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NPOの信頼性

2007年08月23日 17:47

訪米調査の事例から(5)ジョセフ・コルデス教授

2005年9月5日から17日まで、シーズでは国際交流基金日米センターの助成を受けて、米国のワシントンD.C.、ボルチモア、ニューヨーク、シカゴ、インディアナポリスの5都市を訪問しました。訪問団は、シーズ事務局長・松原明、茨城NPOセンターコモンズ事務局長の横田能洋、グローバル・リンクス・イニシャティブ事務局長の李凡、シーズ・プログラムディレクターの轟木洋子の4名(敬称略)で構成。NPOの信頼性に係る日米の現状、また信頼性向上のための取組みなどについて、23の団体を訪問し、米国側の専門家たちと意見交換をしてきました。

そのなかで、特に印象に残り、日本の皆さんにも参考になると思われる15の記録をご紹介します。

※ご紹介する方々の肩書きや団体の活動などは、訪問当時のものであり、その後、変わっている可能性があります。ご了承ください。また、文責はシーズ事務局にあります。

第五回 ジョセフ・コルデス教授

ジョージ・ワシントン大学経済学部 ジョセフ・コルデス教授
2005年9月9日(金)訪問

1975年からジョージ・ワシントン大学経済学部の所属。1985年に教授。1980年から81年、ブルッキングズ経済政策研究員として、米国財務省の税分析室(Office of Tax Analysis)で研究していた経験も。84年には、財務省付けの財務経済学者、89年から91年には議会予算室(Congressional Budget Office)において税分析の部長代理、98年から99年には著名なシンクタンクであるアーバン・インスティチュートの客員研究員も勤める。税制や税政策、規制に関する政策、経済と非営利部門などに関する多くの著述がある。


訪問団:

 米国において、NPOを規制する仕組みにはどのようなものがあるのか。

コルデス教授:

 NPOを規制する枠組はすでにある。完全無欠とはいいがたいが、一応機能している。政府側のもっとも大きな規制当局はIRS(内国歳入庁、日本の国税庁に相当)。NPOは免税団体なので、免税団体にふさわしい運営をしているのかをIRSが監督することになる。

ただ、問題は、IRSのNPOを監督する部署の資源が不足していること。人もまったく足りていない。本来なら、もっと厳しくIRSが監督・監視すればよいのだが、政府はそもそも税金を納めない免税団体であるNPO部門には資金をさきたくないと考えている。IRSの仕事は、もっと税金を納めさせるようにすることだが、免税のNPOをどんなに監督しても税金はたいして増えない。だから最重要課題からはほど遠く、IRSの監督強化を望んでも、実際には現実性はほとんどない。

政府側としては、もうひとつ規制当局があり、これは各州の司法長官の事務局。州レベルで、NPOの不正行為に関する取締りが行われている。

NPO側の自己規制組織もある。いわゆるウォッチドッグ(番犬、監視団体)と呼ばれているもので、いくつかある。NPOの格付けをしていたり、あるいはNPOがIRSに提出した確定申告書をIRSと協力してホームページ上に公開したりしている。

訪問団:

 そういうウォッチドッグ(番犬、監視団体)は、実際にはどのくらい役立っているのか。

コルデス教授:

 これらウォッチドッグ(番犬、監視団体)は、非政府の独立した団体として監視の目を光らせているのだが、恐れられているというほどではないが、監視されるNPOに一定の影響を与えていると思う。

たとえば、支出のうち管理費を何%使っているかを調べて公表しているウォッチドッグ(番犬、監視団体)があるが、この割合をよく見せようとして会計の方法を変えたりしているところもある。これは、ウォッチドッグを気にしているという証拠だろう。

訪問団:

 しかし、管理費の割合だけでは、NPOの良し悪しは判断できないと思うが。

コルデス教授:

 そのとおり。管理費の数値は、操作できる。何を管理費とするかによって変わる。簿記上の操作が可能。だから、格付けの評価だけでは簡略すぎるし、不正確。そのため、批判の対象にもなっている。格付けでAだからとか、あるいはFだからと、そのままNPO全体の評価として鵜呑みするわけにはいかない。それぞれのNPOは性格も異なるし、活動も異なるため、単純比較は無理。だから、こうした格付けは、あくまでも「出発点」として使うべきだろう。

実際、格付けに注目する寄附者がどれだけいるかというと、それほど多くはないだろう。管理費の割合を見て寄附する人よりも、その団体が好きだからとか、親しみを感じるとか、活動手法が好きなどの理由で寄附をする人の方が多い。だから、格付けがもっとも良い役割を果たすのは、本当に悪質な不正行為を行っている団体を発覚させるところかもしれない。最悪の評価を受けたところは、おそらくなんらかの問題があると思われるから。そうはいっても、そういうところに寄附しつける人もいる。だから、格付けは完璧な方法ではない。

訪問団:

 米国のベター・ビジネス・ビューロー(BBB)というウォッチドッグがやはりNPOの格付けをしているが、全米で100万はあるというNPOのうち、たった400のNPOが格付けの対象になっているだけだ。果たして、それでどこまで効果があるか疑問。

コルデス教授:

 100万ものNPOを格付けするのは無理。そのため、BBBは大手400団体に絞っている。

私は、いろいろな問題があるとはいえ、米国のシステムは概ねうまく機能していると思う。IRSも資源不足とはいえ、一定の機能は果たしている。そしてもう一つ、こうした監視機能の役割を担っているのは報道機関。特に、地元の新聞やTV局など。地元レベルでの不正取締りに、報道機関の機能は無視できなくなっている。米国大手の環境保護団体ネイチャー・コンサーバシーや赤十字の不正や問題行為を明らかにしたのも新聞だった。これにより、NPO自身が行動を変える結果ともなっている。ひいては、上院の財務委員会まで関心を持つにいたっている。

訪問団:

 上院の財務委員会が、NPOに規制をかける法律改正を検討していると聞いているが、これは監督機関であるIRSも望んでいることなのか。

コルデス教授:

 IRSはおそらく賛成だろう。しかし、もしIRSが監督を強化しなければならなくなるのに、十分な資源がもらえないとなると反発がでる。あまりに複雑なルールの変更があったり、さらに労力を要するようになるのならば、反発すると思う。

米国のNPOにも問題はあるとはいえ、私が強調したいことのひとつは、NPOは非常に重要な役割を米国において担っているということ。ハリケーン被害の緊急救援の際には、NPOがとても活発に活動し、そのことで米国人に「NPOがあってよかった。良い活動をしている」と思ってもらえた。NPOの真価が問われた出来事でもあり、米国人がその価値をよりよく理解したと思っている。


コルデス教授は、多忙なため当初の予定を変更し、アポイントメントを取り直さなければならないというハプニングもあったが、お会いすると大変気さくな方であった。話題は、主に米国にいくつかあるウォッチドッグのことだったが、このウォッチドッグを評価する大きな会議も開催されたとのことで、米国のNPO界の懐の深さも感じたものだった。

2006.11.28

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