12人の意見(1)浅野晋さん(弁護士・NPO法人ASK運営委員)
<この特集について>
NPOという文字が新聞に出ない日はないくらい、NPOは私たちの生活に身近な存在となってきました。ユニークな活動をしているNPOが、地域にどんどん増えています。
平成17年の内閣府大臣官房政府広報室の「NPO(民間非営利組織)に関する世論調査」でも、NPOという言葉を「知っている(意味もわかる)」あるいは「意味は分からないが見たり聞いたりしたことがある」という人は、85.2%にものぼります。
しかし、同じ調査で、NPOを「信頼できる」と答えた人はたった6.5%。「おおむね信頼できる」の24%を加えても30.5%に留まります。
確かに、新聞やニュースをよく見ていると、NPOのすばらしい活動が紹介されている記事も多い反面、なかにはNPOによる不祥事、時には詐欺事件なども目にします。もちろん、これらはほんの一部のNPOの事例ではありますが、社会のために役立つはずのNPOが、社会を困らせる存在になっているという事実が、全体のNPOのイメージをダウンさせている結果となっています。
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会では、NPOの信頼性を高め、情報を流通させ、そのうえで寄付や会員などの形で支援が得られるようにするにはどうしたらよいか、この2年あまりをかけて研究してきています。
その一環として、12人のNPOに詳しい方々に、NPOの信頼性を確保するために何が必要か、というテーマで寄稿をお願いしました。寄稿してくださったのは、NPO関係者、NPOに助成をする立場の方々、企業関係者などさまざまです。この12人の方々のご意見を、このコーナーでは順次ご紹介していきます。
お読みいただき、皆さんもいっしょに考えていただければ幸いです。
(この特集は(独)福祉医療機構(高齢者・障害者福祉基金)より助成を受けて発行した報告書「NPOの信頼性を確保し寄付を集まるためには何が必要か」より転載しています)
第一回 浅野晋さん (弁護士・NPO法人ASK運営委員)
NPOの信頼性確保に重要な3つのポイント
浅野 晋 弁護士、NPO法人ASK運営委員
●何についての「信頼性」か
「NPOの信頼性確保」といっても、そもそもNPOに期待される「信頼性」というものが、いったいどのようなものかについて、まず考える必要があります。
NPOが、外部社会に何らかの関係を持つのは、大別して次の2つの場合です。
- 契約などの対外的法律行為をする場合
- NPO団体の目的に沿った活動をする場合
もちろん、この 1. 2. が混在する場面もたくさんあるでしょうが、考え方の上では区別することができます。
●法律行為の主体としての「信頼性」
まず、この1.の場合ですが、例えば、事務所を借りたり、コピーのリース契約を結んだり、事業資金の借り入れをしたりというようなことがこれにあたります。このような場合、法人格がない任意団体は、契約当事者としての信頼性が希薄です。もちろん任意団体であっても、しっかりした規約を持ち、いわゆる法人格なき社団としての実態があるのであれば、法律上は権利義務の主体としてこれらの契約の当事者となることができます。
しかし、その団体の代表者は誰で、事務所はどこにあるのか、団体の意思決定権はどこにあるのかといったことを、外部から確認することはできません。もちろん、規約にはそれが書いてあるでしょうし、代表者は総会で適正に選任されたとしても、それが真正なものかどうかは、外部からは客観的には判定できません。
従って、任意団体は、例えば事務所を借りたりコピー機のリース契約をしたりする程度のことであれば特段支障は生じないかもしれませんが、それ以上の大きな責任を負うことになる法律行為をしようとすると、とたんにそれが難しくなります。例えば、任意団体が銀行から1000万円借りようとしても、およそ無理でしょう。
この問題は、任意団体が特定非営利活動促進法などによって法人格を取得することによって解決できるようになりました。しかしそれは、単にその団体が単に権利義務の主体としての地位がはっきりしたというだけのことであって、それ以上のものではありません。
人は誰でも「権利義務の主体」ですが、その人が他から信頼されるかどうかということは全く別の問題です。
●NPOも人と同じ
どのようなNPOが信頼できるかという問いかけは、どのような人が信頼できるかという問いかけと同じです。それに対する答えは誰でもわかっています。他から信頼を得るためにどうすればよいのか、言わずともそれは誰でも思い当たることばかりです。人の徳目はすなわちNPOの徳目でもあります。
でも、我が身を振り返ってみてください。徳目としてはわかっていても、日々の行動の場面でそれを着実に実行することは、けっこう難しいのではないか。
もちろん、難しいことであっても、ちょっとした技術がそれを容易にすることがあります。そのノウハウ、アート・オブ・リビング(生活の知恵)の具体例も、じつは誰もがわかってることです。細々とあげれば切りがありません。
そんなアート・オブ・リビングの種々を実践しているとして、なおNPOが他から高い信頼を得るために必要なことは何でしょうか。その答えは、NPOの存在意義を考えると出てきます。
●「信頼」は活動への評価
NPOは、社会の何かの要請・ニーズがあって発生します。そのニーズ解決が団体結成の目的であり、それがすなわちその団体の存在意義でもあります。その存在意義は、問題を察知するアンテナがどれだけ鋭敏で確実のものかどうか、察知した問題を解決することができるどれだけの専門知識、実行力を持っているかどうかにかかっています。
NPOに対する信頼というのは、そのNPOがどれだけ着実に社会の要請、ニーズに応えたのかという、そのNPOの本来の活動に対する評価として結果的にもたらされるものです。
社会にとっては、NPOが“これまで役に立ってきたのかどうか、これからも役に立ってくれるのか”ということが関心事です。もとより、社会は多様であり多元的ですから、“役に立つ”ということの意義も多様であり多元的です。NPOは、その多様で多元的な社会の中でこそ、その役割を果たします。
NPOのために社会があるのではなく、社会のためにNPOがあります。このような社会の要請に応えることができなくなったNPOは、いずれ消滅する運命にあります。
そして、NPOが社会の役に立つためには、先に述べたように、
- 問題を察知する鋭敏なアンテナ
- 問題を解決するための専門知識
を持ち、さらに、
- 問題解決のための実行力
を持たなければなりません。
信頼というものは、そのNPOが、これまで実際に社会の要請に応えてきたこと、そしてこれからもその要請に応えることができること、を示すことによってしか獲得できないと思われるのです。
2006.05.09
●執筆者プロフィール:
浅野晋氏
- 弁護士
- アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)運営委員
●所属団体の紹介:
ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
- アルコールや薬物依存及びこれに伴う様々な社会問題の予防に取り組むNPO法人。