作業を通じて、なぜ難民支援協会が存在しているのかという共通認識を皆がもてたことが大きな成果だった。」
続いて、日本で寄付市場を発展させていく上での課題、それを克服するためにすべきことなどについて、各パネラーが発言した。
■山北氏
「問題なのは、寄付者が少ないことではなくて、本当に寄付したい人と、寄付先がマッチングしていないことだろう。NPOの情報発信が不十分なのかもしれない。なぜ、支援者である“あしながさん”になったかの動機を調べると、「他人の役に立ちたいから」が71%、「自分の幸福に感謝するから寄付をする」が64%、「社会の役に立ちたい」という人が、39.4%。そこで、寄付した結果、寄付者自身も寄付をしてよかったと思えるように、年賀状、卒業報告などを届けるといったことは欠かさない。その結果、寄付者が寄付できたことに感謝することができる。また、一番大切なのは、とにかく寄付お願いします!と頼むのではなくて、自信と誇りをもって、こういう活動をしていますと訴えていくことだと思う。あしなが育英会では寄付を募る際に、まずはマスコミや街頭で情報を大量に発信して、そこでアピールする。その後、機関紙とか手紙で支援を依頼、あるいは継続的な支援の依頼をするといった方法をとっている。」
■高木氏
「ファンドレイジングはコミュニケーション。ファンドレイジングは私たちのミッションそのものだとも言える。単なる資金調達ではなく、そのこと自体が支援者の方々の喜びになったり、いい影響を与えるものでなくてはならない。日本の寄付には可能性がある、募金収入額は世界で11番目だが、悲観的にとらえるのではなく可能性が大きいと考えることが重要。これから日本で募金文化が広がっていく時に活動させてもらっていると思うと嬉しい。NPOはミッションをもって活動しているが、ある意味では、企業が何かを作ったらたくさん売りたいと思うのと同様に、そういう積極的な思いを伝えることが大事だ。2人のセールスマンがいて、島に靴を売りにいったが、誰も靴をはいていなかった。一人は“一足も売れません”、一人は、“誰も履いてないから、いっぱい売れます”と報告した。状況を分析的にみると悲観的かもしれないが、可能性をもってみれば違ってくる。その靴が本当に必要だと思ったら情熱をもって売れる。そういう思いが、NPOが支援者を広げる可能性につながるだろう。」
■鹿島氏
「以前、なぜNPOの寄付をしないのですか?という調査で、寄付してと言われなかったからというのがあった。私たちは、予算的にTV広告などは無理だが、できることはたくさんある。相手の状況やニーズに合わせて、私たち自身から働きかけをすることが大切だろう。また、企業と接する時に、いくら必要ですか、将来的にはどうするのですか、と聞かれたらきちんと答えられるビジョンをもつことが必要。そして、寄付してもらえたら継続して支援してもらえるようにしていくことが大事。寄付されたお金がどう使われているか、成果が生じる過程も含めて伝えていく必要がある。」
■鵜尾氏
「さきほど、10兆円という数字をあげたが、とても無理だと思われるだろうが、根拠のない話ではない。2020年に遺産の総額が109兆円。5%寄付してもらえば、5.5兆。で、富裕層の資産が300兆円。1%寄付してもらえば3兆。あと、1.5兆。それを実現するために何が課題か?たとえば寄付税制。シーズの活動で改善されてきた。これからのことを考えると、まず思い浮かぶのがアメリカで言う、プランド・ギビング。これは、遺産を60歳のうちに寄付すれば、そこから一生年金がもらえるというもの。金利も優遇される。税制上も優遇される。そういった制度をぜひ作りたい。2番目は、現在は、個人が財団つくるのが本当に大変だが、富裕層を巻き込むためにも、助成財団をつくりやすくさせる。3番目は、NPO自身のファンドレイジング。寄付者とコンタクトして、お礼状出すという地道なアプローチとさらなるスキルを身につけて努力をつづけることが重要だ。」
ここで、コーディネーターの松原から、各団体のノウハウが徐々に確立されているなか、そうしたノウハウや寄付に関する情報などをNPO全体で共有していく必要があるのではないかと問題提起があった。それに対しては、以下のような発言が続いた。
■山北氏
「たとえば、情報発信は、団体で個々にやるのか?ということについて、ヤフーのトップページにボランティアコーナーがあるが、私たちはそこに載せてもらっている。こういう情報発信の場がもっとあればいい。」
■高木氏
「企業活動とNPOのファンドレイジングとは違うと思われているが、非営利と営利という点こそ違うものの、いかにカスタマーに満足してもらうかという面においては、学ぶことは沢山ある。一般の企業の方たちとの連携もありえると思う。」
■鵜尾氏
「まずは成功体験を話し合う場を作っていくことが、重要だと思う。先述のAFPは、ファンドレイジングに際して“こんなことしてはだめ”、という規律も設けてある。自分たちを守るという意味においても、そういうネットワークが必要だろう。」
最後にパネリストから、参加者に対して以下のようなメッセージがおくられた。
■山北氏
「募金をしている学生がいったことだが、“募金”ではなく“募心”だと。心を募る活動をしようと。私たちも心を集めていきたいと思う。」
■高木氏
「募金は地道なもの。分析も含めて細かいテストをしながらやっているが、どこまでいったら成功なのかを検証する必要がある。そこで、私たちは予算を決めている。全世界で予算を決めていて、私たちはその約束を果たすために、到達するよう努力して達成したら喜ぶ。その成功体験の積み重ねが、次へのエネルギーになっていく。個々の団体のこうしたエネルギーがまとまれば、日本全体として大きなエネルギーになるに相違ない。」
■鹿島氏
「大切なのは言い訳をしないこと。うちの団体は予算がないからファンドレイジングは無理だと言っても何もうまれない。加えて、組織の中でやるべきことの優先順位を決めて、組織一丸となってやっていくことがポイントだと思う。」
■鵜尾氏
「右脳から入って左脳に落とすのが、ファンドレイジング成功のポイント。右脳は直感系。“この活動、いいね!”って思って、そこから左脳系、いわゆる論理的な思考に移って、この団体は信用できるか、どんな成果をあげているかという判断になる。しかし、NPOはとかくこの逆をしてしまう。いろいろと理屈を言って、最後に寄付をくださいと言う。パンフレットのビジュアルを変えるだけでも印象は違ってくるので、こうしたことも考えながらファンドレイジングに取り組んでいただきたい。」
最後に、松原が、
「今日のディスカッションでも課題とされたが、ファンドレイジングを支援して一緒に考えていくネットワークづくりを考えている。皆さんと力をあわせてつくっていきたいので、ぜひともご意見を頂きたい。また、ファンドレイジングは、NPOのミッションそのものだと思う。NPOで一番大切なことは、いろいろな人をどれだけ巻き込めるかということ。ファンドレイジングも同じこと。寄付によって社会問題に関わる人を増やすことが、ファンドレイジングの意義だろう。」
と締めくくり、フォーラムは閉会した。
◇ ◇ ◇
フォーラム終了後には、交流会も開催され、和やかな雰囲気のなか、パネリストを中心に意見交換、歓談の輪が広がっていた。
報告:徳永洋子(シーズ)
【設立のご報告】
皆さまのご支援のおかげで、寄付文化の革新を目指す「日本ファンドレイジング協会」を、全国47都道府県の580人の発起人・360人の当日参加者の方と共に、2009年2月18日設立できました!
ご参加・ご支援ありがとうございました!
日本ファンドレイジング協会に関する今後の情報は、「日本ファンドレイジング協会オフィシャルブログ」をご覧ください!